
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
クリニックの人件費率・材料費率を月次で見る方法|院長向け経理レポート

まず確認する結論
クリニックの月次レポートで院長が最初に見るべき数字は、細かな勘定科目の一覧ではありません。毎月見る中心は、医業収益、人件費率、材料費率、固定費、資金残高、借入返済後の余力です。
クリニック経理BPOの個別相談
この記事の内容を、医院の月次経理と院長向け管理資料に落とし込む相談をする
保険診療、自費、給与、医療機器、月次損益を、医院経営に使える形に整理します。
人件費率と材料費率は、単月の高い・低いだけで判断すると誤ります。採用、賞与、社会保険料、診療科目、自由診療の比率、材料のまとめ買い、在庫、未払計上の有無によって大きく動くためです。
重要なのは、毎月同じ定義で数字を出し、前月・3カ月平均・前年同月と比べることです。紙資料、レセコン資料、給与資料、会計入力が遅れていると、数字を見る頃には採用・発注・資金繰りの判断タイミングを逃します。
税理士法人 辻総合会計グループでは、クリニックの経理を単なる入力作業ではなく、院長が採用、設備投資、借入返済、賞与原資を判断できる月次レポートに整える業務として扱います。
月次レポートで見る順番
月次レポートは、最初から細かく作りすぎると続きません。院長向けには、まず次の順番で確認します。
| 順番 | 指標 | 院長が見る理由 | 主な判断 |
|---|---|---|---|
| 1 | 医業収益 | 売上の土台を確認する | 患者数、単価、自由診療、診療日数の変化 |
| 2 | 人件費率 | スタッフ体制の重さを見る | 採用、シフト、残業、賞与、社会保険料 |
| 3 | 材料費率 | 診療材料・医薬品の使い方を見る | 発注量、在庫、診療内容、仕入価格 |
| 4 | 固定費 | 家賃、リース、保守料、広告費の負担を見る | 契約見直し、設備投資、資金繰り |
| 5 | 資金残高 | 現金が残っているかを見る | 借入返済、納税、賞与、設備投資 |
会計事務所から試算表だけを受け取っても、院長がすぐ判断できるとは限りません。月次レポートでは、数字を並べるだけでなく「なぜ変わったのか」「次に何を確認するのか」まで見える形にします。
人件費率は採用とシフトの判断に使う
人件費率は、一般に次の式で確認します。
| 指標 | 計算式 | 注意点 |
|---|---|---|
| 人件費率 | 人件費 ÷ 医業収益 | 給与、賞与、法定福利費、退職金、派遣費、紹介料の扱いを決める |
| 常勤換算あたり人件費 | 人件費 ÷ 常勤換算人数 | パート比率や時短勤務が多い場合に有効 |
| 1診療日あたり人件費 | 人件費 ÷ 診療日数 | 祝日や臨時休診の影響を見る |
厚生労働省の医療経済実態調査は、医療機関の収益・費用構造を確認する公的資料です。ただし、公的統計の平均値をそのまま自院の目標値にするのは危険です。診療科目、法人か個人か、院長報酬の扱い、自由診療比率、スタッフ構成で数字の意味が変わります。
人件費率は削減対象ではなく、採用と診療体制の投資効果を見る指標です。人を増やしたことで診療枠が広がり、受付対応や会計待ちが改善し、数カ月遅れて医業収益が伸びることもあります。
人件費率が上がったときの確認順
- 医業収益が一時的に下がっていないか。
- 診療日数が少ない月ではないか。
- 賞与、退職金、社会保険料の変動月ではないか。
- 新規採用、退職補充、教育期間が重なっていないか。
- 残業、欠勤補充、シフトの偏りが出ていないか。
- 受付、会計、レセプト、電話対応など非診療業務が増えていないか。
すぐに人員削減を考えるのではなく、まず「収益側の一時要因」「給与計算上の季節要因」「採用投資の効果待ち」を分けて確認します。
材料費率は診療科目と在庫で見る
材料費率は、次の式で確認します。
| 指標 | 計算式 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 材料費率 | 材料費 ÷ 医業収益 | 診療科目、処置内容、自由診療比率で変わる |
| 医薬品費率 | 医薬品費 ÷ 医業収益 | 院内処方、ワクチン、検査薬の影響を見る |
| 在庫月数 | 月末在庫 ÷ 月平均使用額 | 過剰在庫、期限切れ、まとめ買いを確認する |
医療経済実態調査では、一般診療所の材料費や給与費などが費用項目として整理されています。ただし、材料費率は診療科目による差が大きい指標です。内科、整形外科、皮膚科、眼科、歯科に近い材料管理を持つ診療所では、同じ「クリニック」でも水準が異なります。
したがって、他院平均との比較よりも、自院の過去推移、診療内容の変化、在庫の持ち方、未払計上のルールを優先して見ます。
材料費率が上がったときの確認順
- 材料のまとめ買いがあったか。
- 月末在庫が増えていないか。
- 自由診療、検査、処置の構成が変わったか。
- 仕入単価が上がっていないか。
- 廃棄、期限切れ、返品不能品が発生していないか。
- 会計上、未払や在庫の計上方法が月によってズレていないか。
