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調剤薬局経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

在宅訪問薬剤管理を始める前の採算と体制

12分で読めます
在宅訪問薬剤管理を始める前の採算と体制

在宅患者訪問薬剤管理指導を始める前に見るべきことは、算定点数だけではありません。薬局オーナーにとって重要なのは、訪問にかかる薬剤師時間、移動時間、緊急対応、記録・報告業務、医師・ケアマネジャー等との連携を含めて、店舗運営全体として採算が合うかどうかです。特に小規模薬局では、外来調剤のピーク時間と訪問時間が重なると、在宅対応が売上増ではなく人員不足の原因になることがあります。

2026年5月時点の制度では、在宅患者訪問薬剤管理指導料は単一建物診療患者数に応じた区分があり、医師の指示、薬学的管理指導計画、訪問、薬学的管理・指導などが前提になります。在宅対応は「点数が取れるか」ではなく「訪問1件あたりの粗利と人員負荷」を先に確認することが出発点です。

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在宅患者訪問薬剤管理指導は売上より先に採算を見る

在宅患者訪問薬剤管理指導は、地域で選ばれる薬局になるための重要な取り組みです。一方で、通常の外来調剤と違い、患者宅や施設への移動、事前準備、服薬状況の確認、残薬確認、報告書作成、関係者との連絡が発生します。

そのため、採算を見るときは「算定点数 × 件数」だけで判断しないことが大切です。最低限、訪問1件ごとの所要時間と薬剤師の時間単価を置いて試算します。

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確認項目見るべき内容採算への影響
訪問件数月何件、週何件から始めるか件数が少ないと移動・準備の固定負担が重くなる
訪問時間服薬指導、残薬確認、記録を含む時間薬剤師の稼働を圧迫する
移動時間往復時間、駐車、待機時間報酬に直接反映されにくい
事務作業計画書、報告書、薬歴、連絡記録見落とすと残業・記録遅れにつながる
緊急対応夜間・休日・臨時訪問の可能性体制整備と人員負担が増える
外来への影響店舗内の待ち時間、監査体制既存売上や患者満足に影響する

実務上の注意点として、最初から「地域貢献だから多少赤字でもよい」と考えると、担当薬剤師に負担が集中しやすくなります。地域連携を強める目的で始める場合でも、月次で件数・時間・粗利を見える化して、継続できる形にする必要があります。

ここがポイント
在宅対応を始める前の採算試算では、薬剤料・技術料だけでなく、訪問前後の準備、移動、記録、報告、電話対応までを1件の業務時間に含めて考えます。薬剤師の空き時間だけで回す前提にすると、件数が増えた時に急に破綻しやすくなります。

算定要件と訪問件数の上限を確認する

在宅患者訪問薬剤管理指導料は、在宅で療養していて通院が困難な患者に対し、医師の指示に基づき、保険薬剤師が薬学的管理指導計画を策定し、患家を訪問して薬学的管理・指導を行う場合に算定します。点数は単一建物診療患者の人数によって区分されます。

現行の調剤報酬点数表では、単一建物診療患者が1人の場合は650点、2人以上9人以下の場合は320点、その他の場合は290点とされています。また、原則として患者1人につき月4回まで、特定の患者では週2回かつ月8回までといった回数制限があります。保険薬剤師1人につき週40回までという上限も、件数計画を作る際に見落とせません。

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論点確認すべきこと
対象患者在宅療養中で通院困難か
医師の指示訪問の指示・連携が明確か
計画書薬学的管理指導計画を作成しているか
訪問区分単一建物診療患者数を正しく把握しているか
回数制限月4回、例外患者、薬剤師1人週40回などを確認したか
距離原則として患家との距離が16kmを超える場合の扱いを確認したか
交通費患家負担となる交通費の説明方法を決めているか

ここで重要なのは、点数表上の区分と実際の採算が必ずしも一致しないことです。例えば、単一建物で複数人を訪問できるケースは移動効率がよくなる一方、患者ごとの確認・記録・報告は必要です。逆に個人在宅は点数が高い区分でも、移動時間が長いと採算が悪化することがあります。

