
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
調剤薬局の在庫管理と資金繰り|薬価改定前後の確認点

調剤薬局の在庫管理は、単に「薬を減らす」ことではありません。薬価改定、供給不安、門前医療機関の処方傾向、卸との取引条件、支払サイトが重なるため、在庫が多すぎると資金繰りを圧迫し、少なすぎると欠品リスクにつながります。特に薬価改定前後は、改定後の薬価、改定前の仕入単価、返品可否、使用期限、支払予定を同時に確認することが重要です。薬局オーナー・管理薬剤師は、在庫金額と資金繰りを月次で見る仕組みを持つことで、粗利のブレや資金不足を早めに把握できます。
仕入れ・在庫管理の個別相談
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在庫回転、返品、仕入条件、備蓄、資金繰りへの影響を整理します。
薬価改定前後に在庫管理が重要になる理由
薬価は、医薬品価格調査などを踏まえて見直されます。薬価基準は保険請求上の償還価格であり、薬局の実際の購入価格とは別に動きます。そのため、薬価改定前後には「改定前に仕入れた在庫を、改定後の薬価で販売する」場面が生じます。
薬価が下がる品目を多く抱えていると、帳簿上は在庫があっても、実際の回収額や粗利が想定より小さくなることがあります。一方で、過度に在庫を絞ると、改定直前の出荷調整や供給不安と重なり、患者対応や処方応需に支障が出る可能性もあります。
つまり、薬価改定前後の在庫管理では、在庫削減だけでなく、欠品リスクと資金繰りのバランスを見る必要があります。薬価差損だけを恐れて一律に発注を止めると、地域の処方傾向によっては機会損失や信用低下につながる点に注意が必要です。
まず確認したい在庫と資金繰りの基本指標
薬局の在庫管理では、現場の棚卸数量だけでなく、経営数値としての在庫金額を見ることが欠かせません。月次で確認したい基本指標は、在庫金額、月間薬剤料、仕入額、買掛金、回転期間、廃棄・期限切れ見込みです。
特に重要なのは、在庫回転日数です。これは、現在の在庫が何日分の使用量に相当するかを見る指標です。厳密な計算は薬局ごとの管理方法により異なりますが、実務上は「在庫金額 ÷ 1日あたりの薬剤使用額」で概算し、前月や前年同月と比較します。
| 確認項目 | 見る目的 | 薬価改定前後の注意点 |
|---|---|---|
| 在庫金額 | 資金が棚に固定されていないか確認する | 改定前に高額在庫が増えていないか |
| 不動在庫 | 長期間動いていない薬を把握する | 改定後に評価損や廃棄リスクが出やすい |
| 使用期限 | 廃棄予定を早めに読む | 返品・移動・処方実績の確認が必要 |
| 買掛金 | 卸への支払予定を把握する | 仕入増と支払月の資金不足に注意 |
| 粗利率 | 薬価差益や加算を含めた収益性を見る | 薬価改定後に前年差が崩れていないか |
在庫金額は貸借対照表に残りますが、資金繰り上はすでに支払予定が発生していることが多くあります。帳簿上の利益が出ていても、仕入代金の支払いが先行すれば手元資金は減ります。そのため、在庫と買掛金をセットで見ることが重要です。
薬価改定前に行うべき確認ポイント
薬価改定前は、品目ごとの使用頻度と在庫量を確認し、発注方針を調整します。特に、高額医薬品、使用量が少ない薬、門前医療機関の処方変更が予想される薬、期限が近い薬は優先的に確認します。
確認の順番は、次のように整理すると実務に落とし込みやすくなります。
- 直近3〜6か月の処方実績を確認する
- 現在庫と発注残を確認する
- 薬価改定の対象品目や改定幅を確認する
- 返品・値引き・取引条件を卸に確認する
- 改定後1〜2か月の必要在庫を見積もる
- 資金繰り表に仕入支払予定を反映する
ここで見落としやすいのが、発注残と納品タイミングです。改定前に発注した薬が改定後に納品される場合、仕入単価や取引条件の確認が必要になります。発注日、納品日、請求日、支払日がずれるため、現場の発注判断だけでは資金繰りへの影響を把握しにくい点に注意してください。
また、薬価改定前に在庫を極端に減らすと、患者対応に支障が出る可能性があります。安全在庫を残す品目と、発注を抑える品目を分けることが大切です。全品目を同じ基準で削減しないことが、薬局経営では重要な判断基準になります。
薬価改定後に見るべき粗利と資金繰り
薬価改定後は、在庫を減らせたかどうかだけでなく、粗利率とキャッシュの動きを確認します。薬価が下がった品目について、改定前の在庫消化によりどの程度粗利が変動したかを見ます。
薬局では、調剤報酬、薬剤料、技術料、加算、薬価差益が複合的に収益を構成します。そのため、売上総額だけを見ても、薬価改定による影響は把握しにくいことがあります。月次試算表では、少なくとも次のような切り口で確認します。
| 月次確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 売上高 | 処方箋枚数の増減、薬剤料の変動 |
| 売上総利益 | 薬価差、仕入条件、廃棄の影響 |
| 仕入高 | 改定前後の仕入増減 |
| 棚卸増減 | 利益が在庫評価で膨らんでいないか |
| 買掛金 | 翌月以降の支払負担 |
| 現預金 | 支払後に必要運転資金が残るか |
特に、改定直後は「売上は大きく変わっていないのに、資金が減っている」という状態が起こり得ます。これは、改定前に多めに仕入れた在庫の支払いが後から来るためです。薬価改定後2〜3か月の資金繰りは、通常月よりも丁寧に確認する必要があります。
不動在庫・期限切れを減らす実務の進め方
不動在庫や期限切れは、薬局の利益と資金繰りをじわじわ圧迫します。特に、処方変更、門前医療機関の医師交代、患者数の変化、出荷調整に伴う代替薬の増加があると、以前は動いていた薬が急に動かなくなることがあります。
