これからクリニックを開業しようとしている医師にとって、診療科目や立地、スタッフの採用など、考えることは多くあるでしょう。しかし、見落としがちなのが「税務」の部分です。
とくに開業初期は、適切な税務処理を行わないと後々思わぬ税負担やキャッシュフローの悪化につながりかねません。
そこで、本記事では、クリニック開業時に注意すべき税務ポイント5つについて、わかりやすく解説します。
1. 「開業費」と「創立費」の違いを正しく理解する
開業準備にかかる費用の中で、「これは経費?資産?」と迷うことが多いのが開業費や創立費です。
経費とは、売上を得るために発生する支出のことです。事務用品費や交通費などが含まれ、その年の費用として計上されます。
経費を計上することで利益が減り、法人税負担が軽くなるため、節税効果も得られます。
資産とは、将来的に利益をもたらすために購入した建物や車両、機械などのことです。これらの支出は一度に経費として計上せず、使用期間に応じて「減価償却」という方法で徐々に費用化します。
意外と知らない!税務上の「資産計上」と「経費化」の違い
「資産計上」と「経費化」は、支出の処理方法が異なります。
資産計上は、将来的に利益を生むと考えられる支出を資産として記録し、減価償却を通じて使用期間にわたって費用化します。
一方、経費化は、その支出がすぐに消費されることを意味し、発生した年度に一括で経費として計上します。
つまり、資産計上は長期的な価値を考えるのに対し、経費化は短期的な支出の処理を行う方法です。
節税にも影響する「会計処理」の注意点とは?
会計処理は節税に大きく影響するため、正確な記帳が重要です。
まず、売上と経費を適切に分類し、課税売上と非課税売上を明確に区別します。また、経費の計上時期も節税に影響するため、発生時期を意識して正しく処理しましょう。
さらに、消費税の控除を受けるためには、必要な書類を保存しておくことが重要です。
書類の準備が不十分であると、不正確な税務申告や余分な税負担を招く可能性があるため、専門家のアドバイスを受けることもおすすめです。
2. 医療機器や内装費の減価償却はどうする?
診療所の内装工事や高額な医療機器の導入は、開業時の大きな支出です。医療機器や内装費の減価償却の扱い方を誤ると、税務上の問題になる可能性があります。
開業時に多い“高額資産”の取り扱い
クリニック開業時には、医療機器や診察台、医薬品保管用の冷蔵庫などの高額資産が必要です。
医療機器や診察台などの資産は購入時に大きな支出となりますが、減価償却を通じて数年にわたり経費計上が可能です。
減価償却とは、資産の取得費用を各年度に分散して支出として計上し、税負担を軽減します。高額資産の計画的な管理が、クリニックの安定した運営には不可欠です。
「一括償却」「少額減価償却資産」の使い分け
クリニック開業時、資産の「一括償却」と「少額減価償却資産」を使い分けましょう。
取得価額が30万円未満の資産については、経費計上の方法に特例があります。
「一括償却」と「少額減価償却資産」をうまく使い分けることで、初年度のキャッシュフローを改善できます。
少額減価償却資産の特例:取得価額が30万円未満の資産について、一定の要件(青色申告など)のもと、年間合計300万円まで購入した年に全額を経費にできる制度です。初年度の利益を圧縮したい場合に有効です。
一括償却資産:取得価額が20万円未満の資産について、使用年にかかわらず3年間で均等に分けて経費計上する方法です。償却資産税の対象外になるというメリットもあります。
3. スタッフの給与・社会保険の取り扱い
受付スタッフや看護師などの人件費はクリニック運営上、避けて通れません。正確な給与計算や保険の手続きが必要となります。
ここでは、スタッフの給与および社会保険の取り扱いについて解説します。
スタッフの給与処理
クリニック開業時のスタッフの給与処理では、以下のポイントに注意が必要です。期限を守らないと罰則の対象となることもあるため、手続きは迅速に行いましょう。
社会保険(健康保険・厚生年金保険):原則として、法人を設立したり、常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所になったりした事実発生から5日以内に「新規適用届」を提出します。従業員の採用時は、採用日から5日以内に「被保険者資格取得届」の提出が必要です。
雇用保険:従業員を雇用した翌日から10日以内に「保険関係成立届」を、従業員の資格取得日の属する月の翌月10日までに「被保険者資格取得届」を提出します。
さらに、スタッフとのコミュニケーションを大切にし、給与明細を分かりやすく提示することも信頼関係の構築につながります。
社会保険・雇用保険の届出タイミングに注意!
