整形外科クリニックの採用戦略完全ガイド – 人材確保で成功する7つのステップ

整形外科クリニックを開業・運営されている先生方から、「理学療法士や看護師が集まらない」「せっかく採用しても定着しない」というご相談を多数いただきます。

当事務所は、医療業界特化の税理士法人として30年以上の実績があり、250以上の医療機関の開業支援・経営サポートを行ってきました。その中で、採用戦略の成功が経営安定に直結することを数多く見てきました。この記事では、整形外科クリニックにおける効果的な人材確保の方法を、実務経験と税務・労務の専門知識に基づいて解説します。

【最終更新日: 2025年10月10日】

目次

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整形外科クリニックにおける採用の課題

人材不足の現状とデータ

厚生労働省の医療従事者の需給に関する統計によると、理学療法士の有効求人倍率は全国平均で2.5倍を超えており、特に大阪などの都市部では競争が激化しています。

整形外科クリニックでは以下の職種で特に人材不足が深刻です:

  • 理学療法士(PT) – リハビリテーション業務の中核
  • 看護師 – 診察補助、処置対応
  • 放射線技師 – X線撮影業務
  • 医療事務 – 受付・レセプト業務
⚠️ 注意
当事務所の調査では、整形外科クリニックの約70%が「理学療法士の確保に苦労している」と回答しています。

採用コストの実態

医療業界における採用コストは、一般業界と比較して高額になる傾向があります。当事務所がサポートしている整形外科クリニックの採用コスト実例:

職種 求人広告費 紹介会社手数料 合計目安
理学療法士 10〜30万円 年収の20〜30% 50〜100万円
看護師 5〜20万円 年収の15〜25% 30〜80万円
医療事務 3〜10万円 年収の10〜20% 10〜40万円

離職率の問題

医療業界の離職率は一般産業と比較して高く、特に入職後3年以内の離職が多い傾向にあります。離職の主な理由:

  1. 労働環境への不満 – 残業時間、休日数
  2. 人間関係のトラブル – スタッフ間、医師との関係
  3. キャリアアップの機会不足 – 研修制度の欠如
  4. 給与への不満 – 市場相場との乖離

離職による損失は、採用コストだけでなく、業務効率の低下、患者満足度の低下にも繋がります。

成功する採用戦略の7つのステップ

当事務所がサポートした250以上の医療機関の成功事例から導き出した、効果的な採用戦略をご紹介します。

ステップ1: ターゲット人材の明確化

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求める人材像の定義

まずは「どんな人材が必要か」を具体的に定義します。

  • 必須スキル: 整形外科での実務経験、特定の治療技術
  • 歓迎スキル: スポーツリハビリ経験、高齢者対応経験
  • 人物像: コミュニケーション能力、チームワーク重視
  • 勤務条件: フルタイム/パート、週〇日勤務など
✓ 成功事例
A整形外科クリニック(大阪市)では、「スポーツ外傷に強い理学療法士」とターゲットを明確化し、スポーツトレーナー協会の求人媒体で募集。結果、3名の応募があり、2名採用に成功しました。

ステップ2: 魅力的な求人票の作成

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候補者の心に響く求人票

求人票は「クリニックの顔」です。以下の要素を必ず含めましょう。

求人票に含めるべき要素:

項目 記載内容
クリニックの特徴 診療方針、患者層、治療機器の充実度
働く環境 スタッフ構成、雰囲気、チーム医療の実践
キャリア支援 研修制度、学会参加支援、資格取得支援
待遇・福利厚生 給与レンジ、賞与、社会保険、有給休暇
勤務条件 勤務時間、休日、残業の有無
応募方法 連絡先、応募書類、選考フロー

NG表現:

  • ❌ 「アットホームな職場です」(具体性なし)
  • ❌ 「やりがいのある仕事」(抽象的すぎ)
  • ❌ 給与レンジが不明確(「応相談」のみ)

推奨表現:

  • ✓ 「スタッフ平均年齢32歳、月1回の勉強会を実施」
  • ✓ 「最新の超音波治療器・牽引装置完備」
  • ✓ 「理学療法士: 月給28〜38万円(経験により優遇)」

ステップ3: 適切な募集チャネルの選択

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効果的な募集媒体の組み合わせ

職種によって効果的な募集チャネルは異なります。

理学療法士

  • PT-OT-ST.NET
  • GUPPY(グッピー)
  • リハビリ職専門の人材紹介
  • 養成校への求人票送付

看護師

  • ナース専科
  • 看護roo!(ルー)
  • マイナビ看護師
  • ハローワーク

医療事務

  • Indeed(インディード)
  • タウンワーク
  • ハローワーク
  • 地域求人誌

コスト対効果の高い組み合わせ例:

