歯科医院経営コラムに戻る
歯科医院経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

歯科医院承継で最初に確認すること

10分で読めます
歯科医院承継で最初に確認すること

歯科医院の承継で最初に確認すべきことは、「誰に引き継ぐか」だけではありません。営業権の考え方、個人医院か医療法人か、スタッフや患者対応、行政手続き、借入・リース・税務の整理を同時に見ておく必要があります。特に承継を考え始めた段階では、金額交渉より先に医院の承継対象を見える化することが重要です。

歯科医院は、一般企業のM&Aと違い、医療法上の開設者、管理者、保健所手続き、厚生局の指定、医療法人の社員・役員、スタッフ雇用などが関係します。この記事では、歯科院長や後継者が初期段階で確認すべき論点を、実務の順番に沿って整理します。

歯科医院承継・M&Aの個別相談

この記事の内容を、歯科医院の承継・譲渡・税務判断に落とし込む相談をする

評価額、譲渡条件、医療法人、税負担、引き継ぎ体制を整理します。

歯科医院経営を相談する

歯科医院の承継は「何を引き継ぐか」から整理する

歯科医院の承継では、まず承継対象を分けて考えます。医院名、患者基盤、診療設備、内装、賃貸借契約、スタッフ、予約システム、レセコン、ホームページ、借入、リース、医療法人の出資持分など、引き継ぎ対象は一つではありません。

個人医院の場合、院長個人が開設者であるため、後継者がそのまま医院を「名義変更」するだけでは済まないことがあります。実務上は、旧院長の廃止手続きと後継者の開設手続き、契約の切替、患者・スタッフへの説明を組み合わせて進めるケースが多くなります。

一方、医療法人の場合は、法人自体が医院を開設しているため、理事長交代、社員・役員構成、出資持分、定款、借入保証、法人資産の整理が中心になります。同じ「承継」でも、個人医院と医療法人では確認資料と進め方が大きく異なる点に注意が必要です。

ここがポイント
承継準備の初期段階では、売却価格や譲渡額を先に決めるよりも、医院の開設形態、契約関係、資産・負債、スタッフ状況を一覧化することが先です。ここが曖昧なまま交渉を始めると、後から手続きや税金の問題が出やすくなります。

営業権は「利益」と「引き継げる強み」で見る

歯科医院の承継でよく出てくるのが営業権です。営業権は、医院の場所、患者数、リコール率、自費診療比率、院長への依存度、スタッフの定着、設備状態、診療圏などを踏まえて考える無形の価値です。

ただし、営業権は単に「売上があるから高い」と決まるものではありません。たとえば、売上の大部分が現院長の専門技術や人柄に依存している場合、後継者が同じ収益を維持できるとは限りません。逆に、衛生士によるメンテナンス体制、定期管理患者、マニュアル化された診療フロー、安定したスタッフ構成がある医院は、承継後も価値を引き継ぎやすくなります。

確認項目は次のように整理できます。

横にスクロールできます
確認項目見るべきポイント承継への影響
売上構成保険、自費、物販、訪問診療の内訳収益の再現性を判断する
患者基盤新患数、リコール率、キャンセル率営業権の根拠になる
院長依存度院長指名、自費説明、専門治療の割合承継後の売上低下リスクを見る
スタッフ体制歯科衛生士、受付、歯科助手の定着引き継ぎ後の運営安定性に関係する
設備・内装ユニット、CT、レセコン、老朽化追加投資の必要性を判断する

営業権の評価では、過去の利益だけでなく、承継後に残る利益を見ます。営業権は「過去の実績」ではなく「将来も引き継げる収益力」として確認することが大切です。

また、事業譲渡として医院資産を引き継ぐ場合、譲渡対象に課税資産と非課税資産が混在することがあります。国税庁の質疑応答でも、営業の譲渡では資産・負債を含めた一括譲渡の中で消費税の課税関係を整理する考え方が示されています。譲渡対価を一括で決める前に、内訳と税務処理を確認することが重要です。

医療法人の場合は持分・役員・定款を確認する

医療法人の歯科医院を承継する場合は、医院単体ではなく法人全体を確認します。特に、持分あり医療法人か、持分なし医療法人かによって、承継時の論点が変わります。

持分あり医療法人では、出資持分の評価、譲渡、相続、贈与、払戻しリスクが論点になります。後継者が親族であっても、持分の移転方法によって税負担が変わる可能性があります。第三者承継の場合も、出資持分、役員変更、社員構成、理事長交代、借入保証の引き継ぎを分けて確認する必要があります。

持分なし医療法人では、出資持分の譲渡という考え方は基本的にありませんが、社員・役員の交代、理事長変更、法人資産の管理、退職金、役員報酬、基金拠出型の場合の扱いなどを整理します。厚生労働省は、持分の定めのない医療法人への移行計画認定制度や関連資料を公表しており、持分の扱いは医療法人承継の重要論点です。

確認すべき資料は、少なくとも次のとおりです。

  • 定款
  • 社員名簿、役員名簿
  • 出資持分の有無がわかる資料
  • 直近の決算書、勘定科目内訳明細
  • 借入金明細、リース契約
  • 役員報酬、退職金規程
  • 不動産賃貸借契約
  • 医療機器の所有・リース状況

医療法人承継では、法人の中に医院運営以外の資産や負債が残っていることもあります。医療法人の承継は、医院の譲渡ではなく法人の支配関係と財産関係の整理として見る必要があります。

