
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
社会福祉法人の役員報酬・退職金の決め方

社会福祉法人の理事報酬や役員退職金は、法人が自由に決められるものではありません。社会福祉法では、理事・監事・評議員への報酬等について、民間事業者の役員報酬、従業員給与、法人の経理状況などを考慮し、不当に高額とならない支給基準を定めることが求められています。さらに、その支給基準は評議員会の承認を受け、承認された基準に従って支給する必要があります。
特に、常勤理事への月額報酬、非常勤役員への日当、職員兼務理事への取扱い、役員退職慰労金の計算方法は、監査や運営指導でも説明を求められやすい論点です。この記事では、2026年5月時点の実務を前提に、社会福祉法人が役員報酬・役員退職金を決めるときの考え方を整理します。
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社会福祉法人の役員報酬は「規程」と「手続き」が重要
社会福祉法人の役員報酬で最初に確認すべきことは、金額そのものよりも、支給基準が明文化され、評議員会で承認されているかです。
社会福祉法上の「報酬等」には、月額報酬だけでなく、賞与、退職手当、その他職務執行の対価として受ける財産上の利益が含まれます。そのため、名称を「手当」「慰労金」「謝礼」としていても、実質的に役員の職務執行の対価であれば、役員報酬等として整理する必要があります。
役員報酬規程では、少なくとも次のような項目を整理します。
| 確認項目 | 規程で決める内容 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 対象者 | 理事、監事、評議員、常勤・非常勤の区分 | 職員兼務理事の扱いを分ける |
| 報酬の種類 | 月額報酬、日当、賞与、退職手当、費用弁償 | 費用弁償と報酬を混同しない |
| 算定方法 | 月額、日額、役職別、勤務日数、上限額 | 算定根拠を説明できる形にする |
| 支給方法 | 支給日、振込方法、源泉徴収の有無 | 給与台帳・会計処理と整合させる |
| 決定手続き | 評議員会承認、理事会決議、個別決定方法 | 承認前に支給しないことが基本 |
理事報酬の金額はどう決めるか
理事報酬の金額は、法人の規模、職務内容、勤務実態、職員給与水準、同種法人の水準、財務状況を総合的に見て決めます。社会福祉法人は公益性が高く、公費や利用者負担を財源とする事業も多いため、一般企業の役員報酬よりも説明責任が強く求められます。
常勤理事の場合は、法人運営への関与が大きいため、月額報酬を定めるケースがあります。たとえば、理事長、業務執行理事、常務理事など、役職ごとの職務範囲を整理し、勤務日数や責任の重さに応じて報酬水準を決めます。
一方、非常勤理事や評議員は、理事会・評議員会への出席、委員会参加、法人行事への出席など、職務遂行ごとに日額報酬を支給する形が多く見られます。会議に出席していないのに定額で支給する、勤務実態がないのに毎月報酬を支給する、といった運用は説明が難しくなります。
金額設定では、次の順番で検討すると整理しやすくなります。
- 役員ごとの職務内容と勤務実態を整理する
- 常勤・非常勤・職員兼務の区分を決める
- 役職別または職務別の報酬体系を作る
- 法人の収支、職員給与、同規模法人の水準と比較する
- 評議員会で支給基準を承認する
- 承認後の基準に従って支給・会計処理を行う
特に職員兼務理事は注意が必要です。施設長や管理者として職員給与を受けている人が理事を兼ねる場合、職員としての給与と役員としての報酬を区分しなければなりません。職員給与の延長で役員報酬を支給しているように見えると、規程との整合性が問われます。
役員退職金は「退職慰労金規程」で計算根拠を明確にする
社会福祉法人で役員退職金を支給する場合、一般的には「役員退職慰労金」「役員退職手当」として規程を整備します。重要なのは、退任時にその場で金額を決めるのではなく、事前に支給対象・計算式・支給手続きを定めておくことです。
役員退職金の規程では、次のような項目を決めます。
| 項目 | 決める内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 支給対象 | 常勤役員のみ、非常勤役員も含むか | 勤務実態との整合が必要 |
| 支給事由 | 任期満了、辞任、死亡、解任など | 不祥事退任時の不支給・減額も検討 |
| 計算式 | 最終報酬月額、在任年数、功績倍率など | 過大にならない上限設定が必要 |
| 支給時期 | 退任後何か月以内など | 資金繰りへの影響を確認 |
| 決議手続き | 評議員会承認、理事会確認など | 利害関係者の議決参加に注意 |
| 会計処理 | 引当金、支給時の科目処理 | 規程に基づく見積りが必要 |
たとえば、「最終月額報酬 × 在任年数 × 係数」のような計算式を置く場合、係数が法人規模や職務内容に照らして妥当かを確認する必要があります。職員退職金制度と比較して著しく厚い水準になっている場合は、説明が難しくなる可能性があります。
また、非常勤理事に退職金を支給する場合は、常勤役員以上に慎重な検討が必要です。会議出席中心の非常勤役員に、長期在任だけを理由として多額の退職慰労金を支給すると、職務執行の対価としての合理性が問われやすくなります。
会計処理では役員報酬と退職慰労金を分けて管理する
社会福祉法人会計では、法人役員に支払う報酬や諸手当は「役員報酬」として整理されます。一方、役員退職慰労金は、支給時には「役員退職慰労金支出」として処理することが想定されています。
さらに、役員に対して在任期間中の職務執行の対価として退職慰労金を支給することが定められており、支給額を規程等により適切に見積もることができる場合には、将来支給額のうち当該会計年度の負担分を「役員退職慰労引当金繰入」として費用計上し、負債として「役員退職慰労引当金」を計上します。
