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補助金・助成金ブログ
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・補助金活用コンサルタント

賃上げ要件の補助金で見るべき数字

12分で読めます
賃上げ要件の補助金で見るべき数字

賃上げ要件のある補助金を検討するときは、補助率や補助上限額だけで判断せず、先に「給与をいくら増やせるか」「最低賃金をどこまで上げる必要があるか」「人件費率がどこまで上がるか」を確認することが重要です。特に、給与支給総額や事業場内最低賃金は、申請時の計画だけでなく、採択後の報告や未達時の返還リスクにも関係します。この記事では、賃上げ要件つき補助金を検討する経営者向けに、2026年5月時点で申請前に見るべき数字を整理します。

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賃上げ要件は補助金をもらうための形式条件ではない

賃上げ要件は、単に「従業員の給与を少し上げればよい」という条件ではありません。多くの補助金では、設備投資やIT導入によって生産性を高め、その成果を賃金にも反映することが求められます。

たとえば、補助金によっては、事業計画期間中に1人当たり給与支給総額を一定率以上引き上げること、事業場内最低賃金を地域別最低賃金より一定額以上高い水準にすること、賃上げ計画を従業員へ表明することなどが要件になります。制度によっては、賃上げ目標の未達が補助金の返還や補助上限の差額返還につながる場合もあります。

そのため、最初に見るべきなのは「補助金でいくらもらえるか」ではなく、賃上げ後も資金繰りが回るかです。補助金は原則として後払いであり、賃上げは毎月の固定費として先に発生します。補助金の入金時期と給与支払いのタイミングを分けて考えなければ、採択されても資金繰りが苦しくなることがあります。

ここがポイント
賃上げ要件の内容は、補助金の種類、申請枠、公募回、補助金額、特例の利用有無によって変わります。申請時には、必ず最新の公募要領、交付規程、様式、FAQで確認してください。

最初に確認するべき3つの数字

賃上げ要件つき補助金で特に重要なのは、「給与支給総額」「事業場内最低賃金」「人件費率」の3つです。この3つを見ずに申請すると、要件達成の可否や採択後の負担を読み違えます。

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見るべき数字何を確認するか経営上の意味
給与支給総額役員報酬、給与、賞与、手当などを含めた年間の支給額会社全体でどれだけ賃金原資を増やす必要があるか
1人当たり給与支給総額給与支給総額を従業員数などで割った水準人数増減の影響を受けた賃上げ達成状況を確認する
事業場内最低賃金事業場で最も低い時間給換算の賃金パート、アルバイト、短時間勤務者を含めた下限管理に関係する
人件費率売上や粗利に対する人件費の割合賃上げ後も利益が残るか、価格改定が必要かを判断する
月次資金繰り給与増加分と社会保険料負担を含めた毎月の支出補助金入金前の資金不足を防ぐ

給与支給総額を見るときは、給与だけでなく、賞与、各種手当、役員報酬を含めるかどうかを制度ごとに確認します。補助金によって定義が異なるため、会計ソフトの人件費科目をそのまま使えばよいとは限りません。

実務上の注意点として、従業員数が増えたことで給与総額が増えただけなのか、既存従業員の賃金水準が上がったのかは分けて見ます。採用予定がある会社では、1人当たり給与支給総額や最低賃金の要件も合わせて確認しないと、計画と実績がずれることがあります。

給与支給総額は「年間でいくら増えるか」まで見る

給与支給総額は、賃上げ要件でよく使われる指標です。会社全体で支給する給与等の総額を増やす要件であり、制度によっては年平均成長率や計画期間全体での増加率が求められます。

ここで大切なのは、増加率だけでなく、実額でいくら増えるかを把握することです。たとえば、年間給与支給総額が6,000万円の会社で3%の増加が必要なら、年間で約180万円、月平均で約15万円の給与原資が必要になります。さらに、会社負担の社会保険料や労働保険料も増えるため、実際の資金負担は給与増加額だけでは終わりません。

