
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
歯科医院のキャッシュレス決済導入と会計処理

歯科医院でキャッシュレス決済を導入する場合、見るべきポイントは「患者の利便性」だけではありません。カード決済、QRコード決済、電子マネーを受け付けると、窓口現金は減りますが、決済手数料、入金日、売掛金管理、自費診療の消費税区分、保険診療との区分経理が新たに発生します。導入前に、どの売上に手数料がかかり、いつ入金され、会計上どの勘定科目で処理するかを決めておくことが重要です。
特に歯科医院では、保険診療の一部負担金、自費診療、物販、矯正、ホワイトニング、インプラントなどが混在します。すべてを同じ「売上」として扱うと、月次試算表では売上が合っているように見えても、消費税、未収金、手数料率、資金繰りの実態が見えにくくなります。
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キャッシュレス決済導入で変わる医院のお金の流れ
現金決済では、診療日と入金日がほぼ一致します。一方、キャッシュレス決済では、患者が窓口で支払った日と、決済会社から医院口座へ入金される日がずれます。このずれを管理しないと、日計表では売上があるのに預金通帳にはまだ入っていない、という状態になります。
歯科医院で確認すべき流れは、次の4段階です。
| 確認項目 | 見るべき内容 | 会計上の注意点 |
|---|---|---|
| 決済日 | 患者が窓口でカード・QR等により支払った日 | 売上計上日との整合を確認する |
| 決済種別 | クレジットカード、電子マネー、QRコード等 | 決済会社別に入金予定を管理する |
| 入金日 | 決済会社から医院口座へ振り込まれる日 | 売掛金・未収入金の消込が必要 |
| 控除額 | 決済手数料、振込手数料など | 手数料の消費税区分を確認する |
実務上の注意点は、売上そのものよりも「入金差額」の処理です。たとえば患者が10万円をカードで支払い、手数料3,000円が差し引かれて97,000円が入金された場合、入金額だけを売上にしてしまうと売上が過少になります。原則として、売上は10万円、手数料は費用、入金差額は売掛金の消込として整理します。
保険診療・自費診療・物販を分けて管理する
歯科医院のキャッシュレス決済で特に重要なのが、保険診療と自費診療の区分です。社会保険医療の給付等は消費税の非課税取引に該当しますが、すべての歯科売上が非課税になるわけではありません。自費診療、審美目的の診療、物品販売などは、内容によって課税売上として扱う必要があります。
そのため、キャッシュレス決済端末やレジの集計では、少なくとも次の区分が見える状態にしておくのが望ましいです。
| 売上区分 | 例 | 主な管理ポイント |
|---|---|---|
| 保険診療 | 保険診療の一部負担金 | 非課税売上として区分する |
| 自費診療 | インプラント、矯正、審美補綴等 | 課税・非課税の判断を個別に確認する |
| 物販 | 歯ブラシ、洗口液、ケア用品等 | 課税売上として管理することが多い |
| 雑収入等 | キャンセル料、文書料など | 内容により課税区分を確認する |
キャッシュレス決済会社の管理画面では、決済手段別の金額は見えても、診療内容別の消費税区分までは自動で整理されないことがあります。医院側のレセコン、POS、日計表、会計ソフトのどこで区分するかを決めておく必要があります。
自費診療比率を経営指標として見ている医院では、キャッシュレス売上の中身を分けないと、自費が伸びたのか、単に支払方法が変わっただけなのか判断できません。導入後は「キャッシュレス比率」だけでなく、「自費診療の入金遅れ」「手数料控除後の実入金」「消費税区分」まで月次で確認しましょう。
決済手数料は利益率と資金繰りの両方に影響する
キャッシュレス決済の手数料は、売上から差し引かれるため目立ちにくい費用です。しかし、自費診療の単価が高い歯科医院では、年間で見ると大きな金額になります。特にインプラント、矯正、セラミック治療など高額な自費診療をカード決済で受け付ける場合、手数料率の差が利益に直結します。
たとえば、自費診療のカード決済が年間3,000万円あり、決済手数料率が3.0%であれば、年間手数料は90万円です。手数料率が3.5%なら105万円となり、差額は15万円です。端末費用が無料でも、入金サイクル、振込手数料、月額利用料、返金時の手数料などを含めて比較する必要があります。
| 比較項目 | 確認する理由 |
|---|---|
| 決済手数料率 | 自費診療の利益率に直接影響するため |
| 入金サイクル | 月末支払い、給与、材料費支払いとのズレを見るため |
| 振込手数料 | 少額でも件数が多いと負担になるため |
| 端末費用・月額費用 | 初期費用だけでなく固定費も見るため |
| 取消・返金処理 | 治療計画変更時の事務処理に影響するため |
| 明細データの出力 | 会計ソフトや月次確認に使えるかを見るため |
実務上の注意点として、手数料は「売上全体」ではなく、実際にキャッシュレスで決済される患者負担額に対して発生します。保険請求分として後日支払基金等から入金される部分に、通常の窓口キャッシュレス手数料がかかるわけではありません。手数料の試算では、保険診療の総売上ではなく、窓口負担金と自費診療の決済見込み額を分けて計算しましょう。
会計処理は売上・売掛金・手数料を分ける
キャッシュレス決済の会計処理では、入金額だけを売上にしないことが基本です。日々の処理では、患者への請求額を売上として認識し、決済会社からの入金までを売掛金または未収入金として管理します。そのうえで、入金時に手数料を費用処理し、差額を消し込みます。