クリニック開業時には、社会保険と雇用保険の届出のタイミングに注意しましょう。
一般的に、スタッフを雇用した際は、すぐに社会保険と雇用保険の加入手続きを行う必要があります。
具体的には、社会保険は「初回の給与支払月の翌月」までに、雇用保険は「雇用開始日から10日以内」に届け出ます。期限を守らないと、遅延や罰則の対象となることがあります。
また、加入対象者の確認も大切で、パートやアルバイトでも一定の条件を満たす場合は加入が義務づけられます。
社会保険:初回の給与支払月の翌月
雇用保険:雇用開始日から10日以内
4. 消費税の免税期間と“落とし穴”
開業初年度は消費税の納税義務が免除されることがありますが、すべてのケースに当てはまるわけではありません。
開業1年目は免税になる?ならない?
クリニック開業1年目は、消費税の免税事業者に該当する場合があります。
具体的には、前々年の売上高が1,000万円以下の場合、開業初年度は消費税を納める必要がありません。ただし、売上が1,000万円を超えると、翌年からは課税事業者となり、消費税の申告と納税が義務付けられます。
開業後の売上見込みを注意深く確認し、専門家と相談しながら、適切に対応することが大切です。
「自費診療」や「美容医療」の場合は要注意!
クリニックでは、保険診療は非課税ですが、自費診療や美容医療は課税対象です。
課税売上と非課税売上のバランスによっては、仕入控除が受けられないなど、損をするケースもあります。
このため、課税売上と非課税売上のバランスが重要です。もし課税売上が少ないと、仕入れにかかる消費税の控除が受けられず、経済的に不利になることがあります。例えば、自費の売上が少ないクリニックでは、仕入れ費用に対応する控除ができず、税負担が増える可能性があります。
収益の構成をしっかり管理し、適切に税務対策しましょう。
5. 顧問税理士は必要?医師専門の税理士を選ぶメリット
開業後のクリニック経営には、専門家の継続的なサポートがあるかどうかで大きな差が出ます。
ここでは、クリニック開業時に医業に強い税理士を選ぶメリットについて紹介します。
開業医と一般企業では“税務の常識”が違う
開業医と一般企業では、税務の常識が大きく異なります。医業特有の収入や経費、減価償却の考え方、保険請求など、専門的な知識が必要です。
医業に強い税理士なら、医業に特化した正確で有利な節税や経営アドバイスが受けられ、開業後も安心して診療に専念できます。
クリニック開業時には医業特有の収益構造や、医療法人へのステップアップを見越した設計が必要です。一般的な会計事務所では見落としがちな部分を、医業に強い税理士であれば対応できます。
節税・融資・法人化…税理士がいると何が変わる?
税理士は単に経費処理をサポートするだけでなく、金融機関との交渉や資金繰りの相談、さらに開業後の節税対策まで幅広く支援します。
数字の専門家として、医師の経営を多角的にサポートする“経営のパートナー”ともいえる存在でしょう。
まとめ|医師専門の税理士をパートナーにしましょう
クリニック開業は、医師にとって初めての「経営者デビュー」でしょう。適切な税務処理は、スムーズな開業・安定した運営・節税につながります。
クリニック開業を失敗しないためにも、医業に強い税理士とタッグを組み、税務の不安を解消しましょう。
当事務所では、新規開業だけでなく、承継に関する依頼も承っています。お気軽にお問い合わせください。