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事業承継・M&Aコラム
公開日:2026.05.21
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント

社長交代時の役員報酬の決め方|先代・後継者・利益調整

10分で読めます
社長交代時の役員報酬の決め方|先代・後継者・利益調整

社長交代時の役員報酬は、「後継者の生活費をいくらにするか」だけで決めるものではありません。先代が会長として残るのか、後継者が代表権と実務責任をどこまで引き受けるのか、会社の利益と資金繰りにどれだけ余力があるのかを合わせて考える必要があります。特に中小企業では、役員報酬の増減が法人税、社会保険料、個人所得税、金融機関への説明、自社株評価に影響します。社長交代時の報酬設計は、事業承継計画の一部として早めに整理しておくことが重要です。

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社長交代時の役員報酬は3つのバランスで考える

社長交代の場面では、役員報酬を次の3つのバランスで決めます。

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観点確認すること報酬設計への影響
役割先代が経営判断に残るか、後継者が実務を担うか先代報酬を残すか、後継者報酬を上げるか
利益役員報酬後の営業利益・経常利益が確保できるか過大な報酬設定を避ける
資金繰り借入返済、納税、賞与、設備投資に耐えられるか月次資金繰りに合わせて水準を調整する

社長交代直後は、後継者に責任が移る一方で、先代も取引先対応、金融機関対応、技術承継、人脈の引継ぎを続けることがあります。そのため、単純に「先代をゼロ、後継者を満額」にするのではなく、移行期間の役割分担に合わせた報酬設計が現実的です。

一方で、役員報酬を高くしすぎると会社利益が圧迫され、銀行から「承継後に利益が出ない会社」と見られることがあります。社長交代の年だけを見て決めず、少なくとも今期・来期・承継後数年の利益計画を並べて確認することが大切です。

先代の報酬は「残す理由」を説明できる水準にする

先代が会長や相談役として残る場合、報酬を支給すること自体は珍しくありません。ただし、報酬水準は「何をしているから支払うのか」を説明できる必要があります。

例えば、次のような役割がある場合は、一定の報酬を残す合理性があります。

  • 主要取引先との関係維持
  • 金融機関との面談対応
  • 後継者への経営判断の助言
  • 技術、営業、採用、人脈の引継ぎ
  • 非常勤役員としての重要会議への出席

反対に、実務や経営判断にほとんど関与していないにもかかわらず、従前と同じ高額報酬を続けると、税務上も経営管理上も説明が難しくなります。先代報酬の見直しでは、肩書きではなく実態を基準にすることが重要です。

ここがポイント
先代報酬を急にゼロにすると、先代個人の生活設計や退職金設計に影響します。報酬を下げる場合は、退職金、役員借入金の返済、株式移転、相続対策と合わせて検討すると整理しやすくなります。

特に中小企業では、先代が会社に貸付金を残しているケースもあります。報酬、退職金、役員借入金返済を別々に考えると資金繰りが崩れやすいため、会社から先代へ支払う総額として見える化しておくと判断しやすくなります。

後継者の報酬は責任・生活・会社利益で決める

後継者の役員報酬は、責任の重さに見合う水準にする必要があります。代表者になるにもかかわらず報酬が低すぎると、後継者本人の生活が安定せず、社内外からも「本当に経営を任されているのか」が分かりにくくなります。

ただし、後継者報酬を一気に上げすぎると、会社の利益が減り、金融機関への説明や税務上の妥当性に影響します。後継者の報酬を決めるときは、次の順番で確認すると実務的です。

  1. 後継者本人の最低生活費と家族構成を確認する
  2. 代表者としての責任と業務量を整理する
  3. 会社の月次利益と資金繰りを試算する
  4. 先代報酬や退職金との合計負担を見る
  5. 金融機関に説明できる利益水準を残す

後継者がまだ会社員のまま準備している段階や、代表権を持たずに取締役として関与する段階では、報酬水準を段階的に上げる方法もあります。後継者報酬は承継の進み具合に合わせて段階設計すると、社内説明もしやすくなります。

役員報酬は税務上のルールを外すと損金にならない

役員報酬は、会社が自由に毎月変えられる給与ではありません。法人税の計算では、一定の要件を満たす役員給与でなければ、会社の損金に算入できない場合があります。

中小企業で特に重要なのは、毎月同額で支給する定期同額給与です。通常、事業年度開始後の一定期間内に役員報酬を決定し、その後は原則として同額で支給します。期中に利益が出たから増額する、資金繰りが苦しいから一時的に減額する、といった対応は、税務上の問題が生じることがあります。

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報酬の種類中小企業での利用場面注意点
定期同額給与毎月の役員報酬原則として期中変更に制限がある
事前確定届出給与役員賞与を支給したい場合事前届出と届出どおりの支給が必要
退職給与先代退任時の退職金功績倍率、在任年数、最終報酬月額などの検討が必要

