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歯科医院経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

歯科医院の月次決算で見るべきKPI

12分で読めます
歯科医院の月次決算で見るべきKPI

歯科医院の月次決算では、売上と利益だけでなく、保険診療、自費診療、キャンセル、人件費、材料費、技工料、チェア稼働などを組み合わせて見ることが重要です。月次の数字を見ても「忙しいのに利益が残らない」「自費が増えたのに資金繰りが楽にならない」という場合、会計数字と医院運営のKPIがつながっていない可能性があります。この記事では、歯科院長が毎月確認すべきKPIと、数字を改善判断につなげる見方を整理します。

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月次決算で見るべき数字は損益だけではない

歯科医院の月次決算で最初に確認するのは、売上、費用、利益です。ただし、損益計算書だけを見ても、医院経営の原因までは見えにくいことがあります。たとえば、売上が前年同月より増えていても、材料費や技工料、人件費、広告費が同時に増えていれば、利益率は下がる可能性があります。

歯科医院では、保険診療と自費診療で単価、入金タイミング、説明時間、キャンセル時の影響が異なります。そのため、月次決算は会計数字と診療データをセットで見ることが欠かせません。会計ソフト上の試算表だけでなく、レセプト、予約台帳、チェア稼働、スタッフ勤務表、未収金、設備投資の返済予定を並べて確認する必要があります。

特に見るべきなのは、次の4つです。

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区分主なKPI見る目的
売上構成保険売上、自費売上、自費率、患者単価収益構造の変化を把握する
稼働状況新患数、再来数、キャンセル率、チェア稼働率売上増減の原因を確認する
費用構造人件費率、材料費率、技工料率、広告費利益が残らない原因を確認する
資金繰り入金予定、支払予定、借入返済、設備投資黒字でも資金が不足しないか確認する

実務上の注意点として、月次決算の数字は「良い・悪い」で終わらせず、前月比、前年同月比、診療日数差、スタッフ人数差を補正して見ることが大切です。祝日や長期休暇の影響を無視すると、実態より悪く見えたり、逆に改善しているように見えたりします。

ここがポイント
月次決算は、税金計算のためだけに作るものではありません。歯科医院では、翌月の予約枠、採用、広告、設備投資、自費カウンセリングの見直しに使って初めて意味があります。

保険診療は患者数・点数・診療日数で分解する

保険診療の売上を見るときは、単に「保険収入が増えたか減ったか」ではなく、患者数、レセプト枚数、1人あたり点数、診療日数に分けて確認します。保険診療は制度上の単価が決まっているため、売上増加の要因は、患者数の増加、算定内容の変化、診療効率の改善に分かれます。

たとえば、保険売上が横ばいでも、診療日数が少ない月に同じ売上を維持していれば、1日あたりの生産性は改善している可能性があります。逆に、診療日数が多いのに売上が伸びていない場合は、キャンセル、空き枠、診療内容、スタッフ配置を確認する必要があります。

保険診療で毎月確認したいKPIは次のとおりです。

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KPI確認すること改善判断の例
保険売上前月・前年同月との比較診療日数差を補正して見る
レセプト枚数来院患者数の変化新患・再来の流れを確認する
1人あたり保険点数診療内容の変化算定漏れや診療構成を確認する
1日あたり保険売上稼働効率予約枠・チェア稼働を見直す
返戻・査定請求精度レセプトチェック体制を確認する

保険売上は診療日数で割って見ると、月ごとのブレを整理しやすくなります。売上総額だけで比較すると、休診日や連休の影響で判断を誤ることがあります。

また、歯科診療報酬は改定や施設基準の影響を受けるため、算定要件や届出状況も月次で確認したい項目です。現行制度で算定できるものを正しく算定できているか、スタッフに共有できているかは、会計上の売上だけでは見えません。

自費診療は売上よりも受注率と入金を確認する

自費診療は、歯科医院の利益改善に大きく影響します。ただし、自費売上が増えたからといって、すぐに経営が安定するとは限りません。説明時間、材料費、技工料、分割入金、キャンセル、返金リスクを含めて確認する必要があります。

