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歯科医院経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

歯科医院M&Aで買い手が確認する資料|決算書・患者数・設備・スタッフ

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歯科医院M&Aで買い手が確認する資料|決算書・患者数・設備・スタッフ

歯科医院M&Aで買い手が確認する資料は、決算書だけではありません。保険・自費の売上内訳、患者数、ユニットやCTなどの設備、スタッフ体制、賃貸借契約、レセプトや予約状況まで、医院が引き継げる状態かを判断するための資料が求められます。譲渡を考え始めた院長にとって重要なのは、買い手から資料請求を受けてから慌てて集めるのではなく、事前に医院の収益力・継続性・引継ぎリスクを説明できる形に整えておくことです。

2026年5月時点でも、歯科診療所は地域ごとに競合状況や患者構成が大きく異なります。買い手は「売上があるか」だけでなく、「院長交代後も患者とスタッフが残るか」「設備投資や内装更新の追加負担がどれくらいあるか」を確認します。この記事では、歯科医院M&Aの準備段階で整理しておきたい資料を、買い手の視点から解説します。

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買い手は決算書だけで医院を判断しない

歯科医院M&Aでは、まず決算書や試算表が確認されます。ただし、決算書だけでは医院の実態を十分に把握できません。買い手が知りたいのは、過去の利益ではなく、譲受後にその利益が継続するかです。

特に個人開業の歯科医院では、院長個人の診療力、患者との関係、スタッフの定着、地域での評判が収益に直結します。そのため、決算書上の利益が良くても、院長依存が強く、スタッフや患者が引き継げないと判断されれば、評価は下がることがあります。

一方で、利益が一時的に低く見えていても、材料費・技工料・人件費の管理状況、予約稼働率、自費診療の説明体制、メンテナンス患者の継続率が整理されていれば、改善余地のある医院として評価されることもあります。

ここがポイント
歯科医院M&Aの資料整理では、「高く売るための資料」だけを意識するよりも、「買い手が安心して引き継げると判断できる資料」をそろえることが重要です。

買い手の確認は、一般にデュー・ディリジェンスと呼ばれる調査に近い流れで進みます。中小M&Aでは、財務、税務、法務、労務、事業の各面から確認されるため、口頭説明だけで済ませず、根拠資料を用意することが信頼性を高めます。

まず整理する財務・税務資料

最初に準備すべき資料は、医院の収益と財務状態を示すものです。買い手は、過去の利益水準だけでなく、売上の内訳、費用構造、借入、未払金、役員貸付金や院長借入金の有無を見ます。

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資料買い手が確認する内容事前に整理するポイント
決算書・申告書売上、利益、資産、負債、税務処理直近数期分をそろえ、特殊要因を説明できるようにする
月次試算表直近の業績推移決算後から現在までの売上・利益の変化を見せる
保険・自費の売上内訳収益構造と成長余地保険偏重か、自費比率が高いかを分けて説明する
材料費・技工料原価率と診療内容自費技工、外注先、在庫管理の実態を整理する
借入金明細承継時の負担や担保状況残高、返済条件、保証、リース契約を分ける
固定資産台帳設備の簿価と内容実物、使用状況、更新時期と照合する

決算書で特に見られるのは、売上高そのものよりも利益の再現性です。たとえば、院長退任後に自費売上が大きく減る可能性がある場合、買い手は過去の利益をそのまま評価しにくくなります。

また、個人支出に近い経費、親族給与、院長個人の保険料、車両費、交際費などが混在している場合は、M&A前に正常収益力を説明できる形に整理する必要があります。これは粉飾ではなく、買い手が医院の実力を判断するための調整です。

決算書と実態の差が大きい場合は、早い段階で税理士に確認し、説明できる資料を作ることが重要です。

患者数・診療実績で確認されること

歯科医院M&Aでは、患者数や診療実績の資料が非常に重要です。買い手は「医院の場所を買う」のではなく、「継続して来院する患者基盤を引き継げるか」を見ています。

確認されやすい資料は、次のようなものです。

  • 月別の延べ患者数
  • 新患数、再初診数、メンテナンス患者数
  • 保険診療と自費診療の件数・金額
  • キャンセル率、無断キャンセルの状況
  • 予約台帳、チェア稼働状況
  • レセプト件数、返戻・査定の状況
  • 訪問歯科の有無と訪問先別の件数
  • 主な自費メニューの実績

