
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
介護報酬改定で事業所が先に見る収支指標

介護報酬改定の影響を確認するとき、最初に見るべきなのは単位数の増減だけではありません。介護事業所の経営では、利用者数、稼働率、人件費率、加算取得状況、固定費、資金繰りが同時に動くため、単位数が上がっても利益や手元資金が改善しないことがあります。2026年5月時点で経営者が確認すべきなのは、改定後の売上増減が利益と資金繰りにどう反映されているかです。
介護報酬改定の個別相談
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算定要件、届出、請求運用、収支への影響を、事業所のサービス種別に合わせて整理します。
単位数より先に見るべき数字
介護報酬改定の資料を見ると、どうしても基本報酬や加算の単位数に目が向きます。しかし、経営判断では「単位数が上がったか」よりも、「事業所全体の収入、費用、利益、現預金がどう変わるか」を先に確認する必要があります。
特に介護事業では、報酬改定と同時に人件費、採用費、物価、車両費、ICT投資、研修負担なども変動します。単位数の増加分がそのまま利益になるとは限りません。改定の影響は、請求単価だけでなく収支構造で見ることが重要です。
| 確認する数字 | 見る理由 | 注意点 |
|---|---|---|
| 利用者数・利用回数 | 報酬単価の影響を受ける母数になる | 単価が上がっても利用減なら売上は伸びにくい |
| 稼働率 | 人員・設備に対して売上が足りているかを見る | 定員型サービスでは特に重要 |
| 人件費率 | 収入増が賃金・採用費で吸収されていないかを見る | 処遇改善加算と通常給与を分けて確認する |
| 加算取得率 | 取れるはずの加算を逃していないかを見る | 算定要件と記録体制の確認が必要 |
| 収支差率 | 事業所の利益体質を把握する | 補助金や一時収入を除いた数字も見る |
| 月末現預金 | 黒字でも資金が足りるかを見る | 入金時期と支払時期のズレに注意する |
実務上の注意点として、介護報酬は請求から入金まで時間差があります。改定後に請求額が増えても、給与、賞与、社会保険料、借入返済の支払いが先に来る場合、資金繰りは一時的に苦しくなることがあります。
改定後の収入はサービス別に分けて確認する
複数サービスを運営している法人では、全体の売上だけを見ると問題が見えにくくなります。訪問介護、通所介護、居宅介護支援、施設系サービスなどでは、報酬体系も費用構造も異なります。そのため、改定後の影響はサービス別、できれば事業所別に分けて確認する必要があります。
見るべき順番は、まず「利用者数や提供回数が変わっていない場合の単価影響」、次に「実際の利用実績を反映した売上影響」、最後に「人員配置や加算要件を満たすための費用影響」です。
たとえば、加算を取得するために研修、記録、会議、職員配置が必要になる場合、収入は増えても管理工数や人件費が増えることがあります。加算は取れるかどうかだけでなく、取った後に利益が残るかまで確認することが大切です。
| 区分 | 確認すること | 経営判断のポイント |
|---|---|---|
| 基本報酬 | 改定後の単価、利用回数、定員充足 | 既存利用者だけで収入が増えるか |
| 加算 | 算定要件、記録、職員体制 | 管理負担に見合う収入か |
| 減算 | 人員基準、運営基準、記録不足 | 収入減だけでなく返戻リスクも見る |
| 保険外収入 | 食費、送迎、実費、任意サービス | 価格設定と説明体制を確認する |
| 補助金等 | 一時的な収入か継続収入か | 通常利益と分けて把握する |
実務上の注意点として、法人全体では黒字でも、特定の事業所だけ赤字になっていることがあります。改定後の経営判断では、全体平均ではなく、事業所別の採算を確認してください。
人件費率と処遇改善の見方
介護事業の収支で最も大きい費用は人件費です。介護報酬改定で収入が増えても、同時に賃上げ、採用費、残業代、社会保険料が増えれば、利益は残りにくくなります。特に処遇改善関連の加算を受けている場合は、給与原資と通常の人件費を混同しないことが重要です。
経営者が見るべき数字は、単純な給与総額だけではありません。常勤換算、人員配置、残業時間、派遣・紹介手数料、離職率、賞与原資まで含めて確認します。人件費率が上がっている場合、賃上げが原因なのか、稼働率低下が原因なのかを分けて見る必要があります。
たとえば、売上が横ばいで人件費が増えているなら、利益を圧迫します。一方で、採用強化により稼働率が上がり、売上増につながるなら、短期的な人件費増は投資と考えられる場合もあります。人件費率は高い低いだけでなく、売上を生む配置になっているかで判断します。
収支差率で見るべきポイント
介護事業の経営状況を把握する指標として、収支差率があります。収支差率は、収入から支出を差し引いた収支を収入で割って見る考え方です。厚生労働省の介護事業経営に関する調査でも、サービス別の収支差率が示されています。
