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介護事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

介護報酬改定で事業所が先に見る収支指標

10分で読めます
介護報酬改定で事業所が先に見る収支指標

介護報酬改定の影響を確認するとき、最初に見るべきなのは単位数の増減だけではありません。介護事業所の経営では、利用者数、稼働率、人件費率、加算取得状況、固定費、資金繰りが同時に動くため、単位数が上がっても利益や手元資金が改善しないことがあります。2026年5月時点で経営者が確認すべきなのは、改定後の売上増減が利益と資金繰りにどう反映されているかです。

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算定要件、届出、請求運用、収支への影響を、事業所のサービス種別に合わせて整理します。

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単位数より先に見るべき数字

介護報酬改定の資料を見ると、どうしても基本報酬や加算の単位数に目が向きます。しかし、経営判断では「単位数が上がったか」よりも、「事業所全体の収入、費用、利益、現預金がどう変わるか」を先に確認する必要があります。

特に介護事業では、報酬改定と同時に人件費、採用費、物価、車両費、ICT投資、研修負担なども変動します。単位数の増加分がそのまま利益になるとは限りません。改定の影響は、請求単価だけでなく収支構造で見ることが重要です。

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確認する数字見る理由注意点
利用者数・利用回数報酬単価の影響を受ける母数になる単価が上がっても利用減なら売上は伸びにくい
稼働率人員・設備に対して売上が足りているかを見る定員型サービスでは特に重要
人件費率収入増が賃金・採用費で吸収されていないかを見る処遇改善加算と通常給与を分けて確認する
加算取得率取れるはずの加算を逃していないかを見る算定要件と記録体制の確認が必要
収支差率事業所の利益体質を把握する補助金や一時収入を除いた数字も見る
月末現預金黒字でも資金が足りるかを見る入金時期と支払時期のズレに注意する

実務上の注意点として、介護報酬は請求から入金まで時間差があります。改定後に請求額が増えても、給与、賞与、社会保険料、借入返済の支払いが先に来る場合、資金繰りは一時的に苦しくなることがあります。

ここがポイント
介護報酬改定の影響確認では、「単位数」「請求額」「利益」「現預金」を分けて見ます。単位数が改善していても、稼働率低下や人件費増加により、経営全体では悪化しているケースがあります。

改定後の収入はサービス別に分けて確認する

複数サービスを運営している法人では、全体の売上だけを見ると問題が見えにくくなります。訪問介護、通所介護、居宅介護支援、施設系サービスなどでは、報酬体系も費用構造も異なります。そのため、改定後の影響はサービス別、できれば事業所別に分けて確認する必要があります。

見るべき順番は、まず「利用者数や提供回数が変わっていない場合の単価影響」、次に「実際の利用実績を反映した売上影響」、最後に「人員配置や加算要件を満たすための費用影響」です。

たとえば、加算を取得するために研修、記録、会議、職員配置が必要になる場合、収入は増えても管理工数や人件費が増えることがあります。加算は取れるかどうかだけでなく、取った後に利益が残るかまで確認することが大切です。

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区分確認すること経営判断のポイント
基本報酬改定後の単価、利用回数、定員充足既存利用者だけで収入が増えるか
加算算定要件、記録、職員体制管理負担に見合う収入か
減算人員基準、運営基準、記録不足収入減だけでなく返戻リスクも見る
保険外収入食費、送迎、実費、任意サービス価格設定と説明体制を確認する
補助金等一時的な収入か継続収入か通常利益と分けて把握する

実務上の注意点として、法人全体では黒字でも、特定の事業所だけ赤字になっていることがあります。改定後の経営判断では、全体平均ではなく、事業所別の採算を確認してください。

人件費率と処遇改善の見方

介護事業の収支で最も大きい費用は人件費です。介護報酬改定で収入が増えても、同時に賃上げ、採用費、残業代、社会保険料が増えれば、利益は残りにくくなります。特に処遇改善関連の加算を受けている場合は、給与原資と通常の人件費を混同しないことが重要です。

経営者が見るべき数字は、単純な給与総額だけではありません。常勤換算、人員配置、残業時間、派遣・紹介手数料、離職率、賞与原資まで含めて確認します。人件費率が上がっている場合、賃上げが原因なのか、稼働率低下が原因なのかを分けて見る必要があります。

たとえば、売上が横ばいで人件費が増えているなら、利益を圧迫します。一方で、採用強化により稼働率が上がり、売上増につながるなら、短期的な人件費増は投資と考えられる場合もあります。人件費率は高い低いだけでなく、売上を生む配置になっているかで判断します。

ここがポイント
人件費率を見るときは、処遇改善加算に対応する賃金改善分、通常給与、残業代、法定福利費を分けると原因分析がしやすくなります。月次試算表だけで見えにくい場合は、給与台帳やシフト実績と照合します。

収支差率で見るべきポイント

介護事業の経営状況を把握する指標として、収支差率があります。収支差率は、収入から支出を差し引いた収支を収入で割って見る考え方です。厚生労働省の介護事業経営に関する調査でも、サービス別の収支差率が示されています。

