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福祉事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

福祉事業所の電子帳簿保存法対応マニュアル

11分で読めます
福祉事業所の電子帳簿保存法対応マニュアル

福祉事業所でも、メールで受け取った請求書、クラウドで発行された領収書、ネット購入の明細などは、電子帳簿保存法に沿ってデータ保存する必要があります。特に障害福祉・児童福祉の事業所では、国保連請求、補助金、処遇改善加算、行政への提出資料など紙とデータが混在しやすく、経理資料の保存ルールが曖昧になりがちです。2026年5月時点では、まず電子取引データは紙に印刷するだけでは原則対応にならないという点を押さえ、保存場所・ファイル名・検索方法・改ざん防止ルールを決めることが実務上の出発点です。

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福祉事業所が電子帳簿保存法で対応すべき範囲

電子帳簿保存法は、税務上保存が必要な帳簿や書類を電子データで保存する場合のルールです。福祉事業所に関係する場面は、大きく次の3つに分かれます。

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区分主な対象福祉事業所での例対応の優先度
電子取引データ保存電子で授受した取引書類メール添付の請求書、Web領収書、クラウド請求書、PDF契約書高い
スキャナ保存紙で受け取った書類をスキャン保存紙の領収書、紙の請求書、紙の契約書任意対応
電子帳簿等保存会計ソフト等で作成した帳簿・書類仕訳帳、総勘定元帳、試算表、決算書類運用に応じて確認

最も注意すべきなのは、電子取引データ保存です。メールやWeb上で受け取った請求書・領収書・契約書などは、電子データのまま保存する必要があります。紙に印刷してファイルに綴じていても、元データの保存が漏れていれば不十分になる可能性があります。

一方で、紙で受け取った領収書や請求書をスキャンして保存するかどうかは、事業所の運用方針によります。紙の原本管理を続ける場合は、必ずしもスキャナ保存へ移行しなければならないわけではありません。電子で受け取ったものと紙で受け取ったものを混同しないことが、最初の重要な整理です。

ここがポイント
福祉事業所では「現場で購入した物品のレシート」「本部で受け取る請求書」「クラウド上の利用料明細」が別々に管理されることがあります。電子帳簿保存法への対応は、経理担当者だけでなく、管理者・サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者・現場責任者も含めた運用ルールにすることが大切です。

電子取引データに該当しやすい資料

福祉事業所で電子取引データに該当しやすいのは、次のような資料です。

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入手方法保存対象になりやすい資料よくある保存漏れ
メール請求書PDF、見積書、契約書、納品書メール本文だけ残し、添付PDFを保存していない
WebサイトAmazon・楽天・事務用品サイトの領収書、カード明細購入画面を確認しただけでダウンロードしていない
クラウドサービス会計ソフト、勤怠ソフト、記録システム、請求ソフトの利用料請求書管理画面にあるため保存済みと思い込む
チャット・業務アプリ取引先から送られた請求書や精算資料メッセージ内に埋もれて検索できない
電子契約賃貸借契約、業務委託契約、保守契約契約締結サービス内だけに保管している

特に、福祉事業所では送迎車の整備費、給食・弁当、教材、衛生用品、ICTツール、記録システム、求人広告費など、多くの支払いがオンライン化しています。これらの請求書や領収書が電子で発行されている場合、取引年月日・取引先・金額で検索できる状態にして保存する必要があります。

「クラウド上に残っているから大丈夫」と考えるのは危険です。サービスを解約したり、閲覧期限が過ぎたり、担当者のアカウントが使えなくなったりすると、税務調査時に確認できないことがあります。外部サービス上にあるデータは、自社の保存ルールに従って取得・保管するという前提で運用しましょう。

最低限整えたい保存ルール

電子帳簿保存法への対応で、福祉事業所がまず整えたいのは「完璧なシステム」ではなく、毎月継続できる保存ルールです。国税庁の資料でも、専用システムがなくても、事務処理規程や索引簿などを使った対応方法が示されています。

最低限、次の5点を決めておくと運用しやすくなります。

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確認項目決める内容
保存場所電子取引データを置く場所共有フォルダ、クラウドストレージ、会計ソフト内
ファイル名検索しやすい命名ルール202605_取引先名_金額_請求書.pdf
保存期限税務上の保存期間に合わせた管理決算期ごとにフォルダを分ける
改ざん防止訂正削除のルール事務処理規程を作り、勝手に削除しない
担当者誰が保存確認するか管理者が一次保存、経理が月次確認

電子帳簿保存法では、真実性の確保と可視性の確保が重要です。真実性とは、データが勝手に改ざんされないようにすることです。可視性とは、必要なときに画面表示や印刷ができ、検索できる状態にしておくことです。

事務処理規程を作って守る方法は、システム費用を抑えながら始められる現実的な対応策です。ただし、規程を作るだけで実際の運用が伴っていない場合は意味がありません。月次処理の中で、電子取引データの保存状況を確認する工程を入れることが重要です。

ここがポイント
ファイル名のルールは複雑にしすぎないことが大切です。「年月日」「取引先」「金額」「書類名」が分かれば、後から検索しやすくなります。現場スタッフが保存する場合は、入力ミスを前提に、経理担当者が月次で補正する流れにしておくと運用が安定します。