ただし、自社の経営判断では、国の平均値をそのまま目標にするのではなく、自社のサービス種類、地域、建物費、人員体制、稼働率と照らして使う必要があります。平均より高いから安心、低いから必ず悪いとは限りません。
確認したいのは、次の3つです。
- 改定前後で収支差率が上がったか、下がったか
- 収支差率の変化が売上要因か、費用要因か
- 補助金や一時収入を除いても黒字を維持できるか
実務上の注意点として、補助金、保険外収入、臨時収入を含めると利益がよく見える場合があります。経営判断では、通常の介護報酬収入を中心にした収支と、一時的な収入を含めた収支を分けて確認しましょう。
資金繰り表で確認する改定影響
介護報酬改定の影響は、損益計算書だけでは足りません。黒字でも資金繰りが苦しくなる事業所はあります。理由は、介護報酬の入金、給与支払い、社会保険料、税金、賞与、借入返済のタイミングが一致しないからです。
改定後に確認したいのは、少なくとも向こう6か月から12か月の資金繰りです。月次の売上予測、入金予定、人件費、賞与、設備投資、借入返済、納税予定を並べると、どの月に現預金が薄くなるかが見えます。
報酬改定後の経営改善は、利益改善と資金繰り改善を分けて考えることが必要です。利益が増える見込みでも、入金前に賞与や税金の支払いが重なる場合は、短期借入や支払計画の見直しが必要になることがあります。
| 月次で確認する項目 | 見る目的 |
|---|---|
| 介護報酬の入金予定 | 請求額と入金時期を確認する |
| 給与・賞与 | 人件費の山を把握する |
| 社会保険料・税金 | 後払いで資金を圧迫しやすい項目を見る |
| 借入返済 | 損益に出にくい資金流出を確認する |
| 設備投資・ICT投資 | 改定対応に伴う支出を見込む |
| 月末現預金 | 安全資金が残るか判断する |
事業所で準備すべき資料
介護報酬改定の影響を正しく見るには、請求データと会計データをつなげる必要があります。請求ソフトの数字、試算表、給与台帳、シフト表が別々のままだと、単価改定の影響と現場コストの変化を判断しにくくなります。
まずは直近の月次試算表、サービス別売上、利用者数、加算算定状況、給与台帳、常勤換算、人員配置表、借入返済予定表を用意します。資料がそろうと、どのサービスで利益が残り、どのサービスで改善が必要かが見えます。
相談前に整理しておくとよい資料は次のとおりです。
- 直近12か月の試算表
- サービス別、事業所別の売上明細
- 利用者数、提供回数、稼働率の推移
- 加算の算定状況と未取得加算の一覧
- 給与台帳、賞与支給額、法定福利費
- 職員数、常勤換算、シフト表
- 借入金返済予定表
- 今後の設備投資、採用計画、賃上げ方針
実務上の注意点として、改定後すぐの1か月だけで判断すると、請求のズレや一時的な利用者変動の影響を受けます。少なくとも数か月分の実績を見ながら、月次で修正していくことが重要です。
まとめ
介護報酬改定は、単位数の増減だけを見ると経営判断を誤ることがあります。経営者が確認すべきなのは、改定後の収入が人件費、加算対応コスト、固定費、資金繰りを上回っているかどうかです。
- 単位数より先に、売上、利益、現預金の変化を見る
- サービス別、事業所別に収支を分けて確認する
- 人件費率は処遇改善、通常給与、法定福利費を分けて見る
- 加算は取得可否だけでなく、管理負担と利益を確認する
- 資金繰り表で入金と支払いのズレを把握する
報酬改定を経営改善につなげるには、請求データと会計データを毎月確認する体制が必要です。数字を整理しておくことで、加算取得、賃金設計、採用計画、設備投資、借入返済の判断がしやすくなります。
よくある質問
Q: 介護報酬改定で単位数が上がれば利益も増えますか?
Q: 改定後の影響はいつ確認すればよいですか?
Q: 収支差率は何%なら安心ですか?
Q: 相談前にどの資料を用意すればよいですか?
参照ソース
- 厚生労働省 介護報酬改定について: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html
- 厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126698.html
- 厚生労働省 介護事業経営概況調査・介護事業経営実態調査関連資料: https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001603551.pdf
- 厚生労働省 介護保険最新情報: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index_00010.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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