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事業承継・M&Aコラム
作成日:2024.04.15
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

従業員への事業承継MBO・EBOの進め方|税理士が実務解説

9分で読めます
従業員への事業承継MBO・EBOの進め方|税理士が実務解説

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自社株評価、後継者、株式分散、M&A、納税資金など、実行前に確認すべき論点を整理します。

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従業員への事業承継(MBO・EBO)とは、経営者が保有する株式や事業を、社内の後継者(役員・従業員)へ移す承継方法です。最大の論点は「誰が買うか」ではなく、誰が資金を負担し、どの条件で会社を引き継ぐかです。準備不足のまま進めると、資金繰り悪化や従業員の分断を招きかねません。経営者・後継者・金融機関が同じ絵を見られるよう、段取りと根拠(評価・計画・契約)を揃えることが実務の核心です。

従業員への事業承継(MBO・EBO)とは

MBO(Management Buyout)は、役員・幹部が中心となって会社(株式)を買い取る方法です。意思決定が速く、承継後の経営責任が明確になりやすい点が特徴です。

EBO(Employee Buyout)は、従業員(または従業員持株会等)が広く参加して買い取る方法です。組織の納得感を作りやすい一方、意思決定が分散しやすく、資金拠出・ガバナンス設計が難所になります。

いずれも「社内の人材が引き継ぐ」ため、顧客・仕入先・金融機関から見て継続性が高い反面、買い手側の資金力が弱いことが多く、資金調達と株式価値の適正評価が成否を分けます。

MBOとEBOの違い|親族内承継・M&Aとの比較

MBO・EBOは「従業員承継」に含まれますが、親族内承継や第三者M&Aと比べると、価格(評価)と資金の組み立て方がよりシビアです。

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比較項目MBO(役員買収)EBO(従業員買収)第三者M&A
主な買い手役員・幹部従業員(持株会等)外部企業・投資家
意思決定速い分散しやすい相手次第
資金調達融資中心になりやすい小口拠出+融資等の設計が必要買い手資金が厚いことが多い
価格の納得感社内合意が論点になりやすい公平性説明がより重要市場価格に寄せやすい
承継後の統合文化は維持されやすい文化は維持されやすいPMI(統合)負荷が出やすい
ここがポイント
「社内承継だから安く譲ってよい」と考えると、後で贈与・利益供与と疑われるリスクや、他の従業員・共同経営者との摩擦が生じます。第三者の評価や根拠資料で説明可能な価格にしておくことが防波堤になります。

MBO・EBOの進め方|5ステップで全体像

中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、承継は段階的に進めることが重要と整理されています。実務では、次の5ステップに落とすとプロジェクト管理が容易です。

Step 1: 承継方針と候補者の確定(合意形成)

後継者本人の意思、家族株主の意向、主要取引先・金融機関の反応を早期に把握します。MBOは「経営権を誰に集約するか」、EBOは「参加範囲と議決権設計」を最初に決めます。

Step 2: 企業価値・株式価値の算定(根拠作り)

株式価値の算定は価格交渉ではなく説明責任です。株式譲渡なのか、事業譲渡なのかで評価対象が変わります。税務・金融の双方に耐える資料(試算表の精度、実態純資産、将来収益)が必要です。

Step 3: スキーム設計(株式譲渡/事業譲渡/SPC等)

株式譲渡は許認可・契約の承継が比較的スムーズですが、簿外債務や偶発債務も引き継ぎます。事業譲渡はリスクを切り分けやすい一方、契約移転や従業員対応の負荷が増えます。MBOではSPC(買収目的会社)を使う設計も検討します。

Step 4: 資金調達と返済計画(金融機関との擦り合わせ)

従業員承継は買い手の担保・信用が弱いことが多く、返済原資(キャッシュフロー)を数字で示すことが必須です。返済期間、金利、役員報酬、設備投資、運転資金を一体で設計し、無理のない返済計画に落とします。

Step 5: 契約締結・実行・承継後の運営(PMI相当)

株式譲渡契約、役員変更、株主名簿、社内外への説明、引継ぎ期間の設計までが実行です。承継後は、ガバナンス(取締役会運営、稟議、権限)と経営管理(予実、資金繰り)を整え、早期に「新体制の標準」を作ります。

資金調達とスキーム設計のポイント

資金の出どころを3つに分けて考える

  • 買い手自己資金(役員の拠出、従業員の拠出)
  • 借入金(金融機関)
  • 売り手側の工夫(分割払い、退職金設計、条件付対価など)