福祉事業所で起きやすい運用ミス

電子帳簿保存法の対応でよくあるミスは、制度を知らないことよりも、現場運用に落とし込めていないことです。福祉事業所では、次のようなケースに注意しましょう。

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よくあるミス問題点対策
領収書を印刷して紙だけ保存している電子取引データの元データ保存が漏れるPDFやスクリーンショットも保存する
施設長や管理者のメールに請求書が残っている経理側で一覧管理できない専用メールや共有フォルダへ集約する
クレジットカード明細だけで処理している取引内容の根拠資料が不足する利用明細と領収書をセットで保存する
補助金関係資料と税務資料が混在している監査・税務調査時に探しにくい用途別ではなく取引証憑としても整理する
退職者のアカウントに資料が残っている後から取得できない個人アカウントでの取引を避ける

特に注意したいのは、管理者や現場スタッフが立替購入した備品です。レクリエーション用品、教材、衛生用品、送迎車関連用品などを個人のアカウントで購入し、領収書のスクリーンショットだけをLINEやチャットで送る運用になっていると、保存要件を満たす資料が散逸しやすくなります。

経費精算の時点で、電子領収書や購入明細を所定の保存場所に入れるルールを作ると、月末の経理処理が大きく楽になります。あわせて、個人購入をできるだけ法人アカウントや法人カードに寄せると、証憑の回収漏れを減らせます。

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月次経理に組み込む対応手順

電子帳簿保存法への対応は、年1回まとめて行うよりも、月次経理に組み込む方が現実的です。福祉事業所では、国保連請求や利用者負担金、職員給与、加算関係資料など毎月の締め作業が多いため、電子取引データの確認も月次ルーティンに入れましょう。

  1. 当月の電子請求書・領収書を共有フォルダへ集約する
  2. メール、クラウド請求、Web領収書、カード明細を確認する
  3. ファイル名をルールに沿って整える
  4. 会計ソフトの仕訳・証憑と照合する
  5. 保存漏れや不明資料を管理者へ確認する
  6. 月次試算表作成時に証憑の不足をメモする

この流れを作ると、電子帳簿保存法だけでなく、経費の計上漏れ、二重計上、補助金対象経費の確認、処遇改善加算に関する支出整理にも役立ちます。制度対応を単なる事務負担にせず、経理の精度を上げる機会にすることがポイントです。

また、複数事業所を運営している法人では、事業所ごとに保存ルールが違うと本部経理の負担が増えます。法人全体で共通のフォルダ構成と命名ルールを作り、事業所名やサービス種別で区分できるようにしておくと、後日の確認がしやすくなります。

導入前に確認したいチェックリスト

次の項目に多く当てはまる場合は、電子帳簿保存法の対応状況を見直すタイミングです。

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チェック項目確認
メール添付の請求書PDFを保存する場所が決まっている
Web領収書をダウンロードする担当者が決まっている
クレジットカード明細と領収書を照合している
電子契約書の保存場所を法人側で管理している
ファイル名に日付・取引先・金額が入っている
退職者のメールや個人アカウントに資料が残らない運用になっている
事務処理規程や削除訂正ルールを用意している
月次決算時に電子取引データの保存漏れを確認している
複数事業所で同じルールを使っている
税務調査時にすぐ検索・表示できる状態になっている

すべてを一度にシステム化する必要はありません。まずは、電子で受け取る資料を洗い出し、保存場所を一本化することから始めるとよいでしょう。ルールを作った後は、実際に3か月ほど運用して、現場で続けられるかを見直すことも大切です。

よくある質問

福祉事業所も電子帳簿保存法の対象になりますか?

はい。法人税や所得税に関して帳簿書類の保存義務がある法人・個人事業者は、業種にかかわらず対象になります。福祉事業所でも、請求書・領収書・契約書などを電子でやり取りしている場合は、電子取引データの保存対応が必要です。

紙で受け取った領収書も必ずスキャン保存しなければなりませんか?

紙で受け取った書類については、紙の原本保存を続けることも可能です。スキャナ保存は、紙を電子化して保存するための制度です。まず優先すべきなのは、メールやWebで受け取った電子取引データをデータのまま保存することです。

PDFではなくスクリーンショットでも保存できますか?

国税庁資料では、保存するファイル形式は問わず、PDFやスクリーンショットでも問題ないとされています。ただし、取引年月日、取引先、金額など、税務上必要な情報が確認でき、検索・表示できる状態で保存する必要があります。

専用システムを入れないと対応できませんか?

必ずしも専用システムが必要とは限りません。事務処理規程を整備し、共有フォルダや索引簿を使って保存・検索できるようにする方法もあります。ただし、取引量が多い法人や複数事業所を運営している法人では、クラウド会計や証憑保存システムを使った方が運用しやすい場合があります。

まとめ

  • 福祉事業所でも、メール・Web・クラウドで受け取った請求書や領収書は電子取引データとして保存対応が必要です。
  • 紙で受け取った書類と電子で受け取った書類を分けて考えることが、対応の第一歩です。
  • 保存場所、ファイル名、検索方法、改ざん防止ルール、担当者を決めると実務に落とし込みやすくなります。
  • 現場購入、クラウド請求、退職者アカウント、個人カード利用は保存漏れが起きやすいポイントです。
  • 電子帳簿保存法対応は、月次経理や証憑管理の精度を高める機会として整備することが重要です。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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