
執筆者:辻 勝
会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント
土地を持つ会社の自社株評価|事業承継の注意点

土地を持つ会社の自社株評価では、決算書上の利益だけでなく、会社が保有する土地や建物の評価額が株価に大きく影響します。特に不動産保有会社や、昔から所有している土地を事業用に使っている同族会社では、帳簿価額より相続税評価額が高くなり、承継時に想定以上の贈与税・相続税が発生することがあります。
事業承継を考える場合は、まず「会社の株価がどの方式で評価されるか」「土地の評価額がどれくらい株価に反映されるか」「土地保有割合が高い会社として特別な扱いを受けないか」を確認することが重要です。土地を持つ会社の株価対策は、土地単体の相続対策ではなく、会社全体の承継設計として見る必要があります。
自社株評価・株式承継の個別相談
この記事の内容を、自社株評価と株式移転の判断に落とし込む相談をする
株価、株主構成、持株会社、贈与・譲渡・相続の選択肢を整理します。
土地を持つ会社では自社株評価が高くなりやすい
非上場会社の株式、いわゆる取引相場のない株式は、上場株のように市場価格がありません。そのため、相続税や贈与税の計算では、会社規模や株主の立場に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、またはその併用により評価します。
土地を多く持つ会社で問題になりやすいのは、純資産価額方式の影響が大きくなることです。純資産価額方式では、会社の資産と負債を相続税評価ベースに洗い替えて株価を計算します。土地の評価額が高い場合、会社の純資産が大きくなり、結果として自社株評価も上がりやすくなります。
たとえば、先代社長の時代に取得した土地が、現在では周辺開発や地価上昇で大きく値上がりしているケースがあります。決算書上は古い取得価額のままでも、株価評価では相続税評価額を使うため、承継時の税負担が急に見える化されることがあります。
実務上の注意点として、会社の貸借対照表だけを見て「土地の簿価が低いから株価も低い」と判断しないことが大切です。土地を持つ会社では、決算書の数字と株価評価上の数字が大きくズレることがあります。
自社株評価で確認する主な評価方式
土地を持つ会社でも、すべての会社が同じ方法で評価されるわけではありません。まずは会社規模、株主区分、資産構成を確認し、どの評価方式が中心になるかを整理します。
| 評価方式 | 主な内容 | 土地を持つ会社での注意点 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 類似する上場会社の株価を基に、配当・利益・純資産を比準して評価する方式 | 利益や配当が低い場合は評価が抑えられることもあるが、会社規模や特定会社判定に注意 |
| 純資産価額方式 | 会社の資産・負債を相続税評価に洗い替えて評価する方式 | 土地の評価額が株価に直接反映されやすい |
| 併用方式 | 類似業種比準方式と純資産価額方式を一定割合で組み合わせる方式 | 純資産価額の割合が高いほど土地評価の影響が強くなる |
| 特定の評価会社の評価 | 資産構成などが通常会社と異なる場合の評価 | 土地保有割合が高い会社では、通常より純資産価額方式に近い評価になりやすい |
中小企業のオーナー社長が持つ株式は、経営支配権のある同族株主として評価されることが多く、配当還元方式だけで簡単に評価できるとは限りません。土地・建物・借入金・含み益を含めて、会社全体の資産構成を見る必要があります。
特に確認したいのは、土地の評価額そのものよりも、会社の総資産に占める土地等の割合です。この割合が高いと、一般的な事業会社とは異なる評価上の論点が出てくる可能性があります。
土地保有割合が高い会社は特定会社判定に注意
土地を多く持つ会社では、「土地保有特定会社」に該当しないかを確認する必要があります。土地保有特定会社とは、会社の資産構成のうち土地等の割合が高い会社について、通常の事業会社とは異なる評価上の取り扱いをする考え方です。
該当するかどうかは、会社規模や資産構成などをもとに判定します。ここで重要なのは、会社が「不動産業」かどうかだけで決まるわけではないという点です。製造業、運送業、医療・介護関連会社などでも、事業用地や賃貸物件を多く保有していれば、土地保有割合の確認が必要になることがあります。
実務上の注意点として、承継直前に土地を売却したり、資産を入れ替えたりすれば必ず評価が下がるとは限りません。評価通達上の判定、法人税、消費税、資金繰り、金融機関対応まで含めて検討しないと、かえって税務リスクや資金負担が増えることがあります。
土地保有割合が高い会社では、以下のような確認が必要です。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 土地等の評価額 | 路線価方式・倍率方式・貸宅地・借地権などの評価 |
| 会社規模 | 総資産価額、従業員数、取引金額など |
| 資産構成 | 土地、建物、有価証券、現預金、借入金のバランス |
| 利用状況 | 自社利用、賃貸、遊休地、同族関係者への貸付 |
| 承継方法 | 贈与、相続、譲渡、持株会社活用、M&Aの可能性 |
土地保有特定会社に該当するかどうかは、株価対策の出発点になる重要な判定です。該当可能性がある場合は、早い段階で概算評価を行い、承継時期や対策の選択肢を比較する必要があります。
土地の評価では路線価・倍率方式・利用状況を見る
