
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
資金繰り表を毎月作る方法と管理手順

資金繰り表は、試算表が毎月すぐに出ない会社でも、手元資金の不足リスクを早めに把握するための管理表です。特に、売上はあるのに入金が遅い会社、借入返済や税金支払いが重い会社、経理担当者に作業が集中している会社では、試算表を待つだけでは資金判断が遅れます。まずは損益ではなく、銀行口座の残高、入金予定、支払予定、借入返済予定を並べ、向こう3か月から6か月の現金残高を毎月確認することが重要です。
月次決算・試算表の個別相談
この記事の内容を、月次決算の早期化と数字管理に落とし込む相談をする
締め日、証憑回収、試算表、資金繰り表まで、月次で止まっている箇所を整理します。
試算表が遅い会社ほど資金繰り表が必要になる理由
試算表は会社の利益や費用構造を確認するために重要ですが、完成までに時間がかかる会社では、経営判断に間に合わないことがあります。請求書の回収、領収書整理、カード明細の反映、売掛金・買掛金の確認が遅れると、月次決算は後ろ倒しになります。
一方、資金繰り表は「現金がいつ入り、いつ出ていくか」を見る表です。会計処理が完了していなくても、通帳、請求書、支払予定表、借入返済予定表があれば作成できます。つまり、試算表の代わりに利益を確定する表ではなく、資金ショートを防ぐための早期警戒表として使います。
| 管理資料 | 主な目的 | 作成に必要な情報 | 遅れると起きる問題 |
|---|---|---|---|
| 試算表 | 利益、費用、財務状態の確認 | 会計入力、残高確認、未払・未収の整理 | 利益判断や税金予測が遅れる |
| 資金繰り表 | 入金、支払、預金残高の確認 | 通帳、入金予定、支払予定、返済予定 | 支払漏れや資金不足に気づくのが遅れる |
| 支払予定表 | 直近の支払管理 | 請求書、給与、税金、返済予定 | 振込漏れや二重払いが起きる |
| 売掛金管理表 | 入金予定と未回収確認 | 請求書、入金履歴、得意先別残高 | 入金遅延を見逃す |
試算表が遅い会社ほど、資金繰り表を先に作るという順番にすると、経営者は月中でも資金判断がしやすくなります。
毎月作る資金繰り表に必要な資料
資金繰り表を毎月作るには、最初から細かい会計分類を完璧にする必要はありません。まずは、資金の入り口と出口を漏れなく集めることが大切です。
最低限必要な資料は次のとおりです。
| 資料 | 確認する内容 | 回収タイミング |
|---|---|---|
| 銀行口座の入出金明細 | 月初残高、入金、支払、月末残高 | 毎月初、できれば週次 |
| 売上請求書・入金予定表 | 得意先別の入金予定日と金額 | 請求後すぐ |
| 仕入・外注・経費の請求書 | 支払予定日と支払金額 | 請求書到着時 |
| 給与・社会保険・税金の予定 | 固定的な支出 | 毎月の支払日前 |
| 借入返済予定表 | 元金返済と利息支払 | 借入時、条件変更時 |
| クレジットカード明細 | 翌月以降の引落予定 | 明細確定時 |
実務上の注意点は、会計上の費用発生日と実際の支払日がずれることです。たとえば、今月発生した仕入でも支払いは翌月末、売上は今月計上しても入金は翌々月になることがあります。資金繰り表では、発生日ではなく実際にお金が動く日で整理します。
また、役員報酬、給与、家賃、リース料、借入返済、税金、社会保険料は、毎月または定期的に出ていく資金です。これらを固定支出として先に入れておくと、毎月の表作成が楽になります。
資金繰り表の基本項目と作り方
資金繰り表は、難しい形式にする必要はありません。最初は「前月繰越」「入金」「支払」「財務収支」「翌月繰越」の5つに分けるだけでも十分です。
| 区分 | 主な項目 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 前月繰越 | 月初の預金残高 | 実際の銀行残高と一致しているか |
| 営業入金 | 売掛金回収、現金売上、その他入金 | 入金予定の遅れがないか |
| 営業支出 | 仕入、外注費、人件費、家賃、経費 | 大口支払が集中していないか |
| 財務収支 | 借入、返済、利息、役員借入返済 | 返済負担が資金を圧迫していないか |
