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福祉事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

福祉事業のICT導入事例と効率化の進め方

11分で読めます
福祉事業のICT導入事例と効率化の進め方

福祉事業のICT導入は、単に紙をデジタルに置き換えるだけではなく、記録、請求、職員間連絡、勤怠、経営管理をつなげて、現場の負担を減らす取り組みです。特に障害福祉サービスや児童福祉、就労支援の現場では、支援記録、個別支援計画、加算管理、国保連請求、シフト調整、家族連絡が分断されやすく、同じ情報を何度も転記している事業所も少なくありません。

結論から言えば、福祉事業でICTを導入するなら、まずは記録・請求・連絡のどこに時間がかかっているかを洗い出し、現場の業務フローに合う範囲から段階的に始めることが重要です。いきなり全機能を導入するより、日々の記録入力、申し送り、請求チェックのように効果が見えやすい業務から着手すると、職員の定着や収支管理にもつながります。

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報酬、加算、人件費、資金繰り、月次管理を、事業所の実態に合わせて整理します。

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福祉事業でICT導入が必要になる背景

福祉事業では、利用者支援そのものに加えて、記録、計画書、モニタリング、加算管理、請求、勤怠、行政対応などの間接業務が多く発生します。厚生労働省の資料でも、障害福祉の現場では転記作業や帳簿間の情報連携が負担になりやすく、ICT活用が業務負担の軽減や支援の質の向上に役立つとされています。

現場でよくある課題は、次のようなものです。

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課題ICT導入前に起きやすいことICT導入後に期待できること
支援記録紙記録を後で入力し直すスマホやタブレットで現場入力できる
請求実績と記録の突合に時間がかかる記録から請求データへつなげやすい
職員連絡個人LINEや口頭連絡に頼るグループウェアで情報共有を統一できる
勤怠タイムカードをExcelへ転記する打刻・集計・給与連携を自動化しやすい
経営管理月末まで数字が見えない利用率、加算、未請求を早めに確認できる

実務上の注意点として、ICTは導入しただけでは効果が出ません。導入前に「誰が、いつ、どの情報を、どの画面に入力するか」を決めておかないと、紙とシステムの二重管理になり、かえって現場負担が増えることがあります。

ここがポイント
ICT導入の目的は、職員を減らすことではなく、記録や転記に使っていた時間を支援、面談、利用者対応、職員教育、経営判断に振り向けることです。費用対効果を見るときも、単純なソフト代だけでなく、残業削減、返戻防止、請求漏れ防止、管理者の確認時間短縮まで含めて考えます。

記録業務のICT導入事例

最も効果が出やすいのは、日々の支援記録のICT化です。紙の記録用紙に手書きし、後でパソコンへ入力する流れでは、記録漏れや転記ミスが起きやすく、管理者の確認にも時間がかかります。

たとえば、通所系の障害福祉サービスであれば、職員がタブレットやスマートフォンから支援内容、利用者の様子、送迎、食事、服薬、欠席連絡などを入力します。入力内容が日報、個別支援計画のモニタリング、実績管理につながれば、月末の確認作業を減らせます。

記録ICT化で見たいポイントは、次の3つです。

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確認項目見るべきポイント
入力しやすさスマホ対応、音声入力、定型文、選択式入力があるか
確認しやすさ管理者が未入力、未承認、異常値を一覧で見られるか
活用しやすさ記録が請求、計画書、家族連絡、監査資料に連動するか

現場入力のしやすさは特に重要です。パソコン操作に不慣れな職員が多い事業所では、機能の多さよりも、短時間で必要事項を入力できる画面設計の方が定着しやすくなります。

一方で、自由記述だけに頼ると、職員ごとに記録の粒度がばらつきます。定型文や選択肢を使いつつ、必要な場面では個別の状態を文章で残せる設計にすると、記録の質と効率を両立しやすくなります。

請求業務のICT導入事例

福祉事業の請求業務では、利用実績、サービス提供記録、加算要件、欠席対応、送迎、職員配置などを確認する必要があります。国保連請求の前に、実績と記録が合っているかを手作業で確認している場合、月末月初に管理者や事務担当者へ負担が集中します。

ICT導入の事例としては、記録ソフトと請求ソフトを連携させ、利用実績から請求データを作成する方法があります。これにより、記録漏れ、実績入力漏れ、加算の算定漏れを早めに発見しやすくなります。

請求ICT化で比較したいポイントは、次のとおりです。

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比較項目確認する内容
対応サービス自社の障害福祉サービス、児童福祉サービスに対応しているか
加算管理算定要件や職員配置との確認がしやすいか
国保連請求請求データ作成、エラーチェック、返戻対応に対応しているか
会計連携売上、未収金、入金管理に使いやすいデータが出せるか
権限管理管理者、事務担当、現場職員の閲覧範囲を分けられるか

実務上の注意点として、請求ソフトを入れても、加算の算定根拠や人員配置の管理が曖昧なままでは返戻や過誤請求のリスクは残ります。ICTは確認作業を助ける道具であり、最終的には事業所側で算定要件を理解しておく必要があります。

また、請求データと会計データが分断されていると、売上計上、未収金管理、入金消込に手間がかかります。請求と会計のつながりまで見ておくと、月次決算や資金繰り表の精度が上がります。

職員連絡・家族連絡のICT導入事例

福祉事業では、申し送り、欠席連絡、送迎変更、ヒヤリハット、職員シフト、研修案内など、日々多くの情報共有が発生します。これを口頭、紙、個人SNS、ホワイトボードで管理していると、伝達漏れや確認漏れが起きやすくなります。

