
執筆者:辻 勝
会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント
事業承継を税理士に相談する前の資料チェックリスト

事業承継を税理士に相談する前は、すべての資料を完璧にそろえる必要はありません。ただし、決算書、株主構成、借入、役員、後継者候補、家族関係の資料があると、初回相談で「株をどう渡すか」「税金がどの程度か」「いつから準備すべきか」まで話を進めやすくなります。特に中小企業の事業承継では、会社の財務だけでなく、自社株評価・相続税・贈与税・経営者保証が同時に関係するため、資料不足のまま相談すると論点が分散しやすくなります。
この記事では、経営者・後継者が税理士に事業承継を相談する前に整理しておきたい資料を、優先順位つきで解説します。
事業承継計画の個別相談
この記事の内容を、自社の承継スケジュールと後継者対策に落とし込む相談をする
承継時期、後継者、株式、役員体制、金融機関対応を、実行前に整理します。
まず用意したい基本資料
最初にそろえるべき資料は、会社の現状を把握するためのものです。税理士が事業承継の初回相談で確認するのは、単に「利益が出ているか」だけではありません。会社の資産、負債、役員構成、株主構成、親族関係を見ながら、承継方法を検討します。
| 優先度 | 資料 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 高 | 直近3期分の決算書・法人税申告書 | 利益水準、純資産、役員報酬、貸付金、含み益 |
| 高 | 勘定科目内訳書 | 役員借入金、貸付金、土地建物、保険、未収入金 |
| 高 | 株主名簿・出資者一覧 | 誰が何株持っているか、分散株式の有無 |
| 高 | 会社謄本・定款 | 役員、発行株式、譲渡制限、種類株式の有無 |
| 中 | 直近の試算表 | 最新の業績、資金繰り、承継時点の見込み |
| 中 | 借入金一覧・返済予定表 | 金融機関対応、保証、返済負担 |
| 中 | 固定資産台帳 | 土地建物、設備、減価償却、含み益の確認 |
実務上の注意点として、決算書だけでは事業承継の判断はできません。決算書上の利益が少なくても、土地、保険、役員貸付金、過去の利益蓄積により、自社株評価が想定より高くなることがあります。
自社株評価に必要な資料
事業承継で最も見落とされやすいのが、自社株の評価資料です。非上場会社の株式は、上場株式のように毎日価格が表示されるものではありません。そのため、親族内承継で株式を贈与・相続する場合も、M&Aや持株会社を検討する場合も、まず自社株評価の概算を把握する必要があります。
自社株評価で確認されやすい資料は、次のとおりです。
| 資料 | 見られるポイント |
|---|---|
| 直近3期分の決算書 | 利益、配当、純資産、会社規模 |
| 法人税申告書別表 | 税務上の所得、留保金、株主・役員情報 |
| 勘定科目内訳書 | 役員借入金、不動産、保険、有価証券 |
| 固定資産税課税明細書 | 土地・建物の評価、含み益の有無 |
| 不動産登記簿・賃貸借契約書 | 会社所有不動産、同族間賃貸の確認 |
| 保険証券・解約返戻金資料 | 法人保険の資産性、退職金原資 |
| 株主名簿 | 議決権割合、少数株主、名義株の有無 |
特に、会社が長年黒字で内部留保を積み上げている場合、不動産を保有している場合、役員借入金が大きい場合は、株価が想定より高くなることがあります。「うちは中小企業だから株価は高くない」と判断するのは危険です。
また、2026年5月時点では、取引相場のない株式の評価について国税庁で議論が行われています。制度や評価実務は今後も確認が必要なため、相談時には「いつの時点の評価か」を明確にすることが重要です。
後継者・家族関係を整理する資料
事業承継は会社の問題であると同時に、家族・相続の問題でもあります。後継者が決まっている場合でも、他の相続人との関係、先代の個人財産、遺留分、役員退職金、生命保険などを整理しておかないと、承継後にトラブルが生じることがあります。
用意できる範囲で、次の資料を整理しておくと相談が進みやすくなります。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 家族構成メモ | 相続人、後継者、非後継者の関係 |
| 先代経営者の財産一覧 | 預金、不動産、株式、保険、借入 |
| 遺言書の有無 | 株式や不動産の承継方針 |
| 生命保険一覧 | 納税資金、代償金、退職金原資 |
| 役員退職金の試算資料 | 先代への退職金支給余力 |
| 後継者の経歴・役職 | 代表就任時期、株式取得時期、金融機関説明 |
後継者に株式を集中させることと、他の相続人の納得を得ることは別の論点です。株式だけを後継者に渡すと、非後継者との公平感が問題になることがあります。一方で、株式を相続人間で分散させると、将来の経営判断が難しくなる可能性があります。
実務上の注意点として、家族関係の資料は税額計算だけでなく、承継後の経営権を守るためにも使います。誰が株式を持つか、誰が議決権を持つか、誰に代償金を支払うかを分けて検討することが大切です。
借入・保証・金融機関対応の資料
事業承継では、税金だけでなく金融機関対応も重要です。代表者変更、株式移転、役員変更があると、金融機関から事業計画、返済計画、後継者の経営体制について説明を求められることがあります。
特に確認したい資料は次のとおりです。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 借入金一覧 | 借入先、残高、返済条件、担保 |
| 返済予定表 | 月次返済額、完済予定、資金繰り |
| 保証契約書 | 先代・後継者の個人保証の有無 |
