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福祉事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

福祉事業のハラスメント対策と就業規則

11分で読めます
福祉事業のハラスメント対策と就業規則

福祉事業のハラスメント対策は、職員同士のトラブル防止だけでなく、利用者・家族等から職員を守り、サービス提供を継続するための経営課題です。特に障害福祉や児童福祉の現場では、支援の密室性、感情労働、夜勤・送迎・訪問対応などが重なり、問題が表面化しにくい傾向があります。まずはハラスメント防止方針、相談窓口、再発防止、就業規則への明記を一体で整えることが重要です。

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福祉事業でハラスメント対策が重要な理由

福祉事業所では、職員の離職理由が「給与」だけとは限りません。人間関係、管理者の対応、利用者・家族とのトラブル、相談しても変わらない職場風土が重なると、優秀な職員ほど早く退職してしまいます。

ハラスメント対策が不十分な事業所では、次のような問題が起きやすくなります。

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起きやすい問題事業所への影響整備すべき対応
職員間のパワハラ・セクハラ離職、採用難、労務紛争禁止規定、相談窓口、懲戒規定
利用者・家族等からの暴言・威圧職員のメンタル不調、支援品質低下対応手順、記録、複数名対応
管理者の初動遅れ問題の長期化、職場不信報告ルート、調査手順、再発防止
ルールが口頭のみ指導・処分の根拠不足就業規則、ハラスメント防止規程

福祉事業では「利用者支援を優先するあまり、職員が我慢する」構図になりがちです。しかし、職員が安心して働けない状態では、安定した支援体制は維持できません。ハラスメント対策は職員保護とサービス品質の両方を守る仕組みとして考える必要があります。

ここがポイント
ハラスメント対策は、単に研修を1回実施すれば足りるものではありません。方針の明確化、相談体制、事実確認、再発防止、就業規則との整合までを継続的に運用することが重要です。

対策すべきハラスメントの種類

福祉事業所で整理すべきハラスメントは、大きく「職場内」と「利用者・家族等からのもの」に分けられます。就業規則では職員同士の行為を中心に定め、別途マニュアルや対応手順で利用者・家族等への対応を補う形が実務的です。

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種類主な内容福祉現場での例
パワーハラスメント優越的関係を背景に業務上必要かつ相当な範囲を超える言動管理者が特定職員を大声で叱責する、過大な業務を押し付ける
セクシュアルハラスメント性的な言動により就業環境を害する行為身体への不必要な接触、性的な冗談、交際の強要
妊娠・出産・育児介護等ハラスメント制度利用や妊娠等を理由に不利益・嫌がらせをする行為育休希望者に退職を示唆する、時短勤務者を責める
カスタマーハラスメント利用者・家族等からの著しい迷惑行為暴言、威圧、過度な要求、長時間の拘束、性的言動

実務上の注意点として、利用者の障害特性や症状に起因する言動と、職員の安全を脅かす行為を単純に同一視しないことが大切です。ただし、「福祉だから仕方ない」と放置するのも適切ではありません。記録、チーム対応、管理者判断、関係機関連携を組み合わせて、支援継続と職員保護のバランスを取る必要があります。

就業規則に入れるべき基本項目

ハラスメント対策を実効性のあるものにするには、就業規則またはハラスメント防止規程にルールを明記する必要があります。口頭の注意だけでは、問題発生時に「何が禁止されているのか」「どのような処分があり得るのか」が曖昧になります。

最低限、次の項目を整備しておきましょう。

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項目記載する内容ポイント
目的職員が安心して働ける職場環境を守ること法令遵守だけでなく職員保護を明記
定義パワハラ、セクハラ、妊娠・育児介護等ハラスメント等具体例を別表にすると理解しやすい
禁止行為暴言、威圧、差別的言動、性的言動、報復行為など管理者・正職員・パートを問わず対象にする
相談窓口相談先、相談方法、秘密保持外部窓口の併用も検討
事実確認ヒアリング、記録、関係者への配慮被害者・相談者への二次被害を防ぐ
懲戒・配置転換就業規則上の懲戒事由との関係処分の根拠を明確にする
再発防止研修、面談、職場改善相談後の放置を防ぐ

特に相談者への不利益取扱い禁止は必ず明記したい項目です。相談した職員が「勤務シフトを減らされた」「評価を下げられた」と感じると、制度があっても誰も使わなくなります。

また、福祉事業所ではパート、登録ヘルパー、夜勤専従、送迎職員など雇用形態が複数に分かれることがあります。就業規則本体だけでなく、パートタイム・有期雇用労働者向けの規程との整合も確認しましょう。

利用者・家族等からのハラスメント対応手順

障害福祉の現場では、利用者や家族等からのハラスメント対応も重要です。厚生労働省は、障害福祉の現場における利用者や家族等によるハラスメントの実態や、事業者として取り組むべき対策を示したマニュアル等を公表しています。

事業所内では、次のような手順を整備すると実務に落とし込みやすくなります。

  1. どのような行為を記録対象にするか決める
  2. 発生時の報告先を明確にする
  3. 管理者が事実確認を行う
  4. 必要に応じて複数名対応、担当変更、面談を行う
  5. 相談支援専門員、行政、医療機関、家族等と連携する
  6. 再発防止策を職員に共有する