実務上の注意点として、施設訪問の場合は「1回の訪問で複数人を見られるから効率がよい」と単純に考えず、患者ごとの薬歴記載、残薬管理、処方医への報告、家族や介護職との連絡まで含めて所要時間を測る必要があります。

始める前に作るべき採算シミュレーション

在宅対応を始める前には、少なくとも3パターンの採算を作ると判断しやすくなります。1つ目は個人在宅を少数件から始めるケース、2つ目は施設・集合住宅で複数名を担当するケース、3つ目は緊急対応や麻薬管理など重い管理が入るケースです。

採算シミュレーションでは、次のように考えます。

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試算項目入力する数字の例見るポイント
月間訪問件数10件、30件、60件など固定負担を吸収できる件数か
1件あたり所要時間訪問30分、移動20分、記録20分など薬剤師時間を過小評価していないか
薬剤師時間単価給与・法定福利費・賞与を含める実質人件費で見る
技術料収入指導料、加算、関連する調剤報酬算定漏れと過大見積りを避ける
薬剤粗利薬価差、廃棄、返品リスク在庫負担を含めて見る
追加費用車両、駐車、携帯、ICT、保険月次固定費として入れる

採算ラインは「訪問件数」ではなく「薬剤師時間あたりの粗利」で見ると、外来調剤との比較がしやすくなります。例えば、訪問1件で一定の報酬があっても、往復移動と記録で90分かかるなら、外来ピーク時の薬剤師配置を削ってまで実施すべきか検討が必要です。

また、在宅対応は件数が増えるほど事務作業も増えます。報告書作成を薬剤師だけが抱え込むのか、事務スタッフが下書きや送付管理を補助するのかで、薬剤師の稼働率は大きく変わります。採算シミュレーションには、薬剤師以外の事務負担も含めてください。

運用体制は「担当者」ではなく「仕組み」で作る

在宅対応で失敗しやすいのは、特定の薬剤師の経験や善意に依存することです。最初は担当者が丁寧に回せても、件数が増えたり、担当者が休んだりすると、連絡漏れ、記録遅れ、外来対応の混乱が起きやすくなります。

始める前に、次の体制を決めておくと運用が安定します。

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体制項目決めておく内容
担当薬剤師主担当、副担当、休日時の代替者
訪問曜日外来ピークを避けた訪問枠
緊急連絡電話番号、折り返しルール、対応時間
記録方法薬歴、訪問記録、報告書の入力タイミング
多職種連携医師、訪問看護、ケアマネジャーとの連絡方法
在庫管理定期薬、臨時薬、麻薬、衛生材料の管理方法
請求確認算定区分、加算、交通費、介護保険との整理

直近の改定では、休日・夜間を含む開局時間外でも調剤および訪問薬剤管理指導に対応できる体制、連絡先電話番号や緊急時の注意事項を患者・家族へ文書で交付することなど、在宅対応の体制面がより重視されています。在宅は「訪問できる薬剤師がいるか」だけでなく「不在時にも連絡・記録・対応が回るか」が重要です。

ここがポイント
在宅対応を始めると、患者本人だけでなく家族、医師、訪問看護師、ケアマネジャー、施設職員との連絡が増えます。連絡の窓口、記録場所、折り返しルールを決めずに始めると、情報が担当者のスマートフォンやメモに分散しやすくなります。
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在宅対応で見落としやすいコスト

在宅対応のコストは、人件費と移動費だけではありません。特に薬局経営では、在庫、廃棄、麻薬管理、配達・訪問の動線、ICTツール、保険、教育時間が利益を圧迫します。

実務上の注意点として、在宅患者が増えると、外来ではあまり動かなかった薬剤や規格を持つ場面が増えます。処方変更が多い患者では、残薬、返品不可薬、期限切れのリスクも上がります。在宅の粗利を見るときは、薬剤料の売上だけでなく、廃棄・不動在庫の増加も合わせて確認する必要があります。

また、麻薬管理、中心静脈栄養、小児、ターミナルケアなどは、報酬上の加算がある一方で、教育・備蓄・緊急対応・安全管理の負担も増えます。薬局として対応領域を広げる場合は、「できる患者像」と「今は受けない患者像」を先に整理しておくことが現実的です。

