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労務・社労士コラム
作成日:2023.03.01
更新日:2026.01.02
安田 駆流

執筆者:安田 駆流

社会保険労務士

就業規則の作り方と見直し方|クリニック経営者向け・専門家解説

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就業規則の作り方と見直し方|クリニック経営者向け・専門家解説

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クリニックの就業規則とは、院内の労働時間・休日・賃金・服務規律などを「見える化」し、スタッフとの認識差を減らすためのルールブックです。採用・退職が起きやすい医療現場では、運用ルールが口頭のままだと「言った・言わない」が発生し、現場の疲弊や労務トラブルにつながりやすくなります。実態に合わせて整備し、常時10人以上であれば労基署への届出まで含めて制度設計することが、経営の安定に直結します。

就業規則とは何か:クリニックで必要になる理由

就業規則は、労働条件と職場のルールを一定の形式でまとめ、スタッフに周知するための社内規程です。医療機関では次のような論点が頻出するため、就業規則が「経営の防波堤」になります。

  • シフト変更や欠勤時の取り扱い(代替要員の手配、連絡期限、無断欠勤時の対応)
  • 休憩の取り方(外来の混雑で休憩がずれる、分割休憩の可否)
  • 時間外・休日労働(予約延長、急患対応、レセプト残業)
  • ハラスメント・個人情報(患者情報の取り扱い、SNS投稿、院内での録音等)
  • 兼業・副業、研修参加、学会対応(勤務扱いか、費用補助の条件)

就業規則は「厳しく縛るため」ではなく、院長・スタッフ双方にとっての公平性と再現性を確保するための仕組みです。とくに評価・懲戒・退職の場面ほど、ルールの有無が結果を分けます。

ここがポイント
就業規則があっても、実態が異なる運用(例:規程上は休憩60分だが実際は取れていない)が続くと、是正指導や労務トラブルの火種になります。まずは「現場の実態を棚卸し」してから条文を作るのが安全です。

作成義務と届出の基本:常時10人以上、意見書、周知

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成と届出が求められます(厚労省の解説・モデル就業規則で明記されています)。また、作成・変更のいずれも、意見聴取と周知が重要です。

「常時10人以上」の数え方で迷いやすい点

一般に、正社員だけでなくパート・アルバイト等も含めてカウントします。診療所の場合、受付・看護助手・クリーンスタッフ等が増えると、気づかぬうちに10人を超えるケースがあります。

届出に必要になりやすい書類

実務では、就業規則(本体)に加えて、労働者代表の意見書(意見聴取の結果)を添付して届出する運用が一般的です。様式は各労働局が参考書式を公開していることがあります。

周知は「置いた」だけでは不十分になりがち

周知とは、スタッフがいつでも確認できる状態にしておくことです。配布、院内掲示、備付け、電子データの常時閲覧など、クリニックの規模に合わせた方法を選びましょう。新入職時のオリエンテーションで「就業規則の確認・同意」をルーチン化すると、後々の認識齟齬を大幅に減らせます。

就業規則に何を書く:必須記載事項と、クリニック特有の論点

就業規則に記載する内容は、必ず書くべきものと、制度があるなら書くべきものに大別されます(厚労省FAQでも整理されています)。

絶対に書くべき事項(骨格)

一般に、次の領域が中核です。

  • 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇(シフト制の定義や変更手続も含める)
  • 賃金(賃金体系、計算・支払方法、締日・支払日、控除)
  • 退職(自己都合退職の申出期限、解雇事由、手続)

ここが曖昧だと、残業代や欠勤控除、退職時のトラブルに直結します。特にクリニックは「診療終了=退勤」になりがちなので、時間外の定義を明確にしておきましょう。

制度があるなら書くべき事項(運用で揉めやすい)

例えば、退職金、賞与、表彰・制裁、服務規律、安全衛生、休職、育児介護対応などです。制度があるのに規程がないと、支給・不支給の判断根拠が弱くなります。

クリニック特有の追加検討ポイント

  • シフトの確定期限と変更ルール(急な欠勤、代替の優先順位)
  • 研修・勉強会の扱い(労働時間、参加の任意性、費用負担)
  • 患者対応に関する服務規律(クレーム対応、録音・撮影、個人情報)
  • 制服・器材の貸与と弁償の考え方(実費控除の可否を含め慎重に)
  • 感染対策・安全衛生(体調不良時の出勤判断、ワクチン等)
ここがポイント
外来が途切れにくい診療科では、休憩の取り方が現実と合わないケースが多いです。「休憩の時間帯を固定する」のではなく、「分割休憩の可否」「取得できない場合の是正(交代取得の手順等)」まで落とし込むと運用が安定します。

