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調剤薬局経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

薬局の棚卸ミスを防ぐ在庫評価の基本

10分で読めます
薬局の棚卸ミスを防ぐ在庫評価の基本

薬局の棚卸でミスが出る原因は、単に「数え間違い」だけではありません。医薬品は品目数が多く、規格違い、包装単位、返品予定品、期限切迫品、薬価改定の影響が重なりやすいため、決算前だけで正確に整えるのが難しい在庫です。経理担当者と管理薬剤師が最初に確認すべきなのは、数量・単価・評価対象の範囲を同じ基準でそろえることです。

特に調剤薬局では、レセコンや在庫管理システム上の数量と、実際の棚・引き出し・冷所保管品の数量がずれていることがあります。決算書の利益が大きく変わることもあるため、棚卸は「決算作業」ではなく、薬局経営の粗利と資金繰りを確認する作業として捉える必要があります。

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薬局の棚卸でミスが出やすい理由

薬局の棚卸が難しいのは、在庫の種類が多く、同じ医薬品名でも規格や包装単位が複数あるためです。例えば、同一成分でも先発品・後発品、錠数違い、規格違い、外用薬、散剤、冷所品などが混在します。棚卸表に品名だけを記載していると、実際には別の商品を数えてしまうことがあります。

また、薬局では日々の調剤で開封済み包装が発生します。PTPシート、バラ錠、分包品、外用薬の端数などをどう数えるかを決めていないと、担当者によって数量が変わります。決算日に近い時期だけルールを決めると、前年との比較ができなくなるため、月次管理の段階から数え方を統一しておくことが重要です。

棚卸ミスが出やすい主な原因は次のとおりです。

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ミスの原因起こりやすい場面決算への影響
規格違いの混同同一薬品名でmg数や包装単位が違う数量・単価がずれ、在庫金額が過大または過小になる
端数在庫の数え漏れ開封済み箱、バラ錠、分包後の残数実在庫より少なく計上される
返品予定品の扱い不統一卸へ返品予定だが期末時点では薬局に残っている在庫対象から外すかどうかで金額が変わる
廃棄予定品の未整理期限切れ、破損、使用見込みなし評価損や廃棄処理の判断が遅れる
薬価と仕入単価の混同薬価表を在庫評価に使ってしまう税務上の評価額とずれる可能性がある

在庫評価は薬価ではなく取得価額を基準に考える

薬局の在庫評価で特に注意したいのは、薬価と仕入単価を混同しないことです。薬価は保険請求上の価格であり、決算上の棚卸資産の評価額をそのまま示すものではありません。棚卸資産は、原則として購入した金額を基礎に評価します。

税務上、購入した棚卸資産の取得価額には、購入代価のほか、販売や使用のために直接要した費用が含まれます。薬局実務では、通常は卸からの仕入明細や請求書に基づく仕入単価を確認し、消費税の経理方式に合わせて税込・税抜をそろえる必要があります。

ここがポイント
薬局の棚卸では、薬価表を確認する場面もありますが、在庫評価の基準は薬価そのものではありません。決算で使う単価は、会計処理や税務上の評価方法と整合しているかを確認しましょう。

評価方法を届け出ていない場合、税務上は法定評価方法として最終仕入原価法が使われることがあります。つまり、期末に最も近い仕入単価を使って期末在庫を評価する考え方です。薬価改定後の薬価だけを見て在庫金額を決めるのではなく、実際の仕入単価と評価方法を確認することが必要です。

卸ごとに値引き条件や仕入単価が異なる場合は、同じ品目でもどの単価を使っているかが重要です。複数店舗を運営している場合は、店舗ごとに仕入条件が違うこともあるため、在庫評価の基準を本部側で統一しておくと、店舗別損益の比較もしやすくなります。

決算前に確認したい棚卸チェック項目

決算前の棚卸では、現場で数える作業と、経理で評価額を計算する作業を分けて考えるとミスを減らせます。管理薬剤師が数量の正確性を担保し、経理担当者が単価・消費税・仕入計上との整合性を確認する流れが基本です。

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確認項目管理薬剤師側の確認経理側の確認
棚卸対象調剤室、投薬棚、冷所品、麻薬・向精神薬、OTC等の範囲会計上の棚卸資産に含める範囲
数量箱単位、シート単位、錠数、mL、gなどの数え方棚卸表の単位と仕入単位の一致
単価薬品マスタや在庫管理表の単価確認仕入明細・請求書との照合
返品予定品期末時点で薬局にあるか、返品済みか仕入戻し・未収入金処理との整合
廃棄予定品期限切れ、破損、使用見込みの確認廃棄損・評価損の処理可否
消費税現場では税込・税抜を意識しにくい税込経理・税抜経理との整合

棚卸表には、品名だけでなく、規格、包装単位、数量単位、単価、金額を記載するのが望ましいです。特に端数在庫は、箱数だけでなく「何錠残っているか」「何包残っているか」まで記録しなければ、翌期首の在庫データとつながりません。

決算日後に返品・廃棄した在庫でも、決算日時点で薬局内に存在していれば、原則として期末在庫の確認対象になります。決算日前後の入出庫はミスが起きやすいため、納品日、返品日、廃棄日、会計計上日を分けて確認する必要があります。

薬価改定前後は単価と数量のズレに注意する

薬価改定の前後は、棚卸ミスが特に出やすい時期です。薬価が変わると「在庫の価値も自動的に変わる」と考えがちですが、会計上の在庫評価では、仕入単価、評価方法、期末時点の状態を確認する必要があります。

