
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
経理担当が突然辞めた時にまずやること

経理担当者が突然辞めた時に最初にやるべきことは、会計入力を急ぐことではありません。まずは支払予定、給与支給、税金・社会保険の納期限、入金予定を確認し、会社のお金が止まらない状態を作ることです。特に一人経理だった会社では、担当者の頭の中にだけ支払ルール、ログイン情報、請求書の保管場所、月次決算の進め方が残っていることがあります。社長や管理部長は、完璧な引き継ぎを待つよりも、まず「今週・今月に事故になりやすい業務」を切り分けてください。
経理担当者退職時の個別相談
この記事の内容を、経理引き継ぎと月次停止リスクの整理に落とし込む相談をする
未処理資料、支払予定、会計ソフト、税務期限を確認し、止めないための優先順位を整理します。
まず止めてはいけない業務を分ける
経理担当者の突然退職で最も危険なのは、すべての業務を同じ緊急度で扱ってしまうことです。経理には、多少遅れても復旧できる業務と、遅れると信用・労務・資金繰りに直結する業務があります。
最優先は、外部への支払と従業員への給与です。仕訳入力や月次レポートの見栄えは後から整えられますが、買掛金、家賃、リース料、借入返済、給与、源泉所得税、社会保険料が止まると、取引先・従業員・金融機関との信頼に影響します。
| 優先順位 | 確認する業務 | まず見る資料 | 遅れた時の主なリスク |
|---|---|---|---|
| 1 | 給与支給 | 給与明細、勤怠、給与ソフト、振込データ | 従業員トラブル、労務問題 |
| 2 | 取引先・固定費の支払 | 請求書、支払予定表、ネットバンキング | 取引停止、督促、信用低下 |
| 3 | 税金・社会保険の納付 | 納付書、e-Tax、年金事務所書類 | 延滞、督促、資金繰り悪化 |
| 4 | 入金確認・請求漏れ | 売上請求書、通帳、請求システム | 売上回収遅れ、資金不足 |
| 5 | 月次決算・試算表 | 会計ソフト、通帳、カード明細 | 経営判断の遅れ、融資資料不足 |
実務上の注意点は、「誰が前任者の代わりに判断するか」をその日のうちに決めることです。支払承認者、給与確認者、銀行操作担当者、会計データ確認者が曖昧なままだと、二重支払や支払漏れが起こりやすくなります。
支払予定は今日中に一覧化する
経理担当者が突然辞めた時は、まず通帳、ネットバンキング、請求書フォルダ、メール、会計ソフトを確認し、今月中に支払うものを一覧にします。支払予定表が残っていない場合でも、前月の銀行出金履歴を見れば、家賃、リース、借入返済、カード引落、保険料、顧問料、外注費などの固定費を推定できます。
確認すべき項目は、支払先、金額、支払期限、支払方法、承認者、請求書の有無です。特に振込データが前任者のパソコンだけに保存されている場合、同じ支払を再作成する必要があります。
支払漏れよりも怖いのは、支払漏れを恐れて二重支払することです。請求書だけで判断せず、銀行の出金履歴、未払金台帳、会計ソフトの買掛金残高を照合してください。
支払予定を復旧する時の最低限のチェック表は次の通りです。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 未処理の請求書 | 郵送、メール、クラウド請求書、共有フォルダを確認 |
| 自動引落 | 家賃、リース、カード、保険、通信費、借入返済を確認 |
| 振込予約 | ネットバンキングに予約済みデータがないか確認 |
| 承認フロー | 誰が最終承認するかを明確化 |
| 二重支払防止 | 前月支払分、今月出金済み分、請求書を照合 |
支払日が今日または翌営業日のものは、請求書の細かい経費科目よりも、支払可否の判断を優先します。ただし、相手先や金額に不自然さがある場合は、前任者のメール履歴や契約書まで確認してください。
給与は締日・支給日・勤怠データを最優先で確認する
給与計算は、経理退職時に最もトラブルになりやすい業務です。給与は従業員の生活に直結し、労働基準法上も賃金は毎月一定期日に支払う必要があります。2026年5月時点でも、賃金支払の基本原則は、通貨払い、直接払い、全額払い、毎月1回以上、一定期日払いです。
