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事業承継・M&Aコラム
公開日:2026.05.21
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント

生前贈与で自社株を渡す時の注意点

10分で読めます
生前贈与で自社株を渡す時の注意点

自社株を後継者へ生前贈与する場合、単に「毎年少しずつ渡せばよい」と考えるのは危険です。自社株は現金と違い、贈与時点の評価額、議決権の移転、贈与税、将来の相続税、事業承継税制の適用可否が絡みます。特にオーナー社長にとっては、株式を渡すことは経営権を渡すことでもあります。2026年5月時点の実務では、暦年贈与、相続時精算課税、法人版事業承継税制を比較しながら、贈与前に自社株評価と承継後の支配関係を確認することが重要です。

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自社株の生前贈与で最初に確認すること

自社株贈与の目的は、大きく分けると「相続税対策」「後継者への経営権移転」「将来の株価上昇分の移転」の3つです。目的があいまいなまま贈与すると、税負担は抑えたつもりでも、議決権が分散したり、後継者以外の相続人とのトラブルにつながることがあります。

まず確認したいのは、次の4点です。

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確認項目見るべきポイント
株式の評価額現在の贈与税負担、将来の相続税への影響
議決権割合後継者が経営判断できるだけの支配権を持てるか
贈与方法暦年贈与、相続時精算課税、事業承継税制のどれを使うか
相続人関係後継者以外の相続人への説明、遺留分、財産配分

実務上の注意点として、贈与税だけを見て株数を決めないことが大切です。自社株の移転は、税務だけでなく会社の意思決定権にも直結します。過半数、3分の2超、拒否権を持つ3分の1超など、会社法上の議決権ラインも意識して設計する必要があります。

ここがポイント
自社株贈与の検討では、最初に「何株渡すか」ではなく、「後継者にどの段階でどの権限を持たせるか」を決めると整理しやすくなります。

暦年贈与で自社株を渡す場合の注意点

暦年贈与は、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与について、受贈者ごとに基礎控除110万円を差し引いて贈与税を計算する方法です。毎年少しずつ自社株を贈与する方法として使われることがあります。

ただし、自社株の評価額が高い会社では、110万円の範囲内で移転できる株数が限られます。たとえば1株評価額が高い場合、端数の都合で思ったほど株式を移せないこともあります。また、贈与のたびに株価評価を行う必要があるため、毎年の決算内容によって評価額が変わる点にも注意が必要です。

さらに、現行制度では、相続開始前の一定期間内に受けた暦年贈与財産は、相続税の課税価格に加算される仕組みがあります。加算対象期間は段階的に見直されており、将来的には相続開始前7年以内の贈与が加算対象となるため、高齢のオーナー社長ほど早めの設計が重要になります。

暦年贈与が向きやすいケースは、株価が比較的低く、時間をかけて少しずつ移転できる場合です。一方で、後継者へ早期に支配権を渡したい場合や、株価上昇が見込まれる場合は、暦年贈与だけでは遅いことがあります。

相続時精算課税を使う場合の考え方

相続時精算課税は、一定の贈与者から一定の受贈者への贈与について、累計2,500万円まで特別控除を使い、それを超える部分に一律20%の贈与税がかかる制度です。選択した贈与者からの贈与については、将来の相続時に贈与財産を相続財産に加算して精算します。

自社株贈与で相続時精算課税を使うメリットは、株価が低い時点でまとまった株式を後継者へ移しやすいことです。将来、会社の利益が伸びて株価が上がる見込みがある場合、早期に移転しておくことで、株価上昇後の移転負担を避けられる可能性があります。

ただし、相続時精算課税は一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税に戻れない点が大きな注意点です。現行制度では相続時精算課税にも年110万円の基礎控除がありますが、制度選択そのものは慎重に判断する必要があります。

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方法主なメリット主な注意点
暦年贈与少額ずつ移転しやすい相続前加算、移転に時間がかかる
相続時精算課税まとまった株式を移しやすい選択後は暦年課税に戻れない
事業承継税制要件を満たすと贈与税の納税猶予が可能認定、申告、継続要件が重い

実務上の注意点として、相続時精算課税は「贈与税が少なくなる制度」ではなく、「相続時に精算する制度」です。相続税まで含めた試算をせずに選ぶと、将来の納税資金で困る可能性があります。

自社株評価額は贈与前に必ず確認する

非上場会社の自社株は、上場株式のように市場価格があるわけではありません。相続税・贈与税の計算では、国税庁の財産評価基本通達に基づき、会社規模、株主区分、利益、配当、純資産、土地や株式の保有状況などを踏まえて評価します。

一般的には、会社規模や株主の立場に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、これらの併用方式、配当還元方式などを検討します。特に同族会社オーナーが後継者へ株式を渡す場合、支配株主としての評価になることが多く、少数株主向けの低い評価方式が使えるとは限りません。