退職慰労金規程がない、または計算式があいまいな場合は、引当金を合理的に計算できない可能性があります。将来の支給予定がある法人ほど、会計処理の前提として規程整備が重要です。
また、役員報酬・役員退職金は、法人内部の経営判断だけでなく、所轄庁、監事、会計監査人、評議員、地域関係者に説明できる形にしておく必要があります。議事録、支給基準、給与台帳、源泉徴収、会計仕訳が一貫しているかを確認しましょう。
監査で見られやすいポイント
社会福祉法人の役員報酬・役員退職金では、次のような点が確認されやすくなります。
| 監査・確認項目 | 問題になりやすい例 | 整備の方向性 |
|---|---|---|
| 支給基準の有無 | 規程がないまま支給している | 報酬等支給基準を作成する |
| 評議員会承認 | 理事会だけで決めている | 評議員会議事録を残す |
| 勤務実態 | 常勤扱いだが出勤記録がない | 職務内容・勤務日数を記録する |
| 金額の妥当性 | 法人規模や収支に比べ高額 | 比較資料と算定根拠を残す |
| 職員兼務 | 職員給与と役員報酬が混在 | 給与部分と役員報酬部分を区分する |
| 退職金 | 退任時に臨時で決めている | 退職慰労金規程と計算資料を整える |
特に注意したいのは、「規程はあるが運用が違う」状態です。規程では非常勤役員は会議出席ごとに支給するとしているのに、実際には毎月定額で支給している場合、規程違反と見られる可能性があります。
また、理事長や親族関係者への報酬は、金額だけでなく、決定手続きの透明性も重要です。利害関係のある役員が自分の報酬決定に関与していないか、議事録に必要な記載があるかを確認しましょう。
規程を見直すときの実務チェック
役員報酬規程や退職慰労金規程を見直すときは、いきなり金額を変更するのではなく、現行規程、実際の支給、会計処理を照合することから始めます。
まず、現在の定款に、評議員・理事・監事の報酬についてどのような定めがあるかを確認します。次に、報酬等支給基準や役員退職慰労金規程があるか、評議員会で承認されているか、支給実績が規程どおりかを確認します。
見直し時には、次の資料をそろえると検討が進みやすくなります。
- 定款
- 役員等報酬規程
- 役員退職慰労金規程
- 評議員会・理事会議事録
- 役員名簿、職務分掌、勤務実態資料
- 直近の決算書、資金繰り表
- 職員給与規程、職員退職金規程
- 過去の役員報酬・退職金支給実績
規程を改定する場合は、改定日、適用開始日、評議員会承認日を混同しないように注意が必要です。特に報酬額の増額や退職金制度の新設は、承認前の期間にさかのぼって支給すると説明が難しくなることがあります。
よくある質問
社会福祉法人の理事は無報酬でもよいですか?
無報酬でも問題ありません。ただし、無報酬の場合でも、費用弁償を支給するのか、会議出席の日当を支給するのか、交通費のみ支給するのかを規程で明確にしておくと実務が安定します。
非常勤理事に毎月定額の報酬を支給できますか?
可能性はありますが、勤務実態や職務内容との整合性が必要です。会議出席中心であれば、出席ごとの日額報酬の方が説明しやすいケースがあります。毎月定額にする場合は、毎月発生する職務内容と算定根拠を明確にしましょう。
職員兼務理事には役員報酬を払えますか?
支給自体が常に禁止されるわけではありません。ただし、職員としての給与と理事としての報酬を区分し、規程上も職員兼務理事の扱いを明確にする必要があります。二重支給に見えないよう、職務内容と勤務時間の整理が重要です。
役員退職金は退任時に理事会で決めればよいですか?
退任時にその場で決める運用は避けるべきです。事前に退職慰労金規程を整備し、支給対象、計算式、支給手続き、減額・不支給事由を定めておくことが望ましいです。
まとめ
社会福祉法人の役員報酬・役員退職金は、金額の多寡だけでなく、規程、承認手続き、勤務実態、会計処理の整合性が重要です。
- 役員報酬等は、不当に高額とならない支給基準を定め、評議員会の承認を受ける
- 常勤・非常勤・職員兼務の区分を明確にし、勤務実態に合った報酬体系にする
- 役員退職金は、退任時ではなく事前の退職慰労金規程に基づいて計算する
- 規程、議事録、支給実績、会計処理が一致しているかを確認する
- 将来の退職慰労金支給が見込まれる場合は、引当金計上の要否も検討する
理事報酬や役員退職金は、法人のガバナンスと財務管理の信頼性に直結します。現行規程が古いままになっている法人、職員兼務理事がいる法人、退職慰労金の支給予定がある法人は、早めに規程と会計処理を見直しておくと安心です。
参照ソース
- e-Gov法令検索「社会福祉法」: https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000045
- e-Gov法令検索「社会福祉法施行規則」: https://laws.e-gov.go.jp/law/326M50000100028
- e-Gov法令検索「社会福祉法人会計基準」: https://laws.e-gov.go.jp/law/428M60000100079
- 厚生労働省「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc1922&dataType=1
- 市川市「役員等の報酬等の支給の基準例」: https://www.city.ichikawa.lg.jp/uploaded/attachment/27920.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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