
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
薬局経営の資金繰り表の作り方

薬局経営の資金繰り表は、単に通帳残高を月別に並べるだけでは不十分です。調剤薬局では、患者窓口収入、レセプト入金、医薬品仕入の支払い、在庫増減、薬価改定の影響がずれて発生するため、利益が出ていても資金が不足することがあります。特に薬局オーナーは、薬価差益と入金サイトを分けて整理し、月次で「いつ入金され、いつ支払うか」を見える化することが重要です。
資金繰り表を作る目的は、将来の現預金残高を予測し、借入、仕入条件、在庫圧縮、役員報酬、設備投資の判断を早めることです。この記事では、薬局経営に合わせた資金繰り表の作り方、見るべき項目、薬価差益をどう反映するか、専門家に相談する前に整理すべき資料を解説します。
薬局経営・収益改善の個別相談
この記事の内容を、薬局の収支改善と月次管理に落とし込む相談をする
処方箋枚数、技術料、在庫、人件費、資金繰りを、月次数字で整理します。
薬局経営で資金繰り表が必要になる理由
薬局経営では、損益計算書上の利益と、実際の手元資金が一致しにくい構造があります。主な理由は、保険請求による入金のタイムラグと、医薬品仕入の支払タイミングがずれるためです。
患者負担分は比較的早く現金化されますが、保険者負担分はレセプト請求後に審査・支払の流れを経て入金されます。一方で、医薬品の仕入代金、家賃、人件費、リース料、借入返済は毎月発生します。売上が伸びている薬局ほど、仕入と在庫が先行し、資金が先に出ていく場合があります。
**資金繰り表で確認すべきことは、利益ではなく現金の増減です。**月次試算表で黒字でも、仕入支払、借入返済、賞与、納税が重なれば資金ショートのリスクがあります。
実務上の注意点として、資金繰り表を作るときは、発生主義の売上・仕入ではなく、入金日・支払日ベースで記入します。月次損益の数字をそのまま転記すると、現預金の予測とずれやすくなります。
資金繰り表に入れるべき基本項目
薬局向けの資金繰り表は、最低でも「前月繰越」「入金」「支出」「財務収支」「翌月繰越」の5区分で作ります。まずは複雑な管理表ではなく、月別に12か月先まで見られる形にするのが現実的です。
| 区分 | 主な項目 | 薬局経営での確認ポイント |
|---|---|---|
| 前月繰越 | 前月末現預金残高 | 通帳残高、未記帳の引落し、現金残を確認 |
| 営業入金 | 窓口収入、レセプト入金、その他収入 | 患者負担分と保険請求分を分ける |
| 営業支出 | 医薬品仕入、人件費、家賃、外注費、通信費 | 仕入支払と固定費を分ける |
| 財務収支 | 借入入金、借入返済、リース支払 | 元金返済は損益に出ないため別管理 |
| 税金・臨時支出 | 法人税、消費税、賞与、設備投資 | 支払月に資金不足が起きやすい |
| 翌月繰越 | 月末予測残高 | 最低必要資金を下回らないか確認 |
薬局では、特に医薬品仕入の支払予定を別行で管理することが重要です。仕入額が大きく、支払条件によって資金繰りへの影響が大きいためです。
たとえば、売上が増えた月は一見良い状態に見えますが、翌月以降に仕入支払が増えます。新規処方元の増加、施設在宅の開始、門前医療機関の処方増などがある場合は、売上増よりも先に仕入・在庫の増加を見込む必要があります。
薬価差益を資金繰り表にどう反映するか
薬価差益とは、保険請求上の薬価と、実際の仕入価格との差から生じる利益です。ただし、薬価差益は「利益率」には影響しますが、資金繰り表では入金と支払のタイミングに分けて考える必要があります。
資金繰り表では、薬価差益を単独の入金項目にするのではなく、次のように整理します。
| 見る項目 | 損益上の意味 | 資金繰り表での扱い |
|---|---|---|