給与支給総額の増加額は、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

  1. 直近決算または直近12か月の給与支給総額を確認する
  2. 補助金の要件に合わせて、対象に含める給与・賞与・手当を整理する
  3. 必要な増加率を掛けて、年間の追加給与額を出す
  4. 社会保険料などの会社負担分を概算する
  5. 月次資金繰り表に反映する

特に賞与で調整しようとする場合は注意が必要です。賞与は業績に応じて変動させやすい一方で、支給時期が限られます。制度上、どの期間の実績で判定されるかによっては、計画どおりに反映できないことがあります。賞与で賃上げ要件を満たす設計は、判定期間と支給日を必ず確認する必要があります。

事業場内最低賃金は時給換算で確認する

事業場内最低賃金は、事業場で働く従業員のうち、最も低い賃金を時間給に換算したものです。月給者だけの会社でも、月給を所定労働時間で割って時給換算する必要があります。

補助金では、事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円、50円など一定額以上高い水準にすることが求められる場合があります。業務改善助成金のように、事業場内最低賃金の引上げと設備投資等を組み合わせる制度もあります。

最低賃金を見るときは、次のような人を見落としやすいです。

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対象者確認すべき点
パート・アルバイト時給が地域別最低賃金を上回っているか
短時間勤務者時間給換算で事業場内最低賃金になっていないか
月給者月給を所定労働時間で割った金額が要件を満たすか
試用期間中の従業員試用期間の賃金が最低水準になっていないか
複数拠点の従業員どの事業場が補助事業の実施場所か

事業場内最低賃金は、会社全体ではなく、事業場単位で確認が必要になることがあります。本社、店舗、工場、営業所が分かれている会社では、補助事業を実施する場所で働く従業員の賃金台帳を確認してください。

実務上の注意点として、地域別最低賃金は毎年見直されます。申請時に要件を満たしていても、計画期間中に地域別最低賃金が上がると、必要な事業場内最低賃金も上がる可能性があります。採択後も、最低賃金改定の時期に合わせて賃金表を見直す運用が必要です。

人件費率で「賃上げ後の利益」を確認する

賃上げ要件を満たせるかどうかは、給与を上げる意思だけでは決まりません。賃上げ後も利益が残るか、価格改定や業務改善で原資を作れるかが重要です。

人件費率は、売上高や粗利に対する人件費の割合です。業種によって適正水準は異なりますが、補助金申請前には少なくとも「賃上げ前」「賃上げ後」「設備投資後」の3パターンで試算しておくと判断しやすくなります。

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試算パターン確認すること
賃上げ前現在の売上、粗利、人件費率、営業利益
賃上げ後給与増加分と社会保険料増加分を反映した利益
設備投資後生産性向上、残業削減、売上増加を反映した利益
補助金入金前設備代金と賃上げを先に負担できるか
補助金入金後借入返済や運転資金の残高が足りるか

人件費率がすでに高い会社では、補助金を使って設備投資をしても、賃上げ分を吸収できないことがあります。その場合は、単に申請するかどうかではなく、価格改定、業務フローの見直し、不採算業務の整理、残業削減まで含めて考える必要があります。

人件費率の上昇は、採択後にじわじわ効いてくる論点です。補助金は一時的な入金ですが、賃上げは継続的な固定費です。補助金額だけを見て申請すると、翌期以降の利益が圧迫されることがあります。

申請前に対象・期限・自己負担を整理

申請前に整理しておきたい資料

賃上げ要件を確認するには、感覚ではなく資料ベースで判断することが必要です。申請前に次の資料をそろえると、要件の可否と資金負担を確認しやすくなります。

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資料使い道
賃金台帳従業員ごとの給与、手当、支給額を確認する
労働者名簿対象従業員、雇用形態、事業場を確認する
雇用契約書・労働条件通知書所定労働時間、時給、月給、手当の条件を確認する
就業規則・賃金規程昇給、賞与、手当のルールを確認する
直近決算書・試算表人件費率、利益、資金繰りを確認する
資金繰り表補助金入金前の自己負担を確認する
設備投資の見積書投資額と補助対象経費を確認する
ここがポイント
賃上げ要件の判定では、会計上の人件費と、補助金制度上の給与支給総額が一致しないことがあります。申請前に、制度上の定義に合わせて集計し直すことが大切です。