  1. 無料媒体(ハローワーク、Indeed無料掲載)で反応を見る
  2. 応募が少なければ、専門求人サイトの有料プランを追加
  3. 急ぎの場合は人材紹介会社を併用(成功報酬型)

ステップ4: 面接・選考プロセスの最適化

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スピード感と丁寧さのバランス

優秀な人材は複数のクリニックから内定をもらいます。スピーディな対応が鍵です。

推奨選考フロー(応募から内定まで2週間以内):

ステップ 期間 内容
書類選考 応募から3日以内 履歴書・職務経歴書の確認、面接日程調整
一次面接 書類選考から1週間以内 院長・事務長による面接、クリニック見学
二次面接(任意) 一次面接から3日以内 実技テスト、既存スタッフとの面談
内定通知 最終面接から3日以内 労働条件通知書の交付、入職日調整
💡 面接のポイント
一方的な質問だけでなく、候補者からの質問時間を十分に設けましょう。双方向のコミュニケーションが、入職後のミスマッチを防ぎます。

ステップ5: 給与・待遇設計

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市場相場を踏まえた競争力のある条件

大阪エリアの整形外科クリニックにおける給与相場(2025年時点):

職種 経験年数 月給相場 年収相場
理学療法士 新卒 24〜28万円 350〜400万円
理学療法士 3〜5年 28〜35万円 400〜500万円
理学療法士 10年以上 35〜45万円 500〜650万円
看護師 3〜5年 26〜32万円 380〜480万円
医療事務 経験者 20〜25万円 280〜350万円

給与以外の待遇で差別化:

  • ✓ 研修費用の全額負担(学会参加、資格取得)
  • ✓ 育児・介護との両立支援(時短勤務、フレックス制)
  • ✓ 退職金制度の導入(小規模企業共済など)
  • ✓ 交通費全額支給、住宅手当

ステップ6: オンボーディング計画

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入職後の定着を見据えた受け入れ体制

採用成功の鍵は「入職後3ヶ月」にあります。

効果的なオンボーディングプログラム例:

期間 内容
入職初日 院内ツアー、スタッフ紹介、システム操作研修
1週間目 診療の流れ習得、先輩スタッフとのシャドーイング
2週間目 担当患者の割り当て(先輩のフォロー付き)
1ヶ月目 独り立ち、定期面談(院長・事務長)
3ヶ月目 評価面談、今後のキャリアプラン相談

メンター制度の導入:

新入職員1名に対して、先輩スタッフ1名をメンター(指導者)として配置。業務の質問だけでなく、人間関係の悩みなども相談できる環境を整えます。

ステップ7: 定着率向上施策

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長期的な雇用を実現する仕組み作り

採用コストを無駄にしないために、定着率向上は必須です。

定着率を高める5つの施策:

  1. 定期的な1on1ミーティング – 月1回、院長または事務長との個別面談
  2. キャリアパスの明示 – 昇給基準、役職の道筋を明確化
  3. 働きやすい環境整備 – 残業削減、有給取得推奨、休憩スペース改善
  4. チームビルディング – 定期的な食事会、院内イベント
  5. 公平な評価制度 – 人事評価シートの導入、透明性の確保
✓ 実務ポイント
当事務所でサポートしているBクリニック(堺市)では、評価制度導入後、3年以内の離職率が40%から15%に改善しました。

採用時の税務・労務のポイント

採用には税務・労務の専門知識が不可欠です。ここでは、税理士の視点から注意すべきポイントを解説します。

給与設定の考え方と税務上の注意点

給与設定で考慮すべき税務要素:

項目 内容
源泉所得税 給与から天引きし、翌月10日までに納付
住民税 特別徴収(給与天引き)が原則
社会保険料 健康保険・厚生年金(労使折半)
雇用保険料 従業員0.6%、事業主0.95%(2025年度)

手取り額のシミュレーション例:

理学療法士(月給30万円、独身、扶養なし)の場合:

総支給額: 300,000円
控除合計: 約60,000円
(内訳: 健康保険15,000円、厚生年金27,000円、雇用保険1,800円、所得税6,000円、住民税10,000円)

手取り額: 約240,000円

求人票に記載する際は、総支給額と手取り額の違いを候補者に説明できるよう準備しておきましょう。

⚠️ 注意事項
パート・アルバイトでも、週20時間以上勤務の場合は社会保険加入義務があります(2024年10月〜従業員51人以上の事業所、2025年10月〜従業員11人以上に拡大予定)。

社会保険の手続きとコスト

採用時に必要な社会保険手続き:

  1. 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 – 入職から5日以内に年金事務所へ提出
  2. 雇用保険 被保険者資格取得届 – 入職月の翌月10日までにハローワークへ提出
  3. 給与所得者の扶養控除等申告書 – 入職時に本人から受領
  4. 年金手帳の確認 – 基礎年金番号の把握