自社株評価で見落としやすいのは、次のような項目です。

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論点注意点
利益が大きい類似業種比準価額が高くなることがある
内部留保が厚い純資産価額が高くなりやすい
土地を多く持つ土地保有特定会社に該当する可能性がある
株式や投資資産が多い株式等保有特定会社の確認が必要
役員退職金の予定支給時期により株価へ影響する可能性がある

贈与日は評価額を確定する基準日になります。決算直後、退職金支給前後、不動産の評価替え、利益の急増など、タイミングによって評価額が変わることがあります。贈与契約書を作った後に評価額を確認するのではなく、事前に概算評価を行い、税額と議決権移転のバランスを見てから実行することが重要です。

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事業承継税制を使うかどうかも比較する

自社株を後継者へ贈与する場合、法人版事業承継税制の対象になるかも確認したい論点です。法人版事業承継税制では、一定の非上場会社の株式を後継者が贈与により取得した場合、要件を満たすことで贈与税の納税猶予を受けられる可能性があります。

ただし、制度の利用には都道府県知事の認定、贈与税申告、後継者が代表者として経営すること、対象株式の継続保有など、複数の要件があります。猶予は免除とは異なり、要件を満たせなくなった場合には猶予税額と利子税の納付が必要になることがあります。

ここがポイント
事業承継税制は税負担を大きく抑えられる可能性がある一方で、実行後の継続管理が重要です。制度を使うかどうかは、後継者の経営意思、株式保有方針、将来のM&A可能性まで含めて判断します。

実務上の注意点として、将来会社を売却する可能性がある場合や、後継者が長期保有できるか不透明な場合は、事業承継税制のメリットだけでなく制約も確認する必要があります。

贈与前に整理しておきたい実務チェック

自社株贈与は、税務申告だけで完結するものではありません。後継者以外の相続人、金融機関、顧問税理士、場合によっては取引先への説明も関係します。特に金融機関は、代表者交代、株主構成、経営者保証、役員退職金、資金繰りへの影響を確認することがあります。

贈与前には、次の順番で整理すると進めやすくなります。

  1. 現在の株主名簿と議決権割合を確認する
  2. 自社株の概算評価額を出す
  3. 後継者に渡すべき株数と時期を決める
  4. 暦年贈与、相続時精算課税、事業承継税制を比較する
  5. 贈与税、相続税、納税資金を試算する
  6. 贈与契約書、株主名簿、取締役会・株主総会手続きを確認する
  7. 後継者以外の相続人への財産配分を検討する

特に重要なのは、税額と支配権を同時に見ることです。税負担を抑えるために少しずつ贈与した結果、後継者の議決権が不十分なまま相続が発生すると、会社の意思決定が不安定になることがあります。

よくある質問

Q: 自社株を110万円以内で毎年贈与すれば問題ありませんか?
必ずしも問題ないとはいえません。110万円以内で贈与税がかからない場合でも、相続開始前の一定期間内の贈与は相続税に加算される可能性があります。また、毎年の株価評価、贈与契約、名義変更、議決権割合の確認も必要です。
Q: 株価が高い場合は贈与しない方がよいですか?
株価が高いからといって、必ず贈与を避けるべきとは限りません。役員退職金、配当方針、資産整理、持株会社、事業承継税制など、事前に検討できる対策があります。ただし、対策には時間がかかるため、贈与直前では選択肢が限られます。
Q: 相続時精算課税は自社株贈与に向いていますか?
株価が低い時点でまとまった株式を移したい場合には有効な選択肢になり得ます。ただし、将来の相続税で精算する制度であり、暦年課税に戻れない点もあります。相続財産全体、後継者の納税資金、他の相続人とのバランスを含めて判断する必要があります。
Q: 事業承継税制を使えば贈与税は払わなくてよいですか?
要件を満たせば贈与税の納税猶予を受けられる可能性がありますが、単純な非課税制度ではありません。認定、申告、継続保有、後継者の経営継続などの要件があり、要件を外れると納税が必要になる場合があります。

まとめ

自社株を生前贈与で後継者へ渡す場合は、次の点を押さえて進めることが重要です。

  • 自社株贈与は、贈与税だけでなく経営権移転の問題でもある
  • 暦年贈与は使いやすい一方、相続前加算と移転スピードに注意する
  • 相続時精算課税はまとまった移転に使えるが、相続税まで含めて判断する
  • 自社株評価は贈与前に行い、利益、純資産、土地、投資資産を確認する
  • 事業承継税制は有効な選択肢だが、認定と継続要件まで含めて検討する

生前贈与は早く始めるほど選択肢が増えますが、方法を誤ると税負担や株主関係の問題が残ります。まずは現在の株価、株主構成、後継者へ渡すべき議決権割合を整理し、贈与方法ごとの税額とリスクを比較することが、自社株承継の第一歩です。


参照ソース


この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 行政書士

会長医療経営支援相続・事業承継支援

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

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