
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
障害福祉の採用が進まない理由と改善策

障害福祉事業でスタッフ採用がうまくいかない理由は、単に求人応募が少ないからではありません。賃金水準、勤務条件、仕事内容の見せ方、教育体制、管理者の負担、人員配置基準、処遇改善加算の活用状況がつながっており、どこか一つが弱いと採用しても定着しにくくなります。特に就労継続支援、生活介護、グループホーム、児童発達支援、放課後等デイサービスでは、採用難は経営課題そのものとして捉える必要があります。
福祉事業の採用・労務相談
この記事の内容を、採用・処遇改善・労務管理に落とし込む相談をする
給与設計、処遇改善、採用条件、労務リスクを、現場体制に合わせて整理します。
障害福祉の採用難は「求人票」だけの問題ではない
障害福祉事業所の採用が難しい背景には、業界全体の人材不足があります。福祉・介護分野ではサービス需要が高まる一方で、現場職員の確保が追いつかず、障害福祉でも人材確保と離職防止が重要な課題になっています。
ただし、採用がうまくいかない事業所ほど、原因を「応募が来ない」「資格者がいない」「近隣に競合が多い」と外部要因だけで整理しがちです。もちろん地域差や職種差はありますが、実務上は事業所側で改善できる余地も少なくありません。
たとえば、次のような状態です。
| よくある状態 | 採用への影響 |
|---|---|
| 求人票に仕事内容が抽象的にしか書かれていない | 応募者が働くイメージを持てない |
| 給与の内訳や手当が分かりにくい | 条件比較で不利になる |
| 管理者・サービス管理責任者に業務が集中している | 現場の雰囲気が悪く見える |
| 採用後の教育担当が決まっていない | 早期離職につながる |
| 処遇改善加算の賃金改善が伝わっていない | 賃上げ努力が応募者に届かない |
実務上の注意点として、採用対策は「求人媒体を増やすこと」から始めるよりも、まず既存職員が辞めにくい職場になっているかを確認することが重要です。離職率が高いまま採用費を増やしても、穴埋め採用が続き、経営が安定しません。
採用がうまくいかない主な理由
障害福祉事業所で採用が進まない理由は、大きく分けると「条件」「魅力」「運営体制」「定着」の4つです。
1. 給与と業務負担のバランスが合っていない
障害福祉の仕事は、利用者支援、記録、送迎、家族対応、関係機関連携、請求に関わる事務など、見えにくい業務が多い仕事です。給与水準だけで他業種と比べられると不利になりやすいため、賃金と業務内容の納得感をどう作るかが大切です。
給与を大幅に上げることが難しい場合でも、手当の設計、勤務時間、休憩、残業の少なさ、研修支援、資格取得支援などを整理すれば、応募者に伝わる条件は増やせます。
2. 求人票が「誰に来てほしいか」を伝えられていない
「未経験歓迎」「アットホームな職場」「やりがいのある仕事」だけでは、他の求人と差がつきません。障害福祉の採用では、経験者、未経験者、子育て中の人、シニア層、福祉系学生、異業種からの転職者など、対象によって響く情報が異なります。
たとえば未経験者向けなら、最初に担当する業務、同行期間、記録方法、送迎の有無を具体的に書くべきです。経験者向けなら、支援方針、利用者層、加算取得状況、管理者との役割分担を示す方が有効です。
3. 管理者・サビ管・児発管に負担が集中している
現場のキーパーソンに負担が集中している事業所では、面接時にも忙しさや疲弊感が伝わります。応募者は給与だけでなく、職場の空気、上司の余裕、支援方針の明確さを見ています。
特にサービス管理責任者や児童発達支援管理責任者の採用・定着は、指定基準や加算にも関わる重要論点です。人員配置基準を満たすだけでなく、運営が回る人員体制になっているかを確認する必要があります。
4. 採用後の定着設計がない
採用が成功しても、入職後1〜3か月で退職されると、現場の負担はさらに増えます。早期離職の原因は、本人の適性だけでなく、初日の受け入れ、業務説明、相談先、評価基準の不明確さにあることも多いです。
まず見直すべき採用条件と求人票
求人票を改善する際は、応募者が不安に感じる点を先回りして説明します。障害福祉の仕事に関心があっても、「自分にできるか分からない」「送迎が不安」「記録業務が難しそう」「利用者対応が想像できない」という理由で応募をためらう人は少なくありません。
| 見直す項目 | 書くべき内容 |
|---|---|
| 仕事内容 | 支援、記録、送迎、会議、清掃、事務の範囲 |
| 1日の流れ | 出勤から退勤までの具体的な動き |
| 利用者像 | 年齢層、支援内容、医療的ケアや行動面の特徴 |
| 教育体制 | 同行期間、研修、マニュアル、相談担当 |
| 給与 | 基本給、資格手当、処遇改善手当、賞与 |
| 勤務条件 | 残業、休憩、休日、シフト、送迎可否 |
| 職場の方針 | 支援方針、記録の考え方、チーム運営 |
実務上の注意点として、求人票に良いことだけを書きすぎると、入職後のギャップが大きくなります。送迎、記録、家族対応、身体介助、夜勤などの有無は、採用前に明確に伝える方が定着につながります。
また、処遇改善加算を取得している場合は、給与にどう反映されているかを整理しましょう。単に「処遇改善手当あり」と書くだけでなく、支給方法、対象職種、キャリアアップとの関係を説明できる状態にしておくことが大切です。
定着率を上げるには賃金設計と役割分担が重要
障害福祉の採用では、給与を上げればすべて解決するわけではありません。しかし、給与体系が分かりにくい、昇給基準がない、資格を取っても待遇が変わらない、リーダー業務をしても手当がない状態では、職員は長く働く理由を見つけにくくなります。
定着率を上げるには、次の3つを整える必要があります。
