
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
社会福祉法人の決算書の見方|理事会前の基礎

社会福祉法人の決算書は、株式会社の決算書とは見方が少し異なります。理事会・評議員会で困らないためには、まず「資金の動き」「事業の損益に近い動き」「財産の状態」を分けて読むことが大切です。2026年5月時点の社会福祉法人会計基準では、原則として法人全体、事業区分別、拠点区分別に、資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表を作成します。細かな勘定科目を暗記するより、3つの計算書類が何を表しているかを押さえる方が、会議での質問や判断に役立ちます。
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報酬、加算、人件費、資金繰り、月次管理を、事業所の実態に合わせて整理します。
社会福祉法人の決算書は何を確認する資料か
社会福祉法人の決算書は、単に「黒字か赤字か」を見る資料ではありません。補助金、給付費、寄附金、施設整備、積立金、借入金などを含めて、法人が公益性を保ちながら安定運営できているかを確認する資料です。
特に理事会・評議員会では、会計担当者だけでなく、理事長、理事、監事、評議員が決算内容を理解し、必要な承認や説明を行う場面があります。細部の会計処理まで説明できなくても、どの資料で何を確認するのかを知っておくことが重要です。
社会福祉法人の決算でよく使う主な資料は、次のとおりです。
| 書類名 | 主に見ること | 会議での確認ポイント |
|---|---|---|
| 資金収支計算書 | 現金預金を中心とした資金の出入り | 収入と支出の予算差、資金繰り、施設整備支出 |
| 事業活動計算書 | 事業運営の収益・費用の状況 | サービス活動増減差額、人件費率、経常的な収支 |
| 貸借対照表 | 決算日時点の資産・負債・純資産 | 現預金、借入金、未収金、積立金、固定資産 |
| 財産目録 | 法人が保有する財産の内訳 | 土地建物、預金、借入金などの実在性 |
| 附属明細書 | 主要科目の内訳 | 借入金、基本金、積立金、固定資産などの詳細 |
まず押さえたい3つの計算書類の違い
社会福祉法人の決算書で最初につまずきやすいのは、資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表の違いです。名称は似ていますが、見ている角度が異なります。
資金収支計算書は、資金の入りと出を確認する資料です。給付費の入金、補助金の収入、人件費や事業費の支出、設備投資、借入金の返済などが、資金ベースで表示されます。資金繰りを見るなら資金収支計算書です。
事業活動計算書は、株式会社でいう損益計算書に近い資料です。ただし、社会福祉法人会計では「利益」というより、サービス活動収益とサービス活動費用の差額などを見ます。日常運営で収支が合っているか、経常的な赤字が続いていないかを確認します。
貸借対照表は、決算日時点の財政状態を表します。現金預金、未収金、建物、土地、借入金、退職給付引当金、基本金、積立金などを確認します。単年度の収支が黒字でも、未収金が多すぎる、借入返済が重い、現預金が少ない場合は注意が必要です。
| 見たいこと | 確認する書類 | 代表的な質問 |
|---|---|---|
| お金は足りているか | 資金収支計算書・貸借対照表 | 年度末の現預金はいくらあるか |
| 本業の収支は安定しているか | 事業活動計算書 | サービス活動増減差額はプラスか |
| 借入金は重くないか | 貸借対照表・附属明細書 | 返済予定と資金残高は見合っているか |
| 施設ごとの収支はどうか | 拠点区分別計算書類 | 赤字拠点や資金不足拠点はないか |
| 積立金は適切か | 貸借対照表・附属明細書 | 目的に沿った積立・取崩しになっているか |
理事会・評議員会で確認されやすいポイント
理事会・評議員会では、細かな仕訳よりも「法人として説明できる決算になっているか」が見られます。特に、前年度や予算と比べて大きく変動した項目は、理由を説明できるようにしておく必要があります。
確認されやすいのは、次のような項目です。
- 収入が増減した理由
- 人件費や委託費が増えた理由
- 施設整備や修繕支出の内容
- 借入金の増減と返済見込み
- 未収金や未払金が大きく増えた理由
- 積立金の積立て・取崩しの理由
- 拠点区分ごとの赤字・黒字の状況
- 社会福祉充実残額の有無と対応
特に福祉事業では、人件費の割合が高くなりやすいため、収入の増減と人件費の増減が連動しているかを見ることが大切です。単に人件費率が高いか低いかではなく、配置基準、加算取得、処遇改善、稼働率と合わせて判断します。
前年度比較と予算比較は、会議での説明に欠かせません。決算書だけを見ても理由は分からないため、利用者数、職員数、加算取得状況、補助金、設備投資などの運営情報とセットで確認しましょう。
理事会・評議員会の直前に数字だけを確認すると、変動理由の整理が間に合わないことがあります。月次試算表の段階から、大きな変動項目をメモしておくと、決算説明がスムーズになります。
決算書を見る順番は「全体」から「拠点」へ
社会福祉法人の決算書は、いきなり細かい明細から読むと全体像を見失いやすくなります。おすすめは、法人全体から拠点別、最後に明細へ進む順番です。
- 法人全体の資金収支計算書で、資金が増えたか減ったかを見る
- 法人全体の事業活動計算書で、経常的な収支を見る
- 法人全体の貸借対照表で、現預金・借入金・純資産を見る
- 事業区分別・拠点区分別に、赤字や資金不足の拠点を確認する
- 附属明細書で、借入金、固定資産、積立金などの内訳を見る
- 財産目録で、主要な財産・債務の内容を確認する
