調剤薬局経営コラムに戻る
調剤薬局経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

親族内で薬局を承継する時の税務と資金繰り

12分で読めます
親族内で薬局を承継する時の税務と資金繰り

親族内で薬局を承継する場合、単に「親から子へ引き継ぐ」だけでは終わりません。個人薬局か法人薬局か、株式をどう移すか、先代へ退職金を支払うか、後継者が運転資金を確保できるかによって、税負担と承継後の資金繰りは大きく変わります。特に法人薬局では、自社株評価・贈与税・退職金・借入金を同時に見ないと、承継後に資金が詰まることがあります。この記事では、親族内承継を予定している薬局オーナーと後継者向けに、2026年5月時点の制度情報を前提として、事前に整理すべき税務と資金繰りのポイントを解説します。

薬局承継・M&Aの個別相談

この記事の内容を、薬局の承継・譲渡・税務判断に落とし込む相談をする

株式譲渡、事業譲渡、評価額、税負担、引き継ぎ条件を整理します。

薬局経営を相談する

親族内承継で最初に確認する薬局の形態

薬局の親族内承継では、まず「何を承継するのか」を分けて考える必要があります。法人薬局であれば株式と経営権、個人薬局であれば事業用資産や営業上の契約、許認可、従業員、取引先との関係が論点になります。

横にスクロールできます
承継の形主な承継対象税務上の主な論点資金繰り上の主な論点
法人薬局の株式承継非上場株式、役員権限、経営者保証自社株評価、贈与税・相続税、退職金株式取得資金、借入返済、先代への支払い
個人薬局の事業承継棚卸資産、設備、営業権、契約所得税、消費税、贈与税、相続税仕入債務、運転資金、開設関連費用
一部店舗の承継店舗単位の資産・契約譲渡価額、営業権、在庫評価店舗別収支、薬価改定前後の在庫負担
将来のM&Aを見据えた承継株式、店舗、管理体制株価対策、役員報酬、退職金買い手評価、決算書の見え方

親族内承継は、第三者への売却より感情面の調整がしやすい一方で、価額設定があいまいになりやすい特徴があります。親族だから安く渡してよい、という判断は税務上の問題を生むことがあります。適正な評価額を確認せずに株式や資産を移すと、後から贈与とみなされる可能性があるためです。

ここがポイント
親族内承継では、税金を下げることだけを目的にするのではなく、後継者が承継後に資金不足にならない設計が重要です。株式移転、退職金、借入金、在庫、役員報酬を一体で確認しましょう。

株式を贈与するか売買するかを比較する

法人薬局の場合、中心になるのは株式の承継です。株式を後継者へ移す方法には、主に贈与、売買、相続、事業承継税制の活用があります。どれが有利かは、会社の株価、先代の生活資金、後継者の資金力、他の相続人とのバランスによって変わります。

横にスクロールできます
方法メリット注意点向いているケース
生前贈与後継者へ早く経営権を移せる贈与税、自社株評価、他の相続人との公平性後継者が決まっており、早めに経営移行したい
売買先代に資金を残せる後継者の購入資金、譲渡所得、価格の妥当性先代の退職後資金を確保したい
相続承継時の資金流出を抑えやすい遺産分割、相続税、経営権分散生前移転が難しいが後継者は決まっている
事業承継税制一定要件で納税猶予を受けられる手続き、継続要件、届出管理株価が高く、税負担が承継の障害になる

自社株の評価は、単純に利益だけで決まるわけではありません。薬局の場合、店舗数、利益水準、純資産、役員借入金、在庫、土地建物の保有状況などが影響します。特に長年黒字で内部留保が厚い法人薬局では、非上場株式の評価額が想定以上に高くなることがあります。

一方で、無理に株価を下げようとして過大な役員報酬や不自然な取引を行うと、税務上のリスクが高まります。承継前に見るべきなのは、節税策の有無だけでなく、決算書上の利益、純資産、借入、役員貸付金・借入金の整理です。

先代への退職金は税務と資金繰りを同時に見る

親族内承継でよく検討されるのが、先代への役員退職金です。退職金には、先代の退職後資金を確保する役割があります。また法人側では、適正な金額であれば損金算入の対象となり、会社の株価や利益にも影響します。

