
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
介護経営2026年の重要論点と収支改善策

介護経営では、報酬改定への対応、人材確保、処遇改善、ICT活用、加算管理、資金繰りを一体で見直す必要があります。2026年5月時点では、介護報酬改定に関する告示・通知・処遇改善加算の様式が公表されており、単に「単位数を確認する」だけではなく、事業所ごとの収支構造、職員配置、加算算定体制、現場オペレーションを同時に点検することが重要です。
特に、訪問介護、通所介護、施設系サービスでは、人件費率の上昇、採用難、物価高、書類業務の増加が経営を圧迫しやすくなっています。これからの介護経営では、売上を増やす施策だけでなく、加算の取りこぼし防止、稼働率管理、職員定着、ICTによる業務時間削減、月次決算による早期把握が欠かせません。
介護事業の経営相談
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人件費、稼働率、加算、資金繰り、投資計画を、月次数字に合わせて整理します。
介護経営で最初に見るべき4つの数字
介護事業の経営改善では、まず感覚ではなく数字で現状を把握することが出発点です。売上が伸びていても、人件費や外注費、食材費、送迎コスト、家賃、借入返済が増えていれば、資金繰りは苦しくなります。
最低限、毎月確認したい数字は次の4つです。
| 確認項目 | 見るべきポイント | 経営上の意味 |
|---|---|---|
| 稼働率・利用率 | 定員、登録者数、実利用者数、キャンセル率 | 売上の土台を示す |
| 人件費率 | 給与、賞与、法定福利費、派遣費 | 利益を圧迫しやすい最大項目 |
| 加算算定状況 | 算定中の加算、未算定の加算、要件充足状況 | 売上改善余地を示す |
| 月次資金繰り | 現預金、借入返済、入金サイト、支払予定 | 黒字倒産リスクを防ぐ |
介護事業は、サービス提供から介護報酬の入金まで時間差があるため、会計上は黒字でも資金繰りが厳しくなることがあります。開設直後、職員増員時、設備投資後、利用者数が一時的に落ち込んだ時期は、特に資金残高の推移を確認する必要があります。
報酬改定対応は「加算の算定体制」まで確認する
介護報酬改定への対応では、単位数や基本報酬の増減だけでなく、加算の算定要件、届出期限、記録方法、職員配置、研修、計画書・実績報告書の整備まで確認する必要があります。
特に処遇改善関連の加算は、職員への賃金改善、計画書、実績報告、キャリアパス、職場環境改善など、経営・労務・会計が密接に関係します。算定できるはずの加算を取りこぼすと売上機会を失い、反対に要件確認が不十分なまま算定すると、後日返還リスクが生じます。
確認すべきポイントは次のとおりです。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 算定予定の加算 | 現在算定中の加算と、新たに検討する加算を整理する |
| 届出書類 | 体制届、計画書、変更届、実績報告書の提出要否を確認する |
| 職員配置 | 常勤換算、資格者配置、兼務状況を確認する |
| 記録・帳票 | サービス提供記録、会議録、研修記録、モニタリング記録を整備する |
| 会計処理 | 処遇改善分の賃金改善額、未払計上、賞与支給時期を確認する |
報酬改定後は、請求ソフトや記録システムの設定変更も必要です。体制届を提出していても、請求設定が誤っていると正しく請求できないことがあります。管理者、請求担当、会計担当が別々に確認するのではなく、改定内容、届出、請求、会計処理を一連の流れとして点検することが大切です。
人材確保と処遇改善は収支計画とセットで考える
介護経営において、人材確保は最重要課題の一つです。採用単価の上昇、離職、派遣依存、管理者不足が続くと、利用者を受け入れる余力があってもサービス提供体制を維持できません。
処遇改善は、単に給与を上げるだけではなく、事業所の収支計画と連動させる必要があります。賃上げを行う場合、毎月の固定費が増えるため、加算収入、稼働率、賞与設計、社会保険料の増加まで試算しておくことが重要です。
人材面では、次のような観点で整理します。
| 課題 | 放置した場合のリスク | 対応策 |
|---|---|---|
| 離職率が高い | 採用費増加、サービス品質低下 | 面談制度、教育体制、業務負担の見直し |
| 派遣比率が高い | 人件費率上昇、利益圧迫 | 常勤採用計画、シフト設計の見直し |
| 管理者に業務集中 | 請求ミス、記録漏れ、職員不満 | 業務分担、ICT活用、事務支援体制 |
| 処遇改善の設計が不明確 | 職員説明不足、返還リスク | 賃金改善ルールと会計管理の整備 |
職員にとって納得感のある処遇改善を行うには、「誰に、どのような基準で、いくら配分するのか」を明確にすることが重要です。経営者側も、加算収入と賃金改善額の対応関係を管理し、実績報告に備えた記録を残しておく必要があります。
ICT活用は現場負担と管理コストを下げる投資
介護現場では、記録、請求、シフト、送迎、申し送り、家族連絡、勤怠管理など、間接業務が大きな負担になりやすいです。ICT活用は、単なるシステム導入ではなく、現場の時間を確保し、管理者の負担を減らし、記録漏れや請求ミスを防ぐための経営施策です。