実務では、次のような区分で在庫を見直します。
| 区分 | 目安 | 対応策 |
|---|---|---|
| 定番在庫 | 毎月安定して動く | 発注点と安全在庫を設定する |
| 変動在庫 | 月によって使用量が大きい | 処方元や季節要因を確認する |
| 不動在庫 | 一定期間動きがない | 返品、店舗間移動、採用品見直しを検討する |
| 期限注意在庫 | 使用期限が近い | 早めに処方実績・返品条件を確認する |
| 高額在庫 | 1品目の金額影響が大きい | 発注承認ルールを設ける |
不動在庫対策では、現場任せにせず、月次でリスト化することが効果的です。特に複数店舗を運営している場合は、店舗間で動きのある薬と動かない薬が異なるため、店舗間移動の余地があります。ただし、医薬品の管理状態、使用期限、ロット、保管条件の確認が必要です。単に在庫表上で移動できそうに見えても、品質管理や運用ルールを満たさない移動は避けるべきです。
資金繰り表に在庫情報をどう反映するか
薬局の資金繰り表では、売上入金、社会保険診療報酬の入金、卸への支払い、人件費、家賃、借入返済、設備投資を月別に並べます。ここに在庫情報を反映しないと、仕入の増減による資金不足を見落とします。
具体的には、薬価改定前後だけでも、次の項目を資金繰り表に入れておきます。
- 改定前の追加仕入予定
- 改定後に抑制する仕入予定
- 卸への支払予定日と金額
- 返品・値引きの見込み
- 廃棄予定額
- 借入返済と納税予定
- 最低限残したい現預金残高
資金繰りを見るときは、利益ではなく現金残高で判断します。黒字でも、仕入支払い、賞与、納税、借入返済が重なる月は資金が不足することがあります。在庫は利益ではなく、現金が形を変えたものとして見ると、発注判断が変わります。
また、管理薬剤師と経営者で見ている数字が違う場合もあります。現場は欠品防止を重視し、経営者は資金繰りを重視します。どちらか一方ではなく、品目別の重要度、患者影響、金額影響を同じ表で確認することが望ましいです。
薬局オーナーが月次で整えるべき管理体制
薬価改定前後だけ頑張るのではなく、毎月の在庫・仕入・資金繰りを管理する体制が必要です。月次で見る項目を決めておけば、薬価改定、供給不安、処方傾向の変化にも早く対応できます。
月次管理の基本は、次の4点です。
- 月末在庫金額を把握する
- 不動在庫・期限注意在庫を一覧化する
- 仕入高と買掛金を試算表で確認する
- 翌月以降の資金繰り表に反映する
この体制があると、薬価改定前に慌てて在庫を確認するのではなく、通常月からリスクのある品目を把握できます。さらに、税務会計上の棚卸、資金繰り、融資相談、店舗別採算の説明にもつながります。
複数店舗を運営している場合は、店舗別の在庫回転、粗利率、廃棄額を比較すると、発注ルールや管理体制の違いが見えてきます。数字が悪い店舗を責めるのではなく、処方内容、担当者の発注権限、卸との条件、近隣医療機関の変化を分けて確認することが大切です。
よくある質問
薬価改定前は在庫をできるだけ減らすべきですか?
一律に減らすのは危険です。薬価が下がる品目や不動在庫は圧縮を検討しますが、処方頻度が高い薬や欠品時の影響が大きい薬は安全在庫が必要です。品目ごとに、使用頻度、改定幅、仕入条件、患者影響を分けて判断します。
在庫金額はどのくらいが適正ですか?
適正在庫は、処方内容、店舗数、近隣医療機関、卸の納品頻度、備蓄方針によって異なります。目安だけで判断せず、在庫回転日数、不動在庫額、期限切れ見込み、欠品件数を月次で比較することが重要です。
薬価改定後に利益が下がった原因はどう確認しますか?
売上、薬剤料、仕入単価、棚卸増減、返品・値引き、廃棄、加算の変動を分けて確認します。薬価改定の影響だけでなく、処方箋枚数の変化や高額薬の構成変化が原因の場合もあります。
管理薬剤師と経営者で何を共有すべきですか?
欠品リスク、不動在庫、高額在庫、期限注意在庫、発注ルール、資金繰りへの影響を共有します。現場の安全性と経営上の資金管理を両立するため、月次の在庫会議や店舗別レポートを作ると判断しやすくなります。
まとめ
- 調剤薬局の在庫管理は、欠品防止だけでなく資金繰り管理とセットで考える必要があります。
- 薬価改定前後は、改定幅、在庫量、仕入単価、返品条件、支払予定を同時に確認します。
- 在庫回転日数、不動在庫、期限注意在庫、買掛金を月次で見ると、利益と資金のズレを把握しやすくなります。
- 在庫を一律に減らすのではなく、品目ごとの使用頻度、患者影響、金額影響で発注方針を分けることが重要です。
- 薬局オーナーは、薬局システムの在庫データと会計データをつなげ、薬価改定後2〜3か月の資金繰りまで確認しておくと安心です。
参照ソース
- 厚生労働省 医薬品価格調査 調査の概要: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/157-1a.html
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128157.html
- 厚生労働省 令和8年度薬価制度改革の骨子: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001633475.pdf
- 厚生労働省 日本の薬価制度について: https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11123000-Iyakushokuhinkyoku-Shinsakanrika/0000135596.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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