ただし、退職金は「払えばよい」ものではありません。法人に十分な現預金がないまま高額な退職金を支払うと、承継直後の薬局運営に必要な資金が不足します。薬局は薬剤の仕入、社会保険料、人件費、家賃、リース料など固定的な支出が多いため、退職金支払い後も数か月分の運転資金を残せるかを確認する必要があります。

退職金を検討する際の主な確認項目は次のとおりです。

横にスクロールできます
確認項目見るべきポイント
退職の実態代表交代後も先代が実質的に経営判断を続けていないか
金額の妥当性役員在任年数、報酬水準、功績倍率、同業水準から見て過大でないか
支払原資現預金、借入余力、分割支払いの可否
承継後の資金繰り仕入支払い、人件費、薬価改定時の在庫影響に耐えられるか
税務処理損金算入時期、源泉徴収、退職所得の扱い

役員退職金の過大部分は、法人税務上損金として認められない可能性があります。また、名目上は退職していても、実態として代表権や経営判断を握り続けている場合は、退職金としての整理が難しくなることがあります。承継後も先代が関与する場合は、会長、相談役、非常勤役員などの役割と報酬を明確に分けることが大切です。

承継後の資金繰りは在庫と借入金まで見る

親族内承継では、税金の話に意識が向きがちですが、後継者にとって最も現実的な問題は資金繰りです。薬局は処方箋枚数や技術料だけでなく、薬剤料、在庫、卸への支払い、診療報酬・調剤報酬の入金サイトによって資金の動きが変わります。

承継前に、少なくとも次の数字は店舗別に確認しておきましょう。

横にスクロールできます
項目確認する理由
月次売上と粗利店舗ごとの収益力を把握するため
技術料と薬剤料の内訳調剤報酬改定や処方内容の影響を見分けるため
在庫金額と在庫回転過剰在庫や不動在庫が資金を圧迫していないか確認するため
卸への買掛金承継時点で後継者が背負う支払いを把握するため
借入金と返済額代表者変更後も返済できるか確認するため
役員借入金・貸付金親族間の精算や税務リスクを整理するため

特に注意したいのは、承継時点の在庫です。薬価改定前後、長期処方の増減、採用品目の変更があると、帳簿上の在庫と実際に資金化しやすい在庫に差が出ることがあります。過剰在庫を含んだまま承継価額を決めると、後継者が実質的に使いにくい資産まで負担することがあります。

ここがポイント
承継前の資金繰り表は、年単位ではなく月単位で作るのが実務的です。少なくとも、承継月、退職金支払月、賞与月、納税月、薬価改定後の数か月は分けて確認しましょう。
調剤薬局の報酬・在庫・資金繰りを月次で確認

許認可・保険薬局指定・契約も税務と並行して整理する

薬局承継では、税務と資金繰りだけでなく、薬局開設許可、保険薬局指定、賃貸借契約、卸との取引契約、リース契約、従業員との雇用関係も確認が必要です。法人の株式承継であれば法人格は変わらないため、事業譲渡より手続きがシンプルになる場合がありますが、代表者、管理薬剤師、役員構成、所在地、構造設備などに変更がある場合は届出や確認が必要になります。

個人薬局を親族が引き継ぐ場合や、法人間で店舗を移す場合は、開設者が変わるため、許可や指定をそのまま引き継げないケースがあります。税務上は親族内承継でも、行政手続き上は新規申請や変更手続きが必要になる場合があります

承継前に整理したい実務項目は次のとおりです。

横にスクロールできます
分野確認事項
行政手続き薬局開設許可、変更届、保険薬局指定、地域連携薬局等の認定
人員体制管理薬剤師、常勤薬剤師、事務スタッフ、シフト体制
契約関係賃貸借契約、卸契約、リース契約、レセコン契約
金融機関借入金、担保、代表者保証、保証人変更
親族間調整他の相続人への説明、遺留分、株式の分散防止
会計資料月次試算表、決算書、在庫表、固定資産台帳

