
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
調剤薬局の創業融資を通す事業計画書|金融機関が見る数字

調剤薬局の創業融資では、自己資金の多さだけでなく、処方箋枚数、技術料、薬剤料、仕入率、人件費、在庫、返済原資までを数字で説明できるかが見られます。特に薬局は、開業直後から薬品在庫と人件費が先に出やすく、売上の入金まで時間差もあります。金融機関に提出する事業計画書では、「借りられる金額」ではなく「返せる金額」を中心に組み立てることが重要です。
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物件、門前条件、在庫、設備、運転資金を、開業時期に合わせて整理します。
調剤薬局の創業融資で金融機関が見るポイント
金融機関が知りたいのは、薬局を開業できるかだけではありません。開業後に売上が立ち、資金が回り、返済が続けられるかを確認します。調剤薬局の場合、一般的な小売業とは違い、処方箋枚数や門前・面対応の立地、近隣医療機関との関係、薬剤師体制、在庫負担が収支に直結します。
特に見られやすいのは、次のような項目です。
| 見られる項目 | 金融機関が確認したいこと | 事業計画書で示す数字 |
|---|---|---|
| 開業動機・経験 | 薬局運営を継続できる経歴があるか | 薬剤師経験、管理薬剤師経験、店舗運営経験 |
| 売上計画 | 処方箋枚数の根拠があるか | 1日処方箋枚数、営業日数、処方箋単価 |
| 粗利計画 | 薬価差・技術料を理解しているか | 技術料、薬剤料、仕入率、粗利率 |
| 固定費 | 人件費・家賃が過大でないか | 薬剤師給与、事務人件費、家賃、リース料 |
| 運転資金 | 入金まで資金がもつか | 在庫、支払サイト、診療報酬入金までの余裕 |
| 返済原資 | 毎月返済できる利益が残るか | 営業利益、減価償却費、借入返済額 |
実務上の注意点として、売上予測だけを大きく見せても、仕入・在庫・人件費が連動していない計画は信用されにくくなります。金融機関は「この売上なら、この人員と在庫が必要になるはず」という整合性を見ています。
売上計画は処方箋枚数から逆算する
調剤薬局の事業計画書では、売上を「なんとなく月商いくら」と置くのではなく、処方箋枚数から逆算します。基本の考え方は、1日あたりの処方箋枚数、営業日数、処方箋単価を掛けて月売上を作ることです。
たとえば、次のように分解します。
| 項目 | 計画に入れる内容 |
|---|---|
| 1日処方箋枚数 | 開業初月、3か月後、6か月後、1年後で分ける |
| 営業日数 | 月の営業日数、土曜営業の有無 |
| 処方箋単価 | 薬剤料と技術料を分けて考える |
| 集患経路 | 門前、近隣医療機関、在宅、面対応 |
| 伸び率 | 開業直後から満床・満額にしない |
薬局開業では、近隣クリニックの処方箋がどれだけ流れるかが大きな論点になります。ただし、金融機関に対しては「見込み患者数」だけでなく、処方箋枚数の根拠を説明する必要があります。近隣医療機関の診療科、患者層、診療時間、競合薬局の位置、導線、駐車場の有無などを整理しておくと、売上計画の説得力が上がります。
開業初年度の計画では、いきなり理想値を置くのではなく、保守的な月、標準的な月、上振れする月を分けると現実的です。金融機関は高い売上目標そのものよりも、売上が計画を下回った場合に返済できるかを見ます。
粗利・仕入率・在庫を別々に見る
調剤薬局の利益計画で見落としやすいのが、売上と粗利の違いです。薬剤料を含む売上が大きく見えても、医薬品の仕入が重ければ手元に残る利益は限られます。そのため、事業計画書では売上を「薬剤料」と「技術料」に分け、仕入率と粗利を確認する必要があります。
特に確認したい数字は次の通りです。
| 数字 | 見方 |
|---|---|
| 薬剤料売上 | 医薬品の処方内容に左右される売上 |
| 技術料売上 | 調剤基本料、薬学管理料、加算などに関係する売上 |
| 医薬品仕入 | 卸との取引条件、支払サイト、値引率 |
| 粗利 | 売上から仕入を差し引いた利益 |
| 在庫 | 初期在庫、滞留在庫、期限切れリスク |
粗利計画は融資審査の中心です。なぜなら、借入返済、人件費、家賃、リース料は粗利から支払うことになるためです。売上が高くても粗利が薄い計画では、返済原資が不足します。
実務上の注意点として、初期在庫を少なく見積もりすぎると、開業後に追加仕入が必要になり、運転資金が急に苦しくなることがあります。一方で、過剰に在庫を積むと資金が薬品に固定されます。事業計画書では、初期在庫の考え方、採用品目の範囲、近隣医療機関の診療科との関係を説明しておくことが大切です。
必要資金は設備資金と運転資金に分ける
創業融資の事業計画書では、必要資金の内訳が重要です。薬局開業では、内装工事、調剤機器、レセコン、電子薬歴、分包機、什器、保証金、初期在庫などが必要になります。これらをまとめて「開業資金」と書くのではなく、設備資金と運転資金に分けて整理します。
| 区分 | 主な内容 | 確認資料 |
|---|---|---|
| 設備資金 | 内装、調剤機器、分包機、レセコン、電子薬歴、什器 | 見積書、契約書案、リース見積 |
| 物件関連 | 保証金、仲介手数料、前家賃 | 賃貸条件、重要事項説明、契約書案 |
| 初期在庫 | 医薬品、OTC、消耗品 | 採用品目、卸見積、想定在庫表 |
| 運転資金 | 人件費、家賃、仕入支払、広告費、保険料 | 月次資金繰り表 |
| 予備費 | 開業遅延、売上未達、追加工事 | 資金余力の説明 |
設備資金は見積書で説明しやすい一方、運転資金は根拠が曖昧になりやすい部分です。しかし薬局では、保険請求の入金まで時間差があり、開業直後から人件費・家賃・仕入支払が発生します。そのため、運転資金を何か月分確保するかが審査上の大きなポイントになります。