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見落としやすいコスト具体例
不動在庫個別患者向け薬剤、規格違い、処方変更後の残薬
記録時間薬歴、計画書、報告書、情報提供
教育時間在宅未経験薬剤師への同行、研修
緊急対応夜間・休日の電話、臨時訪問
車両・移動ガソリン、駐車場、保険、事故リスク
ICT電子薬歴、オンライン服薬指導、連絡ツール
外来機会損失店舗内の待ち時間増加、監査体制の弱体化

在宅対応の利益は、月次試算表だけでは見えにくいため、開始後は「在宅関連売上」「訪問件数」「薬剤師稼働時間」「在宅関連在庫」を別管理することをおすすめします。

始める前のチェックリスト

在宅患者訪問薬剤管理指導を始める前には、制度面、採算面、運用面を分けて確認します。以下の項目に空欄が多い場合は、いきなり件数を増やすより、少数件で試験運用してから拡大する方が安全です。

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区分チェック項目
制度届出、算定要件、回数制限、距離、交通費の扱いを確認した
収支訪問1件あたりの収入、粗利、所要時間を試算した
人員主担当・副担当・休日時の代替体制を決めた
外来訪問時間帯に店舗運営が回るか確認した
記録計画書、薬歴、報告書の作成フローを決めた
連携医師、看護師、ケアマネジャーとの連絡方法を決めた
緊急夜間・休日の連絡先、折り返し、対応範囲を決めた
在庫在宅患者向け薬剤の発注・返品・廃棄ルールを決めた
月次管理在宅売上、粗利、訪問件数、稼働時間を毎月確認する

実務上の注意点として、開始前の試算は一度作って終わりではありません。患者数、訪問距離、処方内容、緊急対応の頻度によって採算は変わります。開始後3か月程度は、月次で実績を見直し、訪問枠・担当者・受け入れ基準を調整することが必要です。

よくある質問

Q: 在宅対応は何件くらいから採算が合いますか?
一律の件数では判断できません。個人在宅中心か、施設・集合住宅中心か、移動距離、薬剤師の所要時間、加算の有無、外来への影響によって変わります。まずは月10件、30件、60件など複数パターンで、薬剤師時間あたりの粗利を試算するのが現実的です。
Q: 外来が忙しい薬局でも始められますか?
始めることは可能ですが、訪問時間帯を外来ピークから外せるか、副担当を置けるか、記録を当日中に完了できるかが重要です。外来の待ち時間や監査体制に影響が出る場合は、在宅件数を増やす前に人員配置を見直す必要があります。
Q: 施設在宅の方が採算はよいですか?
移動効率だけを見ると施設・集合住宅は有利な場合があります。ただし、単一建物診療患者数による点数区分、患者ごとの記録、処方変更、残薬管理、施設職員との連絡負担を含めて見る必要があります。件数が多くても、記録と連絡が増えすぎると採算が悪化します。
Q: 在宅対応の開始前に専門家へ相談するなら何を整理すべきですか?
直近の月次損益、処方箋枚数、薬剤師の勤務表、訪問予定エリア、想定患者数、処方医・施設との連携状況、在庫管理の現状を整理しておくと、採算と体制を具体的に確認しやすくなります。

まとめ

在宅患者訪問薬剤管理指導は、地域医療への貢献と薬局経営の差別化につながる一方、採算と体制を確認せずに始めると、薬剤師の負担増や外来運営の混乱につながります。

  • 在宅対応は、算定点数だけでなく訪問・移動・記録・連絡を含めた薬剤師時間で採算を見る
  • 単一建物診療患者数、回数制限、医師の指示、計画書、距離、交通費などの算定要件を確認する
  • 開始前に個人在宅、施設在宅、重い管理が必要なケースの3パターンで収支を試算する
  • 担当者任せにせず、緊急連絡、記録、報告、代替体制を仕組みとして整える
  • 開始後は在宅売上、粗利、訪問件数、薬剤師稼働時間、在庫負担を月次で確認する

在宅対応を継続できる経営施策にするには、「地域のために必要だから始める」という判断に加えて、「どの件数・体制なら無理なく続けられるか」を数字で確認することが欠かせません。


参照ソース


この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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