ただし、自社の経営判断では、国の平均値をそのまま目標にするのではなく、自社のサービス種類、地域、建物費、人員体制、稼働率と照らして使う必要があります。平均より高いから安心、低いから必ず悪いとは限りません。

確認したいのは、次の3つです。

  • 改定前後で収支差率が上がったか、下がったか
  • 収支差率の変化が売上要因か、費用要因か
  • 補助金や一時収入を除いても黒字を維持できるか

実務上の注意点として、補助金、保険外収入、臨時収入を含めると利益がよく見える場合があります。経営判断では、通常の介護報酬収入を中心にした収支と、一時的な収入を含めた収支を分けて確認しましょう。

介護報酬と人件費を月次で見える化

資金繰り表で確認する改定影響

介護報酬改定の影響は、損益計算書だけでは足りません。黒字でも資金繰りが苦しくなる事業所はあります。理由は、介護報酬の入金、給与支払い、社会保険料、税金、賞与、借入返済のタイミングが一致しないからです。

改定後に確認したいのは、少なくとも向こう6か月から12か月の資金繰りです。月次の売上予測、入金予定、人件費、賞与、設備投資、借入返済、納税予定を並べると、どの月に現預金が薄くなるかが見えます。

報酬改定後の経営改善は、利益改善と資金繰り改善を分けて考えることが必要です。利益が増える見込みでも、入金前に賞与や税金の支払いが重なる場合は、短期借入や支払計画の見直しが必要になることがあります。

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月次で確認する項目見る目的
介護報酬の入金予定請求額と入金時期を確認する
給与・賞与人件費の山を把握する
社会保険料・税金後払いで資金を圧迫しやすい項目を見る
借入返済損益に出にくい資金流出を確認する
設備投資・ICT投資改定対応に伴う支出を見込む
月末現預金安全資金が残るか判断する

事業所で準備すべき資料

介護報酬改定の影響を正しく見るには、請求データと会計データをつなげる必要があります。請求ソフトの数字、試算表、給与台帳、シフト表が別々のままだと、単価改定の影響と現場コストの変化を判断しにくくなります。

まずは直近の月次試算表、サービス別売上、利用者数、加算算定状況、給与台帳、常勤換算、人員配置表、借入返済予定表を用意します。資料がそろうと、どのサービスで利益が残り、どのサービスで改善が必要かが見えます。

相談前に整理しておくとよい資料は次のとおりです。

  • 直近12か月の試算表
  • サービス別、事業所別の売上明細
  • 利用者数、提供回数、稼働率の推移
  • 加算の算定状況と未取得加算の一覧
  • 給与台帳、賞与支給額、法定福利費
  • 職員数、常勤換算、シフト表
  • 借入金返済予定表
  • 今後の設備投資、採用計画、賃上げ方針

実務上の注意点として、改定後すぐの1か月だけで判断すると、請求のズレや一時的な利用者変動の影響を受けます。少なくとも数か月分の実績を見ながら、月次で修正していくことが重要です。

まとめ

介護報酬改定は、単位数の増減だけを見ると経営判断を誤ることがあります。経営者が確認すべきなのは、改定後の収入が人件費、加算対応コスト、固定費、資金繰りを上回っているかどうかです。

  • 単位数より先に、売上、利益、現預金の変化を見る
  • サービス別、事業所別に収支を分けて確認する
  • 人件費率は処遇改善、通常給与、法定福利費を分けて見る
  • 加算は取得可否だけでなく、管理負担と利益を確認する
  • 資金繰り表で入金と支払いのズレを把握する

報酬改定を経営改善につなげるには、請求データと会計データを毎月確認する体制が必要です。数字を整理しておくことで、加算取得、賃金設計、採用計画、設備投資、借入返済の判断がしやすくなります。

よくある質問

Q: 介護報酬改定で単位数が上がれば利益も増えますか?
必ずしも増えるとは限りません。利用者数の減少、人件費の増加、加算対応の事務負担、物価上昇があると、単位数が上がっても利益が残らない場合があります。単位数ではなく、改定後の月次損益で確認することが大切です。
Q: 改定後の影響はいつ確認すればよいですか?
請求と入金に時間差があるため、改定直後の1か月だけで判断するのは危険です。まず試算で影響を見込み、その後は数か月分の請求実績、試算表、資金繰り表を月次で確認すると判断しやすくなります。
Q: 収支差率は何%なら安心ですか?
一律に何%なら安心とは言えません。サービス種類、建物費、人員配置、借入返済、地域の採用環境によって必要な利益水準が変わります。自社では、補助金や一時収入を除いた通常収支で黒字を維持できるかを確認してください。
Q: 相談前にどの資料を用意すればよいですか?
直近12か月の試算表、サービス別売上、利用者数、稼働率、加算算定状況、給与台帳、シフト表、借入返済予定表を用意すると確認が進みます。特に事業所別の収支と人件費率が分かる資料があると、改定影響を具体的に判断できます。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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