特に買い手が見るのは、院長個人に強く依存している売上か、医院の仕組みとして継続している売上かです。たとえば、院長のインプラント技術による自費売上が大きい場合、譲受側が同じ診療を提供できるかが論点になります。

一方、メンテナンス患者が安定しており、衛生士による予防管理が仕組み化されている医院は、引継ぎ後の売上が読みやすくなります。買い手にとっては、患者基盤の継続性が価格判断に影響します。

ここがポイント
患者数資料は、個人情報そのものではなく、月別件数、診療区分、年齢層、地域傾向など、匿名化した集計資料として整理するのが基本です。

なお、患者名簿やカルテ情報の取り扱いには慎重な対応が必要です。M&Aの検討段階で無制限に個人情報を開示するのではなく、開示範囲、タイミング、秘密保持契約を整理して進めます。

設備・内装・リース契約で見られるポイント

歯科医院の譲渡では、ユニット、レントゲン、CT、CAD/CAM、滅菌機器、レセコン、予約システムなどの設備が重要な確認対象になります。買い手は設備の有無だけでなく、使用年数、故障リスク、更新費用、保守契約、リース残債を確認します。

設備資料としては、固定資産台帳、リース契約書、保守契約書、購入時の請求書、メーカー保証、修理履歴をそろえておくと説明しやすくなります。特に高額設備については、簿価と実際の市場価値が一致しないことがあるため、決算書だけでは判断できません。

買い手が気にする主な論点は次の通りです。

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項目確認される理由準備する資料
歯科ユニット診療継続と更新費用に影響する台数、年式、保守状況、修理履歴
CT・レントゲン自費診療や診断体制に影響する機種、導入時期、保守契約
レセコン・予約システム業務引継ぎに影響する契約内容、ID管理、データ移行可否
リース契約譲受後の支払負担に影響する残期間、月額、承継可否
内装・看板改装費用と集患に影響する図面、工事履歴、修繕予定

設備が新しいことは評価材料になりますが、必ずしも高額設備が多ければ良いとは限りません。稼働していない設備、医院の診療方針に合わない設備、リース負担が重い設備は、買い手から減額要因として見られることがあります。

リース契約は「設備と一緒に引き継げる」と思い込まず、契約上の承継可否や残債精算を事前に確認することが大切です。

歯科医院の設備投資・材料費・月次管理を確認

スタッフ・雇用関係の資料は早めに整える

歯科医院M&Aでは、スタッフの継続勤務が大きな評価ポイントになります。院長が交代しても、受付、歯科衛生士、歯科助手が残るかどうかで、患者対応や診療オペレーションの安定性が変わるからです。

準備しておきたい労務資料は、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿、就業規則、社会保険加入状況、有給休暇管理表、賞与・退職金のルール、未払残業の有無です。特に、口頭約束で給与や勤務条件を決めている場合、買い手にとってはリスクになります。

スタッフに関して買い手が確認する主な点は、次の通りです。

  • 歯科衛生士の人数と勤務年数
  • 常勤・非常勤の構成
  • 給与水準と賞与の支給実績
  • 社会保険、雇用保険の加入状況
  • 退職予定者の有無
  • 院長交代後の勤務継続意向
  • 未払残業や労務トラブルの有無

スタッフへの説明タイミングも重要です。早すぎる開示は不安や退職につながる一方、遅すぎると信頼を損なうことがあります。M&Aの進行段階、秘密保持、基本合意後の説明範囲を専門家と整理しておく必要があります。

ここで重要なのは、スタッフが残る前提で価格が決まることがあるという点です。買い手がスタッフ継続を前提に評価したにもかかわらず、譲渡直前に主要スタッフが退職すると、条件変更や交渉中断につながる可能性があります。

賃貸借契約・行政手続き・医療機関特有の確認事項

歯科医院M&Aでは、一般企業のM&Aに加えて、医療機関特有の確認があります。診療所の開設、廃止、管理者変更、構造設備、広告、施設基準、保健所への届出など、行政手続きと実務スケジュールを確認しなければなりません。

特にテナント開業の場合、賃貸借契約の承継可否は重要です。買い手が医院を引き継ぎたいと思っても、貸主の承諾が得られない、賃料条件が変わる、原状回復義務が重いといった事情があれば、M&A条件に影響します。