社長交代時は、「後継者の報酬をいつから上げるか」「先代の報酬をいつ下げるか」が問題になります。代表者変更の登記日、株主総会や取締役会の決議日、事業年度開始日がずれていると、処理が複雑になります。報酬改定のタイミングは、登記や肩書きではなく、税務上の改定可能時期と社内決議の整合性を確認する必要があります。

ここがポイント
役員報酬を変更する場合は、議事録、報酬改定の理由、支給開始月、変更後の金額を残しておくと、後日の説明がしやすくなります。特に社長交代の前後は、形式と実態の両方をそろえることが重要です。
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会社利益を残す報酬設計にしないと承継後が苦しくなる

社長交代時の報酬設計で見落とされやすいのが、会社利益の見え方です。役員報酬は会社の費用になるため、報酬を上げるほど法人税は下がる傾向があります。しかし、利益を削りすぎると、会社の内部留保、借入返済力、金融機関評価が弱くなります。

例えば、次のような状態は注意が必要です。

  • 後継者報酬を上げた結果、営業利益がほとんど残らない
  • 先代報酬と後継者報酬が二重に重くなっている
  • 退職金支給と報酬増額が同じ期に重なっている
  • 借入返済後の資金が不足している
  • 自社株評価や相続対策との整合性を見ていない

事業承継では、会社の利益を下げることが自社株評価に影響する場合もあります。ただし、評価を下げる目的だけで報酬を不自然に増やすと、資金繰りや税務上の説明に無理が出ます。報酬設計は節税だけでなく、承継後の経営安定を優先して考えるべきです。

特に銀行借入がある会社では、後継者が代表者になる前後で、金融機関が返済力や経営管理能力を確認します。役員報酬を決める際は、税金だけでなく、金融機関に提出する試算表や資金繰り表も見ながら判断しましょう。

相談前に整理しておきたい資料

社長交代時の役員報酬を具体的に決めるには、過去の数字と今後の計画を並べる必要があります。相談前には、次の資料を準備しておくと検討が進みやすくなります。

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資料確認する目的
直近3期分の決算書利益水準、役員報酬、借入返済力を確認する
最新の試算表現在の利益と資金繰りを確認する
役員報酬の月額一覧先代、後継者、親族役員の報酬を整理する
株主名簿株式承継や議決権の状況を確認する
借入金返済予定表報酬変更後の返済余力を見る
先代の退職金予定報酬減額や退任時期と合わせて検討する

この段階で大切なのは、最初から正解の金額を決めようとしないことです。まずは「先代報酬を残す案」「後継者報酬を段階的に上げる案」「退職金を組み合わせる案」など、複数パターンを試算します。1つの金額だけで判断すると、税金・社会保険・資金繰りのどこかに無理が出やすくなります

よくある質問

社長交代したら、後継者の役員報酬はすぐ上げるべきですか?

代表者として実務と責任を担うなら、報酬を見直す必要があります。ただし、税務上の改定時期、会社利益、先代報酬との合計負担を見ずに上げるのは危険です。代表者変更日だけでなく、事業年度や決議日も確認しましょう。

先代が会長として残る場合、報酬を払い続けてもよいですか?

実際に経営助言、取引先対応、金融機関対応などの役割がある場合は、報酬を残す合理性があります。ただし、実態に比べて高すぎる報酬は説明が難しくなります。役割、勤務状況、会社規模、過去の報酬水準を踏まえて判断します。

利益が出そうな期だけ役員報酬を増やせますか?

役員報酬は、原則として期中に自由に増減できるものではありません。定期同額給与や事前確定届出給与の要件を外れると、損金算入できない部分が生じる可能性があります。利益調整目的だけで期中変更するのは避けるべきです。

社長交代時に退職金も一緒に検討した方がよいですか?

先代が退任または大幅に職務を縮小する場合は、退職金も重要な検討項目です。役員報酬を下げる代わりに退職金を設計するケースもあります。ただし、退職の実態、金額の妥当性、会社資金、株式承継との関係を合わせて確認する必要があります。

まとめ

社長交代時の役員報酬は、先代と後継者の希望だけでなく、会社の利益、資金繰り、税務上のルール、金融機関への説明を踏まえて決める必要があります。

  • 先代報酬は、会長や相談役としての実際の役割を基準に考える
  • 後継者報酬は、責任・生活・会社利益のバランスで段階設計する
  • 定期同額給与などの税務ルールを外すと、損金算入に影響する
  • 報酬、退職金、役員借入金返済、自社株承継はまとめて試算する
  • 社長交代の前後は、議事録・決議日・支給開始月を整えておく

役員報酬は毎月の支給額に見えて、実際には事業承継全体の資金計画です。社長交代を予定している会社は、決算前や代表者変更直前ではなく、余裕を持って複数パターンを試算しておくと、後継者への引継ぎを進めやすくなります。


参照ソース

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 行政書士

会長医療経営支援相続・事業承継支援

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

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