
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
紙資料と電子データが混在する経理整理

紙の領収書、郵送の請求書、メール添付のPDF、クラウドサービスの利用明細、ネットバンキングのCSVが混在している会社では、まず「どの資料を、どの形式で受け取り、誰が、いつ、どこに保存するか」を決めることが重要です。電子帳簿保存法への対応は、いきなり全資料を電子化することではなく、紙で受け取った資料と電子で受け取った資料を分けて管理することから始まります。中小企業の場合、完璧なシステム導入よりも、月次処理が止まらない回収ルールと保存ルールを先に整える方が現実的です。
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紙と電子が混在すると経理が遅れる理由
紙資料と電子データが混在している会社では、経理担当者が資料を探す時間が増えます。領収書は封筒、請求書はメール、カード明細はWeb、振込情報はネットバンキング、売上資料はExcelという状態になると、会計入力よりも前の段階で確認作業が膨らみます。
特に問題になりやすいのは、同じ取引の証憑が複数の場所に散らばることです。たとえば、カード決済の領収書は紙で保管され、カード明細はPDFで保存され、会計ソフトには自動連携されている場合、重複計上や確認漏れが起こりやすくなります。
経理整理の最初の目的は、資料をすべて電子化することではありません。まず、月次処理に必要な資料が毎月同じ場所に集まり、支払・入金・経費・売上の確認ができる状態を作ることです。
まず分けるべき資料の種類
紙電子混在の会社では、資料を「紙か電子か」だけでなく、取引の性質ごとに分けると整理しやすくなります。経理で必要な資料は、主に次のように分類できます。
| 資料の種類 | よくある形式 | 主な確認ポイント |
|---|---|---|
| 売上資料 | 請求書控え、レジデータ、売上管理表、入金明細 | 売上計上月、入金消込、未収残高 |
| 仕入・外注費 | 紙の請求書、PDF請求書、メール添付 | 支払期限、源泉徴収、未払計上 |
| 経費資料 | 領収書、レシート、カード利用明細 | 支払方法、事業関連性、重複計上 |
| 預金・カード明細 | 通帳コピー、CSV、Web明細、PDF | 残高一致、未処理取引、摘要確認 |
| 給与・人件費 | 給与台帳、勤怠データ、社会保険資料 | 支給月、預り金、未払給与 |
| 契約・申込資料 | 紙契約書、電子契約、申込メール | 継続課金、解約条件、税区分 |
実務上の注意点として、電子で受け取った請求書や領収書を印刷して紙で保存するだけでは、電子取引データの保存対応として不十分になる場合があります。電子で受け取ったものは、原則として電子データのまま保存する前提で整理します。
一方、紙で受け取った領収書や請求書は、紙のまま保存する方法もあります。スキャナ保存を選ぶ場合は、読み取りや保存の要件を満たす必要があるため、単にスマートフォンで撮影してフォルダに入れるだけでよいとは限りません。
電帳法対応までの現実的な流れ
電子帳簿保存法への対応は、会社の経理フローに合わせて段階的に進めるのが現実的です。すでに紙と電子が混在している会社では、次の順番で整理すると混乱を抑えられます。
- 資料の発生場所を洗い出す
- 紙で受け取る資料と電子で受け取る資料を分ける
- 月次で回収する締切日を決める
- 保存フォルダとファイル名のルールを決める
- 会計処理済み・未処理・確認中を区別する
- 電子取引データの保存要件を確認する
- 必要に応じてスキャナ保存やクラウドツールを導入する
この順番を飛ばしてツールだけ導入すると、資料の置き場所が増えるだけで、かえって経理が複雑になることがあります。特に中小企業では、毎月の資料回収日を決めるだけでも、月次処理の遅れを大きく減らせます。
保存場所とファイル名のルールを決める
紙資料と電子データが混在する会社では、保存場所のルールが曖昧なままだと、経理担当者や外部の会計担当者が毎月同じ確認を繰り返すことになります。保存先は複雑にせず、月別、取引区分別、未処理・処理済み別に分けるのが基本です。
たとえば、電子データは次のようなルールで管理できます。
| 区分 | 保存例 | 運用のポイント |
|---|---|---|
| 請求書受領 | 取引先名_請求月_金額.pdf | 支払予定表と照合する |
| 領収書 | 日付_支払先_内容_金額.pdf | 現金・カードの支払方法を分ける |
| カード明細 | カード名_利用月.pdf | 領収書との重複を確認する |
| 通帳・入出金明細 | 銀行名_口座_対象月.pdf | 会計残高と照合する |
| 売上資料 | 売上区分_対象月.xlsx | 入金予定と消込状況を確認する |
実務上の注意点として、ファイル名に「請求書」「領収書」だけを付けると、後から検索しにくくなります。最低限、日付、取引先名、金額、内容のいずれかを含めると、税務調査や月次確認の際に探しやすくなります。
電子取引データについては、保存したデータを後から確認できる状態にしておく必要があります。検索性や改ざん防止に関する要件も関係するため、会社の規模や取引量に応じて、フォルダ運用で足りるのか、クラウドストレージや証憑管理システムを使うべきかを判断します。
紙資料を残すか電子化するかの判断基準