ポイントは、買い手の生活・報酬を圧迫しすぎないことです。役員報酬を下げすぎるとモチベーションを損ね、逆に上げすぎると返済が回りません。返済原資は「利益」ではなく「資金」で見る必要があります。

EBOは持株比率より議決権と出口を設計する

EBOは多数が関与するため、意思決定が止まるリスクがあります。持株会を使う場合でも、議決権行使のルール、退職者の持分の扱い、会社が買い取る際の価格決定ルール(算定式)を先に決めておくと運用が安定します。

ここがポイント
EBOで「全員が平等に株を持つ」設計は聞こえが良い反面、経営責任が曖昧になります。議決権の集約(幹部に議決権を寄せる、種類株式を検討する等)を含め、ガバナンスを先に固めるのが実務的です。
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税務・法務の注意点と失敗パターン

売り手(現経営者)の税金:株式譲渡は譲渡所得課税が基本

株式等の譲渡益は申告分離課税(税率20%、復興特別所得税を含めた取扱いあり)として整理されています。譲渡の形(上場・一般株式等)や個別事情で取り扱いが変わるため、契約前に税額試算を行い、手取りベースで条件を詰めます。

価格が安すぎる/根拠が薄い:贈与認定・社内不公平の火種

「社内だからこの価格で」と根拠なく値付けすると、税務上の指摘リスクだけでなく、他の従業員からの不信にも繋がります。第三者評価や算定根拠を残し、説明可能性を担保することが重要です。

契約と引継ぎが雑:表明保証・偶発債務で揉める

MBO・EBOでも、契約(表明保証、補償、競業避止、退任後の関与)を省略すると後で揉めます。特に、過去の労務問題、未払残業、リース、訴訟リスク、税務リスクは、棚卸ししてから実行すべきです。

実務でよくあるケース(匿名)

税理士法人 辻総合会計では、医療・士業を含む中小企業の承継支援において、社内承継で最も多い詰まりどころは「買い手の資金計画」と「価格の説明資料不足」です。あるケースでは、幹部2名によるMBOを予定していたものの、金融機関が返済原資の説明を求め、資金繰り表と役員報酬設計を作り直して承継を実行しました。結果として、返済負担を抑えつつ、主要取引先への説明もスムーズになりました。

支援制度の活用|まずは無料相談の導線を作る

従業員承継は「社内の話」だけで完結しません。公的支援を入口にして、早期に論点整理を行うと進行が速くなります。

  • 事業承継・引継ぎ支援センター:事業承継の相談、計画策定、M&A支援などを原則無料で実施(各都道府県)
  • 事業承継・M&A補助金:専門家費用やDD等を支援する枠があり、要件に合えばコストを抑えられます

また、相続・贈与で承継する場合には、事業承継税制(法人版)のような制度も選択肢になります。MBO・EBO(買収)と、相続・贈与(税制活用)は発想が異なるため、最初に「買う承継」なのか「移す承継」なのかを分けて検討すると整理しやすくなります。

よくある質問

Q: MBOとEBOは、どちらが進めやすいですか?
一般論では、意思決定が集中するMBOの方が進めやすい傾向があります。EBOは納得感を作りやすい反面、議決権・退職時の取り扱い・価格ルールなど運用設計が必要です。会社規模、後継者の力量、社内文化で最適解は変わります。
Q: 社内承継なら株価は低くしても問題ありませんか?
問題が生じるのは「根拠がない」場合です。税務面のリスクに加え、他の従業員や共同経営者との不公平感にも繋がります。第三者評価や算定資料を用意し、説明可能な価格にすることが重要です。
Q: 資金調達が難しい場合、どう打開しますか?
返済原資(資金繰り)を精緻化し、借入の条件を現実的に設計することが第一です。そのうえで、分割払い等の売り手側工夫、スキーム(株式譲渡か事業譲渡か、SPCの利用等)の見直し、補助金による専門家費用の圧縮などを組み合わせます。

まとめ

  • 従業員への事業承継(MBO・EBO)は、後継者不在の有力な解決策だが、資金と価格説明が成否を分ける
  • MBOは意思決定が速い一方、EBOはガバナンスと運用設計が重要になる
  • 進め方は「方針確定→評価→スキーム→資金→実行」の5ステップで管理すると失敗しにくい
  • 税務・法務は社内だから簡略化が最大のリスク。根拠資料と契約で担保する
  • 公的支援(支援センター、補助金)を入口に、早期に論点整理を行うと進行が速い

参照ソース


この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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