この順番で見ると、「法人全体では黒字だが、特定の拠点が赤字」「資金収支はプラスだが、借入金で補っている」「事業活動は安定しているが、設備投資で現預金が減っている」といった構造が分かりやすくなります。
見落としやすい勘定科目と注意点
社会福祉法人の決算では、一般企業の感覚だけで見ると見落としやすい科目があります。特に注意したいのは、未収金、前受金、積立金、基本金、固定資産、借入金です。
未収金は、給付費や補助金などの入金待ちを表すことがあります。金額が大きくても制度上の入金タイミングによるものなら問題ない場合がありますが、長期間回収されていないものが含まれる場合は注意が必要です。
積立金は、将来の施設整備や修繕、人件費、退職給付などに備えるための重要な項目です。ただし、積立金があることと、自由に使える現預金があることは同じではありません。目的、規程、取崩しの手続き、資金の裏付けを確認する必要があります。
固定資産は、建物や設備の取得だけでなく、減価償却費にも影響します。施設整備を行った年度は資金支出が大きくなり、その後の年度では減価償却費として事業活動計算書に影響します。
借入金は、残高だけでなく、返済予定額と資金収支のバランスを見ます。借入返済後も運転資金が残るかは、法人運営の安定性を見るうえで重要です。
会議前に整理しておきたい確認リスト
理事会・評議員会で慌てないためには、決算書の数字そのものよりも、説明すべき論点を先に整理することが大切です。次のチェックリストを使うと、会議資料の不足に気づきやすくなります。
| 確認項目 | 見る資料 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 決算書類はそろっているか | 計算書類、附属明細書、財産目録 | 必要書類に不足がないか |
| 前年度から大きく変動した科目はあるか | 各計算書類 | 増減理由を説明できるか |
| 予算との差異は大きくないか | 資金収支計算書 | 予算超過や未執行の理由は何か |
| 赤字拠点はあるか | 拠点区分別資料 | 改善方針を説明できるか |
| 現預金は十分か | 貸借対照表 | 給与・賞与・返済に耐えられるか |
| 未収金・未払金は妥当か | 貸借対照表、明細 | 長期滞留や計上漏れがないか |
| 借入金の返済に無理はないか | 附属明細書 | 翌年度以降の返済予定を把握しているか |
| 積立金の目的は明確か | 貸借対照表、明細 | 積立・取崩しの説明ができるか |
社会福祉法人は、毎会計年度終了後、所定の計算書類等を作成し、所轄庁への提出や情報開示も必要になります。提出期限や承認手続きは、決算作業の最後ではなく、年間スケジュールとして管理することが重要です。
よくある質問
社会福祉法人の決算書は株式会社の決算書と何が違いますか?
株式会社では貸借対照表と損益計算書を中心に見ることが多いですが、社会福祉法人では資金収支計算書、事業活動計算書、貸借対照表を組み合わせて見ます。また、法人全体だけでなく、事業区分・拠点区分ごとの資料が重要です。
理事や評議員は会計の専門知識がないといけませんか?
細かな仕訳まで理解する必要はありません。ただし、決算書が何を表しているか、前年度や予算から大きく変動した理由、法人運営に影響する資金繰りや借入金の状況は確認できるようにしておくことが望ましいです。
黒字なら安心と考えてよいですか?
黒字でも安心とは限りません。未収金が増えて現預金が不足している、借入返済が重い、特定の拠点だけ赤字が続いているなど、事業活動計算書だけでは分からないリスクがあります。資金収支計算書と貸借対照表も合わせて確認しましょう。
決算説明資料には何を添えるとよいですか?
決算書本体に加えて、前年度比較、予算差異、拠点別収支、主要な増減理由、借入金残高、積立金の状況をまとめると説明しやすくなります。会計資料だけでなく、利用者数、職員数、稼働率、加算取得状況などの運営データもあると判断しやすくなります。
まとめ
社会福祉法人の決算書は、会計担当者だけの資料ではなく、理事会・評議員会で法人運営を確認するための重要な資料です。
- 資金収支計算書は、資金の入りと出、資金繰りを見る資料
- 事業活動計算書は、日常運営の収支状況を見る資料
- 貸借対照表は、決算日時点の財産、債務、純資産を見る資料
- 法人全体だけでなく、事業区分・拠点区分ごとの状況確認が重要
- 会議前には、前年度比較、予算差異、主要な増減理由を整理しておく
決算書を読む目的は、数字を暗記することではありません。法人が安定して福祉サービスを継続できる状態かを確認し、必要な改善や説明責任につなげることです。会議直前に慌てないためにも、月次の段階から収支、資金、拠点別の状況を把握しておくことが大切です。
参照ソース
- 厚生労働省「社会福祉法人会計基準」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13281.html
- e-Gov法令検索「社会福祉法人会計基準」: https://laws.e-gov.go.jp/law/428M60000100079/
- WAM NET「社会福祉法人の現況報告書等情報検索」: https://www.wam.go.jp/wamnet/zaihyoukaiji/pub/PUB0200000E00.do
- 厚生労働省「財務諸表等電子開示システム」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/shakai-fukushi-houjin-seido/07.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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