
執筆者:安田 駆流
クリニックの試用期間評価シート|採用前後で見るべき項目

結論:試用期間評価シートは「本採用するか」ではなく、30日で何を確認するかを先に決める
クリニックの試用期間評価シートは、入社後に慌てて作るものではありません。採用前の面接で気になった点を、入社後30日の確認項目に変換しておくと、本採用判断が院長や事務長の感覚だけになりにくくなります。
見るべき項目は、患者対応、確認行動、報連相、学習姿勢、勤務条件、院内ルールの理解です。看護師、医療事務、受付では業務場面が違うため、同じシートを使う場合でも評価メモは職種別に分けます。
| 評価項目 | 30日で見る行動 | 記録すること |
|---|---|---|
| 患者対応 | 不安な患者さんや急ぎの相手に落ち着いて対応できるか | 事実、対応、共有先 |
| 確認行動 | 保険証、会計、処置前確認、予約変更で立ち止まれるか | チェック方法、相談先 |
| 報連相 | 医師、看護師、受付、事務長へ早めに共有できるか | 相談タイミング、伝えた内容 |
| 学習姿勢 | 院内ルールや手順をメモし、質問できるか | 覚え方、復習、質問内容 |
| 勤務条件 | シフト、業務範囲、期待役割にズレがないか | 本人の認識、医院側の説明 |
厚生労働省は、公正な採用選考について、応募者の適性・能力に基づく基準で行うことを示しています。また、試用期間中であっても本採用拒否や解雇の判断は感覚だけで扱うべきではなく、具体的な事実と改善機会を記録しておく必要があります。
1. 採用前の不安点を評価項目へ変換する
試用期間評価は、入社後の印象だけで始めると記録がばらつきます。面接で気になった点を、初日、1週目、2週目、30日面談の確認項目にします。
| 面接で気になった点 | 試用期間で見る項目 | 30日面談で聞くこと |
|---|---|---|
| 確認が浅そう | 保険証、会計、処置前確認のチェック順 | どこで確認に迷いましたか |
| 報連相が遅そう | 相談先、報告タイミング | 相談しづらかった場面はありますか |
| 覚える量に不安がある | 学習メモ、復習、質問の仕方 | 覚える量で負担が大きい所はどこですか |
| 患者対応が不安 | 受付、電話、説明補助 | 対応後に誰へ共有しましたか |
| 勤務条件が揺れそう | シフト、曜日、業務範囲 | 入社前説明と違って感じる点はありますか |
採用時に見えたリスクを、試用期間で確認する行動へ変換するのがポイントです。
2. 職種別に見る項目を分ける
同じクリニックスタッフでも、看護師と医療事務では見る場面が違います。
| 職種 | 重点項目 | 具体的に見ること |
|---|---|---|
| 看護師 | 患者対応、処置前確認、医師への報告 | 指示確認、申し送り、優先順位、ヘルプ依頼 |
| 医療事務 | 受付、保険証確認、会計、電話 | 確認漏れ、患者説明、電話メモ、会計補助 |
| 受付 | 来院対応、待ち時間説明、予約変更 | 相手に合わせた案内、引き継ぎ |
| リーダー候補 | 院内調整、教育、改善提案 | 共有の仕方、他職種との連携 |
全員に同じ点数を付けるより、職種別に「どの場面で確認したか」を残します。
3. 初日・1週目・2週目・30日で見る
試用期間評価シートは、最終日だけで記入すると事実が薄くなります。小さくても、時点ごとにメモを残します。
| 時点 | 確認すること | 記録例 |
|---|---|---|
| 初日 | 相談先、禁止事項、個人情報、院内ルール | 分からない時の相談先を確認済み |
| 1週目 | 受付・患者対応・確認作業 | 電話メモの共有に漏れがあり、記録方法を説明 |
| 2週目 | 繁忙時対応、報連相、優先順位 | 混雑時に会計確認で相談できた |
| 30日 | 期待値のズレ、学習状況、勤務条件 | 業務範囲の認識差を面談で修正 |
本採用判断をする前に、改善機会を作ったか、説明したか、本人の受け止めを確認したかを残します。
4. 点数だけでなく事実メモを残す
評価シートに点数欄を置く場合でも、事実メモを必ず残します。
| 避けたい記録 | 書き換え例 |
|---|---|
| 患者対応がよくない | 待ち時間説明後、患者から質問があり、受付責任者へ共有できなかった |
