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歯科医院経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

歯科医院の院長借入金・役員貸付金整理

12分で読めます
歯科医院の院長借入金・役員貸付金整理

歯科医院を法人化した後、貸借対照表に「院長借入金」や「役員貸付金」が残っている場合、まず確認すべきことは「誰が誰にお金を貸しているのか」「返済予定があるのか」「医院の資金繰りに無理がないか」です。院長借入金は、院長個人が医院に資金を入れている状態です。一方、役員貸付金は、医院のお金が院長側へ出ている状態であり、税務調査や金融機関対応で問題になりやすい勘定科目です。

特に歯科医院では、開業時の内装費、医療機器、運転資金、法人化前後の資金移動が複雑になりやすく、いつの間にか貸借対照表に残高が積み上がることがあります。院長借入金と役員貸付金は、利益だけを見ていても整理できない財務項目です。この記事では、法人化後の歯科医院が確認すべき貸借対照表の見方、税務上の注意点、整理の進め方を解説します。

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院長借入金と役員貸付金は何が違うのか

院長借入金とは、医院または医療法人が院長個人からお金を借りている状態です。開業時に院長が個人資金を入れた、法人化時に個人名義の支払いを医院が引き継いだ、資金繰りが苦しい時期に院長が立て替えた、といった場合に発生します。貸借対照表では負債に表示されるため、医院から見ると「返すべきお金」です。

役員貸付金は反対に、医院または医療法人が院長や役員にお金を貸している状態です。生活費の仮払い、個人カード決済の混在、法人通帳からの私的支出、役員報酬以外の資金移動などが原因で発生します。貸借対照表では資産に表示されますが、実際には回収できるかどうかを慎重に見る必要があります。

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項目院長借入金役員貸付金
お金の流れ院長個人から医院へ医院から院長・役員へ
貸借対照表の表示負債資産
主な発生原因開業資金、立替払い、資金繰り補填私的支出、仮払い、返済未定の引き出し
実務上の論点返済時期、債務免除、相続時の扱い認定利息、役員給与認定、金融機関評価
優先度金額と返済計画を確認早めに整理方針を決める

どちらも「院長と医院の間のお金」ですが、意味は大きく異なります。院長借入金を減らす処理と、役員貸付金を減らす処理は、税務上の影響が逆になることがあります。同じ「残高を消したい」という相談でも、安易に相殺や免除を行う前に、勘定科目の性質を確認する必要があります。

ここがポイント
貸借対照表に残高があること自体が直ちに問題というわけではありません。問題になるのは、発生理由が説明できない、返済予定がない、契約書や精算資料がない、院長個人の生活費と医院資金が混在している場合です。

役員貸付金が残ると税務調査や融資で見られやすい

役員貸付金は、歯科医院の財務整理で特に注意したい項目です。医院側では資産に見えていても、実態として回収予定がなければ、金融機関からは「本当に回収できる資産なのか」と見られます。設備投資や分院展開の融資を受けたいときに、貸借対照表上の資産内容として説明を求められることがあります。

税務上も注意が必要です。法人が役員や使用人に金銭を貸し付ける場合、一定の利息相当額を考慮する必要があります。無利息や低利で貸し付けていると、利息相当額との差額が給与として扱われる可能性があります。つまり、役員貸付金は残高だけでなく、利息・返済条件・返済実績まで確認される項目です。

役員貸付金が問題になりやすい例は、次のようなケースです。

  • 院長個人の生活費を法人通帳から引き出している
  • 法人カードで私的な支払いをしている
  • 仮払金の精算が長期間行われていない
  • 返済契約書がなく、毎月の返済実績もない
  • 役員報酬を抑える代わりに貸付金で資金移動している
  • 期末だけ一時的に残高を減らし、翌期にまた増えている

特に、役員報酬とは別に継続的な資金移動がある場合は、税務上「実質的な給与ではないか」と見られることがあります。返済意思がある貸付なのか、実質的な役員報酬なのかを区別できる資料を残すことが重要です。