| 薬剤料売上 | レセプト請求・窓口収入に含まれる売上 | 入金予定月に反映 |
| 医薬品仕入 | 売上原価の中心 | 支払予定月に反映 |
| 薬価差益 | 薬剤料売上と仕入原価の差 | 入金と支払の差額として結果的に残る |
| 在庫増加 | まだ売上になっていない薬品 | 資金が在庫に固定される |
| 薬価改定 | 請求単価や在庫評価に影響 | 改定前後の粗利・在庫を別途確認 |
薬価差益は資金繰り改善の源泉ではありますが、入金サイトと在庫増加を無視すると、手元資金は増えません。たとえば、薬価差益が出ていても、過剰在庫を抱えていれば、その分だけ資金は棚卸資産に固定されます。
実務上の注意点として、薬価改定前後は、在庫金額、仕入単価、売上単価、返品可否を分けて確認します。改定前に多く仕入れた医薬品が、改定後に想定より利益を生まない場合もあります。
また、値引き率やリベート条件だけで仕入先を判断すると、支払サイトが短くなり資金繰りが悪化することがあります。粗利率と支払条件はセットで見る必要があります。
入金サイトと支払サイトを月別に整理する
薬局の資金繰り表で最も重要なのは、売上月ではなく、実際の入金月と支払月を把握することです。特にレセプト入金は、請求月と入金月にずれが出るため、月次売上をそのまま資金繰り表に入れると誤差が出ます。
資金繰り表を作るときは、次の順番で整理すると作りやすくなります。
- 月別の調剤報酬売上を、窓口収入と保険請求分に分ける
- 保険請求分を、実際の入金予定月にずらして入力する
- 医薬品仕入を、請求月ではなく支払予定月に入力する
- 人件費、家賃、リース、借入返済など固定支出を入力する
- 消費税、法人税、賞与、設備投資など臨時支出を入力する
- 月末現預金残高が最低必要資金を下回らないか確認する
**最初から細かく作りすぎる必要はありません。**まずは月次で12か月分を作り、資金不足が見える月を特定することが先です。
実務上の注意点として、借入返済の元金部分は損益計算書に費用として出ません。しかし、資金は確実に出ていきます。月次試算表だけを見ていると、返済負担を見落とすことがあります。
資金繰り表を作るために必要な資料
資金繰り表を作る前に、必要資料をそろえると数字の精度が上がります。特に、レセプト入金、仕入支払、借入返済、在庫の4つは必ず確認します。
| 資料 | 確認する内容 | 使い方 |
|---|---|---|
| 月次試算表 | 売上、粗利、人件費、固定費 | 損益の基礎データにする |
| 通帳・入出金明細 | 実際の入金日・支払日 | 資金繰り表の実績欄に使う |
| レセコン資料 | 処方箋枚数、薬剤料、技術料、請求額 | 売上と入金予測を分ける |
| 支払基金・国保連の支払関連資料 | 保険請求分の入金額 | 入金サイトの確認に使う |
| 医薬品卸の請求書 | 仕入額、支払日、支払条件 | 仕入支払予定を入力する |
| 借入返済予定表 | 元金、利息、返済日 | 財務支出を入力する |
| 棚卸表 | 在庫金額、滞留在庫 | 資金固定額を把握する |
| 納税予定資料 | 消費税、法人税、源泉所得税など | 臨時支出として反映する |
資金繰り表の精度は、売上予測よりも支払予定の把握で大きく変わります。医薬品仕入、賞与、納税、借入返済は、支払時期がある程度決まっているため、早めに反映しやすい項目です。
一方で、売上は処方箋枚数、処方単価、在宅件数、門前医療機関の状況によって変動します。保守的に作る場合は、売上は低め、支出は高めに見積もると資金不足を早めに発見できます。
資金繰り改善で見るべきチェックポイント
資金繰り表を作った後は、月末残高だけでなく、改善余地を確認します。薬局経営では、次の項目を優先して見直します。
| チェック項目 | 確認する内容 | 改善の方向性 |
|---|---|---|