確認される主な資料は次の通りです。

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分野主な資料買い手が確認する内容
物件賃貸借契約書、更新通知、図面契約期間、賃料、保証金、承継可否
行政開設届、変更届、施設基準関係資料診療継続に必要な手続き
保険診療指定通知、届出控え、返戻・査定資料保険診療の継続性と請求管理
医療法人定款、社員名簿、議事録持分、社員構成、意思決定
契約業務委託、保守、清掃、技工所契約解約条件、承継可否、費用負担

個人開業の歯科医院を譲渡する場合、法人株式を売るのとは異なり、事業譲渡に近い整理が必要になることがあります。医療法人の場合も、持分の有無、社員構成、役員変更、定款、行政認可や届出が関係します。

医院名、電話番号、Webサイト、口コミ、予約システム、カルテデータをどこまで引き継げるかも、実務上の重要論点です。これらは財務資料には出ませんが、買い手にとって集患と継続診療に直結します。

資料整理はこの順番で進める

歯科医院M&Aの準備では、すべての資料を一度に完璧にそろえる必要はありません。まずは買い手が初期判断に使う資料を整え、その後、基本合意や詳細調査の段階で追加資料を出せるようにします。

おすすめの順番は次の通りです。

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順番整理する資料目的
1決算書、申告書、月次試算表医院の収益力を把握する
2売上内訳、患者数、予約・レセプト資料継続性と診療構成を説明する
3設備台帳、リース、保守契約引継ぎ後の追加投資を見積もる
4スタッフ資料、労務資料人員体制と労務リスクを確認する
5賃貸借契約、行政届出、施設基準資料承継手続きの実行可能性を確認する
6院長引継ぎ計画、説明資料譲渡後の混乱を減らす

特に大切なのは、資料を単に集めるだけでなく、「なぜこの数字になっているのか」を説明できる状態にすることです。売上が下がった月がある場合は、診療日数、スタッフ退職、設備入替、感染症対応、院長の体調など、合理的な理由を整理します。

また、M&Aの初期段階では資料開示の範囲を限定し、秘密保持契約後に詳細資料を出す流れが一般的です。患者情報、スタッフ情報、取引先情報などは、開示タイミングと匿名化の方法を決めておきます。

歯科医院の譲渡準備では、次の点を押さえておきましょう。

  • 買い手は決算書だけでなく、患者・設備・スタッフ・行政手続きを総合的に確認する
  • 保険売上、自費売上、メンテナンス患者、キャンセル率などを月次で説明できると評価されやすい
  • 設備やリースは、簿価ではなく実際の使用状況と承継可否が重要になる
  • 労務資料や賃貸借契約に不備があると、価格交渉や譲渡スケジュールに影響する
  • 譲渡前の資料整理は、価格交渉だけでなく、買い手との信頼形成にもつながる

よくある質問

Q: 歯科医院M&Aでは何年分の決算書を用意すればよいですか?
一般的には直近数期分の決算書・申告書に加えて、直近月までの試算表を用意します。買い手は過去の利益だけでなく、現在の売上推移や費用構造を確認するため、月次資料も重要です。
Q: 患者名簿やカルテは最初から買い手に見せる必要がありますか?
初期段階から個人情報をそのまま開示する必要はありません。まずは月別患者数、診療区分、年齢層、保険・自費の集計など、匿名化した資料で医院の実態を説明します。詳細な情報開示は、秘密保持契約や交渉段階に応じて慎重に進めます。
Q: 設備が古いと歯科医院M&Aでは不利になりますか?
古い設備があるだけで直ちに不利になるわけではありません。ただし、買い手は譲受後の更新費用を見積もるため、年式、保守状況、故障履歴、リース残債を確認します。設備の状態を隠すより、更新が必要なものを明確にした方が交渉は進めやすくなります。
Q: スタッフにM&Aの話をするタイミングはいつがよいですか?
早すぎる説明は不安を招くことがありますが、遅すぎる説明も信頼低下につながります。基本合意後や条件が固まった段階で、雇用条件、勤務継続、院長交代後の体制を整理して説明するのが一般的です。主要スタッフの継続が価格に影響する場合は、専門家と説明時期を慎重に決める必要があります。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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