紙資料をすべて電子化すればよいとは限りません。取引量が少ない会社では、紙で受け取った領収書や請求書を月別に保管し、電子で受け取った資料だけデータ保存を整える方が運用しやすい場合もあります。
判断の目安は次のとおりです。
| 状況 | 向いている整理方法 |
|---|---|
| 紙の領収書が少なく、月次処理も遅れていない | 紙保管を維持し、電子取引だけ保存ルールを整える |
| 紙の領収書が多く、経費精算に時間がかかる | スキャン・撮影による回収ルールを検討する |
| 拠点や担当者が複数いる | クラウドストレージや証憑管理ツールで一元管理する |
| 経理担当者が不在または兼任 | 外部委託を前提に資料回収ルールを簡素化する |
| 月次決算が遅れている | 保存方法よりも、未回収資料の一覧化を優先する |
紙資料の電子化は目的ではなく手段です。重要なのは、支払漏れ、二重計上、経費精算漏れ、残高不一致を防ぐことです。電子化しても確認手順が決まっていなければ、月次経理は安定しません。
実務上の注意点として、紙資料をスキャンした後に原本をすぐ廃棄する運用は慎重に判断する必要があります。スキャナ保存の要件を満たしているか、社内規程や事務処理体制が整っているかを確認してから運用を決めるべきです。
経理BPOに出す前に整理しておきたいこと
紙資料と電子データが混在している会社が経理BPOを利用する場合、最初からすべてをきれいに整えておく必要はありません。ただし、外部に依頼する前に、資料の所在と締切を決めておくと立ち上がりがスムーズです。
最低限、次の項目を整理しておくとよいでしょう。
- 紙の領収書・請求書を毎月どこに集めるか
- メール添付の請求書を誰が保存するか
- クラウドサービスの請求書を誰がダウンロードするか
- 通帳コピーや入出金明細をいつ共有するか
- カード明細と領収書の照合を誰が行うか
- 未処理資料や不明取引をどのように確認するか
経理BPOでは、資料回収、証憑整理、会計入力、残高確認、月次レポート作成までを分担できる場合があります。ただし、会社側にしか分からない取引内容や、社長決裁が必要な支払は残るため、丸投げではなく役割分担を決めることが重要です。
特に紙資料が多い会社では、郵送、スキャン、クラウド共有のどれを使うかで運用負担が変わります。毎月同じ締切で資料を渡せる仕組みを作ることで、月次決算の遅れや支払漏れを防ぎやすくなります。
よくある質問
電子で届いた請求書を印刷して保存すれば十分ですか?
電子で届いた請求書や領収書は、電子取引データとして保存する対応が必要になる場合があります。印刷して紙で保管するだけでは、電子データの保存要件を満たさない可能性があるため、PDFやメール添付ファイルを保存するルールを決めておく必要があります。
紙の領収書はすべてスキャンしないといけませんか?
紙で受け取った領収書を必ずすべてスキャンしなければならないわけではありません。紙のまま保存する方法もありますが、スキャナ保存を選ぶ場合は要件に沿った運用が必要です。会社の取引量、担当者の負担、保管スペースを見て判断します。
小規模な会社でも電帳法対応は必要ですか?
電子で請求書や領収書、取引情報を受け取っている場合は、会社規模にかかわらず保存方法の確認が必要です。まずはメール添付、クラウド請求書、ECサイトの領収書、カード明細など、電子で受け取っている資料を洗い出すところから始めるとよいでしょう。
経理担当者が忙しくて資料整理まで手が回らない場合はどうすればよいですか?
最初にやるべきことは、未整理資料を完璧に分類することではなく、月次処理に必要な資料を一覧化することです。紙資料、メール、クラウド明細、通帳・カード明細の所在を整理し、毎月の回収日を決めるだけでも改善できます。量が多い場合や担当者が兼任の場合は、外部委託を前提に回収ルールを簡素化する方法もあります。
まとめ
- 紙資料と電子データが混在する会社では、まず資料の発生場所と保存場所を分けて整理する
- 電子で受け取った請求書や領収書は、印刷保存だけでなく電子データ保存のルール確認が必要
- 紙資料をすべて電子化するより、月次で資料が集まる仕組みを作ることが先
- 保存フォルダ、ファイル名、未処理・処理済みの区分を決めると、経理処理と確認作業が安定しやすい
- 経理BPOを使う場合も、資料回収日、共有方法、会社側で判断する取引を事前に整理しておくと進めやすい
参照ソース
- 国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
- 国税庁 電子帳簿保存法関係: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm
- 国税庁 電子帳簿保存法一問一答(Q&A): https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/4-3.htm
- 国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/index.htm
- 国税庁 電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07scan/index.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。公認会計士・税理士として、経理BPO、月次決算、紙資料整理、クラウド会計運用を中小企業向けに支援している。
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