まず確認するのは、給与の締日、支給日、勤怠データ、給与ソフト、前月の給与明細、住民税、社会保険料、源泉所得税です。給与担当も前任者一人だった場合、給与計算のルールが明文化されていないことがあります。
前月の給与明細を基準にして、今月の変動項目だけを確認すると、初動としては復旧しやすくなります。変動項目とは、残業、欠勤、通勤手当、入退社、昇給、賞与、社会保険料変更などです。
給与支給日まで3営業日以内の場合は、通常の月次決算より給与を優先してください。給与振込データの作成、銀行承認、源泉所得税の納付準備までを一連の流れとして確認する必要があります。
税金・社会保険の納期限をカレンダー化する
経理担当者が退職した直後は、税金や社会保険の納付書が届いていても、誰も期限を把握していないことがあります。源泉所得税は原則として給与等を支払った月の翌月10日が納期限で、納期の特例を受けている場合は扱いが変わります。健康保険・厚生年金保険料は、原則として納付対象月の翌月末日が納付期限です。
また、法人税や消費税の申告納付、地方税、住民税の特別徴収、労働保険料なども会社ごとに期限が異なります。前任者がカレンダーやリマインダーで管理していた場合、そのアカウントに入れなくなると期限管理が消えるため、紙の納付書と電子申告・電子納税の両方を確認してください。
最低限、次の期限を一覧化します。
| 項目 | 主な確認先 | 初動で見るポイント |
|---|---|---|
| 源泉所得税 | e-Tax、納付書、給与台帳 | 毎月納付か納期の特例か |
| 住民税特別徴収 | 市区町村通知書、納付書 | 従業員別の月額と納付方法 |
| 社会保険料 | 年金事務所通知、口座振替、納付書 | 翌月末納付、口座振替の有無 |
| 法人税・消費税 | 税理士資料、申告書控え | 決算月、予定納税、中間申告 |
| 労働保険料 | 労働局資料、年度更新書類 | 口座振替、分割納付の有無 |
税金や社会保険は、納付期限を過ぎてもすぐに業務が止まるとは限りません。しかし、延滞や督促が続くと、資金繰りや金融機関対応に影響します。納期限の見落としは、会計入力の遅れより優先して潰すべきリスクです。
月次決算は「正確さ」より「復旧順序」を決める
支払、給与、納付の目処が立ったら、月次決算の復旧に進みます。ここで大切なのは、前任者と同じやり方を完全に再現しようとしないことです。まずは、通帳、クレジットカード、請求書、領収書、給与、売掛金、買掛金のうち、どこまで資料が揃っているかを確認します。
月次決算の復旧は、次の順序で進めると混乱しにくくなります。
- 銀行口座と会計ソフトの残高を合わせる
- 売上請求書と入金予定を確認する
- 仕入・外注費・固定費の請求書を整理する
- 給与仕訳と社会保険料を確認する
- クレジットカード・現金経費を取り込む
- 前月までの試算表と大きな差異を確認する
最初から完璧な試算表を作ろうとすると、期限の近い実務が後回しになります。 まずは資金繰り判断に必要な売上、入金、支払、預金残高を優先し、細かい勘定科目の修正は後段で整理します。
融資審査、補助金実績報告、決算申告が近い場合は、通常より早く外部支援を入れた方が安全です。月次決算の遅れが、銀行提出資料や税務申告に連鎖するためです。
ログイン・権限・資料保管場所を棚卸しする
経理担当者の退職時には、業務そのものだけでなく、ログイン権限の整理も必要です。ネットバンキング、会計ソフト、給与ソフト、請求書システム、クラウドストレージ、電子契約、クレジットカード明細、e-Tax、eLTAXなど、経理担当者個人のメールアドレスや端末に依存しているケースがあります。
退職者のアカウントをそのまま使い続けるのは避けるべきです。一方で、急に削除すると請求書、証憑、過去メール、認証コードが見られなくなることがあります。まずは管理者権限を会社側に戻し、必要資料を保全してから、個人アカウントの停止やパスワード変更を行います。
確認すべき権限は次の通りです。
| 対象 | 確認すること |
|---|---|
| ネットバンキング | 利用者権限、承認者、振込限度額、予約データ |
| 会計ソフト | 管理者、連携口座、請求書・証憑の保存場所 |
| 給与ソフト | 従業員情報、勤怠連携、給与明細の発行権限 |
| メール・共有フォルダ | 請求書受信先、過去のやり取り、契約書 |
| e-Tax・eLTAX | 利用者識別番号、電子証明書、税理士権限 |
