
執筆者:辻 勝
会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント
兄弟で株式分散した会社の承継整理法

兄弟で株式が分散している同族会社の事業承継では、後継者を決めるだけでは不十分です。株式の持ち分が分かれたままだと、社長交代後に役員選任、定款変更、株式譲渡、金融機関対応、相続時の分割協議で意見が割れ、会社の意思決定が止まることがあります。まず確認すべきことは、誰が何株持っているかではなく、議決権ベースで誰が会社の重要事項を決められるかです。
同族会社では「兄弟だから話せば分かる」と考えがちですが、配偶者や次世代が関わると利害関係は変わります。揉める前に、株主名簿、定款、株価、買取資金、相続時の承継方針を整理し、後継者に経営権を集中させる道筋を作ることが重要です。
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承継時期、後継者、株式、役員体制、金融機関対応を、実行前に整理します。
兄弟で株式が分散していると何が問題になるか
兄弟で株式を分け合っている会社では、創業者や先代社長の相続をきっかけに株式が分散しているケースが多くあります。たとえば、長男が社長、次男と長女が株主、母も一部株式を保有しているような状態です。
この状態で問題になるのは、単なる感情的な対立だけではありません。会社法上の意思決定と、税務上の株式評価が同時に絡むため、後から整理しようとすると選択肢が狭くなります。
特に注意したいのは次のような場面です。
| 場面 | 株式分散による問題 | 早めに確認すること |
|---|---|---|
| 社長交代 | 後継者に経営権が集中しない | 議決権割合、役員構成 |
| 重要決議 | 定款変更や組織再編が進まない | 特別決議に必要な賛成割合 |
| 相続発生 | 株式がさらに次世代へ分散する | 遺言、贈与、買取方針 |
| 株式買取 | 買取価格で揉める | 自社株評価、資金調達 |
| 金融機関対応 | 実質的な経営者が不明確になる | 後継者の支配権、保証関係 |
会社法上、株主総会の普通決議は原則として出席株主の議決権の過半数で決まります。一方、定款変更や一定の株式関連手続などは特別決議が必要となり、原則として出席株主の議決権の3分の2以上が必要です。つまり、3分の1超の議決権を持つ株主がいると、重要事項に対する事実上の拒否権を持つ場合があります。
最初に確認すべき株式と議決権の整理
株式分散対策の第一歩は、株主名簿を見て「誰が何株持っているか」を確認することです。ただし、それだけでは不十分です。実務では、次の順番で整理します。
- 発行済株式総数を確認する
- 株主ごとの保有株数を確認する
- 議決権の有無を確認する
- 種類株式や自己株式の有無を確認する
- 定款の譲渡制限や相続人への売渡請求条項を確認する
- 将来の相続後に誰へ株式が移る可能性があるかを確認する
ここで見落としやすいのが、名義株や古い株主名簿です。過去に親族名義で株式を持たせていた、実際の出資者と名義人が違う、相続後に名義変更がされていない、といったケースでは、承継前に権利関係の確認が必要です。
実務上の注意点として、株式の名義を「実態に合わせて直す」だけでも、贈与税や譲渡所得、相続税上の問題が出ることがあります。単に株主名簿を書き換えるのではなく、取得経緯、出資原資、過去の申告状況を確認してから進めるべきです。
後継者にどこまで株式を集めるべきか
後継者が安定して経営するには、少なくとも普通決議を通せる過半数の議決権を目指すことが基本です。ただし、事業承継後も定款変更、種類株式の設計、組織再編、株式併合などを検討する可能性があるなら、3分の2以上の議決権を後継者側に集めることが望ましい場面があります。
目安としては、次のように考えます。
| 後継者側の議決権割合 | できること・注意点 |
|---|---|
| 50%以下 | 経営方針が対立すると決議が不安定になりやすい |
| 過半数 | 役員選任など普通決議は通しやすい |
| 3分の2以上 | 特別決議事項まで進めやすくなる |
| 100% | 意思決定は安定するが、買取資金や税負担が大きくなりやすい |
必ずしも後継者が100%保有しなければならないわけではありません。兄弟に配当を受ける権利を残す、議決権のない種類株式を活用する、会社が自己株式として買い取るなど、会社の状況に応じた選択肢があります。
ただし、経営する人と株式を持つ人が大きくずれている状態は、長期的には揉めやすい構造です。特に、非後継者の兄弟が「会社には関わらないが株式は持ち続ける」という形になる場合、配当方針、役員報酬、退職金、株式買取価格をめぐって対立が起こりやすくなります。
株式を整理する主な方法
兄弟で分散した株式を整理する方法には、贈与、譲渡、会社による自己株式取得、相続対策、種類株式の活用などがあります。どの方法が良いかは、株価、資金、兄弟の納得感、将来の相続を踏まえて判断します。
| 方法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 後継者への贈与 | 先代や兄弟が無償移転に合意している | 贈与税、自社株評価の確認が必要 |
| 後継者への譲渡 | 非後継者に対価を払って整理したい | 譲渡価格、譲渡所得、資金負担 |
| 会社による自己株式取得 | 会社に買取資金がある | みなし配当課税、分配可能額規制 |
| 相続時の遺言・遺産分割 | 先代株式がまだ残っている | 遺留分、他の財産とのバランス |
| 種類株式の活用 | 議決権と経済的利益を分けたい | 定款変更、設計の複雑さ |
| 事業承継税制の検討 | 後継者へ非上場株式を集中的に承継したい | 要件、期限、継続管理が必要 |
事業承継税制は、非上場株式等の承継に伴う贈与税・相続税の納税猶予・免除を受けられる制度です。ただし、制度を使えば自動的に兄弟間の問題が解決するわけではありません。税負担を抑える制度である一方、誰に株式を集めるのか、非後継者にどう納得してもらうのかは別に整理する必要があります。