| 担保資料 | 不動産担保、預金担保、根抵当 |
| 資金繰り表 | 承継後の返済能力 |
| 事業計画書 | 後継者の経営方針、投資計画 |
中小企業では、代表者個人が会社借入の保証人になっているケースが少なくありません。承継時に後継者へ保証を引き継ぐのか、先代の保証を解除できるのか、金融機関と早めに確認する必要があります。
相談前に決めておくとよいこと
資料をそろえるだけでなく、相談前に経営者と後継者の希望を整理しておくと、税理士との打ち合わせが具体的になります。最初から結論を決める必要はありませんが、方向性があると検討の優先順位をつけやすくなります。
| 整理すること | 相談で確認できること |
|---|---|
| いつ代表を交代したいか | 役員変更、金融機関説明、退職金時期 |
| 株式をいつ渡したいか | 贈与、相続、売買、持株会社の検討 |
| 後継者は誰か | 株式集中、議決権、役員体制 |
| 先代はいつまで関与するか | 会長職、役員報酬、退職金 |
| 納税資金をどう確保するか | 保険、退職金、分割、事業承継税制 |
| 他の相続人へどう配慮するか | 遺言、代償金、生命保険、財産分割 |
代表者交代の時期と株式移転の時期は、必ずしも同じである必要はありません。先に後継者を役員にして経営経験を積ませ、株式は段階的に移す方法もあります。逆に、株式移転を先行して経営権を安定させる考え方もあります。
実務上の注意点として、贈与・相続・売買・退職金・保険はそれぞれ税務上の扱いが異なります。ひとつの方法だけで決めず、複数案を比較してから判断することが重要です。
事業承継税制を検討する場合の追加資料
法人版事業承継税制を検討する場合は、通常の承継相談よりも資料確認が細かくなります。制度の適用には、会社、先代経営者、後継者、株式、申告、継続要件などが関係します。
相談時には、次の資料を追加で用意できると検討しやすくなります。
| 資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 株主名簿 | 後継者が取得する株式数、議決権割合 |
| 役員履歴 | 先代・後継者の役員就任状況 |
| 会社規模・従業員資料 | 中小企業者要件、雇用状況 |
| 定款・登記簿 | 会社形態、株式譲渡制限、代表者 |
| 贈与予定日・相続発生時の想定 | 申告期限、認定手続き |
| 過去の贈与・相続資料 | すでに移転した株式や財産 |
事業承継税制は、税負担を抑える可能性がある一方で、手続きと継続管理が必要です。「使えるかどうか」だけでなく、「使った後に守れるか」まで確認する必要があります。
よくある質問
資料が全部そろっていなくても相談できますか?
相談できます。最初は直近の決算書、法人税申告書、株主名簿、会社謄本、借入一覧があれば、主要な論点を把握できます。不足資料は、初回相談後に優先順位をつけて集めれば問題ありません。
後継者がまだ決まっていない段階でも相談すべきですか?
相談すべきです。後継者が未定の場合でも、親族内承継、役員・従業員承継、M&A、廃業の比較が必要になります。早い段階で選択肢を整理すると、株価対策や金融機関対応の時間を確保しやすくなります。
自社株評価だけ依頼することはできますか?
可能です。ただし、自社株評価は株式移転、相続税、贈与税、役員退職金、金融機関対応とつながります。評価額だけを確認するより、承継スケジュールと一緒に検討した方が実務上は有効です。
税理士に相談する前に家族会議をしておくべきですか?
大まかな希望は共有しておくとよいですが、税額や株価を確認する前に結論を決める必要はありません。まず現状の株式、財産、税負担を整理し、その後に家族で方針を話し合う流れが安全です。
まとめ
事業承継を税理士に相談する前は、完璧な資料準備よりも、会社・株式・借入・家族関係の全体像を見える化することが大切です。
- 最初に用意したいのは、直近3期分の決算書、法人税申告書、株主名簿、会社謄本、借入一覧です。
- 自社株評価では、土地、保険、役員借入金、内部留保などが株価に影響します。
- 後継者や家族関係の資料は、税額計算だけでなく経営権と相続トラブル防止に役立ちます。
- 借入や経営者保証がある会社は、金融機関対応も承継計画に含める必要があります。
- 事業承継税制を検討する場合は、適用可否だけでなく、承継後の継続要件まで確認することが重要です。
資料が一部不足していても、相談を先延ばしにする必要はありません。まず手元にある資料で現状を整理し、どの資料を追加で集めるべきかを確認するところから始めると、承継準備を具体的に進めやすくなります。
参照ソース
- 国税庁「法人版事業承継税制」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm
- 国税庁「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm
- 中小企業庁「経営承継円滑化法による支援」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.html
- 中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」: https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/index.html
- 全国銀行協会「事業承継時に焦点を当てた経営者保証に関するガイドラインの特則」: https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_sp.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