親族間では「話せばわかる」と考えがちですが、承継後に兄弟姉妹や配偶者との間で認識の違いが出ることがあります。株式を後継者に集中させるのか、先代が一部持ち続けるのか、他の相続人には別の財産で調整するのかを、早い段階で文書化しておくことが重要です。

親族内承継で専門家に相談する前に整理する資料

親族内承継を具体的に検討する段階では、税理士や金融機関に相談する前に、最低限の資料を集めておくと話が早く進みます。特に薬局は、税務資料だけでは実態が見えにくく、処方箋枚数、薬剤料、在庫、卸支払い、店舗別収支を合わせて確認する必要があります。

横にスクロールできます
資料用途
直近数期分の決算書・申告書自社株評価、利益推移、借入状況の確認
月次試算表承継直前の業績と資金繰りの確認
店舗別損益資料承継する店舗の収益性確認
在庫表・棚卸資料在庫過多、不動在庫、薬価改定影響の確認
借入金返済予定表後継者の返済負担、保証変更の確認
株主名簿株式分散、議決権、相続リスクの確認
役員報酬・退職金規程退職金設計と税務上の妥当性確認
賃貸借契約・リース契約承継後の固定費と契約変更の確認

親族内承継の成否は、税額だけでなく、後継者が経営判断できる状態で株式・人・お金・契約を引き継げるかで決まります。相談前に資料をそろえることで、贈与、売買、退職金、事業承継税制、借入の組み替えなどを比較しやすくなります。

よくある質問

Q: 親族内なら株式を安く譲っても問題ありませんか?
問題になる場合があります。親族間であっても、時価より著しく低い価額で株式を移すと、差額について贈与とみなされる可能性があります。非上場株式は評価方法が複雑なため、承継前に自社株評価を行い、贈与、売買、相続のどれで進めるかを比較することが大切です。
Q: 事業承継税制を使えば税金は完全になくなりますか?
事業承継税制は、一定の要件を満たす非上場株式の贈与税・相続税について納税猶予を受けられる制度です。ただし、猶予であり、手続きや継続要件があります。特例措置については計画提出や承継期限が定められているため、制度を使えるかどうかは早めに確認する必要があります
Q: 先代に退職金を出すと株価対策になりますか?
退職金の支払いによって会社の利益や純資産が変動し、自社株評価に影響することがあります。ただし、金額が不相当に高額と判断されると税務上問題になります。また、退職金を支払った結果、薬局の運転資金が不足しては本末転倒です。税務効果と資金繰りを同時に確認しましょう。
Q: 個人薬局を子どもが引き継ぐ場合も同じですか?
法人薬局とは論点が異なります。個人薬局では株式ではなく、棚卸資産、設備、営業上の契約、許認可、従業員、借入などを整理します。開設者が変わる場合、行政手続きや保険薬局指定の確認が必要になるため、税務だけで判断しないことが重要です。

まとめ

親族内で薬局を承継する場合は、感情面では進めやすくても、税務・資金繰り・行政手続きの整理が欠かせません。

  • 法人薬局では、まず自社株評価と株主構成を確認する
  • 贈与、売買、相続、事業承継税制は、税額だけでなく資金繰りで比較する
  • 先代への退職金は、金額の妥当性と支払後の運転資金を同時に見る
  • 薬局承継では、在庫、卸支払い、借入金、保険薬局指定も重要な確認項目になる
  • 親族間トラブルを避けるため、株式の持ち方と他の相続人への説明を早めに整理する

親族内承継は、早く準備するほど選択肢が広がります。後継者が安心して薬局を引き継げるよう、税金を抑える方法だけでなく、承継後の月次資金繰りと経営体制まで一体で確認しておきましょう。


参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

次に確認すること

調剤薬局の報酬・在庫・資金繰りを月次で確認

調剤報酬、薬価改定、在庫評価、仕入、返済、税務を薬局経営の文脈で整理します

  • 調剤薬局の経営論点を整理
  • 在庫・資金繰りを確認
  • 月次管理・税務相談に対応

薬局相談

調剤薬局 税務・経営相談フォーム

調剤報酬、薬局開業、在庫・仕入、資金繰り、税務・月次管理を相談する専用フォームです。

受付時間 平日 9:15〜18:15