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事業承継・M&Aコラム
公開日:2026.05.21
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント

赤字会社でも自社株評価は必要か

10分で読めます
赤字会社でも自社株評価は必要か

赤字会社であっても、自社株評価が不要とは限りません。利益が出ていない会社でも、株式を贈与・相続・売買する場面、後継者へ株を移す場面、金融機関や親族に説明する場面では、非上場株式としての評価額を確認する必要があります。特に債務超過、役員借入金、含み益のある不動産、保険積立金、貸付金がある会社では、「赤字だから株価はゼロ」と判断すると、税務・承継・親族間トラブルの原因になります。

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赤字会社でも自社株評価が必要になる理由

自社株評価は、会社が黒字か赤字かだけで決まるものではありません。非上場会社の株式は、会社規模、株主の状況、資産・負債、利益、配当などをもとに評価します。国税庁の説明でも、取引相場のない株式は会社規模に応じて類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用で評価する考え方が示されています。

赤字会社で問題になりやすいのは、損益計算書だけを見て「価値がない」と考えてしまうことです。実際には、貸借対照表に土地、建物、保険積立金、投資有価証券、役員貸付金などが残っていれば、評価上の純資産が出ることがあります。

また、事業承継では、株式の評価額が低いタイミングで後継者へ移す選択肢もあります。赤字期は承継の検討余地がある一方で、一時的な赤字なのか、継続的な赤字なのかによって判断が変わります。

ここがポイント
赤字会社でも、株式を動かす予定がある場合は「税務上の株価」「親族間で説明できる価額」「金融機関に説明できる財務状況」を分けて整理することが大切です。

評価が必要になる主な場面

赤字会社の自社株評価は、次のような場面で必要になります。

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場面評価が必要になる理由注意点
後継者へ株式を贈与する贈与税の計算に株価が必要赤字でも純資産があれば評価額が出る
オーナーに相続が発生する相続財産として株式評価が必要債務超過でも評価明細の確認が必要
親族間で株式を売買する売買価額の妥当性を説明するため安すぎる譲渡は課税問題になり得る
役員借入金を整理する株価や相続財産に影響するため借入金は会社側では負債、個人側では債権
M&Aや廃業を検討する会社の実態価値を把握するため税務評価と売買価格は一致しない
金融機関へ承継説明をする後継者の資金負担を説明するため借入金、保証、資金繰りと一体で見る

特に重要なのは、株式を移す前に評価を確認することです。贈与後や相続後に評価額を確認すると、想定外の税負担や遺産分割上の不公平感が出ることがあります。

債務超過なら株価はゼロと考えてよいか

債務超過とは、帳簿上の資産より負債が多い状態をいいます。しかし、債務超過だからといって、必ず自社株評価がゼロになるとは限りません。

理由は大きく3つあります。

1つ目は、帳簿価額と相続税評価額が一致しないことです。土地や建物、保険、投資資産などは、評価上の金額に洗い替える必要があります。帳簿では古い取得価額や減価償却後の金額でも、評価上は別の価額になることがあります。

2つ目は、会社規模や評価方式によって評価結果が変わることです。小会社では純資産価額方式の影響が大きくなりやすく、中会社では類似業種比準価額との併用になる場合があります。赤字で利益要素が弱くても、資産要素が残っていれば評価額が出ることがあります。

3つ目は、株主の立場によって評価方式が変わる場合があることです。同族株主か、少数株主か、支配権を持つ株主かによって、原則的評価方式になるのか、配当還元方式を検討するのかが変わります。

「債務超過だから評価不要」と決めつけるのではなく、評価方式と株主区分を確認したうえで、評価額が出るかどうかを判断する必要があります。

役員借入金がある会社で確認すべきこと

赤字会社では、社長や親族役員が会社に資金を入れているケースが多くあります。この場合、会社の決算書には「役員借入金」「短期借入金」「長期借入金」などとして表示されます。

会社側から見ると役員借入金は負債です。そのため、純資産価額の計算では株価を下げる要素になります。一方で、社長個人から見ると、会社に対する貸付金という財産です。つまり、役員借入金は会社の負債であると同時に、オーナー個人の相続財産になり得ます。

この点を見落とすと、「株価は低いが、社長個人の貸付金が大きく残っている」という状態になります。後継者にとっては、株式を承継しても、先代への返済義務や相続人間の調整が残ることがあります。

