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歯科医院経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

歯科医院のキャッシュレス決済導入と会計処理

12分で読めます
歯科医院のキャッシュレス決済導入と会計処理

歯科医院でキャッシュレス決済を導入する場合、見るべきポイントは「患者の利便性」だけではありません。カード決済、QRコード決済、電子マネーを受け付けると、窓口現金は減りますが、決済手数料、入金日、売掛金管理、自費診療の消費税区分、保険診療との区分経理が新たに発生します。導入前に、どの売上に手数料がかかり、いつ入金され、会計上どの勘定科目で処理するかを決めておくことが重要です。

特に歯科医院では、保険診療の一部負担金、自費診療、物販、矯正、ホワイトニング、インプラントなどが混在します。すべてを同じ「売上」として扱うと、月次試算表では売上が合っているように見えても、消費税、未収金、手数料率、資金繰りの実態が見えにくくなります。

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キャッシュレス決済導入で変わる医院のお金の流れ

現金決済では、診療日と入金日がほぼ一致します。一方、キャッシュレス決済では、患者が窓口で支払った日と、決済会社から医院口座へ入金される日がずれます。このずれを管理しないと、日計表では売上があるのに預金通帳にはまだ入っていない、という状態になります。

歯科医院で確認すべき流れは、次の4段階です。

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確認項目見るべき内容会計上の注意点
決済日患者が窓口でカード・QR等により支払った日売上計上日との整合を確認する
決済種別クレジットカード、電子マネー、QRコード等決済会社別に入金予定を管理する
入金日決済会社から医院口座へ振り込まれる日売掛金・未収入金の消込が必要
控除額決済手数料、振込手数料など手数料の消費税区分を確認する

実務上の注意点は、売上そのものよりも「入金差額」の処理です。たとえば患者が10万円をカードで支払い、手数料3,000円が差し引かれて97,000円が入金された場合、入金額だけを売上にしてしまうと売上が過少になります。原則として、売上は10万円、手数料は費用、入金差額は売掛金の消込として整理します。

ここがポイント
キャッシュレス決済は、現金を減らす仕組みであると同時に、月次会計の確認項目を増やす仕組みでもあります。導入前に「売上計上」「入金予定」「手数料」「未入金残高」の確認方法を決めておくと、月次決算が乱れにくくなります。

保険診療・自費診療・物販を分けて管理する

歯科医院のキャッシュレス決済で特に重要なのが、保険診療と自費診療の区分です。社会保険医療の給付等は消費税の非課税取引に該当しますが、すべての歯科売上が非課税になるわけではありません。自費診療、審美目的の診療、物品販売などは、内容によって課税売上として扱う必要があります。

そのため、キャッシュレス決済端末やレジの集計では、少なくとも次の区分が見える状態にしておくのが望ましいです。

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売上区分主な管理ポイント
保険診療保険診療の一部負担金非課税売上として区分する
自費診療インプラント、矯正、審美補綴等課税・非課税の判断を個別に確認する
物販歯ブラシ、洗口液、ケア用品等課税売上として管理することが多い
雑収入等キャンセル料、文書料など内容により課税区分を確認する

キャッシュレス決済会社の管理画面では、決済手段別の金額は見えても、診療内容別の消費税区分までは自動で整理されないことがあります。医院側のレセコン、POS、日計表、会計ソフトのどこで区分するかを決めておく必要があります。

自費診療比率を経営指標として見ている医院では、キャッシュレス売上の中身を分けないと、自費が伸びたのか、単に支払方法が変わっただけなのか判断できません。導入後は「キャッシュレス比率」だけでなく、「自費診療の入金遅れ」「手数料控除後の実入金」「消費税区分」まで月次で確認しましょう。

決済手数料は利益率と資金繰りの両方に影響する

キャッシュレス決済の手数料は、売上から差し引かれるため目立ちにくい費用です。しかし、自費診療の単価が高い歯科医院では、年間で見ると大きな金額になります。特にインプラント、矯正、セラミック治療など高額な自費診療をカード決済で受け付ける場合、手数料率の差が利益に直結します。

たとえば、自費診療のカード決済が年間3,000万円あり、決済手数料率が3.0%であれば、年間手数料は90万円です。手数料率が3.5%なら105万円となり、差額は15万円です。端末費用が無料でも、入金サイクル、振込手数料、月額利用料、返金時の手数料などを含めて比較する必要があります。

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比較項目確認する理由
決済手数料率自費診療の利益率に直接影響するため
入金サイクル月末支払い、給与、材料費支払いとのズレを見るため
振込手数料少額でも件数が多いと負担になるため
端末費用・月額費用初期費用だけでなく固定費も見るため
取消・返金処理治療計画変更時の事務処理に影響するため
明細データの出力会計ソフトや月次確認に使えるかを見るため

実務上の注意点として、手数料は「売上全体」ではなく、実際にキャッシュレスで決済される患者負担額に対して発生します。保険請求分として後日支払基金等から入金される部分に、通常の窓口キャッシュレス手数料がかかるわけではありません。手数料の試算では、保険診療の総売上ではなく、窓口負担金と自費診療の決済見込み額を分けて計算しましょう。

会計処理は売上・売掛金・手数料を分ける

キャッシュレス決済の会計処理では、入金額だけを売上にしないことが基本です。日々の処理では、患者への請求額を売上として認識し、決済会社からの入金までを売掛金または未収入金として管理します。そのうえで、入金時に手数料を費用処理し、差額を消し込みます。