| 覚えが遅い | 会計補助の手順3つのうち、返金時の確認先が未定着 |
| 報連相が弱い | 予約変更の連絡を看護師へ共有するタイミングが遅れた |
| 向いていない | 職務に必要な確認行動と相談行動について、改善項目を2つ説明済み |
感想ではなく、職務に関係する行動で記録します。
5. 本採用判断前に確認するチェックリスト
本採用判断の前には、次を確認します。
| チェック | 確認内容 |
|---|---|
| 1 | 入社時に期待する業務範囲を説明したか |
| 2 | できている点と改善点を具体的に伝えたか |
| 3 | 改善機会やフォローを設けたか |
| 4 | 勤務条件やシフト認識にズレがないか |
| 5 | 評価メモが印象ではなく職務行動で残っているか |
| 6 | 個人情報や職務と無関係な事項を評価に入れていないか |
| 7 | 労務判断が必要な場合に専門家へ確認したか |
厚生労働省の労働条件に関する情報では、解雇の有効性は客観的合理性や社会通念上の相当性が問題になります。試用期間だから自由に判断できる、という前提で扱わないことが重要です。
試用期間評価シートの最小フォーマット
| 項目 | 記入欄 |
|---|---|
| 職種 | 看護師 / 医療事務 / 受付 / その他 |
| 入社時に説明した業務範囲 | 初日、1週目、30日で任せる業務 |
| 面接時の確認事項 | 採用時に気になった点 |
| できている点 | 職務行動として記録 |
| 改善が必要な点 | 事実、場面、説明した内容 |
| フォロー内容 | 誰が、いつ、何を教えるか |
| 30日面談メモ | 本人の認識、医院側の認識、次の確認日 |
この程度の表でも、何も記録しないより判断の根拠が残ります。
辻総合会計グループで支援できること
辻総合会計グループでは、クリニック採用を採用活動だけでなく、人件費、教育負担、受付体制、シフト、院内オペレーションまで含めて整理します。試用期間評価シートを作る場合も、面接時の採用基準、入社後30日フォロー、給与・勤務条件の説明がつながるように設計することが重要です。
公正採用と個人情報の注意点
採用選考や試用期間評価では、職務に関係する適性・能力、勤務条件、業務行動を中心に記録します。家庭環境、思想信条、病歴など、職務遂行と関係しない事項を評価に入れない運用が必要です。
個人情報保護委員会は、病歴などの要配慮個人情報について、不当な差別や偏見その他の不利益が生じないよう、取扱いに特に配慮を要する個人情報として説明しています。評価シートを共有する範囲、保存場所、保存期間も決めておきます。
FAQ
Q: 試用期間評価シートはいつ作ればよいですか?
Q: 点数評価だけでもよいですか?
Q: 試用期間中なら本採用しない判断を自由にできますか?
Q: 看護師と医療事務で同じ評価シートを使えますか?
Q: 評価シートに書かない方がよいことはありますか?
参考資料
- 厚生労働省「公正な採用選考の基本」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/basic.html
- 厚生労働省「事業主の皆様へ 採用選考の具体的な方法」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/methods.html
- 厚生労働省「試用期間」 https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/shogu/shiyou.html
- 厚生労働省「解雇について」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken02/kaiko.html
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 個人情報保護委員会「要配慮個人情報とは」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq4-q011
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