就業規則の作り方:ひな形から自院仕様に落とす手順

就業規則は、ひな形をそのまま使うと運用に合わず、逆にリスクになることがあります。厚労省のモデル就業規則や作成支援ツールを土台にしつつ、必ず「自院の実態」を反映させましょう。

Step 1: 現状の棚卸し(勤務・賃金・休暇・ルール)

タイムカード/勤怠、給与明細、シフト表、雇用契約書、院内ルール(口頭含む)を集め、現場で何が起きているかを可視化します。

Step 2: 適用範囲と雇用区分を定義する

正社員、パート、短時間、試用期間、限定正社員など、誰にどのルールが適用されるかを決めます。曖昧だと、同一の取り扱いができず不公平感が生まれます。

Step 3: 必須領域(時間・休日休暇・賃金・退職)を先に固める

トラブルの大半はここに集中します。まず「骨格」を完成させ、例外運用(診療延長、急患、レセ残業)も織り込みます。

Step 4: クリニック特有の規律(個人情報・接遇・感染対策等)を追加する

患者情報の取り扱い、院内SNS、ハラスメント、物品管理など、医療機関ならではの項目を整備します。

Step 5: 労働者代表の意見聴取と書面化(意見書)

作成・変更時は意見聴取が必要です。手続きの透明性を確保するため、選出方法や議事メモも残すと監査対応が楽になります。

Step 6: 届出・周知・運用開始(入職時の説明までセット)

届出が必要な場合は、所轄の労基署へ提出します。その後、配布や備付けで周知し、入職時の説明資料(要点サマリー)も用意します。

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内製か専門家か:クリニックが迷いやすい判断軸

就業規則は「内製してもよいが、論点によっては専門家関与が有効」です。判断の目安を整理します。

横にスクロールできます
項目内製で進めやすい専門家関与が有効
クリニック規模10人未満でシンプル10人以上で届出・運用が必須
勤務形態固定時間・残業少シフト制・残業や休日出勤が多い
トラブル履歴特段なし退職トラブル、残業代請求、ハラスメント対応経験あり
制度設計最低限のみ退職金・休職・評価・懲戒などを整備したい
変更頻度ほぼ固定診療時間変更、スタッフ増、制度改定が多い

税理士法人 辻総合会計の現場でも、就業規則を「整えた後」に、雇用契約書・賃金台帳・勤怠運用まで一体で見直すと、労務と税務の両面で整合が取れ、結果として管理コストが下がるケースが多い印象です。

よくある質問

Q: クリニックの従業員が9人なら、就業規則は不要ですか?
法的な「作成・届出義務」は一般に常時10人以上が目安とされますが、9人でも作成しておくメリットは大きいです。少人数ほど一人あたりの影響が大きく、欠勤・残業・退職時の取り扱いが曖昧だと、院内が不安定になりやすいからです。
Q: モデル就業規則をそのまま使っても問題ありませんか?
モデルは有用ですが「そのまま」だと危険な場合があります。例えばシフト運用、休憩の実態、残業の承認フローが異なると、規程と運用が乖離し、指導やトラブルの原因になります。必ず自院の実態に合わせて調整してください。
Q: 就業規則を変更するときに注意すべき点は?
変更時も、意見聴取・届出(必要な場合)・周知が重要です。特に労働条件をスタッフに不利に変更する場合は、合理性や説明の丁寧さが問われやすく、個別同意が必要となる場面もあり得ます。変更理由・経緯・代替措置を含めて設計しましょう。
Q: 就業規則と雇用契約書(労働条件通知書)はどちらが優先しますか?
一般に、個別の雇用契約書で有利な条件を定めている場合は、そちらが優先されやすい整理になります。就業規則と雇用契約書の整合が取れていないと運用が破綻するため、セットで点検することが現実的です。

まとめ

  • 就業規則は「院内ルールの見える化」で、採用・退職・残業・休暇の揉め事を減らす
  • 常時10人以上の事業場では作成・届出が求められるため、早めに体制を整える
  • 記載事項は必須項目があり、運用がある制度は条文に落とし込む必要がある
  • ひな形は出発点に過ぎず、シフト・休憩・患者情報などクリニック特有の実態を反映させる
  • 作成後は周知と運用ルーチン化(入職時説明、改定履歴管理)が成果を左右する

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この記事を書いた人

安田 駆流

安田 駆流

社会保険労務士

社会保険労務士

税理士法人 辻総合会計グループの社会保険労務士。就業規則、雇用契約、勤怠・給与計算まわりの労務実務を担当し、クリニック・中小企業の職場ルール整備を支援する。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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