導入を検討しやすい領域は次のとおりです。
| 領域 | ICT活用例 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 介護記録 | タブレット記録、音声入力 | 記録時間の短縮、転記ミス削減 |
| 請求業務 | 介護請求ソフト、実績連携 | 請求漏れ・返戻の削減 |
| 勤怠・シフト | 勤怠システム、シフト自動作成 | 管理者負担の軽減 |
| 情報共有 | チャット、申し送りツール | 連絡漏れの防止 |
| 経営管理 | 月次試算表、部門別損益 | 収支悪化の早期発見 |
ただし、ICTは導入すれば自動的に成果が出るものではありません。現場の業務フローを整理しないままシステムを入れると、二重入力や操作負担が増えることがあります。導入前に「どの業務を削減したいのか」「誰が入力し、誰が確認するのか」「会計や請求とどう連携するのか」を決めておくことが重要です。
月次決算で赤字の原因を早く見つける
介護事業では、年に一度の決算だけで経営判断を行うと、対策が遅れます。月次決算を行い、売上、加算、人件費、経費、資金繰りを毎月確認することで、赤字の原因を早期に把握できます。
たとえば、同じ赤字でも原因はさまざまです。
| 赤字の原因 | 主な確認ポイント |
|---|---|
| 利用者数の不足 | 稼働率、紹介元、営業活動、キャンセル率 |
| 加算の取りこぼし | 算定要件、届出、記録、請求設定 |
| 人件費の増加 | シフト、残業、派遣費、配置基準 |
| 経費の増加 | 食材費、送迎費、消耗品、修繕費 |
| 借入返済負担 | 返済予定、資金繰り表、追加投資計画 |
月次決算では、単に損益計算書を見るだけでなく、サービス別、事業所別、部門別に採算を確認することが有効です。複数事業を運営している法人では、全体では黒字でも、特定の事業所が赤字を生んでいるケースがあります。
また、介護報酬の入金、賞与支給、社会保険料、税金、借入返済のタイミングを資金繰り表に反映することで、数か月先の資金不足を予測できます。金融機関への相談や追加融資の検討も、資金が尽きる直前ではなく、早い段階で行うことが重要です。
介護経営者が今すぐ確認したいチェックリスト
次の項目に該当する場合は、経営管理の見直しを早めに行うべきです。
| チェック項目 | 該当する場合の注意点 |
|---|---|
| 月次試算表の完成が遅い | 経営判断が後手に回りやすい |
| 加算の算定状況を一覧化していない | 取りこぼしや返還リスクが見えにくい |
| 人件費率を毎月確認していない | 賃上げや派遣費の影響を把握しにくい |
| 処遇改善加算の配分根拠が曖昧 | 職員説明や実績報告で問題になりやすい |
| 資金繰り表を作成していない | 借入返済や納税資金の不足に気づきにくい |
| ICT導入後も二重入力が残っている | 現場負担が減らず、投資効果が出にくい |
| 事業所別の損益を見ていない | 赤字部門の原因を特定しにくい |
介護経営は、制度対応、現場運営、人材、会計が密接に関係しています。管理者だけ、請求担当だけ、会計担当だけで対応するのではなく、経営全体として数字と業務を結び付けて管理することが重要です。
よくある質問
Q: 介護経営で最も重視すべき数字は何ですか?
Q: 処遇改善加算は会計上どのように管理すべきですか?
Q: ICT導入は小規模な介護事業所にも必要ですか?
Q: 介護報酬改定への対応はいつから始めるべきですか?
まとめ
- 介護経営では、報酬改定、処遇改善、人材確保、ICT活用、資金繰りを一体で管理する必要がある
- 稼働率、人件費率、加算算定状況、月次資金繰りを毎月確認することで、経営課題を早期に把握できる
- 処遇改善加算は、賃金改善ルール、職員説明、会計管理、実績報告まで含めて整備することが重要
- ICT活用は現場の記録業務や管理者負担を減らす一方、導入前の業務整理が欠かせない
- 年次決算だけでなく、月次決算と資金繰り表を使って、事業所別・サービス別の採算を確認することが大切
参照ソース
- 厚生労働省 令和8年度介護報酬改定について: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00073.html
- 厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126698_00022.html
- 厚生労働省 介護事業経営概況調査: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/153-6a.html
- 厚生労働省 介護分野における生産性向上について: https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei.html
- 記事生成ルール参照:
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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