
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
試算表が毎月出ない会社の資金繰りリスク

試算表が毎月出ない会社は、利益が出ているかどうかだけでなく、いつ資金が足りなくなるかを判断しにくくなります。特に融資前は、決算書だけでなく直近の売上、粗利、借入残高、資金繰り予定を説明できる状態が重要です。経営者にとっての問題は「経理が遅いこと」そのものではなく、金融機関に説明できる数字が遅れていることです。
試算表が2か月、3か月遅れている会社では、入金予定と支払予定のズレ、利益率の悪化、借入返済の負担増に気づくのが遅れます。融資を受けたい段階になってから慌てて数字を整えようとしても、資料の不足や会計処理の未確定が多いと、説明に時間がかかります。この記事では、試算表が毎月出ない会社の資金繰りリスクと、融資前に整えるべき数字を整理します。
月次決算・試算表の個別相談
この記事の内容を、月次決算の早期化と数字管理に落とし込む相談をする
締め日、証憑回収、試算表、資金繰り表まで、月次で止まっている箇所を整理します。
試算表が毎月出ないと資金繰り判断が遅れる
試算表は、会社の売上、費用、利益、資産、負債を一定期間で集計した資料です。決算書が年1回の成績表だとすれば、月次試算表は経営中の現在地を確認するための資料です。
試算表が毎月出ない会社では、経営者が通帳残高だけを見て資金繰りを判断しがちです。しかし、通帳残高には売掛金の未回収、買掛金の未払い、税金や社会保険料の支払予定、借入返済予定が十分に反映されません。今月の残高が多く見えても、翌月以降の支払で一気に資金が減ることがあります。
実務上の注意点として、黒字か赤字かの判断と、資金が足りるかどうかの判断は別です。売上が増えていても、入金より仕入・外注費・給与の支払いが先に来る業種では、黒字でも資金不足になることがあります。
資金繰りリスクは利益ではなくズレから起こる
資金繰り悪化の多くは、単純な赤字だけでなく、入金と支払いのタイミングのズレから起こります。試算表が遅れると、このズレを数字で把握するのが遅くなります。
たとえば、売上は伸びているのに資金が苦しい会社では、売掛金の回収が遅れている、在庫が増えている、外注費の支払いが先行している、借入返済が重くなっているといった原因が考えられます。これらは通帳だけでは原因を分解しにくく、月次試算表と資金繰り表を合わせて確認する必要があります。
| 確認する数字 | 見るべきリスク | 遅れた場合に起こること |
|---|---|---|
| 売上高 | 売上減少、季節変動 | 資金不足の兆候に気づくのが遅れる |
| 粗利率 | 原価上昇、値引き、ロス | 売上があるのに利益が残らない |
| 売掛金 | 回収遅延、請求漏れ | 入金予定を過大に見積もる |
| 買掛金・未払金 | 支払集中 | 月末・賞与月・税金月に資金が詰まる |
| 借入残高・返済額 | 返済負担 | 新規融資や借換の判断が遅れる |
| 税金・社会保険料 | 納付予定 | 納付時期に資金ショートしやすい |
特に重要なのは、粗利率と売掛金の変化です。売上だけを見ていると好調に見えても、粗利率が下がっていれば返済原資は弱くなります。売掛金が増えている場合は、売上計上済みでも現金化されていないため、資金繰りには注意が必要です。
融資前に整えるべき数字
融資前に整えるべき資料は、決算書だけではありません。金融機関は、過去の実績に加えて、直近の業況、今後の資金需要、返済可能性を確認します。日本政策金融公庫でも、申込時や資金利用後の提出書類の書式が用意されており、事業の状況を説明する資料整備が前提になります。
融資前に最低限整えたい数字は、次のとおりです。
| 資料・数字 | 目的 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 直近月までの試算表 | 現在の業績を説明する | 売上、粗利、営業利益、経常利益 |
| 前期・前々期の決算書 | 過去実績を説明する | 売上推移、利益推移、債務超過の有無 |
| 資金繰り表 | 今後の入出金を説明する | 入金予定、支払予定、借入返済、税金納付 |
| 借入一覧表 | 既存借入を説明する | 金融機関別残高、毎月返済額、返済期限 |
| 売掛金・買掛金一覧 | 回収・支払の状況を説明する | 長期滞留、請求漏れ、支払集中 |
| 受注・見積・契約資料 | 今後の売上見込みを説明する | 売上予測の根拠 |
実務上の注意点として、試算表は「出ていればよい」わけではありません。仮払金、仮受金、役員貸付金、未払税金、減価償却、在庫などが未整理のままだと、金融機関に説明するときに追加確認が必要になります。
融資前の月次試算表では、直近の数字がいつまで確定しているか、前年同月と比べてどう変化しているか、利益から返済原資を説明できるかが重要です。試算表が古いままだと、現在の経営状況を説明しにくくなります。
試算表が遅れる会社でよくある原因
試算表が毎月出ない原因は、経理担当者の努力不足だけではありません。多くの場合、資料回収、会計入力、確認、経営者承認の流れが決まっていないことが原因です。
よくある原因は次のとおりです。
- 請求書、領収書、通帳、カード明細の回収日が決まっていない
- 現金払い、立替経費、役員個人カードの処理が残る
- 売上請求と入金消込が分かれておらず、売掛金が合わない
- 在庫、外注費、給与、社会保険料の月次処理が後回しになる
- 会計ソフトには入力しているが、内容確認と修正が止まっている
- 経営者が確認すべき不明点が毎月積み残される
クラウド会計を導入していても、銀行連携やカード連携だけでは月次決算は完成しません。自動連携は入力作業を減らす一方で、勘定科目、取引先、消費税区分、未払計上、入金消込の確認が必要です。仕組みがないままツールだけ入れると、未処理取引が溜まることがあります。
月次決算を資金繰り改善につなげる手順