| 翌月繰越 | 月末予定残高 | 最低必要残高を下回らないか |
作成手順は次の流れです。
- 月初の銀行残高を入力する
- その月に入る予定の売掛金やその他入金を入力する
- その月に支払う請求書、給与、税金、返済を入力する
- 月末予定残高を計算する
- 翌月以降も同じ形式で3か月から6か月先まで伸ばす
月末残高がゼロに近づく月が見えたら、支払条件の見直し、借入相談、入金催促、経費削減の検討を早めに行います。資金繰り表の目的は、過去をきれいにまとめることではなく、資金不足を事前に見つけることです。
試算表が遅い会社の代替管理として見るべき数字
試算表が遅れている会社では、資金繰り表だけで経営状態をすべて判断することはできません。しかし、次の数字を毎月確認すれば、危険な兆候を早めに把握できます。
| 確認する数字 | 目安として見ること | 悪化しているサイン |
|---|---|---|
| 月末預金残高 | 固定支出の何か月分あるか | 1か月分を切りそう |
| 売掛金の入金遅れ | 予定日どおり入金されているか | 同じ得意先で遅延が続く |
| 支払予定の集中 | 月末や特定日に支払が偏っていないか | 給与・税金・返済が同じ時期に重なる |
| 借入返済額 | 毎月の返済が営業入金に対して重すぎないか | 返済後に運転資金が残らない |
| 税金・社会保険の未払 | 納付予定を織り込めているか | 納付月だけ急に資金不足になる |
特に注意したいのは、利益が出ているように見えても資金が足りなくなるケースです。売掛金の回収が遅い、在庫や前払費用が増えている、借入返済が大きい、消費税や源泉所得税の納付を見込んでいない場合、損益と資金の動きは大きくずれます。
実務上の注意点として、消費税、法人税、社会保険料、賞与、年末調整関連の支払いは、毎月同じ金額ではありません。通常月の資金繰りだけを見ていると、納税月や賞与月に資金不足が起きやすくなります。
毎月の運用ルールを決める
資金繰り表は、作っただけでは意味がありません。毎月更新するためには、誰が、いつ、何を集め、どこまで確認するかを決める必要があります。
おすすめの運用は次のとおりです。
| タイミング | 作業内容 | 担当の考え方 |
|---|---|---|
| 月初1〜3営業日 | 前月末の銀行残高を確認 | 経理担当または外部経理 |
| 月初5営業日まで | 入金予定と支払予定を更新 | 経理担当、営業、経営者 |
| 月中 | 大口入金・大口支払の変動を反映 | 経理担当または経営者 |
| 月末前 | 翌月の資金不足リスクを確認 | 経営者 |
| 毎月定例 | 試算表と資金繰り表の差を確認 | 経営者と会計担当 |
資金繰り表を毎月同じ日に更新することが、精度を高める第一歩です。更新日が毎月ばらばらだと、数字の比較がしにくくなり、資金不足の兆候も見えにくくなります。
また、資金繰り表には「確定」と「見込み」を分けて入力するのが実務的です。確定している請求書や返済予定はそのまま入力し、未確定の売上や支出は見込みとして区別します。見込み数字を確定数字のように扱うと、資金繰りが楽観的になりやすいため注意が必要です。
経理体制が弱い会社で起きやすい失敗
資金繰り表が続かない会社には、いくつか共通点があります。表計算ソフトの形式が複雑すぎる、資料回収が遅い、経営者しか入金予定を知らない、請求書が紙とメールに分散している、銀行口座やカードが多すぎるといった状態です。
特に、経理担当者が一人で処理している会社では、資金繰り表の更新が後回しになりがちです。日々の支払、給与、請求書処理、会計入力に追われると、未来の資金予定を整理する時間が取れません。
この場合は、最初から完璧な月次決算を目指すよりも、次の順番で整えると現実的です。
- 銀行口座とカードの明細を毎月必ず回収する
- 支払予定表を作り、請求書の保管場所を統一する
- 売掛金の入金予定を得意先別に管理する
- 借入返済と税金納付を年間予定に入れる
- 資金繰り表と試算表を月次で突き合わせる
**月次決算が遅い原因を放置したまま、資金繰り表だけを作っても限界があります。**資金繰り表で早期警戒をしながら、同時に資料回収、会計入力、残高確認の流れを整えることが大切です。
専門家に相談する前に整理しておくこと