職員連絡のICT化では、グループウェア、ビジネスチャット、掲示板、スケジュール管理ツールを使い、法人内の連絡を一元化します。厚生労働省の障害福祉ICT活用ガイドラインでも、グループウェア導入によりスケジュールや申し送りの一元管理、情報伝達の迅速化につながった事例が紹介されています。

家族連絡では、専用アプリや連絡帳機能を使い、紙の連絡帳をデジタル化する方法があります。欠席連絡、活動報告、写真共有、面談日程の調整などをシステム上で行えるため、電話対応や紙の持ち帰り漏れを減らせます。

ただし、利用者情報や支援内容には個人情報が含まれます。個人アカウントのSNSで業務連絡を続けることは、情報管理上のリスクがあります。法人として使用ツール、閲覧権限、退職時のアカウント停止、端末紛失時の対応ルールを決めておくことが欠かせません。

福祉事業の報酬と人件費を月次で整理

ICT導入前に整理すべき費用対効果

ICT導入では、ソフト利用料だけで判断すると失敗しやすくなります。初期設定、端末購入、Wi-Fi整備、職員研修、既存データ移行、運用ルール作成にもコストがかかるためです。

一方で、効果も単純な人件費削減だけではありません。次のような項目を含めて比較すると、投資判断がしやすくなります。

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区分主な内容経営上の見方
初期費用導入設定、端末、ネットワーク、研修一括費用か分割費用か確認する
月額費用ソフト利用料、保守料、オプション利用者数・職員数で変動するか確認する
削減効果転記時間、残業、紙、印刷、郵送月あたり何時間減るか試算する
収益改善請求漏れ防止、加算管理、返戻減少売上・入金管理への影響を見る
管理効果月次決算、資金繰り、監査対応経営判断の早期化につながるか見る

導入後3か月から6か月の定着期間を見込むことも大切です。導入直後は入力ルールの確認や職員研修が必要になり、一時的に負担が増えることがあります。その期間を想定せずに「すぐ効率化できる」と考えると、現場の不満につながります。

ここがポイント
補助金や助成金を活用できる場合でも、採択前の契約・発注が対象外になる制度があります。制度ごとに対象経費、申請期間、交付決定前着手の可否が異なるため、ICT導入の契約前に確認することが重要です。

導入を成功させる進め方

福祉事業のICT導入は、次の順番で進めると失敗しにくくなります。

  1. 現在の業務を記録、請求、連絡、勤怠、会計に分けて洗い出す
  2. 二重入力、転記、確認待ち、紙保管などの負担を特定する
  3. 最初に改善する業務を1つか2つに絞る
  4. 現場職員、管理者、事務担当者がそれぞれ試用する
  5. 入力ルール、承認ルール、権限管理を決める
  6. 月次で削減時間、請求漏れ、返戻、残業、利用率を確認する

特に比較検討段階では、デモ画面だけで判断せず、実際の支援記録や請求パターンに近いケースで試すことが大切です。短期入所、共同生活援助、生活介護、就労継続支援、放課後等デイサービスなど、サービス種別によって必要な記録や請求管理は異なります。

実務上の注意点として、ICT導入は現場部門だけで決めない方が安全です。請求、会計、給与、労務、監査対応にも影響するため、管理者、事務担当者、経理担当者が一緒に確認する必要があります。

よくある質問

福祉事業で最初にICT化すべき業務は何ですか?

多くの事業所では、日々の支援記録から始めると効果が見えやすくなります。記録が整うと、実績確認、請求、申し送り、監査資料作成にもつながるためです。ただし、月末月初の請求負担が大きい事業所では、請求ソフトとの連携を優先することもあります。

ICT導入で本当に人件費は下がりますか?

必ず人件費が下がるとは限りません。むしろ、職員の残業削減、管理者の確認時間短縮、返戻防止、請求漏れ防止、採用・定着への好影響として表れることが多いです。人件費削減だけでなく、支援時間を増やす投資として見ることが重要です。

補助金を使えば自己負担なしで導入できますか?

制度によって補助率、上限額、対象経費、申請時期が異なります。自己負担が必要な場合も多く、採択前に契約すると対象外になることもあります。補助金ありきでツールを選ぶのではなく、事業所の課題に合うかを先に確認しましょう。

ICT導入後に会計管理で注意することはありますか?

ソフト利用料、端末購入費、初期設定費、補助金収入の処理を整理する必要があります。月額利用料は経費処理、端末や設備は資産計上が必要になる場合があります。補助金を受けた場合は、収益計上時期や消費税の扱いも確認しておくと安心です。

まとめ

福祉事業のICT導入は、記録、請求、連絡を効率化し、管理者と現場職員の負担を減らす有効な手段です。

  • 最初に、記録・請求・連絡のどこに時間がかかっているかを洗い出す
  • 記録ソフトは、現場入力のしやすさと請求・監査への活用度で比較する
  • 請求ICT化では、加算管理、返戻防止、会計連携まで確認する
  • 職員連絡や家族連絡は、個人SNSではなく法人管理のツールへ移行する
  • 補助金を使う場合も、契約時期、対象経費、会計処理を事前に確認する

ICT導入は、ソフトを選ぶだけでなく、業務フロー、職員教育、請求管理、月次会計まで含めて設計することで効果が出ます。比較検討の段階では、導入費用だけでなく、請求漏れ防止、返戻減少、残業削減、月次決算の早期化まで含めて判断すると、自社に合う投資かどうかを見極めやすくなります。


参照ソース


この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

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