1つ目は、職務と賃金の対応です。生活支援員、職業指導員、世話人、児童指導員、保育士、看護職員、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者など、職種ごとの役割と責任を明確にします。
2つ目は、キャリア段階の設計です。新人、一般職員、リーダー、管理者候補など、何ができるようになれば評価されるのかを示します。キャリアパスの見える化は、処遇改善加算の運用とも相性がよい取り組みです。
3つ目は、現場の業務量を把握することです。記録、請求資料、会議、送迎、個別支援計画に関わる作業が一部の職員に偏っていると、待遇に不満が出やすくなります。
採用対策は「人員基準」と「経営数値」を同時に見る
障害福祉事業では、人員配置がサービス提供や報酬算定に直結します。採用が遅れると、利用者の受け入れ制限、加算の算定不可、既存職員の残業増加、サービス品質の低下につながります。
そのため、採用計画は「足りなくなってから募集する」のではなく、事業計画の一部として管理する必要があります。
確認すべき数値は次のとおりです。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 利用率 | 現在の職員数で何人まで受け入れ可能か |
| 人件費率 | 売上に対して人件費が過大または過小でないか |
| 加算取得状況 | 処遇改善、専門職配置、体制加算などを活用できているか |
| 離職率 | 退職理由が給与か人間関係か業務負担か |
| 採用単価 | 求人媒体費、人材紹介料、教育コストを含めて把握しているか |
| 資金繰り | 採用から報酬入金までの運転資金に余裕があるか |
実務上の注意点として、人材紹介を使う場合は、採用時の一時的な費用だけでなく、早期退職時の返戻条件、紹介手数料を含めた採算を確認してください。高単価の採用を繰り返すと、黒字の事業所でも資金繰りが悪化することがあります。
相談前に整理しておきたい資料
採用がうまくいかない原因を経営面から確認するには、求人票だけでなく、会計・労務・報酬の資料を合わせて見る必要があります。専門家に相談する前には、次の資料を整理しておくと状況把握が早くなります。
- 直近の試算表または決算書
- 職員別の給与一覧
- 処遇改善加算の計画書・実績報告書
- 現在の求人票と採用媒体
- 職種別の人員配置表
- 月別の利用者数、利用率、売上
- 退職者の人数と退職理由
- 残業時間、シフト、送迎体制
これらを見ると、採用難の原因が「給与水準」なのか、「利益構造」なのか、「管理者負担」なのか、「求人の見せ方」なのかを切り分けやすくなります。障害福祉の採用対策は、労務だけでなく経営管理の問題として扱うことが重要です。
よくある質問
障害福祉の採用では給与を上げるべきですか?
給与の見直しは重要ですが、単純な賃上げだけでは不十分です。基本給、資格手当、処遇改善手当、賞与、昇給基準を整理し、職員が将来の待遇をイメージできる設計にする必要があります。あわせて、業務負担や教育体制も見直しましょう。
未経験者を採用しても大丈夫ですか?
未経験者採用は有効ですが、教育担当、研修期間、業務範囲を明確にしておくことが前提です。いきなり単独対応を任せると、本人も現場も不安が大きくなります。採用前に「最初の1か月で何を覚えるか」を決めておくことが定着につながります。
処遇改善加算は採用に活かせますか?
活かせます。ただし、求人票や面接で説明できるように、どの手当が処遇改善に関係しているのか、どの職種が対象なのか、昇給やキャリアパスとどうつながるのかを整理しておく必要があります。
人材紹介会社を使うべきですか?
急ぎの採用や有資格者採用では選択肢になりますが、紹介手数料と定着率を必ず確認してください。採用しても短期で退職が続く場合は、紹介会社の問題だけでなく、職場環境や条件設計を見直す必要があります。
まとめ
障害福祉事業のスタッフ採用がうまくいかないときは、求人媒体を増やす前に、次の点を確認しましょう。
- 採用難は求人票だけでなく、賃金設計、業務負担、定着率の問題として捉える
- 求人票では仕事内容、利用者像、教育体制、手当の内訳を具体的に伝える
- 処遇改善加算を取得している場合は、賃金改善とキャリアパスを見える化する
- 人員配置基準を満たすだけでなく、管理者やサビ管に負担が集中しない体制を作る
- 採用計画は、利用率、人件費率、加算、資金繰りと合わせて判断する
採用が苦しい事業所ほど、現場の努力だけで解決しようとしがちです。しかし、障害福祉の採用は経営数値と直結しています。まずは現状の人件費、加算、職員配置、離職理由を整理し、無理なく続けられる採用・定着の仕組みを作ることが大切です。
参照ソース
- 厚生労働省 福祉・介護福祉人材確保対策: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/fukusijinzai/index.html
- 厚生労働省 障害福祉人材確保に向けた処遇改善等の課題: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001609050.pdf
- WAM NET 障害福祉サービス等指定基準・報酬関係Q&A: https://www.wam.go.jp/wamappl/shougaiServiceQA.nsf/aList
- 福祉医療機構 2023年度障害福祉サービス等の人材確保に関する調査について: https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/240329_No.016.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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