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福祉事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

キャリアアップ助成金を福祉事業で使う方法

12分で読めます
キャリアアップ助成金を福祉事業で使う方法

キャリアアップ助成金は、福祉事業所で働くパート、契約職員、有期雇用職員などの処遇改善に活用できる助成金です。特に、障害福祉・児童福祉の現場では人材不足が続き、採用よりも「今いる職員を定着させる仕組み」が重要になっています。2026年5月時点では、正社員化、賃金規定の改定、賞与・退職金制度の導入、短時間職員の社会保険適用など、福祉事業の人事制度づくりと相性のよいコースがあります。

ただし、キャリアアップ助成金は「あとから申請すればもらえる助成金」ではありません。取組を行う前日までにキャリアアップ計画を提出することが基本であり、就業規則、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿、転換制度の整備が不十分だと、対象になりそうなケースでも申請が難しくなります。

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福祉事業でキャリアアップ助成金が使いやすい場面

福祉事業でキャリアアップ助成金を検討しやすいのは、非正規職員の働き方を見直すタイミングです。たとえば、放課後等デイサービスのパート児童指導員を常勤化する、就労継続支援B型の支援員を契約職員から正社員へ転換する、グループホームの世話人の勤務時間を延ばして社会保険に加入させる、といった場面が考えられます。

キャリアアップ助成金は、厚生労働省が「有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため」の制度として公表している助成金です。福祉事業所に限定された制度ではありませんが、職員の定着、賃金改善、常勤化が経営課題になりやすい福祉業界では、制度設計と相性があります。

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活用場面対象になりやすい職員例検討するコース
パート・契約職員を正社員にしたい支援員、児童指導員、世話人、事務職員正社員化コース
障害のある職員を正規雇用等へ転換したい有期雇用・無期雇用の障害者障害者正社員化コース
パート職員の基本給を上げたい非正規職員全般賃金規定等改定コース
非正規にも賞与・退職金制度を整えたいパート・契約職員賞与・退職金制度導入コース
短時間職員を社会保険に加入させたい週20時間前後の職員短時間労働者労働時間延長支援コース

福祉事業では、単に助成金を受けることよりも、人員配置基準を満たしながら、離職を減らす制度設計につなげることが大切です。助成金ありきで正社員化すると、固定人件費が増えた後の収支が苦しくなることがあります。

ここがポイント
キャリアアップ助成金は、福祉サービスの報酬や加算とは別制度です。障害福祉サービス等報酬の処遇改善加算と目的が近い部分はありますが、申請先、要件、必要書類、会計上の管理は異なります。

福祉事業所が確認すべき主なコース

福祉事業でまず確認したいのは、正社員化コース、障害者正社員化コース、賃金規定等改定コース、短時間労働者労働時間延長支援コースです。どのコースを選ぶかは、職員を「正社員にする」のか、「賃金を上げる」のか、「社会保険に加入させる」のかで変わります。

正社員化コースは、有期雇用労働者等を正社員化する場合に検討する代表的なコースです。福祉事業では、非常勤から常勤への転換、契約職員から正社員への転換、試用期間後の本採用などと混同されやすいため、就業規則上の正社員定義と、実際の雇用契約の内容が一致しているかを必ず確認します。

障害者正社員化コースは、障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換する場合に検討します。2026年5月時点の厚生労働省公表情報では、重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者について、有期雇用から正規雇用へ転換した場合の支給総額は中小企業で120万円とされています。また、重度以外の身体障害者、知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者についても、転換内容に応じた支給額が設けられています。

賃金規定等改定コースは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し、一定割合以上増額する場合に検討します。福祉事業では、最低賃金対応、採用単価の上昇、処遇改善加算の配分見直しと同じタイミングで検討しやすいコースです。

短時間労働者労働時間延長支援コースは、いわゆる「年収の壁」への対応として、短時間職員の労働時間延長や収入増加と社会保険適用を組み合わせる場面で使いやすい制度です。週所定労働時間と社会保険加入の設計が関わるため、給与計算と労務管理をセットで確認する必要があります。

申請前に整えるべき書類と社内ルール

キャリアアップ助成金で最も注意すべきなのは、申請書そのものよりも、取組前の準備です。厚生労働省は、各コース実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成・提出することが必要としています。つまり、正社員転換や賃金改定を実施した後に「助成金が使えるかも」と気づいても、原則として間に合いません。

福祉事業所が事前に確認すべき書類は次のとおりです。

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書類・ルール確認するポイント
就業規則正社員、契約職員、パートの定義と転換制度が明記されているか
雇用契約書雇用期間、労働時間、賃金、職務内容が実態と一致しているか
賃金規程基本給、手当、賞与、退職金の対象者が明確か
出勤簿・シフト表所定労働時間と実労働時間を説明できるか
賃金台帳転換前後の賃金上昇や支給実績を確認できるか
キャリアアップ計画取組前に提出され、対象コースと整合しているか

雇用契約書だけ正社員に変えて、就業規則の転換制度が未整備のままというケースは注意が必要です。また、福祉事業ではシフト制勤務が多いため、契約上の所定労働時間と実際の勤務実態がずれていることもあります。助成金では、書類と実態の整合性が重要です。

ここがポイント
助成金の審査では、労働条件通知書、賃金台帳、出勤簿、就業規則などから、取組が実際に行われたかを確認されます。普段の給与計算や勤怠管理が曖昧な事業所ほど、申請直前に書類を整えるのが難しくなります。