スタッフと患者対応は早すぎず遅すぎず準備する

歯科医院の承継で見落とされやすいのが、スタッフと患者への伝え方です。承継条件が固まる前に広く伝えると、不安や退職につながることがあります。一方で、直前まで何も伝えないと、後継者への不信感や引き継ぎ不足が生じます。

スタッフについては、雇用契約、給与、賞与、社会保険、勤務時間、有給休暇、退職金の有無を整理します。個人医院から後継者の個人医院へ変わる場合や、個人医院から医療法人へ移る場合は、雇用主の変更が発生することがあります。雇用条件を曖昧にしたまま承継すると、スタッフ退職や労務トラブルにつながる可能性があります。

患者対応では、医院名を残すか、院長交代をどう伝えるか、診療方針を変えるか、予約・カルテ・リコール管理をどう引き継ぐかが重要です。特にメンテナンス患者が多い医院では、担当衛生士や受付スタッフの継続が患者離れを防ぐ要素になります。

ここがポイント
スタッフ承継は、譲渡契約だけで完結しません。給与台帳、雇用契約書、社会保険、就業ルール、退職予定者の有無を確認し、後継者が引き継げる条件を事前に整理しておく必要があります。
歯科医院の設備投資・材料費・月次管理を確認

行政手続きと契約関係を一覧化する

歯科医院の承継では、保健所、地方厚生局、医療法人所管庁、賃貸人、金融機関、リース会社、レセコン会社、材料業者など、複数の関係先が関わります。大阪府など自治体の案内でも、診療所の開設・変更では所管保健所への事前相談が案内されており、地域によって様式や提出先が異なる場合があります。

承継前に一覧化したい関係先は次のとおりです。

横にスクロールできます
関係先確認する内容
保健所開設、廃止、変更、管理者変更などの手続き
地方厚生局保険医療機関指定、施設基準、届出事項
医療法人所管庁定款、役員変更、社員変更、事業報告
賃貸人賃貸借契約の承継、名義変更、保証金
金融機関借入残高、担保、経営者保証、返済条件
リース会社医療機器、レセコン、複合機などの契約
スタッフ雇用条件、社会保険、引き継ぎ時期

個人医院の場合は、現院長の廃止と後継者の開設が絡むことがあります。医療法人の場合は、法人の開設者は変わらず、理事長や管理者、役員の変更として処理する場面もあります。承継スキームによって必要手続きが変わるため、早い段階で自治体・厚生局・専門家に確認することが大切です。

最初に準備する資料と相談タイミング

承継を考え始めた段階では、すべてを完璧にそろえる必要はありません。ただし、初回相談で全体像を把握するには、最低限の資料があると話が進みやすくなります。

まずは、直近3期分の決算書または確定申告書、月次試算表、売上内訳、患者数、スタッフ一覧、借入・リース明細、賃貸借契約、医療機器リストを準備します。医療法人の場合は、定款、社員名簿、役員名簿、出資持分の資料も必要です。

承継相談のタイミングは、「売ると決めた後」ではなく、「数年以内に承継するかもしれない」と考え始めた時点が適しています。早めに確認すれば、役員報酬、退職金、設備投資、借入整理、スタッフ体制、医療法人の持分整理を計画的に進められます。

まとめると、歯科医院承継の初期確認では次の点が重要です。

  • 承継対象を、資産・契約・患者基盤・スタッフ・法人関係に分けて整理する
  • 営業権は、売上ではなく承継後に残る収益力で見る
  • 個人医院と医療法人では、手続き、税務、契約の確認順が異なる
  • スタッフと患者対応は、タイミングと伝え方を設計する
  • 価格交渉の前に、決算書、契約書、借入、リース、医療法人資料をそろえる

よくある質問

Q: 歯科医院の承継は何年前から準備すべきですか?
できれば数年前から準備するのが望ましいです。特に医療法人の持分、借入保証、スタッフ体制、設備更新、退職金を整理するには時間がかかります。すぐに譲渡しない場合でも、現状把握だけは早めに行うと選択肢が広がります。
Q: 営業権は必ず譲渡価格に含めるべきですか?
必ずしも固定的に含めるものではありません。患者基盤、利益、スタッフ定着、院長依存度、設備状態を見て、承継後も収益が残るかを判断します。営業権を設定する場合は、税務上の区分や消費税の扱いも確認が必要です。
Q: 個人医院の承継と医療法人の承継は何が違いますか?
個人医院は開設者個人の事業をどう引き継ぐかが中心で、廃止・開設、契約切替、資産譲渡が論点になります。医療法人は法人自体が医院を運営しているため、理事長、役員、社員、出資持分、定款、法人財産の整理が重要です。手続きと税務が異なるため、同じ方法で考えないことが大切です。
Q: スタッフにはいつ承継の話を伝えるべきですか?
基本条件が固まり、雇用条件や引き継ぎ方を説明できる段階で伝えるのが現実的です。早すぎると不安が広がり、遅すぎると不信感につながります。給与、勤務条件、担当業務、後継者の診療方針を整理してから説明すると、退職リスクを抑えやすくなります。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

次に確認すること

歯科医院の設備投資・材料費・月次管理を確認

開業資金、設備投資、材料費率、人件費、法人化、承継を歯科医院の文脈で整理します

  • 歯科医院の経営論点を整理
  • 設備投資・資金繰りを確認
  • 月次管理・税務相談に対応

歯科医院相談

歯科医院 税務・経営相談フォーム

歯科医院の診療報酬、開業資金、設備投資、承継、税務・月次管理を相談する専用フォームです。

受付時間 平日 9:15〜18:15