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福祉事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

福祉事業所の36協定と特別条項の実務

10分で読めます
福祉事業所の36協定と特別条項の実務

福祉事業所で職員に時間外労働や休日労働をさせる場合、原則として36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。特に障害福祉・児童福祉の現場では、送迎、記録、会議、欠員対応、利用者対応の長期化などにより、予定外の残業が発生しやすくなります。2026年5月時点の実務では、単に届出を出すだけでなく、月45時間・年360時間という原則の上限、特別条項を使う場合の条件、シフト表と実労働時間の整合性まで確認することが重要です。

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福祉事業所で36協定が必要になる場面

36協定とは、法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働をさせるために、事業所と労働者代表が締結し、労働基準監督署へ届け出る協定です。法定労働時間は原則として1日8時間、週40時間です。

福祉事業所では、次のような場面で36協定が問題になりやすくなります。

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場面労務上の確認ポイント
送迎が長引いた予定シフトを超えた時間が労働時間に入っているか
支援記録を勤務後に作成した記録作成時間を残業として集計しているか
欠勤者の代替勤務をした週40時間超や休日労働が発生していないか
サービス担当者会議に参加した移動時間・会議時間の扱いを整理しているか
利用者対応で終業が遅れた残業命令・承認ルールが実態と合っているか

福祉事業は人員配置基準があるため、「職員が足りないから残業で対応する」という運用になりがちです。しかし、36協定は残業を無制限に認めるものではありません。届出前の時間外労働や、協定で定めた範囲を超える残業はリスクになります

ここがポイント
36協定は会社全体で1つではなく、原則として事業場単位で締結・届出を行います。複数の事業所を運営している法人では、各拠点の職員数、勤務形態、残業実態を分けて確認する必要があります。

36協定で必ず確認する基本項目

36協定では、時間外労働や休日労働をさせる業務、対象労働者の範囲、延長できる時間、協定の有効期間などを定めます。福祉事業所では、現場職員、児童指導員、生活支援員、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、事務職など、職種ごとに働き方が異なるため、対象業務の書き方が重要です。

主な確認項目は次のとおりです。

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確認項目実務での見方
労働者代表管理監督者ではなく、民主的な方法で選出されているか
対象業務「福祉業務全般」など広すぎる記載になっていないか
延長時間月・年の上限が実態と合っているか
休日労働法定休日と所定休日を区別できているか
有効期間期限切れのまま運用していないか
周知方法職員が内容を確認できる状態にしているか

特に見落としやすいのが労働者代表の選出です。事業所長、管理者、法人側の立場に近い人を形式的に代表者にしていると、協定の有効性が問題になる可能性があります。過半数代表者の適正な選出は、36協定の入口として必ず確認してください。

特別条項を使えるケースと上限時間

通常の36協定では、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間です。これを超える可能性がある場合には、特別条項付き36協定を締結します。ただし、特別条項は「忙しいから毎月使う」ためのものではありません。臨時的な特別の事情がある場合に限られます。

福祉事業所で想定される臨時的な事情には、たとえば次のようなものがあります。

  • 感染症や災害等による急な欠員対応
  • 利用者の急変や緊急対応
  • 監査・運営指導前の資料整備
  • 新規事業所開設時の一時的な準備業務
  • 請求・加算届出に関する一時的な業務集中

一方で、「慢性的な人手不足」「毎月の記録業務が終わらない」「通常の送迎が毎日長引く」といった事情は、特別条項で処理するより、採用、業務分担、記録システム、シフト設計を見直すべき課題です。

特別条項を使う場合でも、主な上限は次のとおりです。

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区分上限・ルール
時間外労働年720時間以内
時間外労働と休日労働の合計月100時間未満
複数月平均2〜6か月平均で月80時間以内
月45時間を超えられる回数年6か月まで
健康確保措置医師面接、勤務間インターバル等の措置を定める

ここで重要なのは、休日労働を含めた時間管理です。年720時間の判定と、月100時間未満・複数月平均80時間以内の判定では、見る範囲が異なります。給与計算ソフトや勤怠システムで、時間外労働と休日労働を別々に集計できる状態にしておくことが実務上のポイントです。