自費診療で見るべきKPIは、売上金額だけではありません。自費率・相談件数・成約率・入金予定を分けて見ることで、どこに改善余地があるかが見えます。

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KPI意味見るポイント
自費売上自費診療の月間売上大型案件に偏っていないか
自費率総売上に占める自費の割合保険売上とのバランス
カウンセリング件数自費提案の機会数説明の仕組みがあるか
成約率提案から契約への割合価格表・説明資料・同意書の整備
入金予定売上計上と資金回収未収金・分割払いの管理

実務上の注意点として、自費診療は会計上の売上計上時期と、実際の入金時期がずれることがあります。高額な矯正、インプラント、補綴などでは、契約、着手、材料発注、技工、治療完了、入金のタイミングを整理しておかないと、利益と資金繰りの見え方がずれます。

また、自由診療を広告やWebサイトで案内する場合は、治療内容、標準的な費用、期間、回数、リスク、副作用などの表示にも注意が必要です。売上管理だけでなく、説明資料や同意書、Web上の表示も医院経営の管理対象に含めておくと安心です。

ここがポイント
自費診療の改善は「値上げ」だけではありません。説明の標準化、見積書の出し方、カウンセリング時間、支払方法、キャンセル時のルールを整えることで、売上とトラブル防止の両方につながります。

キャンセル率は売上低下の早期警戒サインになる

歯科医院の月次管理で見落とされやすいのがキャンセル率です。キャンセルは単なる予約変更ではなく、チェア、スタッフ、院長の時間が空いてしまうため、売上と人件費率に直接影響します。特に、衛生士枠や自費カウンセリング枠のキャンセルが増えると、月次の利益に大きく響きます。

キャンセル率を見るときは、全体の件数だけでなく、時間帯、曜日、担当者、診療内容、初診・再診別に分けると原因が見えやすくなります。たとえば、夕方だけキャンセルが多いのか、メンテナンス枠に偏っているのか、自費相談前に離脱しているのかで、対策は異なります。

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見る項目確認する内容対策例
全体キャンセル率予約全体に対するキャンセル割合リマインド方法を見直す
無断キャンセル数連絡なしの欠席予約時説明・再予約ルールを整える
衛生士枠の空きメンテナンス枠の稼働次回予約の取り方を確認する
自費相談の離脱相談前後のキャンセル事前説明・資料送付を見直す
当日変更率当日の予約変更予備枠・キャンセル待ち運用を作る

キャンセル率は売上の先行指標です。売上が下がってから気づくのではなく、予約の空きや変更が増えた時点で確認すれば、早めに対策できます。

実務上の注意点として、キャンセル対策を強める場合でも、患者への説明が一方的にならないよう注意が必要です。治療計画、予約枠の意味、無断キャンセル時の影響を丁寧に伝え、医院側の都合だけに見えない運用にすることが大切です。

歯科医院の設備投資・材料費・月次管理を確認

人件費率は人数ではなく役割と稼働で判断する

歯科医院では、人件費が大きな固定費になります。人件費率が高いからといって、すぐに人員削減を考えるのは危険です。受付、歯科助手、歯科衛生士、歯科技工関連、事務作業の役割が整理されていないと、院長の診療時間が圧迫され、結果として売上機会を失うこともあります。

人件費率は、給与、賞与、法定福利費、採用費、教育費を含めて確認します。月によって賞与や社会保険料の影響が出るため、単月だけで判断せず、3か月から6か月程度の推移で見ると実態をつかみやすくなります。

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KPI見る目的判断のポイント
人件費率売上に対する人件費の割合単月ではなく推移で見る
1人あたり売上人員配置の効率常勤・非常勤を分けて見る
衛生士稼働率予防・メンテナンス枠の活用空き枠とキャンセルを確認する
残業時間業務量と配置受付・会計・片付けの偏りを見る
院長診療時間院長依存度任せられる業務を整理する

