
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
歯科医院の利益率改善と月次管理

歯科医院の利益率を改善するには、売上を増やす施策だけでなく、材料費・技工料・人件費を毎月同じ基準で確認することが重要です。特に、保険診療と自費診療が混在する歯科医院では、月次試算表の利益だけを見ても、どの診療やどの費用が利益を圧迫しているのか分かりにくいことがあります。まずは材料費・技工料・人件費を売上比率で見るところから始め、単月の増減ではなく、3か月から6か月の傾向で判断することが現実的です。
歯科医院経営・税務の個別相談
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自費率、人件費、設備投資、月次損益、資金繰りを、医院の数字に合わせて整理します。
歯科医院の利益率は「売上不足」だけで下がるわけではない
利益率が下がると、最初に「患者数を増やさなければ」「自費診療を伸ばさなければ」と考えがちです。もちろん売上改善は重要ですが、歯科医院では売上が増えているのに手元に利益が残らないケースも少なくありません。
たとえば、補綴や自費診療が増えると、同時に技工料や材料費も増えます。スタッフを増員した直後は予約枠を広げられる一方で、人件費が先行して利益を圧迫することがあります。設備投資後は減価償却費、リース料、保守料も増えます。
そのため、利益率を見るときは、単に「売上が増えたか」ではなく、売上の増加に対して費用がどの程度増えたかを確認する必要があります。実務上の注意点として、月次試算表の利益額だけを見ると、材料のまとめ買い、賞与、保険料の年払いなど一時的な支出に影響されやすいため、費用の性質ごとに分けて見ることが大切です。
月次で見るべき主要指標
歯科医院の利益率を改善するために、最初から細かい経営指標を増やしすぎる必要はありません。まずは、毎月同じ形式で次の項目を確認します。
| 確認項目 | 見るべき数字 | 主な確認ポイント |
|---|---|---|
| 医業収入 | 保険収入・自費収入・物販等 | 売上総額だけでなく診療構成が変わっていないか |
| 材料費 | 材料費 ÷ 医業収入 | まとめ買い、価格改定、廃棄、在庫過多がないか |
| 技工料 | 技工料 ÷ 医業収入 | 補綴・自費の増加に対して採算が合っているか |
| 人件費 | 給与・賞与・法定福利費 ÷ 医業収入 | 予約枠、稼働率、残業、採用後の売上貢献を確認 |
| 固定費 | 家賃・リース料・広告費・保守料など | 売上に関係なく毎月出る費用が重くなっていないか |
| 営業利益 | 医業収入 − 医業費用 | 院長報酬、借入返済、納税を考慮できる水準か |
この表で大切なのは、金額だけでなく比率を見ることです。材料費が前月より増えていても、売上が大きく伸びていれば問題とは限りません。逆に、売上が横ばいなのに材料費や技工料の比率が上がっている場合は、利益率低下の原因になっている可能性があります。
月次管理の基本は、金額・売上比率・前年差または前月差の3点を並べることです。数字を1つだけ見るのではなく、複数の角度から確認することで、判断ミスを減らせます。
材料費は「購入額」ではなく「使用量」と「在庫」で見る
材料費は、歯科医院の利益率に影響しやすい費用です。ただし、会計上の材料費は購入したタイミングで計上されることが多く、実際にその月に使用した量と一致しない場合があります。
たとえば、キャンペーンや価格改定前に材料をまとめて購入すると、その月だけ材料費が大きく増えます。この場合、単月で「材料費率が高い」と判断すると誤解が生じます。一方で、毎月のように材料費率が高止まりしている場合は、仕入価格、発注ルール、在庫管理、廃棄ロスを確認する必要があります。
材料費を見る際は、次の順番で確認すると整理しやすくなります。
- 材料費を医業収入で割り、月次の材料費率を出す
- 保険診療と自費診療の構成変化を確認する
- 月末在庫や未使用材料が増えていないか確認する
- 発注担当者、発注頻度、承認ルールを確認する
- 値上げされた材料や代替可能な材料を把握する
特に、院長が診療で忙しく、材料発注を現場任せにしている場合、似た用途の材料が重複していたり、少量高単価の発注が続いていたりすることがあります。実務上の注意点として、材料費の削減だけを優先すると診療品質やスタッフの作業効率を落とすおそれがあるため、単純な節約ではなく、使用ルールと在庫ルールの見直しとして進めることが大切です。
技工料は診療別の採算で確認する
技工料は、補綴や自費診療の売上と連動しやすい費用です。そのため、技工料が増えていること自体が問題とは限りません。問題は、技工料を差し引いた後に十分な粗利益が残っているかどうかです。
たとえば、自費補綴の売上が増えていても、技工料、材料費、チェアタイム、再製作、調整回数が多い場合、見た目の売上ほど利益が残らないことがあります。保険診療でも、補綴物の割合が高い月は技工料率が上がることがあります。
技工料を確認する際は、診療メニュー別に売上と技工料を並べることが有効です。
| 診療区分 | 確認する数字 | 改善の視点 |
|---|---|---|
| 保険補綴 | 保険補綴売上、技工料、再製作件数 | 調整回数や再製作の原因を確認する |
| 自費補綴 | 自費売上、技工料、材料費、チェアタイム | 価格設定と説明プロセスを見直す |
| インプラント関連 | 売上、外注費、部材費、保証対応 | 症例別の採算を確認する |
| 矯正関連 | 入金時期、外注費、管理料 | 期間損益と資金繰りを分けて見る |
