
執筆者:辻 勝
会長税理士
地域包括診療加算の算定要件|2024改定で変わる届出ポイント

はじめに:地域包括診療加算が「開業医の基盤」になる理由
外来診療では、高血圧・脂質異常症・糖尿病・認知症など、複数の慢性疾患を抱える患者が増えています。背景として、日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は29.1%に達しており、地域で継続的に診る「かかりつけ機能」の重要性は年々高まっています。
地域包括診療加算は、こうした慢性疾患患者に対して、全人的・継続的な医療を行う診療所を評価する仕組みです。2024年(令和6年)改定では、時間外対応の要件や掲示・Web掲載など、実務に直結するポイントが明確化・整理されました。
地域包括診療加算とは
地域包括診療加算は、診療所において、一定の慢性疾患を複数有する患者に対して、患者の同意を得たうえで、療養上必要な指導・診療を行った場合に、再診料に加算できる仕組みです。
対象疾患は次の4つで、このうち2つ以上を有する患者が算定対象になります。
- 脂質異常症
- 高血圧症
- 糖尿病
- 認知症
点数は以下のとおりです。
- 地域包括診療加算1:25点
- 地域包括診療加算2:18点
【2024年改定】押さえるべき3つの変更点
2024年改定で、特に開業医が押さえるべき実務ポイントは次の3点です。
-
時間外対応の選択肢が拡大
これまでより運用しやすい形で、時間外対応の要件が整理されています。施設基準上、時間外対応加算(1~4)の届出が要件の選択肢として位置づけられます。 -
掲示事項の「Web掲載」が原則化
院内掲示している内容について、原則としてウェブサイト掲載が求められます(自院サイト等がない場合は例外)。既存届出医療機関には経過措置があるため、いつまでに何を整備するかが重要です。 -
長期投薬・リフィル処方箋への対応明示
掲示事項の中で、患者の状態に応じて「28日以上の長期投薬」または「リフィル処方箋」を交付できる体制であることが求められます。掲示だけでなく、院内運用(説明・記録)もセットで整備しておくと監査対応が安定します。
算定要件:患者側の要件(まずここで取りこぼさない)
患者側で特に重要なのは、次の2点です。
- 上記4疾患のうち、2つ以上を有すること
- 患者の同意を得て、療養上必要な指導および診療を行うこと
同意の取り方は、口頭でも「同意取得の事実」がカルテ上で追える形にするのが基本です。監査では「同意が曖昧」「対象疾患の組み合わせが不明瞭」が指摘されやすいため、カルテ記載ルールを院内で統一しておくことを推奨します。
施設基準:地域包括診療加算1(全体像)
加算1は、要件が多く、(1)~(12)をすべて満たす必要があります。実務的には、次のブロックに分けて整備すると進めやすいです。
1) 体制・研修(担当医の配置)
- 診療所であること
- 慢性疾患指導に係る適切な研修を修了した医師(担当医)を配置
- 担当医は「認知症に係る適切な研修」を修了していることが望ましい(※望ましい要件の具体例は後述FAQ)
2) 院内掲示+Web掲載(2024年はここが要注意)
院内の見やすい場所に、少なくとも次を掲示します。
- 健康相談・予防接種の相談を実施していること
- 介護支援専門員・相談支援専門員からの相談に対応可能であること
- 28日以上の長期投薬またはリフィル処方箋を交付できること
さらに、(3)の掲示事項は原則としてウェブサイト掲載が必要です(自院サイトがない場合は除外)。
3) 薬局連携(院外処方を行う場合)
- 院外処方を行う場合、24時間対応している薬局と連携していること
4) 禁煙対応
- 敷地内禁煙(建物の一部開設の場合は、保有・借用部分が禁煙)
5) 介護保険対応(主治医意見書+要件いずれか)
- 介護保険制度の利用等に関する相談を実施している旨の院内掲示
- 要介護認定に係る主治医意見書を作成していること
- さらに、指定居宅介護支援事業者の指定+常勤ケアマネ配置、居宅療養管理指導等の実績、介護サービス事業所併設、地域ケア会議出席など、複数の選択肢のうちいずれかを満たす
6) 在宅対応(24時間の往診等の体制)
- 在宅医療の提供および当該患者に対し24時間の往診等の体制を確保
(在宅療養支援診療所以外の診療所は、連携医療機関の協力を得る形を含む)
7) 時間外対応(2024改定の実務ポイント)
次のいずれかを満たします。
- 時間外対応加算1~4の届出
- 常勤換算2名以上の医師配置(うち1名以上常勤)
- 在宅療養支援診療所であること
「時間外対応」を院内体制だけで満たすか、加算届出で満たすかは、運営方針(診療時間・当直体制・在宅の有無)で最適解が変わります。
8) 介護支援専門員との相談機会(ICT等含む)
次のいずれかを満たします。
- 担当医がサービス担当者会議に参加した実績
- 地域ケア会議への出席実績
- 介護支援専門員と対面またはICT等を用いた相談機会を設けている(望ましくは対面)
※電話相談でも該当する、という整理があります(後述FAQ)。
9) 外来→訪問診療への移行実績(数値要件あり)
直近1年間の実績要件があります。要点は次のとおりです。
- 在宅療養支援診療所:対象患者数 合計10人以上
- それ以外の診療所:対象患者数 合計3人以上
- 直近1か月で、往診/訪問診療の割合が70%未満
10) 意思決定支援(ACP等)
厚生労働省のガイドライン等を踏まえ、適切な意思決定支援に関する指針を院内で定めます。
施設基準:地域包括診療加算2(加算1より要件が軽い)