| 在庫日数 | 在庫が何日分あるか | 滞留在庫、過剰発注、返品可否を確認 |
| 仕入支払条件 | 支払サイト、値引き、リベート | 粗利率と資金繰りをセットで比較 |
| 処方箋枚数 | 月別・曜日別の推移 | 人件費・シフトとのバランスを確認 |
| 技術料比率 | 薬剤料に依存しすぎていないか | 加算、服薬管理、地域支援体制を確認 |
| 借入返済額 | 月商・粗利に対して重すぎないか | 借換え、返済条件、追加資金を検討 |
| 固定費 | 家賃、人件費、リース料 | 赤字店舗・低稼働店舗を分けて確認 |
資金繰り改善では、単純な経費削減だけを目指すと、薬局の運営品質が落ちる可能性があります。薬剤師の人員、在庫の安全性、患者対応を維持しながら、資金の滞留を減らすことが重要です。
特に在庫は、欠品を防ぐために必要な一方で、過剰になると資金を圧迫します。実務上の注意点として、在庫削減は金額の大きい品目、滞留期間の長い品目、返品可否がある品目から順に確認します。全品目を一律に減らすと、欠品リスクが高まります。
専門家に相談する前に整理しておきたいこと
資金繰り表は自社で作成できますが、数字の見方を誤ると、必要な対策が遅れることがあります。特に、複数店舗を経営している場合、店舗ごとの収支と本部経費、借入返済、在庫の偏りを分けて見る必要があります。
相談前には、次の情報を整理しておくと、現状把握がスムーズです。
- 直近12か月の月次試算表
- 店舗別の売上、粗利、人件費、家賃
- レセプト請求額と入金額の推移
- 医薬品卸ごとの仕入額と支払条件
- 借入金の返済予定表
- 棚卸表、滞留在庫リスト
- 今後予定している設備投資、採用、賞与、納税
資金繰り相談では、単に「資金が足りるか」を見るだけでなく、どの月に、なぜ不足するのかを明らかにすることが大切です。その原因が、在庫、仕入条件、返済負担、赤字店舗、納税、売上減少のどれかによって、取るべき対策は変わります。
よくある質問
Q: 資金繰り表はExcelで作れば十分ですか?
Q: 薬価差益が出ていれば資金繰りは安心ですか?
Q: 何か月先まで資金繰り表を作るべきですか?
Q: 複数店舗の場合は1枚の資金繰り表でよいですか?
まとめ
薬局経営の資金繰り表は、月次利益を見るためではなく、将来の現預金残高と資金不足の原因を把握するために作ります。
- 資金繰り表では、売上月ではなく入金月・支払月で整理する
- 薬価差益は、レセプト入金、仕入支払、在庫増減とセットで見る
- 医薬品仕入、借入返済、納税、賞与は資金不足の原因になりやすい
- 在庫削減は一律ではなく、滞留在庫や金額の大きい品目から確認する
- 複数店舗では、全社資金繰りと店舗別収支を分けて見る
資金繰り表を毎月更新すると、借入が必要な時期、仕入条件の見直し、在庫圧縮、赤字店舗の改善判断が早くなります。薬局経営では、利益率だけでなく、資金がどこで止まっているかを見える化することが、安定経営の第一歩です。
参照ソース
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について」: https://www.mhlw.go.jp/topics/2024/04/tp20240401-01.html
- 社会保険診療報酬支払基金「医療機関・薬局・訪問看護ステーションの方」: https://www.ssk.or.jp/user_iryo/index.html
- 国民健康保険中央会「診療報酬の審査制度」: https://www.kokuho.or.jp/inspect/inspect_rezept.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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