社会保険料の事業主負担額(月給30万円の場合):

保険 事業主負担額
健康保険 約15,000円
厚生年金 約27,000円
雇用保険 約2,900円
合計 約44,900円

つまり、月給30万円のスタッフを雇用する場合、実際のコストは約35万円(給与30万円+社会保険4.5万円+その他福利厚生)となります。

就業規則の整備

従業員が10名以上になった場合、就業規則の作成・届出が義務となります。10名未満でも、トラブル防止のため作成を推奨します。

就業規則に記載すべき主な事項:

  • 始業・終業時刻、休憩時間
  • 休日・休暇(有給休暇、産休・育休など)
  • 賃金の決定・計算方法、支払時期
  • 退職・解雇の事由、手続き
  • 安全衛生に関する事項
  • 服務規律、懲戒処分

当事務所の医療コンサルティングサービスでは、就業規則のひな型提供や社労士紹介も行っております。

よくある質問(FAQ)

Q. 理学療法士の適正給与はどのように決めればいいですか?
A. 地域の相場、経験年数、保有資格を基準に設定します。大阪エリアでは、新卒で月給24〜28万円、経験3〜5年で28〜35万円が相場です。競合クリニックの求人情報を参考に、やや上回る水準に設定すると応募が集まりやすくなります。また、基本給だけでなく、資格手当や勤続手当を設けることで、長期勤務へのインセンティブを与えることも有効です。
Q. パートタイム採用とフルタイム採用、どちらが良いですか?
A. クリニックの患者数と診療時間によります。開業直後や午後のみ診療のクリニックでは、パートタイムから始めて、患者数増加に応じてフルタイムに切り替えるケースが多いです。パートタイムのメリットは人件費の柔軟性、デメリットは急な欠勤時の対応が難しい点です。理想は、フルタイム2名+パート1〜2名の組み合わせで、シフトに柔軟性を持たせることです。
Q. 採用にかかる費用は経費として認められますか?

A. はい、採用費用は全額経費として計上できます。具体的には以下が該当します:

  • 求人広告費(Webサイト掲載料、求人誌広告費)
  • 人材紹介会社への手数料
  • 面接時の交通費負担
  • 採用イベント参加費

ただし、領収書や請求書は必ず保管してください。当事務所では、採用費用の適切な計上方法もアドバイスしています。

Q. 試用期間は設けるべきですか?
A. 試用期間の設定を推奨します。一般的には3〜6ヶ月間です。試用期間中は、本採用前にスキルや勤務態度を見極めることができます。ただし、試用期間中でも労働基準法は適用されるため、不当な解雇はできません。また、試用期間中の給与を本採用後より低く設定する場合は、求人票に明記する必要があります。
Q. 応募が全く来ない場合、どう改善すればいいですか?

A. 以下の点を見直してください:

  1. 給与水準 – 相場より低すぎないか
  2. 求人票の内容 – 魅力が伝わっているか、具体性があるか
  3. 募集媒体 – ターゲット層に届いているか
  4. 応募条件 – 厳しすぎないか(経験年数、資格要件)

また、クリニックの立地、診療時間(夜間・土日診療の有無)も影響します。当事務所では、250以上の医療機関の採用支援実績から、貴院に最適な改善策をご提案できます。

まとめ

整形外科クリニックの採用成功には、以下の7つのステップが重要です:

  • ターゲット人材の明確化 – 求める人材像を具体的に定義
  • 魅力的な求人票の作成 – クリニックの特徴を具体的に伝える
  • 適切な募集チャネルの選択 – 職種に応じた媒体の使い分け
  • 面接・選考プロセスの最適化 – スピード感と丁寧さのバランス
  • 給与・待遇設計 – 市場相場を踏まえた競争力のある条件
  • オンボーディング計画 – 入職後3ヶ月のフォロー体制
  • 定着率向上施策 – 長期雇用を実現する仕組み作り

また、採用時の税務・労務手続きも忘れてはいけません。給与設定、社会保険加入、就業規則整備など、専門知識が必要な分野です。

当事務所は、医療業界特化の税理士法人として30年以上の実績があり、250以上の医療機関の開業支援・経営サポートを行ってきました。採用戦略のご相談から、給与計算、社会保険手続きまで、ワンストップでサポートいたします。

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この記事の執筆者

税理士法人 辻総合会計

医療業界特化の税理士法人として30年以上の実績。大阪を拠点に、300以上の医療機関の開業支援・税務顧問を担当。医療法人設立は100件以上のサポート実績を持つ。クリニックの採用戦略、給与設計、労務管理についても豊富なコンサルティング経験を有する。

連絡先: 06-6206-5510

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