福祉事業所で起きやすい運用ミス

36協定を届け出ていても、日々の運用が合っていなければリスクは残ります。福祉事業所では、次のようなミスが起きやすい傾向があります。

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よくあるミス問題点見直しの方向性
シフト表だけで労働時間を管理している実際の退勤時刻との差が見えない打刻、残業申請、記録時間を照合する
管理者が残業を黙認している労働時間として扱われる可能性がある事前申請・事後承認ルールを整備する
持ち帰り記録がある労働時間の未把握につながる記録業務を勤務時間内に組み込む
休憩が取れていない労働時間・割増賃金の再計算が必要になる休憩取得の実態を確認する
36協定の期限が切れている届出のない時間外労働になる年次更新の管理表を作る

特にサービス管理責任者や児童発達支援管理責任者は、現場支援、個別支援計画、職員指導、会議対応が重なり、労働時間が長くなりやすい職種です。責任者本人が「管理職だから残業代は不要」と扱われている場合でも、労働基準法上の管理監督者に該当するかは別問題です。

肩書きだけで残業代の対象外にはできないため、役職手当、勤怠管理、決裁権限、勤務自由度をあわせて確認する必要があります。

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変形労働時間制と36協定の関係

福祉事業所では、1か月単位の変形労働時間制を使ってシフトを組むケースがあります。変形労働時間制を導入すると、一定の範囲で日ごとの労働時間に濃淡をつけられますが、36協定が不要になるわけではありません。

変形労働時間制は、あらかじめ定めたシフトの範囲で労働時間を調整する制度です。一方、36協定は、その制度で定めた労働時間を超えて働かせる場合や、法定休日に働かせる場合に必要になります。

ここがポイント
変形労働時間制を使う場合は、就業規則や労使協定、勤務カレンダー、シフト確定のタイミングが重要です。後から「この日は変形労働時間制だった」と説明する運用は避けるべきです。

福祉現場では、利用者数や職員の急な休みに合わせてシフト変更が頻繁に起きます。そのため、シフト変更後に週40時間超や法定休日労働が発生していないかを確認する体制が必要です。制度を導入していることよりも、実際の勤務表と勤怠記録が整合していることが大切です。

実務で整えるべき管理フロー

36協定と特別条項を適切に運用するには、届出、勤怠、給与、シフト、人員配置を分けずに確認する必要があります。次の流れで整理すると、抜け漏れを減らせます。

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手順確認する内容
1事業所ごとの職員数、職種、勤務形態を整理する
2現在の36協定の有効期間と届出状況を確認する
3実際の残業時間、休日労働、休憩取得状況を集計する
4月45時間を超える可能性がある業務を特定する
5特別条項が必要か、業務改善で抑えられるか判断する
6労働者代表の選出、協定締結、届出、周知を行う
7毎月の勤怠・給与計算で上限超過を確認する

36協定は、作成して終わりではありません。毎月の給与計算時に残業時間を確認し、上限に近づいた職員がいれば、翌月のシフト、業務分担、代休、採用計画まで見直す必要があります。労務管理と人件費管理を一体で見ることが、福祉事業所の安定運営につながります。

よくある質問

36協定を出していれば、残業はいくらでも可能ですか?

いいえ。36協定を出していても、協定で定めた範囲と法律上の上限を超えることはできません。特別条項がある場合でも、年720時間、月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、月45時間超は年6か月までといった制限があります。

パート職員にも36協定は関係しますか?

関係します。パート職員であっても、法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働をさせる場合には、36協定の対象になり得ます。雇用形態ではなく、実際の労働時間で判断します。

管理者やサービス管理責任者は残業管理しなくてもよいですか?

役職名だけでは判断できません。労働基準法上の管理監督者に該当しない場合、管理者やサービス管理責任者であっても労働時間管理や割増賃金の対象になります。勤務実態、権限、待遇を確認する必要があります。

特別条項は毎年入れておいた方が安全ですか?

必ずしもそうではありません。特別条項は臨時的な特別の事情に備えるものです。実態として月45時間を超える可能性があるなら検討対象になりますが、慢性的な残業を前提にするのではなく、業務改善や人員配置の見直しも同時に行う必要があります。

まとめ

  • 福祉事業所で時間外労働や休日労働をさせる場合、原則として36協定の締結・届出が必要です。
  • 通常の上限は月45時間・年360時間で、これを超える可能性がある場合は特別条項の要否を検討します。
  • 特別条項があっても、年720時間、月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、年6か月までという制限があります。
  • 送迎、記録、欠員対応、会議、管理者業務など、福祉事業所特有の残業要因を見える化することが重要です。
  • 36協定は届出だけでなく、シフト、勤怠、給与計算、人員配置を一体で管理して初めて実務上のリスクを減らせます。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

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