月次決算は、試算表を作って終わりではありません。資金繰り改善につなげるには、試算表、資金繰り表、借入一覧を同じタイミングで確認する必要があります。
まず、直近3か月分の試算表を整えます。次に、売掛金、買掛金、未払金、借入返済、税金納付を確認し、向こう3か月から6か月の資金繰り表に落とし込みます。そのうえで、資金が不足する月が見える場合は、融資、借換、支払条件の見直し、回収条件の改善を検討します。
月次決算を立て直す順番は次のとおりです。
- 何月分まで会計入力が終わっているか確認する
- 未処理の通帳、カード、請求書、領収書を集める
- 売掛金、買掛金、未払金、借入残高を合わせる
- 月次試算表を直近月まで確定する
- 資金繰り表に入金予定と支払予定を反映する
- 融資前に説明が必要な増減理由を整理する
月次決算の目的は早く数字を出すことではなく、早く判断できる状態を作ることです。売上が下がっているのか、粗利が下がっているのか、固定費が増えているのか、借入返済が重いのかによって、打つべき対策は変わります。
実務上の注意点として、融資が必要になってから資料を作るより、資金が足りなくなる前に数字を整える方が選択肢は多くなります。資金繰り表で不足時期が見えた段階で、早めに金融機関や専門家へ相談することが大切です。
経理を外注するか判断する基準
試算表が毎月出ない状態が続く場合、自社内で改善できるのか、経理代行や月次決算支援を使うべきかを判断する必要があります。判断基準は、単に入力作業を外に出すかどうかではなく、経営者が毎月使える数字を受け取れるかどうかです。
| 状況 | 自社改善で対応しやすいケース | 外部支援を検討したいケース |
|---|---|---|
| 資料回収 | 資料の種類が少なく、月初に集められる | 紙資料、複数口座、カード、立替が多い |
| 会計入力 | 担当者が会計処理を理解している | 入力はあるが内容確認ができていない |
| 試算表作成 | 毎月ほぼ同じ流れで締められる | 2か月以上遅れが常態化している |
| 資金繰り管理 | 経営者が資金繰り表を更新できる | 融資前に必要な数字が整理できない |
| 経理体制 | 担当者が複数いて代替できる | 一人経理、退職リスク、属人化がある |
外注を検討する場合は、記帳だけでなく、月次試算表の確定、資金繰り表の作成、借入一覧の整理、経営者向けレポートまで対応範囲を確認します。実務上の注意点として、領収書入力だけを外注しても、売掛金や資金繰りの確認が残ると、経営判断に使える数字にはなりません。
よくある質問
試算表は毎月何日までに出すべきですか?
経営判断に使うなら、月末から10営業日以内を一つの目安にします。業種や資料量によって調整は必要ですが、翌月後半にならないと出ない状態では、資金繰り判断が遅れます。まずは毎月の資料提出日と確認日を固定することが重要です。
融資を受けるとき試算表は必ず必要ですか?
金融機関や融資内容によって必要資料は異なりますが、直近の決算から時間が経っている場合や業績が変動している場合は、試算表の提出を求められることがあります。決算書だけでは現在の業況を説明しにくいため、融資前には直近月までの試算表を整えておく方が安全です。
会計ソフトを入れれば試算表は自動で出ますか?
会計ソフトに銀行やカードを連携しても、試算表が自動で完成するわけではありません。科目、取引先、消費税区分、未払計上、売掛金の消込などの確認が必要です。クラウド会計を使っているのに試算表が遅い場合は、入力後の確認フローを見直す必要があります。
資金繰り表と試算表はどちらを先に作るべきですか?
まず直近の試算表で利益、売掛金、買掛金、借入残高を確認し、その数字を資金繰り表に反映する流れが基本です。ただし、支払いが迫っている場合は、先に通帳残高と入出金予定を整理して短期資金繰りを確認します。その後、試算表を整えて原因分析につなげます。
まとめ
- 試算表が毎月出ない会社では、利益だけでなく資金不足の兆候に気づくのが遅れます。
- 融資前は、直近試算表、資金繰り表、借入一覧、売掛金・買掛金の整理が重要です。
- 通帳残高だけでは、税金、社会保険料、借入返済、未払金の影響を見落としやすくなります。
- クラウド会計を導入していても、月次確認ルールがなければ試算表は遅れます。
- 毎月使える数字を作るには、資料回収、会計確認、資金繰り表更新までの流れを固定することが必要です。
参照ソース
- 中小企業庁「中小企業の会計」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/
- 中小企業庁「中小企業白書」: https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 中小企業の方」: https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_chusho.html
- 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード 小規模事業者/個人事業主の方」: https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html
- 金融庁「金融機関による事業者支援」: https://www.fsa.go.jp/policy/chusho/shihyou.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・経理BPOコンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。公認会計士・税理士として、経理BPO、月次決算、紙資料整理、クラウド会計運用を中小企業向けに支援している。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