例として、患者が自費診療代110,000円をカードで支払い、後日、手数料3,300円が差し引かれて106,700円が入金された場合の考え方は次のとおりです。
| タイミング | 処理の考え方 |
|---|---|
| 決済日 | 売上110,000円を計上し、同額を売掛金または未収入金として管理 |
| 入金日 | 預金106,700円を計上し、手数料3,300円を費用処理 |
| 月次確認 | 売掛金残高と決済会社の未入金明細を照合 |
この処理を行うことで、売上、手数料、未入金が分かれて見えるようになります。反対に、通帳入金額だけを売上にしていると、売上は少なく、手数料は見えず、消費税区分も曖昧になります。
入金管理で大切なのは、日計表、決済会社の明細、通帳、会計ソフトの4つをつなげることです。月次では、決済会社ごとに「当月決済額」「当月入金額」「翌月以降入金予定額」「手数料」を一覧化すると、未収入金の残高が確認しやすくなります。
導入前に決めておきたい院内ルール
キャッシュレス決済は、受付スタッフのオペレーションにも影響します。会計処理を正確にするには、経理担当者だけでなく、受付での入力ルールも重要です。
導入前に決めておきたいルールは、次のとおりです。
| ルール | 決めておく内容 |
|---|---|
| 決済対象 | 保険診療、自費診療、物販のどこまで対応するか |
| 分割・一括 | 高額自費診療で分割決済を認めるか |
| 返金対応 | 治療中止・計画変更時の取消処理を誰が行うか |
| 日計締め | 現金、カード、QR、電子マネーをどう集計するか |
| 明細保存 | 決済明細を誰が、いつ、どこへ保存するか |
| 会計連携 | レセコン、会計ソフト、通帳データの照合方法 |
実務上の注意点は、キャッシュレス決済の導入を受付任せにしないことです。受付では決済が完了していても、経理上は未入金のままです。院長が月次で確認する資料には、現金残高だけでなく、キャッシュレス未入金残高も入れておく必要があります。
また、医療費控除の領収書対応についても、患者から質問を受けることがあります。医療費控除では、原則としてその年中に支払った医療費が対象になります。クレジットカード払いの場合、患者側の口座引落日と医院での決済日がずれることがあるため、領収書や明細の発行ルールを院内で統一しておくと説明がしやすくなります。
月次で確認すべきチェックリスト
導入後は、キャッシュレス決済を「使えるようにする」だけでなく、月次管理に組み込むことが大切です。次のチェックリストを毎月確認すると、売上計上漏れや入金消込漏れを早期に見つけやすくなります。
| チェック項目 | 確認頻度 | 見る資料 |
|---|---|---|
| 日計表の決済額と決済会社明細が一致しているか | 毎日または週次 | 日計表、決済明細 |
| 決済会社からの入金額が予定どおりか | 月次 | 通帳、入金予定表 |
| 手数料が費用計上されているか | 月次 | 決済明細、会計ソフト |
| 保険診療と自費診療が区分されているか | 月次 | レセコン、売上集計表 |
| 消費税区分が正しいか | 月次または決算前 | 会計ソフト、売上内訳 |
| 未入金残高が翌月に繰り越されているか | 月次 | 売掛金・未収入金残高表 |
月次決算で確認する資料にキャッシュレス決済の一覧を加えると、資金繰りの見通しも立てやすくなります。特に給与支払日、技工料、材料費、リース料、借入返済が集中する医院では、入金サイクルが数日ずれるだけでも資金繰りに影響します。
キャッシュレス決済は、患者の利便性を高める一方で、医院の会計処理を複雑にします。導入前に、手数料率だけでなく、入金管理、消費税区分、日計処理、月次確認の流れまで設計しておくことが、安定運用のポイントです。
よくある質問
Q: 歯科医院でキャッシュレス決済を導入すると、会計処理は必ず複雑になりますか?
Q: 決済手数料は売上から差し引いて処理してもよいですか?
Q: 自費診療のカード決済は、消費税の処理に注意が必要ですか?
Q: キャッシュレス決済を導入する前に税理士へ相談すべきタイミングはいつですか?
まとめ
- キャッシュレス決済では、決済日と入金日がずれるため、売掛金・未収入金の管理が必要です。
- 売上は患者への請求額で把握し、差し引かれる決済手数料は費用として分けて処理します。
- 歯科医院では、保険診療、自費診療、物販を分けて、消費税区分を確認することが重要です。
- 手数料率だけでなく、入金サイクル、返金処理、明細データ、会計ソフト連携まで比較しましょう。
- 導入後は、日計表、決済明細、通帳、会計ソフトを月次で照合し、未入金残高を確認する体制を整えることが大切です。
参照ソース
- 国税庁「No.6201 非課税となる取引」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
- 国税庁「クレジット手数料」: https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/06/02.htm
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 厚生労働省「消費税と診療報酬について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken14/index.html
- ミラサポplus「中小店舗向け決済手数料・サービス内容一覧」: https://mirasapo-plus.go.jp/hint/16765/
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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