院長借入金は「返す」「残す」「免除する」を分けて考える

院長借入金は、開業時や法人化直後には珍しくありません。歯科医院では、ユニット、レントゲン、歯科用CT、内装、保証金、広告費、人件費など、開業初期の支出が大きくなります。そのため、院長個人が一時的に資金を入れて、医院の運転を支えることがあります。

ただし、院長借入金が長期間大きく残っている場合は、整理方針を決める必要があります。選択肢は大きく分けると「医院から院長へ返済する」「当面残す」「債務免除を検討する」の3つです。

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整理方法向いているケース注意点
医院から返済する資金繰りに余裕があり、借入の根拠が明確返済後の運転資金不足に注意
当面残す開業初期、設備投資直後、資金繰りを優先したい金額の根拠と将来の返済方針を残す
債務免除する欠損金があり、整理効果を検討できる債務免除益、株主構成、贈与税論点を確認
役員報酬と調整する院長の手取りと医院利益を見直す定期同額給与など役員報酬の税務ルールに注意

院長借入金を免除すると、医院側では債務免除益が発生する可能性があります。欠損金がある場合には相殺できることもありますが、株主構成や医療法人の形態によって影響が変わります。院長借入金は、単に「消せるか」ではなく、消した後の税金と株価・持分への影響まで確認する項目です。

また、院長借入金が大きいまま院長に相続が発生すると、院長個人から見れば「医院に対する貸付金」という財産として扱われる可能性があります。医院側だけでなく、院長個人の相続・承継の観点からも見ておく必要があります。

ここがポイント
院長借入金を整理する際は、法人税だけでなく、院長個人の所得税、相続税、後継者への承継、医療法人の持分の有無も関係します。大きな金額を一度に処理する前に、試算表・決算書・出資関係を合わせて確認することが大切です。

まず確認すべき資料とチェック項目

院長借入金・役員貸付金を整理する前に、いきなり仕訳を修正するのではなく、残高の内訳を確認します。歯科医院では、開業時の支払い、法人化時の資産移転、リース契約、個人名義の借入、法人カード利用などが混ざりやすいためです。

まず確認したい資料は、次のとおりです。

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確認資料見るポイント
直近の貸借対照表院長借入金・役員貸付金・仮払金・未払金の残高
総勘定元帳いつ、どの取引で残高が増減したか
法人通帳院長個人との入出金、摘要、定期的な移動
法人カード明細私的支出や家事関連費の混在
役員報酬の設定資料報酬と生活費のバランス
金銭消費貸借契約書返済条件、利率、返済期限
開業時・法人化時の資料個人資産の引き継ぎ、立替金の根拠
借入返済予定表金融機関返済と院長返済の優先順位

特に重要なのは、残高が「いつから」「なぜ」発生しているかです。古い残高ほど、領収書や契約書が見つからず、説明が難しくなります。期末残高だけを見て判断せず、総勘定元帳で増減の履歴を追うことが実務では欠かせません。

役員貸付金については、残高を院長報酬で相殺すればよいと考えることがありますが、毎月の生活費、税金、社会保険料、医院の資金繰りを踏まえないと、結局また貸付金が増えることがあります。返済額は、医院の利益ではなく、現預金の動きと院長個人の資金繰りまで含めて決める必要があります。

歯科医院の設備投資・材料費・月次管理を確認

整理の進め方は「原因把握、方針決定、月次管理」の順番

院長借入金・役員貸付金の整理は、単発の決算処理ではなく、月次管理の仕組みとして進めると効果的です。特に歯科医院では、保険診療の入金サイト、自費診療の入金タイミング、材料費、技工料、人件費、医療機器返済が重なるため、現金残高だけで判断すると見誤ります。