経理の属人化は、退職時に初めて表面化することが多い問題です。復旧後は、支払予定表、給与資料、月次決算手順、ログイン権限一覧を会社側で管理できる形に整えておく必要があります。
専門家に相談する前に整理しておく資料
経理担当者の突然退職は、社内だけで抱え込むより、早めに外部へ状況を共有した方が復旧しやすいケースがあります。特に、支払期限が迫っている、給与計算が止まっている、会計ソフトに入れない、月次決算が数か月遅れている、税理士との連携が前任者任せだった場合は、緊急度が高い状態です。
相談前にすべての資料を完璧に揃える必要はありません。次の資料が一部でもあれば、優先順位の判断がしやすくなります。
| 資料 | 用途 |
|---|---|
| 直近の試算表 | 月次決算の停止位置を確認 |
| 通帳・ネットバンキング明細 | 入出金、支払予定、資金残高を確認 |
| 請求書・支払予定表 | 未払・買掛金の洗い出し |
| 給与明細・勤怠データ | 給与支給と源泉税の確認 |
| 税金・社会保険の納付書 | 期限と未納リスクの確認 |
| 会計ソフトのログイン情報 | 記帳状況と連携状況を確認 |
資料が足りないこと自体は問題ではありません。問題なのは、何が足りないか分からないまま支払日や給与支給日を迎えることです。まずは現状の資料を見える場所に集め、支払・給与・納付・月次決算の順に仕分けしてください。
よくある質問
経理担当者が突然辞めたら、会計入力から始めるべきですか?
いいえ。最初に確認すべきなのは、支払、給与、税金・社会保険の納付、入金予定です。会計入力は重要ですが、数日遅れても復旧できる部分があります。まずは会社のお金の流れが止まらないようにします。
給与計算のやり方が分からない場合はどうすればよいですか?
前月の給与明細、勤怠データ、従業員一覧、住民税通知書、社会保険料の資料を集めます。給与支給日が近い場合は、月次決算よりも給与計算の復旧を優先します。入退社、残業、欠勤などの変動項目がある月は特に注意が必要です。
経理担当者のパソコンやメールを見てもよいですか?
会社の業務用端末・業務用メールであれば、会社の規程や管理権限に従って確認する必要があります。ただし、個人アカウントや私的な情報が混在している場合は慎重な扱いが必要です。請求書、契約書、振込データ、税務書類など業務資料の保全を優先してください。
経理を外注する場合、どこまで頼めますか?
記帳代行、月次決算、請求書整理、支払予定表の作成、給与資料の整理、税理士との連携などを外注できる場合があります。ただし、銀行振込の最終承認や資金繰り判断は会社側の責任として残るため、外注範囲と社内承認ルールを分けて設計することが大切です。
まとめ
- 経理担当者が突然辞めた時は、会計入力よりも支払・給与・納付を優先する
- 支払予定は、請求書だけでなく銀行出金履歴や自動引落から復元する
- 給与は締日、支給日、勤怠、前月明細、控除項目を最優先で確認する
- 税金・社会保険は納期限をカレンダー化し、見落としを防ぐ
- 復旧後は、経理業務を担当者個人ではなく会社側で管理できる仕組みに変える
経理担当者の突然退職は、会社にとって緊急事態です。ただし、最初からすべてを整えようとせず、支払、給与、納付、入金、月次決算の順に整理すれば、事故を抑えながら復旧できます。今後同じことが起きないように、支払予定表、給与資料、月次決算手順、ログイン権限の管理を標準化しておくことが重要です。
参照ソース
- 国税庁「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2505.htm
- 国税庁「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_14.htm
- 日本年金機構「厚生年金保険料等の納付」: https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/nofu.html
- e-Gov法令検索「労働基準法」: https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。公認会計士・税理士として、経理BPO、月次決算、紙資料整理、クラウド会計運用を中小企業向けに支援している。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