専門家に相談する前に整理することは、現在の給与総額、最低賃金に近い従業員、賃上げ予定額、補助金の対象にしたい設備投資、入金までの資金繰りです。この5点が整理できていると、申請可能性やリスクを具体的に確認しやすくなります。

賃上げ要件で失敗しやすいケース

賃上げ要件で失敗しやすいのは、要件そのものを誤解しているケースです。たとえば「最低賃金を超えているから大丈夫」と考えていても、補助金では地域別最低賃金より一定額以上高い事業場内最低賃金が求められることがあります。

また、給与支給総額を増やす計画を立てても、退職者が出た場合や採用時期がずれた場合、計画どおりに数字が動かないことがあります。従業員数が変動しやすい会社では、給与総額だけでなく、1人当たり給与支給総額も見ておく必要があります。

もう一つ多いのが、賃上げの原資を補助金でまかなえると考えてしまうことです。補助金は設備投資やIT導入などの経費を補助する制度であり、賃上げそのものの原資を継続的に補填してくれるものではありません。補助金は一時収入、賃上げは継続費用という前提で判断することが重要です。

まとめ

賃上げ要件のある補助金を検討するときは、次の点を確認してから申請判断を進めましょう。

  • 給与支給総額は、増加率だけでなく年間・月間の実額で確認する
  • 事業場内最低賃金は、パート、短時間勤務者、月給者を時給換算して見る
  • 人件費率は、賃上げ後も利益と資金繰りが残るかを確認する
  • 補助金は後払いが多いため、入金前の自己負担と給与増加分を分けて試算する
  • 制度ごとの定義、判定期間、未達時の扱いは最新の公募要領で確認する

賃上げ要件は、採択のためだけでなく、採択後の経営計画にも直結します。申請前に給与・最低賃金・人件費率を整理しておくことで、補助金を使うべきか、どの制度を選ぶべきか、どの程度の投資額に抑えるべきかを判断しやすくなります。

よくある質問

最低賃金を超えていれば賃上げ要件は満たせますか?

最低賃金を超えているだけでは不十分な場合があります。補助金によっては、事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円、50円など一定額以上高い水準にすることが求められます。申請前に、制度ごとの基準額と判定時期を確認してください。

給与支給総額は役員報酬や賞与も含めますか?

制度によって扱いが異なります。給与、賞与、手当、役員報酬などを含める場合がありますが、補助金ごとの公募要領や様式で定義を確認する必要があります。会計ソフトの人件費合計をそのまま使うのではなく、制度上の集計方法に合わせることが大切です。

賃上げ要件を達成できないと必ず返還になりますか?

必ず返還になるとは限りませんが、制度や申請枠によっては、未達時に補助金の一部返還や補助上限差額の返還が必要になる場合があります。加点要件なのか、必須要件なのか、特例による上限引上げ要件なのかで扱いが変わります。申請時点で未達時のルールまで確認してください。

補助金申請前に社内で何を準備すればよいですか?

賃金台帳、労働者名簿、雇用契約書、就業規則、直近決算書、試算表、資金繰り表を準備すると確認が進めやすくなります。特に、最低賃金に近い従業員と、賃上げ後の月次資金繰りは早めに整理してください。資料が不足している場合は、申請作業より先に給与情報の整備が必要です。


参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・補助金活用コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

補助金活用コンサルタント資金計画支援会計・税務処理設備投資支援

税理士法人 辻総合会計の代表。公認会計士・税理士として、補助金・助成金の申請前確認、資金計画、採択後の会計・税務処理を支援している。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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