福祉事業での活用手順

福祉事業でキャリアアップ助成金を活用する場合は、次の流れで進めると整理しやすくなります。

  1. 対象にしたい職員を洗い出す
  2. 正社員化、賃上げ、社会保険適用のどれを行うか決める
  3. 就業規則・賃金規程・雇用契約書を確認する
  4. キャリアアップ計画を作成し、取組前に提出する
  5. 転換、賃金改定、労働時間延長などを実施する
  6. 転換後の勤務実績・賃金支払いを記録する
  7. 支給申請期限までに必要書類を提出する

ここで重要なのは、助成金の対象者だけでなく、事業所全体の人件費を同時に見ることです。たとえば、パート職員を正社員化すれば、月給、賞与、社会保険料、退職金、法定福利費が増える可能性があります。助成金は一時的な収入であり、昇給後の人件費は継続的な支出です。

そのため、生活介護、就労継続支援、放課後等デイサービス、共同生活援助などでは、サービス別の収支を見ながら、正社員化後も人員配置と収支が成り立つかを確認します。助成金を活用するほど、月次試算表と部門別管理の重要性が高まります。

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処遇改善加算との違いと併用時の注意点

福祉事業者が混同しやすいのが、キャリアアップ助成金と処遇改善加算の違いです。処遇改善加算は、障害福祉サービス等報酬の中で職員の賃金改善を行う制度です。一方、キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行った事業主に対する雇用関係助成金です。

両者は目的が近いものの、管理方法が異なります。処遇改善加算では、計画書、賃金改善実績、配分ルール、職種ごとの対象範囲が重要になります。キャリアアップ助成金では、雇用区分、転換制度、賃金規定、労働時間、社会保険適用、支給申請期限が重要になります。

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比較項目キャリアアップ助成金処遇改善加算
主な目的非正規職員の正社員化・処遇改善福祉職員の賃金改善
主な申請先労働局・ハローワーク指定権者
管理の中心雇用契約、就業規則、賃金台帳、出勤簿加算計画、賃金改善実績、配分ルール
収入の性質雇用関係助成金障害福祉サービス等報酬
注意点取組前の計画提出と申請期限加算要件と実績報告

同じ賃金改善を二重に説明していないか、助成金収入と加算収入を会計上どのように整理するかも確認が必要です。特に、処遇改善加算の配分原資、給与手当、法定福利費、助成金収入が混在すると、後から説明しにくくなります。

よくある失敗と防止策

キャリアアップ助成金でよくある失敗は、制度を知らなかったことよりも、順番を間違えることです。福祉事業では採用やシフト調整を急ぐ場面が多く、助成金の準備より先に雇用条件を変更してしまうことがあります。

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よくある失敗防止策
正社員化後に助成金を知った雇用条件変更の前に助成金対象を確認する
就業規則に転換制度がない転換前に就業規則・賃金規程を整備する
雇用契約書と勤務実態が違うシフト表、出勤簿、給与計算を月次で確認する
処遇改善加算との整理が曖昧賃金改善の原資と対象者を分けて管理する
助成金ありきで人件費を増やした転換後12か月以上の収支を試算する

特に、福祉事業では人員配置基準や加算要件を満たすために雇用条件を変更することがあります。その変更が助成金の対象になるかは、職員の雇用区分、過去の契約期間、賃金変化、就業規則の定めによって変わります。事前確認なしの雇用条件変更は、助成金機会の取りこぼしにつながります。

FAQ

キャリアアップ助成金は福祉事業所でも使えますか?

使える可能性があります。キャリアアップ助成金は福祉事業所専用の制度ではありませんが、非正規雇用労働者の正社員化、賃金改定、賞与・退職金制度の導入、短時間職員の社会保険適用などを行う事業主が対象になります。福祉事業では、支援員、児童指導員、世話人、事務職員などの雇用区分見直しで検討しやすい制度です。

パート職員を正社員にすれば必ず受給できますか?

必ず受給できるわけではありません。キャリアアップ計画の事前提出、就業規則の転換制度、対象者の雇用区分、転換前後の賃金、勤務実績、申請期限などを満たす必要があります。単に名称を「正社員」に変えただけでは不十分で、労働条件と実態が整っていることが重要です。

処遇改善加算とキャリアアップ助成金は併用できますか?

制度上、目的が異なるため併用を検討できる場合があります。ただし、賃金改善の説明、会計処理、加算実績報告、助成金申請書類の整合性が重要です。同じ給与改定を複数制度で説明する場合は、原資、対象者、支給額、実施時期を整理しておく必要があります。

いつ相談・準備を始めるべきですか?

正社員化、賃上げ、社会保険加入、賞与制度導入などを実施する前に準備を始めるべきです。キャリアアップ助成金では、原則として取組前の計画提出が必要です。採用時、契約更新時、年度の賃金改定時、処遇改善加算の配分設計時にあわせて確認すると進めやすくなります。

まとめ

キャリアアップ助成金は、福祉事業所の人材定着と処遇改善に役立つ制度ですが、事前準備と書類整備が欠かせません。

  • 福祉事業では、パート・契約職員の正社員化、賃上げ、社会保険適用の場面で検討しやすい
  • 取組前のキャリアアップ計画提出が重要で、実施後に気づいても対象外になる可能性がある
  • 就業規則、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿、賃金規程の整合性を確認する
  • 処遇改善加算とは制度が異なるため、賃金改善の原資と会計処理を分けて整理する
  • 助成金収入だけでなく、正社員化後の固定人件費とサービス別収支を試算する

福祉事業でキャリアアップ助成金を活用するには、助成金単体ではなく、労務管理、給与設計、処遇改善加算、月次収支を一体で見ることが大切です。職員の定着につながる制度設計になっているか、事前に確認してから進めましょう。


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この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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