薬価改定前に仕入れた在庫が残っている場合、薬価差益や薬価差損の感覚と、決算上の棚卸評価が一致しないことがあります。粗利を分析する際には、保険請求上の薬価、実際の仕入単価、期末在庫評価額を分けて見ることが大切です。

ここがポイント
薬価改定の影響を見るときは、「薬価が下がったか」だけでなく、「改定前にどれだけ仕入れていたか」「期末にどれだけ残っていたか」「返品や廃棄の対象になっていないか」を合わせて確認します。

薬価改定直後の月次試算表だけで利益率を判断すると、在庫の増減による影響を見落とすことがあります。仕入率が急に上がった、粗利が下がったという場合でも、実際には棚卸差異や在庫評価のズレが原因になっているケースがあります。

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棚卸差異が出たときの見方

棚卸差異が出た場合、すぐに「現場の数え間違い」と決めつけるのではなく、原因を分解して確認します。薬局では、在庫管理システムへの入力タイミング、レセコンとの連携、返品処理、仕入計上のタイミングによって差異が発生することがあります。

確認の順番は、次の流れが実務的です。

  1. 棚卸表の品名・規格・包装単位が正しいか確認する
  2. 期末日前後の納品書・返品伝票・廃棄記録を確認する
  3. 在庫管理システムの入出庫日と会計計上日を照合する
  4. 開封済み在庫や端数の数え方が統一されているか確認する
  5. 差異が大きい品目を金額順に並べて原因を確認する

すべての品目を同じ深さで調べると時間がかかりすぎます。まずは金額の大きい品目、使用頻度の高い品目、薬価改定の影響を受けやすい品目、返品・廃棄が多い品目から確認しましょう。金額影響の大きい品目から確認することで、決算への影響を早く把握できます。

また、棚卸差異が毎年同じ品目で出ている場合は、単発のミスではなく、発注・納品・入力・保管場所のルールに問題がある可能性があります。月次で差異を確認し、決算前にまとめて修正しない運用に変えることが重要です。

経理担当と管理薬剤師で分担すべきこと

棚卸は、薬局現場だけでも、経理だけでも完結しません。管理薬剤師は医薬品の現物と管理上の注意点に詳しく、経理担当者は決算書・税務・消費税・仕入計上との整合性を確認できます。両者の役割を分けることで、ミスを減らしやすくなります。

管理薬剤師は、数量、保管場所、期限、返品・廃棄予定、麻薬や向精神薬など管理が厳しい品目を確認します。経理担当者は、棚卸表の金額、仕入単価、消費税区分、前期末在庫との比較、仕入高・売上原価との整合性を確認します。

決算前に最低限そろえておきたい資料は、棚卸表、仕入先別請求書、納品書、返品伝票、廃棄記録、在庫管理システムの出力データです。これらがそろっていないと、在庫金額の妥当性を説明しにくくなります。

棚卸表をExcelで作成している場合は、手入力の単価や数式の上書きに注意が必要です。前年のファイルをコピーして使うと、古い単価や不要な品目が残ることがあります。決算用の棚卸表は、作成者、確認者、確認日を残しておくと、後から原因を追いやすくなります。

よくある質問

Q: 薬局の在庫は薬価で評価してもよいですか?
決算上の棚卸資産は、薬価ではなく仕入単価などの取得価額を基礎に評価します。薬価は保険請求上の価格であり、会計上の在庫評価とは目的が異なります。薬価改定があった月は、薬価差と棚卸評価を混同しやすいため、仕入実績、返品、廃棄、値引きの処理を分けて確認します。
Q: 期限切れ医薬品や動かない在庫は棚卸から外してよいですか?
現物が決算日時点で薬局に残っているなら、まず棚卸で把握する必要があります。そのうえで、使用不能、廃棄予定、評価損の対象、返品可能な在庫に分類します。廃棄記録や社内承認がないまま在庫から外すと、会計処理と現物管理がずれるため、棚卸表と廃棄記録をセットで残すことが重要です。
Q: 棚卸差異が少額なら原因確認は不要ですか?
少額でも、同じ薬剤や同じ店舗で差異が続く場合は確認が必要です。入力漏れ、返品処理、包装単位の違い、端数管理、店舗間移動の記録漏れが積み重なると、月次粗利や資金繰りの判断を誤ります。金額だけでなく、差異の発生頻度と品目の傾向を見て改善対象を決めます。
Q: 複数店舗や本部一括仕入れの場合、棚卸はどう分けるべきですか?
店舗別損益を確認するなら、店舗ごとの棚卸が必要です。本部で一括仕入れしていても、各店舗に残っている在庫、店舗間移動、返品予定、期限切れ在庫を分けないと、店舗別の粗利を正しく比較できません。月次では簡易棚卸、決算では精密棚卸というように、作業負担と管理精度のバランスを決めて運用します。

まとめ

薬局の棚卸でミスを防ぐには、決算前に慌てて数えるのではなく、数量・単価・評価対象の基準を事前にそろえることが重要です。

  • 薬局の棚卸ミスは、規格違い、端数在庫、返品予定品、廃棄予定品で起こりやすい
  • 在庫評価は薬価ではなく、仕入単価などの取得価額を基礎に考える
  • 薬価改定前後は、薬価・仕入単価・期末在庫数量を分けて確認する
  • 棚卸差異は金額影響の大きい品目から原因を確認する
  • 管理薬剤師と経理担当者で、現物確認と会計確認の役割を分ける

棚卸は決算書の利益だけでなく、仕入率、粗利、資金繰り、店舗別損益にも影響します。薬局経営では、年1回の決算作業としてではなく、月次で在庫の増減と粗利を確認する体制づくりが大切です。


参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

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