ここで大切なのは、現場職員だけに判断を任せないことです。実務上の注意点として、利用者・家族対応は感情的な対立になりやすいため、個人対応ではなく組織対応に切り替える基準をあらかじめ決めておく必要があります。

たとえば、次のようなケースでは管理者が早期に関与すべきです。

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状況対応の目安
暴言・威圧が繰り返される記録を残し、管理者面談を検討
職員への性的言動がある単独対応を避け、支援体制を見直す
過度な要求で業務が止まる契約内容・重要事項説明書との整合を確認
職員が出勤不安を訴える産業保健、配置、相談窓口を含めて対応
ここがポイント
利用者・家族等への対応ルールは、就業規則だけで完結させるよりも、ハラスメント対応マニュアル、事故・苦情対応手順、重要事項説明書、契約書の説明内容と合わせて整えると運用しやすくなります。
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研修と記録で「運用される仕組み」にする

ハラスメント防止規程を作っても、職員が内容を知らなければ機能しません。福祉事業所では、新入職員研修、管理者研修、年1回程度の全体研修、ケース会議での振り返りを組み合わせると、現場に定着しやすくなります。

研修では、抽象的な説明だけでなく、福祉現場で起きやすい場面を扱うことが重要です。

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研修テーマ対象者目的
ハラスメントの基本知識全職員禁止行為と相談先を理解する
管理者の初動対応管理者・主任相談受付、記録、事実確認を学ぶ
利用者・家族対応支援職員単独対応を避ける基準を共有する
就業規則・懲戒規定管理者・人事担当指導と処分の根拠を確認する

また、相談記録、ヒアリング記録、対応経過、再発防止策を残すことも欠かせません。記録がないと、後日トラブルが大きくなった際に、事業所として適切に対応したことを説明しにくくなります。

実務上の注意点として、記録は「誰が悪いか」を決めつけるためではなく、事実関係と事業所の対応を残すために作成します。感情的な表現や評価的な言葉を避け、日時、場所、発言、対応者、次の対応を客観的に記載しましょう。

整備状況を確認するチェックリスト

福祉事業所のハラスメント対策は、次のチェックリストで現状を確認できます。

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確認項目できているか
ハラスメント防止方針を職員に周知している
就業規則または別規程に禁止行為を定めている
相談窓口と相談方法を明確にしている
相談者への不利益取扱い禁止を定めている
管理者向けの初動対応ルールがある
利用者・家族等からのハラスメント対応手順がある
研修を定期的に実施している
相談・対応記録の様式がある
懲戒規定との整合を確認している
パート・有期雇用職員にも周知している

チェックが少ない場合、まずは就業規則、ハラスメント防止規程、相談窓口、研修資料の4点から整備すると進めやすくなります。福祉事業では人員配置基準や加算対応もあり、職員の離職は経営に直結します。労務管理を後回しにせず、早めに仕組み化することが大切です。

よくある質問

Q: 小規模な福祉事業所でも就業規則にハラスメント規定は必要ですか?
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が必要です。人数にかかわらず、ハラスメント防止方針や相談窓口を明確にしておくことは重要です。小規模事業所ほど人間関係が固定化しやすいため、口頭ルールだけに頼らない方が安全です。
Q: 利用者の障害特性による言動もハラスメントとして扱うべきですか?
一律にハラスメントと決めつけるのではなく、障害特性、支援計画、発生状況、職員の安全、サービス継続可能性を総合的に判断します。ただし、職員が危険や強い精神的負担を感じている場合は、記録を残し、管理者が組織として対応する必要があります。
Q: 相談窓口は管理者だけでよいですか?
管理者が相談先になることはありますが、管理者自身が当事者になるケースもあります。そのため、法人本部、別の役職者、外部窓口など複数の相談先を用意すると、職員が相談しやすくなります。相談先が1つだけだと、実際には相談できない職員が出る可能性があります
Q: 就業規則を変更したら何をすればよいですか?
就業規則を変更した場合は、労働者代表の意見聴取、労働基準監督署への届出、職員への周知が必要です。規程を作成して保管するだけでは不十分で、職員がいつでも内容を確認できる状態にすることが大切です。

まとめ

福祉事業のハラスメント対策は、職員を守るだけでなく、安定した支援体制と事業継続を守るための重要な経営課題です。

  • 福祉事業所では、職員間のハラスメントと利用者・家族等からのハラスメントを分けて整理する
  • 就業規則には、禁止行為、相談窓口、不利益取扱い禁止、懲戒、再発防止を明記する
  • 利用者・家族等への対応は、個人対応ではなく組織対応に切り替える基準を決める
  • 研修と記録をセットにし、規程を「作っただけ」で終わらせない
  • 人員配置や職員定着に直結するため、労務管理と経営管理を一体で見直す

ハラスメント対策は、問題が起きてから慌てて整えるよりも、平時からルールを明確にしておくことが重要です。就業規則、雇用契約書、重要事項説明書、研修記録をあわせて確認し、自事業所の実態に合った運用体制を整えていきましょう。


参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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