
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
介護記録のICT化で経理はどう変わるか

介護記録のICT化は、現場の記録時間を減らすだけでなく、請求、勤怠、給与、会計処理までの流れを変えます。特に、紙の介護記録を見ながら請求データを作り、別の勤怠表で給与計算を行い、さらに会計ソフトへ手入力している事業所では、ICT化によって経理の確認作業が大きく整理されます。一方で、ソフトを入れれば自動的に経理が楽になるわけではありません。記録・請求・勤怠・給与・会計のどこまで連携させるかを導入前に決めておくことが重要です。
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介護記録のICT化は経理の入口を変える
介護記録ソフトの導入で最初に変わるのは、経理担当者が確認する「元資料」です。紙のサービス提供記録、実績表、勤務表、利用者別請求控えを後から集める運用では、月末月初に確認が集中しやすくなります。ICT化すると、記録時点で利用者、サービス内容、提供時間、職員、実施状況がデータとして残るため、経理は紙を探す作業から、データの整合性を確認する作業へ移ります。
現場にとっては「記録を電子化する」話でも、経理から見ると「売上・人件費・未収金の根拠を整える」話です。介護報酬請求の実績、利用者負担金、職員の勤務実績、給与計算の基礎資料が分断されていると、月次決算の数字が遅れます。逆に、記録データを起点に業務を設計できれば、請求確定、給与締め、月次試算表の作成までのリードタイムを短くできます。
請求業務は「転記」から「実績確認」へ変わる
介護記録と請求ソフトが連携すると、請求業務の中心は転記作業から実績確認に変わります。紙の記録を見ながらサービス提供票や請求データに入力する運用では、入力漏れ、時間違い、加算の算定漏れ、利用者負担の確認漏れが起こりやすくなります。
ICT化後は、日々の記録が請求データの元になります。そのため、月末にまとめて直すのではなく、日々の記録段階でサービス内容や加算の根拠を確認する運用が重要です。請求の正確性は、月末処理ではなく日々の記録精度で決まると考えるべきです。
ただし、記録ソフトと請求ソフトが同一ベンダーでない場合や、CSV連携・API連携の仕様が限定的な場合は、完全自動化できないこともあります。導入前に、国保連請求データの作成範囲、利用者負担請求書の発行、返戻時の修正手順まで確認しておく必要があります。
| 確認項目 | ICT化前に起きやすい課題 | ICT化後に確認すべきポイント |
|---|---|---|
| サービス提供実績 | 紙記録からの転記漏れ | 記録と請求データの連動範囲 |
| 加算 | 算定根拠が紙や口頭に分散 | 加算要件と記録項目の対応 |
| 利用者負担 | 請求書作成が遅れる | 請求書・領収書の発行機能 |
| 返戻対応 | 修正箇所の特定に時間がかかる | 修正履歴と再請求手順 |
| 未収金管理 | 入金確認が後追いになる | 利用者別の請求・入金管理 |
勤怠・給与との連携で人件費の見え方が変わる
介護事業の経営では、人件費の管理が非常に重要です。介護記録ソフトと勤怠管理、シフト管理、給与計算がつながると、職員ごとの勤務実績とサービス提供実績を比較しやすくなります。訪問介護であれば移動時間、キャンセル、空き時間、通所介護であれば稼働率と配置人数のバランスが見えやすくなります。
経理上は、給与計算に必要な勤務時間、残業、深夜、休日、資格手当、処遇改善関連の支給額などを確認する流れが変わります。手書きの勤務表やExcelを集計して給与ソフトへ入力する運用では、締め後の修正や確認に時間がかかります。ICT化により、勤怠データを給与計算へ連携できれば、給与締めの負担を減らせます。
一方で、給与計算は単純な勤務時間だけで完結しません。処遇改善加算の配分、常勤換算、兼務、管理者の勤務実態、訪問件数に応じた手当など、事業所独自のルールが関係します。ソフトの初期設定に給与規程や手当ルールが反映されていないと、かえって確認作業が増える点に注意が必要です。
会計処理は月次管理に近づけて設計する
ICT化の効果を経理で実感するには、会計ソフトとのつながりも重要です。介護記録ソフトや請求ソフトから売上、利用者負担、入金予定、未収金のデータを出せても、会計ソフトへの入力が手作業のままでは月次決算は遅れます。
介護事業では、国保連からの入金、利用者負担金、実費請求、補助金、処遇改善加算、人件費、外注費、車両費、家賃など、確認すべき勘定科目が多くあります。記録や請求のICT化を進める際は、月次試算表に反映したい数字から逆算して、どのデータを会計へ渡すかを決めると実務に合います。