返済原資は月次損益と資金繰りで示す
金融機関が最も重視するのは、最終的に毎月返済できるかです。返済原資は、単純な売上ではなく、売上から仕入、人件費、家賃、その他経費を差し引いた後に残る資金です。
事業計画書では、少なくとも開業後12か月分の月次計画を作ることをおすすめします。初月から売上が安定する前提ではなく、開業初期は低めに置き、徐々に伸びる形にすると現実的です。
| 月次で確認する項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| 売上 | 処方箋枚数と単価の根拠があるか |
| 仕入 | 売上に対して過小になっていないか |
| 人件費 | 薬剤師・事務スタッフの体制と合っているか |
| 家賃・固定費 | 売上規模に対して重すぎないか |
| 借入返済 | 元金返済と利息を含めて払えるか |
| 現預金残高 | 売上未達でも資金ショートしないか |
実務上の注意点として、損益計算では黒字でも、仕入支払や借入返済のタイミングによって資金繰りが苦しくなることがあります。薬局開業では、月次損益表だけでなく、月末現預金残高まで見える資金繰り表を作ることが重要です。
金融機関に説明する際は、「標準ケース」だけでなく「処方箋枚数が計画の8割だった場合」も試算しておくと、リスク管理の姿勢が伝わります。売上未達時でも返済できる余力を示せると、計画の信頼性が高まります。
事業計画書に入れたい補足資料
創業計画書の様式だけでは、調剤薬局特有の事情を十分に説明できないことがあります。そのため、金融機関に提出する際は、補足資料を付けると伝わりやすくなります。
| 補足資料 | 目的 |
|---|---|
| 開業スケジュール | 物件契約、工事、指定申請、開業日の整合性を示す |
| 月次収支計画 | 売上、粗利、固定費、利益を月別に示す |
| 資金繰り表 | 入金・支払・返済後の現預金残高を示す |
| 処方箋枚数の根拠資料 | 立地、診療科、競合、導線を説明する |
| 見積書一覧 | 借入希望額の根拠を示す |
| 自己資金の形成過程 | 計画性と返済姿勢を示す |
| 経歴書 | 薬剤師経験、管理薬剤師経験、店舗運営経験を示す |
自己資金については、金額だけでなく形成過程も見られます。開業直前に急に入金された資金よりも、継続的に貯めてきた資金のほうが説明しやすくなります。また、親族借入や出資がある場合は、返済条件や贈与との区別を明確にしておく必要があります。
専門家に相談する前に整理しておくこと
創業融資の相談をスムーズに進めるには、最初から完璧な事業計画書を作る必要はありません。ただし、次の情報があると、融資可能性や不足資料を早く確認できます。
| 整理するもの | 内容 |
|---|---|
| 開業予定地 | 住所、物件資料、賃料、保証金、面積 |
| 開業予定日 | 工事、指定申請、採用、研修の予定 |
| 自己資金 | 金額、通帳履歴、形成過程 |
| 借入希望額 | 設備資金と運転資金の内訳 |
| 売上見込み | 処方箋枚数、単価、営業日数 |
| 人員計画 | 薬剤師、事務スタッフ、採用状況 |
| 見積書 | 内装、機器、レセコン、電子薬歴、在庫 |
| 既存借入 | 住宅ローン、カードローン、車、教育ローンなど |
実務上の注意点として、物件契約を先に進めすぎると、融資条件が合わなかった場合に資金計画が崩れることがあります。物件、工事、指定申請、融資実行のタイミングは、できるだけ早い段階で並行して確認しましょう。
よくある質問
Q: 調剤薬局の創業融資では自己資金はいくら必要ですか?
Q: 事業計画書の売上は高めに書いたほうがよいですか?
Q: 薬局開業では運転資金をどれくらい見ればよいですか?
Q: 日本政策金融公庫と民間金融機関のどちらに相談すべきですか?
まとめ
調剤薬局の創業融資を通すには、事業計画書で次の点を明確にすることが重要です。
- 売上は処方箋枚数、営業日数、処方箋単価から逆算する
- 薬剤料、技術料、仕入率、粗利を分けて説明する
- 設備資金と運転資金を分け、見積書と資金繰り表で根拠を示す
- 月次損益だけでなく、返済後の現預金残高まで確認する
- 保険薬局指定、物件契約、工事、融資実行のスケジュールを合わせて考える
創業融資は、書類を埋める作業ではなく、開業後に資金が回るかを事前に検証する作業です。特に調剤薬局は、在庫、仕入、人件費、保険請求の入金時期が資金繰りに直結します。開業予定地や見積書が見え始めた段階で、事業計画と資金繰りを早めに確認しておくことが、融資審査と開業後の安定経営につながります。
参照ソース
- 日本政策金融公庫「創業計画の書き方」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/business-plan/
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方」: https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
- 日本政策金融公庫「創業計画書」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyou00_190507b.pdf
- 近畿厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
- 関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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