月次管理で一番避けたいのは、材料費率の変動が「経営上の変化」なのか「経理処理の遅れ・ズレ」なのか分からない状態です。紙の納品書や請求書が遅れて会計入力されると、実態と違う月に材料費が偏って見えます。
院長向け月次レポートの型
院長向けの月次レポートは、会計ソフトの試算表をそのまま出すより、1枚で判断できる形にする方が実務的です。
| レポート項目 | 表示例 | コメントで見ること |
|---|---|---|
| 医業収益 | 当月、前月、3カ月平均、前年同月 | 診療日数、患者数、単価、自由診療の変化 |
| 人件費率 | 当月率、3カ月平均、前年差 | 採用、賞与、社会保険料、シフトの影響 |
| 材料費率 | 当月率、3カ月平均、前年差 | 仕入、在庫、診療内容、単価上昇 |
| 固定費 | 家賃、リース、保守料、広告費 | 固定費の増加要因、契約見直し余地 |
| 資金繰り | 現預金、借入返済、納税予定 | 3カ月先の資金不足リスク |
| 院長メモ | 今月の異常値、来月の確認事項 | 採用、発注、支払、融資相談の次アクション |
辻総合会計グループでは、クリニック向けの月次確認では、単に試算表を作るだけでなく、前月差、3カ月平均、前年同月、資金繰りへの影響をセットで整理します。
経理が遅れると判断も遅れる
人件費率や材料費率を毎月見るには、経理処理の早さが重要です。月次が2カ月遅れ、3カ月遅れになると、数字は過去の説明になり、採用や発注の判断に使いにくくなります。
| 資料 | 遅れやすい理由 | 月次化のポイント |
|---|---|---|
| レセコン・電子カルテの売上資料 | 出力担当者が限られる | 月初の出力日を固定する |
| 給与資料 | 勤怠締め、社保、賞与で遅れる | 給与確定日と会計入力日を分ける |
| 材料・医薬品の請求書 | 紙、PDF、口座振替が混在する | 受領ルートを一本化する |
| クレジット・口座明細 | 明細取得が後回しになる | 月次締めの担当と期限を決める |
| 借入返済・リース資料 | 契約書と引落明細が分かれる | 固定費台帳を作る |
経理BPOを検討する場合も、すべてを丸投げする前に、どの資料が遅れているのか、誰が確認するのか、院長が承認すべき判断は何かを整理しておく必要があります。
外部化するときに決めること
クリニックの経理を外部化するときは、入力を外に出すだけでは不十分です。月次レポートとして使える状態にするには、責任分界を先に決めます。
| 決めること | 院内に残す判断 | 外部化しやすい作業 |
|---|---|---|
| 支払承認 | 支払うかどうか、金額の妥当性 | 請求書整理、支払予定表作成 |
| 原本管理 | 保管方針、返却・廃棄判断 | スキャン、ファイル名整理、台帳化 |
| 会計入力 | 勘定科目方針、税務判断 | 仕訳入力、証憑添付、残高確認 |
| 月次報告 | 採用、投資、資金繰り判断 | レポート作成、前月差コメント |
| 個人情報 | 取り扱い方針、共有範囲 | マスキング、受領記録、アクセス管理 |
紙資料を扱う場合は、受領記録、スキャン品質、返却・廃棄ルール、個人情報やマイナンバーが混入した場合の取り扱いも決めておきます。ここを曖昧にしたまま外部化すると、入力は進んでも、院長が安心して数字を使えない状態になります。
相談前に準備するとよい資料
月次レポートや経理BPOを相談する前に、次の資料をそろえると現状把握が早くなります。
- 直近12カ月の試算表。
- レセコン・電子カルテの月次売上資料。
- 給与台帳、賞与資料、社会保険料の資料。
- 材料・医薬品の請求書、納品書、在庫資料。
- 借入返済予定表、リース契約書。
- 通帳コピー、クレジットカード明細、口座振替一覧。
- 現在の会計ソフト、入力担当者、税理士への提出方法。
すべて完璧にそろっていなくても問題ありません。むしろ、何がそろっていないかを見れば、月次が遅れている原因を特定しやすくなります。
よくある質問
Q: 人件費率は何%なら適正ですか?
Q: 材料費率が急に上がったら、すぐ仕入先を変えるべきですか?
Q: 会計ソフトを入れれば月次レポートは早くなりますか?
Q: 税理士に任せているのに、月次が遅い場合はどうすればよいですか?
まとめ
クリニックの人件費率・材料費率は、単月の数字だけを見ても判断できません。医業収益、診療日数、採用、賞与、材料のまとめ買い、在庫、未払計上の有無を合わせて確認する必要があります。
院長向けの月次レポートでは、試算表を細かく読むよりも、医業収益、人件費率、材料費率、固定費、資金残高を同じ定義で毎月見続けることが重要です。
経理処理が遅れている場合は、資料回収、紙資料の整理、会計入力、税理士レビュー、月次コメントのどこで止まっているかを分けて確認しましょう。そこを整えることで、経理は単なる記帳ではなく、採用・発注・資金繰りを判断するための経営資料になります。
参考にした公式情報
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。公認会計士・税理士として、経理BPO、月次決算、紙資料整理、クラウド会計運用を中小企業向けに支援している。
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