進め方は次の順番が基本です。

  1. 勘定科目ごとの残高を一覧化する
  2. 総勘定元帳で発生原因を確認する
  3. 院長個人支出と医院経費を分ける
  4. 返済できる金額と期間を試算する
  5. 必要に応じて契約書や返済予定表を作る
  6. 月次決算で残高増減を毎月確認する
  7. 役員報酬、借入返済、設備投資計画と合わせて見直す

ここで大切なのは、過去の残高を整理するだけでなく、今後増やさない仕組みを作ることです。たとえば、法人カードの利用ルールを決める、院長個人の支払いは役員報酬から行う、仮払いは月内に精算する、毎月の試算表で貸付金残高を確認する、といった運用が必要です。

財務整理の目的は、貸借対照表をきれいに見せることではなく、医院のお金と院長個人のお金を分けて、経営判断をしやすくすることです。貸借対照表が整理されると、設備投資、採用、分院、承継、金融機関対応の判断もしやすくなります。

専門家に相談する前に整理しておくこと

税理士や会計担当者に相談する前に、まずは直近の決算書、月次試算表、総勘定元帳、法人通帳、法人カード明細を準備しましょう。残高の理由がわからない場合でも、「どの時期から増え始めたか」「毎月増えているのか」「一時的な支出なのか」を確認するだけで、相談の精度が上がります。

相談時には、次の点を伝えると実務的な検討がしやすくなります。

  • 法人化した時期
  • 院長借入金と役員貸付金の現在残高
  • 開業時に院長個人が負担した金額
  • 院長報酬の月額と個人の生活費
  • 金融機関借入の残高と返済額
  • 今後の設備投資予定
  • 分院、承継、医療法人化、持分整理の予定
  • 院長個人の相続対策を検討しているか

院長借入金や役員貸付金は、決算直前に一度だけ確認するより、月次で早めに把握した方が整理しやすくなります。金額が大きくなるほど、税務・資金繰り・相続の選択肢が狭くなることがあるため、気づいた段階で方針を決めることが大切です。

まとめ

  • 院長借入金は、医院が院長個人から借りている負債であり、返済・据え置き・免除の方針を分けて考える必要があります。
  • 役員貸付金は、医院から院長側へ資金が出ている資産ですが、返済条件や利息がないと税務調査や融資で問題になりやすい項目です。
  • 整理の第一歩は、貸借対照表の残高だけでなく、総勘定元帳で発生原因と増減履歴を確認することです。
  • 歯科医院では、法人化前後の立替、設備投資、院長個人支出が混ざりやすいため、医院資金と個人資金を分ける月次管理が重要です。
  • 金額が大きい場合は、法人税、所得税、相続税、金融機関対応、承継まで含めて検討する必要があります。

よくある質問

Q: 院長借入金は残っていても問題ありませんか?
残っていること自体が直ちに問題とは限りません。ただし、発生理由、金額の根拠、返済方針を説明できる状態にしておく必要があります。金額が大きい場合は、相続や承継時の論点にもつながるため、早めに確認した方が安心です。
Q: 役員貸付金は役員報酬で相殺できますか?
役員報酬から返済原資を作ることはありますが、単純に相殺すればよいとは限りません。役員報酬には定期同額給与などの税務ルールがあり、院長個人の所得税・社会保険料・生活費にも影響します。返済計画と報酬設計を合わせて検討する必要があります。
Q: 役員貸付金に利息を付けないとどうなりますか?
無利息または低い利息で貸し付けている場合、一定の利息相当額との差額が給与として扱われる可能性があります。特に返済実績がない場合は、貸付ではなく役員への経済的利益と見られるリスクがあります。契約書、利率、返済予定、実際の返済履歴を整えておくことが重要です。
Q: 決算前だけ残高を減らせばよいですか?
期末だけ残高を減らしても、翌期に同じ動きが繰り返されると根本的な解決になりません。税務調査や金融機関対応では、期末残高だけでなく、期中の入出金や返済実績も見られることがあります。月次で増減を確認し、医院資金と個人資金を分ける運用を作ることが大切です。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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