土地を持つ会社の株価評価では、土地の評価方法そのものも重要です。相続税評価では、主に路線価方式または倍率方式により土地を評価します。路線価が定められている地域では路線価方式、路線価がない地域では固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる倍率方式が使われます。
ただし、土地の評価は単に「路線価 × 面積」で終わるとは限りません。土地の形状、奥行、間口、道路付け、利用制限、貸付状況などにより評価が変わることがあります。会社が保有する土地が複数ある場合は、それぞれの所在地と利用状況を分けて確認する必要があります。
たとえば、会社が所有する土地には次のようなパターンがあります。
| 土地の種類 | 株価評価での主な注意点 |
|---|---|
| 本社・工場・店舗の敷地 | 事業継続に必要でも、会社資産として評価される |
| 賃貸マンション・駐車場 | 収益性と土地評価の両面を確認する |
| 遊休地 | 事業に使っていない資産として株価を押し上げる可能性がある |
| 社長や親族に貸している土地 | 賃料水準、権利関係、同族間取引の整理が必要 |
| 借地・底地 | 借地権、貸宅地評価など個別論点が生じる |
実務上の注意点として、会社が土地を持っている場合、固定資産税評価額、路線価、帳簿価額、実勢価格がそれぞれ異なることを前提に整理する必要があります。どの数字を見て話しているのかが曖昧なまま承継対策を進めると、後で税負担の見込みが大きく変わることがあります。
事業承継前に行う株価対策の考え方
土地を持つ会社の株価対策では、「株価を下げること」だけを目的にしないことが重要です。土地は事業の基盤であり、金融機関の担保、賃料収入、将来の売却余地にも関係します。無理に資産を動かすと、承継後の資金繰りや経営安定性を損なう可能性があります。
検討しやすい順番は、次のとおりです。
- 現在の自社株評価を概算する
- 土地ごとの評価額と利用状況を整理する
- 土地保有特定会社などの判定可能性を確認する
- 後継者へいつ、どの方法で株式を移すかを比較する
- 退職金、配当、借入返済、資産整理の影響を試算する
- 相続税・贈与税だけでなく、法人税・資金繰りも確認する
株価対策は、承継直前ではなく数年単位で設計するほど選択肢が広がります。役員退職金の支給、不要資産の整理、収益構造の見直し、株式の段階的な移転などは、タイミングによって税務上・資金繰り上の影響が変わります。
土地を売却して現金化すれば株価が必ず下がる、という単純な話でもありません。売却益に法人税等がかかる、現金資産が増える、将来の賃料収入がなくなる、担保余力が変わるなど、複数の影響があります。対策ごとに株価・税金・資金繰りを並べて比較することが必要です。
専門家に相談する前に整理しておきたい資料
土地を持つ会社の自社株評価を相談する場合、最初からすべての資料を完璧にそろえる必要はありません。ただし、次の資料があると、概算評価や論点整理が進めやすくなります。
| 資料 | 確認できること |
|---|---|
| 直近の決算書・勘定科目内訳書 | 総資産、負債、利益、土地建物の帳簿価額 |
| 固定資産税課税明細書 | 土地・建物の固定資産税評価額 |
| 登記事項証明書・公図・地積測量図 | 所有者、地目、面積、権利関係 |
| 賃貸借契約書 | 貸付状況、賃料、同族関係者との取引 |
| 借入金明細 | 金融機関借入、担保設定、返済条件 |
| 株主名簿 | 現在の株主構成と承継対象株式 |
実務上の注意点として、土地の名義が会社なのか、社長個人なのか、親族なのかを最初に分けることが大切です。会社所有の土地は自社株評価に影響し、個人所有の土地は相続財産として直接評価されます。両方が混在している場合は、会社の事業承継と個人の相続対策を一体で整理する必要があります。
よくある質問
Q: 土地を持っているだけで自社株評価は必ず高くなりますか?
Q: 不動産保有会社でなくても土地保有特定会社の確認は必要ですか?
Q: 土地を売却すれば事業承継しやすくなりますか?
Q: いつ自社株評価を確認すべきですか?
まとめ
土地を持つ会社の事業承継では、土地評価と自社株評価を分けて考えるのではなく、会社全体の株価にどう影響するかを確認することが重要です。
- 土地を持つ会社では、純資産価額方式の影響で自社株評価が高くなりやすい
- 帳簿価額ではなく、相続税評価額ベースで土地を見直す必要がある
- 土地保有割合が高い会社は、特定会社判定に注意する
- 土地の売却や資産整理は、法人税・資金繰り・金融機関対応も含めて比較する
- 事業承継前に概算株価を把握すると、贈与、相続、退職金、資産整理の選択肢を検討しやすくなる
土地を持つ会社の株価対策は、単なる節税策ではなく、後継者が会社を引き継いだ後の経営安定にも関わるテーマです。まずは現在の株価と土地評価の影響を把握し、承継方法ごとの税金と資金繰りを並べて検討することが、現実的な第一歩になります。
参照ソース
- 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
- 国税庁「特定の評価会社の株式」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/05.htm
- 国税庁「路線価図・評価倍率表」: https://www.rosenka.nta.go.jp/
- 国税庁「No.4606 倍率方式による土地の評価」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4606.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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