確認すべき項目は次のとおりです。

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確認項目見る資料実務上のポイント
役員借入金の残高決算書、勘定科目内訳書誰から借りているかを確認する
返済可能性資金繰り表、預金残高返済できない金額が残っていないかを見る
相続財産への影響個人の財産一覧社長個人の貸付金として評価される可能性
債権放棄の検討株主構成、税務資料会社側に債務免除益が出る可能性
後継者負担借入契約、金融機関資料承継後の資金繰りと一体で判断する
ここがポイント
役員借入金を整理する場合、単に「放棄すればよい」とは限りません。会社側の債務免除益、繰越欠損金、資金繰り、相続財産への影響をまとめて確認する必要があります。
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赤字会社の株価確認で集める資料

自社株評価を検討する前に、まず資料をそろえると判断が早くなります。完璧な資料がなくても、直近の決算書と株主構成があれば、概算確認から始められることが多いです。

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資料確認する内容
直近3期分の決算書・申告書利益、純資産、欠損金、資産負債の推移
勘定科目内訳書役員借入金、役員貸付金、保険、土地建物
株主名簿誰が何株持っているか
定款株式譲渡制限、発行可能株式数、種類株式の有無
固定資産台帳土地建物、設備、減価償却の状況
不動産資料路線価、固定資産税評価額、賃貸状況
借入金明細金融機関借入、役員借入、保証の有無
資金繰り表返済可能性、承継後の資金負担

赤字会社では、過去の利益よりも「どの資産が残っているか」「誰にいくら借りているか」「後継者がどの負担を引き継ぐか」が重要です。決算書の当期純損失だけで判断しないことが、最初の確認ポイントです。

事業承継で赤字期に検討したいこと

赤字期は、会社の将来性に不安がある一方で、自社株評価が下がりやすい局面でもあります。そのため、事業承継では「今すぐ株式を移すべきか」ではなく、「評価額が低い理由が一時的か構造的か」を見極める必要があります。

一時的な赤字で、後継者が立て直す見込みがある場合は、株価が低い時期に承継計画を進める余地があります。反対に、慢性的な赤字で債務超過が深い場合は、株式移転より先に、役員借入金、金融機関借入、事業整理、廃業・M&Aの可能性を確認するほうが適切なこともあります。

また、法人版事業承継税制の利用を検討する場合も、対象株式、後継者、会社要件、認定手続きなどの確認が必要です。制度の適用可否は、単純な赤字・黒字だけでは判断できません。

赤字期の承継判断では、次の順番で確認すると整理しやすくなります。

  1. 株主構成と後継者候補を確認する
  2. 直近の自社株評価を概算する
  3. 役員借入金と金融機関借入を整理する
  4. 後継者が引き継ぐ負担を見える化する
  5. 贈与、売買、相続対策、M&A、廃業の選択肢を比較する

よくある質問

赤字会社なら自社株評価はゼロになりますか?

必ずゼロになるわけではありません。赤字でも、不動産、保険積立金、貸付金、投資資産などがある場合は評価額が出ることがあります。また、会社規模や株主区分によって評価方式が変わるため、決算書の赤字だけでは判断できません。

債務超過なら株式を後継者に贈与しても問題ありませんか?

債務超過でも、贈与前に株価を確認する必要があります。帳簿上は債務超過でも、相続税評価額で資産を見直すと純資産が出ることがあります。さらに、役員借入金や金融機関借入を後継者がどう引き継ぐかも重要です。

役員借入金は株価を下げる要素になりますか?

会社側では負債として扱われるため、純資産価額の計算上は株価を下げる要素になり得ます。ただし、社長個人にとっては会社への貸付金という財産です。相続対策では、株価だけでなく、役員借入金が個人財産として残る点も確認が必要です。

赤字会社の事業承継はいつ相談すべきですか?

株式を贈与・売買する前、または相続が起きる前に相談するのが望ましいです。特に、後継者が決まっている、金融機関借入がある、役員借入金が大きい、親族株主が複数いる場合は、早めに評価額と承継方法を整理しておくと判断しやすくなります。

まとめ

赤字会社でも、自社株評価は不要とは限りません。

  • 赤字でも、資産内容や評価方式によって株価が出ることがある
  • 債務超過でも、帳簿価額と相続税評価額の違いを確認する必要がある
  • 役員借入金は会社の負債であり、同時にオーナー個人の財産にもなり得る
  • 株式を動かす前に、株主構成、決算書、借入金、資金繰りを整理することが重要
  • 赤字期は承継の機会にもなり得るが、事業の継続可能性と後継者負担を一体で判断する必要がある

「赤字だから株価はない」と考える前に、まずは会社の貸借対照表、役員借入金、株主構成を確認し、概算でも自社株評価を把握しておくことが大切です。


参照ソース

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 行政書士

会長医療経営支援相続・事業承継支援

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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