例えば、請求ソフトから利用者別の請求額を出せるだけでは、経営判断には不十分です。サービス種別別の売上、加算別の売上、未収金の残高、職員別または部門別の人件費率まで見たい場合は、会計側の部門設定や補助科目の設計も必要になります。ICT導入はソフト選びだけでなく、会計科目と管理資料の設計を含めて検討することが重要です。
導入前に確認したい連携範囲
介護記録ソフトを選ぶときは、現場の使いやすさだけでなく、経理・請求・給与の業務がどう変わるかを確認する必要があります。特に小規模事業所では、ソフトの機能が多すぎると運用が定着せず、逆に入力漏れが増えることもあります。
導入前には、次のように「どこまでをソフトで行い、どこからを人が確認するか」を整理します。
| 連携範囲 | 確認すること | 経理への影響 |
|---|---|---|
| 記録から請求 | 実績、加算、利用者負担の連携 | 請求作成と返戻確認が早くなる |
| 記録から勤怠 | サービス提供時間と勤務時間の照合 | 空き時間や残業の確認がしやすくなる |
| 勤怠から給与 | 勤務時間、手当、処遇改善の反映 | 給与計算の転記を減らせる |
| 請求から会計 | 売上、未収金、入金予定の出力 | 月次決算の早期化につながる |
| LIFEや加算管理 | 必要な記録項目や提出データ | 加算算定の根拠整理に役立つ |
最初からすべてを自動化しようとしないことも大切です。まずは記録と請求、次に勤怠と給与、その後に会計連携というように段階を分けると、現場の混乱を抑えられます。導入初月から経理処理を完全に置き換えるのではなく、一定期間は旧運用と照合すると、設定ミスや入力ルールのズレを発見しやすくなります。
経理改善につなげるための進め方
介護記録のICT化を経理改善につなげるには、導入前に現在の業務を棚卸しすることが欠かせません。誰が、いつ、どの資料を作り、どこへ入力し、誰が確認しているのかを見える化します。そのうえで、重複入力、紙の回収、Excel転記、締め後の修正、請求と給与の不一致などを洗い出します。
次に、経理で必要な数字を決めます。月次で見たいのが事業所全体の利益だけなのか、サービス種別別の収支、職員別の稼働、加算別の売上、未収金の年齢表まで必要なのかで、ソフト選定や会計設計は変わります。経理が欲しい数字を先に決めることで、現場入力の項目も整理しやすくなります。
最後に、導入後のルールを決めます。入力期限、記録の承認者、請求前チェック、勤怠修正の期限、給与計算への反映方法、会計連携の担当者を決めておくと、ICT化後の混乱を防げます。ソフト導入そのものより、運用ルールの定着が成果を左右します。
よくある質問
Q: 介護記録ソフトを入れれば請求業務は自動化できますか?
Q: 勤怠や給与ソフトも同時に入れ替えるべきですか?
Q: 会計ソフトとの連携で何を確認すべきですか?
Q: 小規模な介護事業所でもICT化する意味はありますか?
まとめ
- 介護記録のICT化は、現場記録だけでなく請求、勤怠、給与、会計処理に影響します。
- 経理業務は紙資料の回収や転記から、データの整合性確認へ変わります。
- 請求連携では、実績、加算、利用者負担、返戻対応の確認が重要です。
- 勤怠・給与連携では、処遇改善や手当ルールを初期設定に反映する必要があります。
- 導入前に、月次管理で見たい数字から逆算してソフトと会計設計を確認しましょう。
参照ソース
- 厚生労働省 介護現場におけるICTの利用促進: https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo_ict.html
- 厚生労働省 介護分野の生産性向上: https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei-information.html
- 厚生労働省 介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き: https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001276275.pdf
- 厚生労働省 科学的介護情報システム(LIFE)について: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198094_00037.html
- 電子請求受付システム: https://www.e-seikyuu.jp/
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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