技工料は売上比率だけでなく、診療メニュー別の粗利益で見ることが重要です。特に自費診療は、価格を決めた時期から材料費や外注費が上がっている場合があります。以前の価格表を使い続けている医院では、実際の原価を反映できていないことがあります。
人件費は「高いか」ではなく「稼働と役割」で見る
歯科医院では、歯科衛生士、歯科助手、受付、事務、勤務歯科医師など、複数の職種が連携して診療を支えています。そのため、人件費を単純に削る発想は危険です。人員不足で予約枠が埋められなくなったり、メンテナンス枠が減ったりすれば、売上機会を失う可能性があります。
人件費を見るときは、給与総額だけでなく、次のような稼働指標と合わせて確認します。
| 指標 | 確認する意味 |
|---|---|
| 人件費率 | 売上に対して人件費が重くなっていないか |
| 1人あたり売上 | 人員増加に対して売上が伸びているか |
| 予約枠稼働率 | スタッフがいても予約枠が空いていないか |
| キャンセル率 | 人員配置に対して実際の診療が埋まっているか |
| 残業時間 | 業務の偏りや受付・会計業務の滞留がないか |
| 衛生士枠の稼働 | 予防・メンテナンス収益が安定しているか |
人件費率が高い場合でも、採用直後、教育期間中、診療時間拡大の準備中であれば、一時的な上昇として説明できることがあります。反対に、人件費率が低くても、院長や一部スタッフに業務が集中し、離職リスクが高まっている場合は、経営上の問題が隠れている可能性があります。
人件費は削減対象ではなく、予約枠と診療体制を生む投資として見ます。ただし、採用後に売上や稼働率を確認していない場合は、固定費だけが増えて利益率を下げる原因になります。実務上の注意点として、賞与や社会保険料、退職金制度、外部委託費も含めた実質的な人件費を確認することが必要です。
月次会計で利益率改善につなげる手順
利益率改善は、思いついた施策を個別に実行するよりも、月次会計を使って順番に進める方が効果的です。歯科医院では、診療の現場感覚と会計数字がずれていることがあるため、毎月の確認会議を短時間でも設けると改善が続きやすくなります。
おすすめの流れは次のとおりです。
- 月次試算表を翌月の早い時期に確認できる状態にする
- 保険収入、自費収入、その他収入を分けて見る
- 材料費率、技工料率、人件費率を毎月同じ表で確認する
- 前月差ではなく、3か月移動平均で傾向を見る
- 原因が分かる費用と分からない費用を分ける
- 翌月に試す改善策を1つから2つに絞る
- 改善策の結果を翌月の数字で確認する
ここで重要なのは、毎月すべてを改善しようとしないことです。材料費、技工料、人件費、広告費、キャンセル率、予約枠などを一度に見直すと、現場が混乱します。まずは利益率への影響が大きい費用から順番に確認します。
たとえば、技工料率が上がっている月は、補綴や自費診療の件数、再製作、値引き、価格設定を確認します。人件費率が上がっている月は、採用時期、シフト、予約枠、キャンセル、残業を確認します。材料費率が上がっている月は、まとめ買いか、価格上昇か、在庫過多かを切り分けます。
院長が相談前に整理しておきたい資料
利益率改善について専門家に相談する前に、次の資料を整理しておくと、原因分析が進みやすくなります。
| 資料 | 確認できること |
|---|---|
| 直近12か月の月次試算表 | 売上・費用・利益率の推移 |
| 保険収入と自費収入の月次一覧 | 診療構成の変化 |
| 材料費・技工料の月次推移 | 変動費の増減要因 |
| 給与台帳・シフト表 | 人件費と稼働状況 |
| 技工所別の請求一覧 | 外注先別、診療別の負担 |
| 自費診療の価格表 | 原価上昇を価格に反映できているか |
| 借入返済予定表・リース契約 | 利益と資金繰りの差 |
会計上は利益が出ていても、借入返済や納税、設備投資が重なると資金繰りが苦しくなることがあります。利益率改善では、損益だけでなくキャッシュの動きも確認する必要があります。月次利益と手元資金は別物であり、返済や税金まで含めて見ないと、経営判断を誤ることがあります。
よくある質問
Q: 歯科医院の利益率は何%なら安心ですか?
Q: 材料費や技工料は毎月どこまで細かく分けるべきですか?
Q: 人件費率が高い場合、すぐに採用を止めるべきですか?
Q: 月次試算表はいつまでに確認できればよいですか?
まとめ
- 歯科医院の利益率改善では、売上だけでなく材料費・技工料・人件費を月次で確認することが重要です。
- 材料費は購入額だけでなく、使用量、在庫、発注ルールを合わせて見ます。
- 技工料は売上比率だけでなく、診療メニュー別の粗利益で確認します。
- 人件費は削減対象としてだけでなく、予約枠や診療体制を生む投資として判断します。
- 月次試算表を早期に確認し、3か月から6か月の傾向で改善策を決めると、現場に無理のない収益改善につながります。
参照ソース
- 厚生労働省 医療経済実態調査: https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryoukikan.html
- 厚生労働省 第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告: https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/24_houkoku_iryoukikan.pdf
- 日本歯科医師会 歯科医療経済の分析: https://www.jda.or.jp/dental_data/pdf/chapter_03.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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