実務上の注意点として、株式の買取や贈与を急ぐ前に、まず自社株評価を行うことが重要です。株価が高い会社では、後継者が買い取れない、贈与税が重い、兄弟が提示価格に納得しないといった問題が起こります。
兄弟間で揉めないための話し合いの進め方
株式分散の整理では、税務や法務の前に「何を公平と考えるか」を決める必要があります。同族会社では、経営に関わる後継者と、会社に関わらない兄弟で、見ている利益が違います。
後継者は「会社を守るために株式を集めたい」と考えます。一方、非後継者は「親の財産の一部として株式を評価してほしい」と考えることがあります。この認識の差を放置すると、後で買取価格や相続分をめぐる対立になります。
話し合いでは、次の順番で整理すると進めやすくなります。
- 会社を誰が継ぐのかを明確にする
- 後継者に必要な議決権割合を決める
- 非後継者に残す権利や代償を検討する
- 株式評価額と買取可能額を確認する
- 先代の相続対策と合わせて整理する
- 合意内容を契約書、議事録、遺言などに残す
口約束で済ませないことが非常に重要です。兄弟本人同士では納得していても、相続が発生すると配偶者や子どもが権利を主張する場合があります。合意内容は、株式譲渡契約書、株主間契約、遺言、定款変更など、法的に確認できる形にしておく必要があります。
株式分散対策で専門家に相談する前に整理する資料
相談前には、完璧な計画を作る必要はありません。ただし、次の資料があると、株式分散のリスクや承継方法を具体的に検討しやすくなります。
| 資料 | 確認する目的 |
|---|---|
| 株主名簿 | 現在の株主と株数を確認する |
| 定款 | 譲渡制限、相続人への売渡請求、種類株式の有無を確認する |
| 直近の決算書 | 自社株評価、買取資金、配当余力を見る |
| 法人税申告書別表 | 株主構成や税務上の情報を確認する |
| 先代・株主の相続関係図 | 将来の株式分散リスクを見る |
| 借入金一覧 | 金融機関対応、経営者保証との関係を見る |
| 役員報酬・退職金方針 | 後継者と非後継者の利害調整に使う |
実務上の注意点として、株式評価は一度計算して終わりではありません。利益、純資産、土地、有価証券、役員退職金の支給予定などで評価額が変わるため、承継の実行時期とセットで見直す必要があります。
また、会社に多額の内部留保や不動産がある場合、非後継者が「株式の価値が高いはずだ」と考えやすくなります。後継者が買い取る場合は、資金調達だけでなく、会社の将来資金を圧迫しないかも確認する必要があります。
よくある質問
兄弟で株式を半分ずつ持っている場合、問題がありますか?
兄弟の関係が良い間は問題が表面化しないこともあります。ただし、50%ずつでは意見が分かれたときに決議が止まりやすく、後継者が明確でも経営権が安定しません。将来の相続でさらに株式が分散する可能性もあるため、早めに議決権の集中方法を検討することが望ましいです。
後継者以外の兄弟から株式を買い取る価格はどう決めますか?
まず税務上の自社株評価を確認し、そのうえで当事者間の合意価格、会社の財務状況、将来の配当見込みなどを踏まえて検討します。著しく低い価格や高い価格で移転すると、贈与税や法人税、所得税の問題が生じる可能性があります。
会社が兄弟の株式を買い取ることはできますか?
会社による自己株式取得は選択肢の一つです。ただし、会社法上の手続、分配可能額、税務上のみなし配当課税などを確認する必要があります。会社の資金繰りに影響するため、決算書と資金計画を見ながら慎重に判断します。
事業承継税制を使えば兄弟間の株式問題は解決しますか?
事業承継税制は、非上場株式の承継に伴う贈与税・相続税の負担を軽減するための制度です。税負担の問題には有効な場合がありますが、兄弟間の合意、買取価格、遺留分、経営権の集中といった問題は別途整理が必要です。
まとめ
兄弟で株式が分散している会社の事業承継では、感情面だけでなく、議決権、税務、相続、資金繰りを一体で整理する必要があります。
- 株式数ではなく、まず議決権割合で支配関係を確認する
- 後継者には普通決議だけでなく、重要事項を見据えた株式集中を検討する
- 贈与、譲渡、自己株式取得、種類株式、遺言などを組み合わせて考える
- 自社株評価と買取資金を確認しないまま話し合いを進めない
- 兄弟間の合意は、契約書、議事録、遺言、定款など形に残す
株式分散は、問題が起きてから整理しようとすると選択肢が限られます。まだ兄弟間で話し合える段階で、株主構成、自社株評価、承継後の経営権を整理しておくことが、会社と家族の両方を守る第一歩です。
参照ソース
- 中小企業庁 事業承継: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html
- 中小企業庁 事業承継の支援策: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/business_succession_support_measures.html
- 中小企業庁 経営承継円滑化法による支援: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu.html
- 事業承継・引継ぎ支援センター: https://shoukei.smrj.go.jp/
- e-Gov法令検索 会社法: https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 国税庁 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議: https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260420/pdf/01shiryo_kabukaigi.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長・公認会計士・税理士・相続事業承継コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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