例として、患者が自費診療代110,000円をカードで支払い、後日、手数料3,300円が差し引かれて106,700円が入金された場合の考え方は次のとおりです。

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タイミング処理の考え方
決済日売上110,000円を計上し、同額を売掛金または未収入金として管理
入金日預金106,700円を計上し、手数料3,300円を費用処理
月次確認売掛金残高と決済会社の未入金明細を照合

この処理を行うことで、売上、手数料、未入金が分かれて見えるようになります。反対に、通帳入金額だけを売上にしていると、売上は少なく、手数料は見えず、消費税区分も曖昧になります。

入金管理で大切なのは、日計表、決済会社の明細、通帳、会計ソフトの4つをつなげることです。月次では、決済会社ごとに「当月決済額」「当月入金額」「翌月以降入金予定額」「手数料」を一覧化すると、未収入金の残高が確認しやすくなります。

ここがポイント
会計ソフト連携を使う場合でも、連携されたデータが正しい勘定科目・補助科目・消費税区分になっているとは限りません。導入初月は、手入力の場合と同じように明細単位で確認することが大切です。
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導入前に決めておきたい院内ルール

キャッシュレス決済は、受付スタッフのオペレーションにも影響します。会計処理を正確にするには、経理担当者だけでなく、受付での入力ルールも重要です。

導入前に決めておきたいルールは、次のとおりです。

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ルール決めておく内容
決済対象保険診療、自費診療、物販のどこまで対応するか
分割・一括高額自費診療で分割決済を認めるか
返金対応治療中止・計画変更時の取消処理を誰が行うか
日計締め現金、カード、QR、電子マネーをどう集計するか
明細保存決済明細を誰が、いつ、どこへ保存するか
会計連携レセコン、会計ソフト、通帳データの照合方法

実務上の注意点は、キャッシュレス決済の導入を受付任せにしないことです。受付では決済が完了していても、経理上は未入金のままです。院長が月次で確認する資料には、現金残高だけでなく、キャッシュレス未入金残高も入れておく必要があります。

また、医療費控除の領収書対応についても、患者から質問を受けることがあります。医療費控除では、原則としてその年中に支払った医療費が対象になります。クレジットカード払いの場合、患者側の口座引落日と医院での決済日がずれることがあるため、領収書や明細の発行ルールを院内で統一しておくと説明がしやすくなります。

月次で確認すべきチェックリスト

導入後は、キャッシュレス決済を「使えるようにする」だけでなく、月次管理に組み込むことが大切です。次のチェックリストを毎月確認すると、売上計上漏れや入金消込漏れを早期に見つけやすくなります。

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チェック項目確認頻度見る資料
日計表の決済額と決済会社明細が一致しているか毎日または週次日計表、決済明細
決済会社からの入金額が予定どおりか月次通帳、入金予定表
手数料が費用計上されているか月次決済明細、会計ソフト
保険診療と自費診療が区分されているか月次レセコン、売上集計表
消費税区分が正しいか月次または決算前会計ソフト、売上内訳
未入金残高が翌月に繰り越されているか月次売掛金・未収入金残高表

月次決算で確認する資料にキャッシュレス決済の一覧を加えると、資金繰りの見通しも立てやすくなります。特に給与支払日、技工料、材料費、リース料、借入返済が集中する医院では、入金サイクルが数日ずれるだけでも資金繰りに影響します。

キャッシュレス決済は、患者の利便性を高める一方で、医院の会計処理を複雑にします。導入前に、手数料率だけでなく、入金管理、消費税区分、日計処理、月次確認の流れまで設計しておくことが、安定運用のポイントです。

よくある質問

Q: 歯科医院でキャッシュレス決済を導入すると、会計処理は必ず複雑になりますか?
現金だけの場合より、入金日と決済日がずれるため管理項目は増えます。ただし、決済会社別に未入金残高を管理し、売上と手数料を分けて処理すれば、月次で十分管理できます。導入初月に処理ルールを固めることが大切です。
Q: 決済手数料は売上から差し引いて処理してもよいですか?
入金額だけを売上にすると、売上が過少になり、手数料の実態も見えなくなります。原則として患者への請求額を売上にし、差し引かれた決済手数料は費用として分けて処理します。消費税区分は決済契約や明細の内容を確認して判断します。
Q: 自費診療のカード決済は、消費税の処理に注意が必要ですか?
注意が必要です。保険診療は非課税となる一方、自費診療や物販は内容により課税売上になることがあります。キャッシュレス決済の明細だけでは診療内容別の区分が分からないため、レセコンや日計表で売上区分を整理しておく必要があります。
Q: キャッシュレス決済を導入する前に税理士へ相談すべきタイミングはいつですか?
端末や決済会社を契約する前に、手数料率、入金サイクル、明細データの出力形式を確認する段階で相談するとよいです。契約後に会計処理へ合わせようとすると、明細が不足したり、補助科目の設計が後手になったりすることがあります。

まとめ

  • キャッシュレス決済では、決済日と入金日がずれるため、売掛金・未収入金の管理が必要です。
  • 売上は患者への請求額で把握し、差し引かれる決済手数料は費用として分けて処理します。
  • 歯科医院では、保険診療、自費診療、物販を分けて、消費税区分を確認することが重要です。
  • 手数料率だけでなく、入金サイクル、返金処理、明細データ、会計ソフト連携まで比較しましょう。
  • 導入後は、日計表、決済明細、通帳、会計ソフトを月次で照合し、未入金残高を確認する体制を整えることが大切です。

参照ソース


この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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