資金繰りが不安な場合でも、最初から細かい分析資料を用意する必要はありません。まずは、通帳、借入返済予定表、直近の請求書、支払予定、直近の試算表をそろえるだけでも、現状把握はかなり進みます。
相談前に整理しておきたい項目は次のとおりです。
| 整理する項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 直近の預金残高 | 主要口座ごとの残高 |
| 今後3か月の入金予定 | 得意先別、予定日別の金額 |
| 今後3か月の支払予定 | 仕入、外注、人件費、家賃、税金 |
| 借入返済予定 | 金融機関別の毎月返済額 |
| 試算表の作成状況 | 何月分まで完成しているか |
| 経理資料の所在 | 紙、メール、クラウド、担当者保管の区分 |
実務上の注意点は、資金不足が見えてから相談するより、資金不足になりそうな月が見えた段階で動くことです。金融機関への説明や返済条件の相談には、過去の実績だけでなく、今後の資金繰り予定が必要になります。
よくある質問
資金繰り表は試算表が完成してから作るべきですか?
試算表の完成を待つ必要はありません。資金繰り表は、通帳残高、入金予定、支払予定、返済予定をもとに作れるため、月次決算より先に作れます。試算表は利益確認、資金繰り表は現金不足の予測として役割を分けて考えます。
何か月先まで資金繰り表を作ればよいですか?
まずは3か月先まで作るのがおすすめです。借入返済、税金、賞与、設備投資など大きな支出がある会社は、6か月から12か月先まで見ると安全です。特に納税月や賞与月は、通常月とは別に資金不足が起きやすいため早めに確認します。
資金繰り表はExcelで十分ですか?
最初はExcelやスプレッドシートで十分です。重要なのはツールよりも、毎月同じ形式で更新し、実績と予定の差を確認することです。会計ソフトやクラウドツールを使う場合でも、元になる入金予定と支払予定の整理ができていなければ精度は上がりません。
資金繰りが不安なときは何を先に確認すべきですか?
まずは、直近3か月の月末預金残高、入金予定、支払予定、借入返済額を確認してください。次に、税金や社会保険料など毎月ではない支出が抜けていないかを見ます。資金不足になりそうな月がある場合は、支払条件、入金回収、金融機関相談の順に早めに検討します。
まとめ
- 資金繰り表は、試算表が遅い会社でも資金不足を早めに把握するための管理表です。
- 最初は、月初残高、入金予定、支払予定、借入返済、月末残高を押さえれば運用できます。
- 3か月から6か月先の資金残高を見ることで、納税月や返済負担による資金不足を予測しやすくなります。
- 資金繰り表を毎月作るには、通帳、請求書、支払予定、売掛金、借入返済予定を定期的に集めるルールが必要です。
- 月次決算が遅い会社は、資金繰り表で早期警戒をしながら、資料回収と経理体制の見直しを進めることが大切です。
参照ソース
- 中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」: https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/04.html
- 中小企業庁「経営改善計画策定支援」: https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/05.html
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 中小企業の方」: https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_chusho.html
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方」: https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。公認会計士・税理士として、経理BPO、月次決算、紙資料整理、クラウド会計運用を中小企業向けに支援している。
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