人件費率を見るときは、売上に貢献する時間と事務作業に使う時間を分けることが重要です。スタッフが忙しく見えても、紙資料の整理、会計入力、請求確認、電話対応に追われている場合、診療効率が上がっていない可能性があります。

また、採用難の環境では、人件費を下げるよりも、スタッフが定着し、診療効率を高める仕組みを作るほうが現実的です。月次決算では、人件費率だけでなく、キャンセル、チェア稼働、自費成約、残業時間を一緒に確認しましょう。

月次レポートに入れるべきチェック項目

月次決算を医院経営に使うには、毎月同じ形式でレポート化することが大切です。数字の並びが毎月変わると、院長が変化に気づきにくくなります。会計事務所や経理担当者から試算表だけを受け取っている場合は、医院経営用のKPI表を追加すると判断しやすくなります。

歯科医院の月次レポートには、次の項目を入れると実務で使いやすくなります。

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チェック項目毎月確認する資料見るべき変化
売上構成試算表、レセプト、自費台帳保険・自費の比率
患者動向予約表、レセプト枚数新患・再来・離脱
キャンセル予約管理表曜日・時間帯・診療内容別の偏り
費用試算表、請求書材料費・技工料・広告費の増減
人件費給与台帳、勤怠表人件費率・残業・配置
資金繰り通帳、借入返済表入金予定・支払予定・納税資金

月次レポートでは、数字を並べるだけでなく、「なぜ変わったか」「次に何を確認するか」を1行で記録するのがおすすめです。たとえば、「自費売上が増えたが技工料も増加」「新患は増えたが再来予約が弱い」「人件費率上昇は賞与月のため一時的」など、理由を残すことで翌月の判断に使えます。

実務上の注意点として、月次決算の締めが遅いと経営判断に使えません。翌月下旬になって前月の数字を見る状態では、予約、広告、採用、資金繰りの対策が後手になります。まずは、必要資料の提出日、会計入力日、月次報告日を固定することが出発点です。

よくある質問

Q: 歯科医院の月次決算は毎月どこまで細かく見るべきですか?
最低限、保険売上、自費売上、人件費、材料費、技工料、キャンセル、資金繰りは毎月確認したい項目です。最初から細かく作り込みすぎると続かないため、まずは院長が意思決定に使う数字に絞るのが現実的です。
Q: 自費率が低い場合はすぐに自費診療を増やすべきですか?
自費率だけで判断するのは危険です。患者層、説明体制、治療メニュー、技工料、入金条件を確認し、利益と資金繰りに合う形で増やす必要があります。自費を増やす前に、説明資料や同意書、費用表示も確認しましょう。
Q: 人件費率が高い月は問題がありますか?
賞与、採用、退職、社会保険料、診療日数の影響で一時的に高くなることがあります。単月だけで判断せず、売上、人員数、残業時間、チェア稼働率と合わせて見ることが大切です。
Q: 月次決算を税理士に相談する前に何を準備すべきですか?
試算表だけでなく、レセプト枚数、自費台帳、予約表、キャンセル一覧、給与台帳、借入返済予定表を準備すると相談が具体的になります。会計数字と診療データを一緒に見ることで、改善すべき優先順位を整理しやすくなります。

まとめ

  • 歯科医院の月次決算は、売上と利益だけでなく、保険・自費・キャンセル・人件費を組み合わせて見ることが重要です。
  • 保険診療は、売上総額ではなく、診療日数、レセプト枚数、1人あたり点数で分解すると原因が見えます。
  • 自費診療は、売上だけでなく、相談件数、成約率、入金予定、材料費・技工料まで確認する必要があります。
  • キャンセル率は売上低下の早期警戒サインであり、曜日、時間帯、診療内容別に見ると改善策を考えやすくなります。
  • 人件費率は削減のためだけに見るのではなく、スタッフ配置、稼働率、院長の診療時間を改善するために使う指標です。

参照ソース


この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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