加算2は、加算1のうち一部要件を満たしつつ、在宅対応の要求水準が異なります。要件の骨子は次のとおりです。
- 加算1の(1)~(7)、(9)、(10)、(12)を満たす
- 在宅医療の提供および当該患者に対し24時間の連絡体制を確保する
加算1が「24時間の往診等の体制」であるのに対し、加算2は「24時間の連絡体制」である点が大きな違いです。
加算1・加算2の比較(早見表)
| 項目 | 加算1 | 加算2 |
|---|---|---|
| 点数 | 25点 | 18点 |
| 在宅対応 | 24時間の往診等の体制(連携含む) | 24時間の連絡体制 |
| 満たすべき施設基準 | (1)~(12)すべて | (1)~(7),(9),(10),(12)+連絡体制 |
| 時間外対応の満たし方 | 時間外対応加算1~4の届出等 | 同左(加算1準拠) |
| 監査で見られやすい箇所 | 実績要件・在宅体制の実装 | 連絡体制の実装 |
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
届出と運用:開業医向けの実務フロー(ステップ形式)
届出は「書類を出して終わり」ではなく、掲示・Web・連携先・実績の整合が必要です。以下の順で進めると手戻りが減ります。
- 対象方針の決定(加算1か加算2か/在宅・時間外対応をどう担保するか)
- 担当医の研修修了を確認(証憑を保管)
- 院内掲示物を整備(健康相談、介護相談、長期投薬/リフィル 等)
- Web掲載を整備(原則必須。自院サイトがない場合の整理も含む)
- 連携先の整備(24時間対応薬局、在宅の連携医療機関 等)
- 禁煙要件の確認(敷地内禁煙の実態と掲示)
- 介護保険対応の証跡整備(主治医意見書、相談、会議参加や相談機会)
- 外来→訪問診療の実績確認(該当患者数・割合)
- 届出様式の作成・提出(地方厚生(支)局へ)
- 算定開始後のモニタリング(同意取得、対象疾患、掲示・Web更新、実績)
監査・返戻リスクを下げるチェックリスト(要点)
- 同意取得がカルテ上で追えるか(様式化すると強い)
- 対象疾患「2つ以上」の根拠が明確か(病名管理の統一)
- 院内掲示とWeb掲載の内容が一致しているか
- 24時間対応薬局・在宅連携の「実態」と「証跡」があるか
- 介護支援専門員との相談機会(ICT/電話含む)の運用記録があるか
- 実績要件(外来→訪問診療)が基準に達しているか
よくある質問(FAQ)
Q1. 「認知症に係る適切な研修」とは何ですか?
認知症患者に対する地域での医療・介護等の活用や、多職種連携による生活支援方法等を含む研修が想定されています。例として、日医かかりつけ医機能研修制度(応用研修の該当講義)、かかりつけ医認知症対応力向上研修、認知症サポート医養成研修などが示されています。
Q2. 介護支援専門員との「相談の機会」は、電話でも満たせますか?
満たせます。対面またはICT等を用いた相談機会の要件について、電話による相談体制でも該当すると整理されています。
Q3. 研修は「届出から遡って2年で通算20時間以上」必要ですか?
慢性疾患指導に係る研修について、従来の解釈として「継続的に2年間で通算20時間以上」等の整理があります。一方、2024年改定に伴う届出の場面では、状況により「届出時から遡って2年の間に通算20時間以上の研修が必要か」という論点について、不要とされた整理もあります。実務では、自院が“更新”なのか“新規”なのか、および地方厚生(支)局の運用確認が重要です。
Q4. 経過措置はありますか?
既に届出済みの医療機関について、掲示・意思決定支援など一部要件は、期限付きで満たしているものとみなす取扱いがあります。「いつまでに何を整備するか」を院内プロジェクトとして管理してください。
まとめ(開業医が今日から押さえること)
- 地域包括診療加算は、4疾患のうち2つ以上+同意取得が起点
- 加算1(25点)は「24時間の往診等の体制」まで求められ、要件が広い
- 加算2(18点)は「24時間の連絡体制」で、要件が相対的に軽い
- 2024年は特に、時間外対応の要件整理と掲示→Web掲載の整備が実務の分岐点
- 監査に強い運用は「掲示・Web・連携・カルテ記載」をセットで設計すること
税理士法人 辻総合会計(医療経営支援)からの補足
診療報酬の届出・運用は、医療側の体制整備に加えて、院内ルールの文書化と証跡管理が成否を分けます。税務・会計の視点でも、算定の安定は収益の見通し精度を高め、資金繰り・人員計画の質を引き上げます。必要に応じて、院内フロー(同意取得、掲示・Web更新、連携記録)の整備からご相談ください。
参照ソース(公的資料)
- 厚生労働省:個別改定項目(地域包括診療加算の見直しを含む)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000591099.pdf - 地方厚生(支)局:基本診療料の施設基準等(地域包括診療加算の施設基準・届出)
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iryo_shido/000349131.pdf - 厚生労働省:疑義解釈資料(その4)(認知症研修、相談機会、研修要件の取扱い等)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001253486.pdf - 内閣府:令和6年版 高齢社会白書(高齢化率29.1%等)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
