医師や従業員が入れる保険とは?医師国保や厚生年金について解説!

クリニックを開業するにあたり、雇用する従業員には保険の加入義務が生じます。医師と同様に医師国保に加入することもありますし、状況次第では社会保険に加入することもあります。医師国保や社会保険に関する知識は、開業を考えている医師にとって重要なポイントです。

この記事では、医師国保と社会保険の1つである厚生年金に焦点を当てて、2つの保険について知っておきたいポイントを解説します。

目次

医師国保について

医師国保(医師国民健康保険組合)は各都道府県の医師会が運営しており、医師会に所属している開業医などが加入対象となっています。以下で、医師国保の特徴について見ていきましょう。

保険料が一定

医師国保の保険料は、加入者の収入に関わらず一定です。収入が増加しても保険料が変わらないので、増えれば増えるほど保険料の負担を減らすことができます。

一方で、収入が減少しても保険料が変わらないため、収入が少ない場合は金銭的な負担が大きくなります。状況によって、メリットにもデメリットにもなりうると言えるでしょう。

加入対象者

医師国保は、医師会に所属している医師と従業員、およびその家族が加入対象となっています。ただし従業員の人数によっては、従業員は社会保険に加入することになります。この点については後ほど詳しく解説します。

医師国保は世帯単位での加入が原則となっており、加入者の家族も加入対象となります。ただし、75歳以上の高齢被保険者や、既に他の社会保険に加入している場合は、医師国保への加入義務はありません。

参照:加入資格について|大阪府医師国民健康保険組合 (osaka-ishikokuho.or.jp)

院長は医師国保に加入する

クリニックを開業する場合、院長は医師国保に加入することになります。また、医師国保に加入する場合は国民年金への加入手続きが必要になります。

勤務医だった方が社会保険を脱退する場合、事業所側で社会保険の脱退手続きを行います。しかし国民年金に加入する場合は、本人が役所へ届出を行う必要があります。加入手続きが遅れると年金の未納期間が生じてしまうので、速やかに行うようにしましょう。

国民健康保険に加入している方は国民年金に既に加入しているので、改めて国民年金への加入手続きを行う必要ありません。

厚生年金について

クリニックの従業員は、人数次第では厚生年金に加入する義務が生じます。厚生年金の保険料に関する事も含めて、以下で重要なポイントを確認しましょう。

社会保険の1つ

厚生年金は、社会保険の1つです。一般的には、労働保険・雇用保険・健康保険・厚生年金の4つをまとめて社会保険としています。

社会保険は保険料を事前に集めて、ケガや病気などになった従業員を様々な給付で支援します。日本の社会保障制度を安定させる制度であり、言い換えれば国民の生活を安定させる制度なのです。

保険料は事業主(クリニックの場合は院長)と従業員の折半となり、事業主分と従業員の給与から天引きした金額の合計を、毎月納付します。

従業員が5名以上で加入義務が生じる

常勤の従業員が5人以上の個人事業所は、厚生年金に加入する義務が生じます。加入義務が生じる事業所は「強制適用事業所」と呼ばれ、クリニックなどの個人事業所などが対象となります。また、法人化した場合も従業員は厚生年金に加入しなければいけません。法人事業所も同じく強制適用事業所と呼ばれます。

ちなみに、5人以上の個人事業所であっても水産業・畜産業・農林業などの事業所は強制適用事業所から除外されています。

参照:「厚生年金保険・健康保険制度のご案内」日本年金機構 seidoannai.pdf (nenkin.go.jp)

保険料の計算

厚生年金の保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じて計算されます。

標準報酬月額とは、月々の報酬額を等級で区分した額です。厚生年金の場合は32の等級に分かれており、1等級は88,000円で、32等級は650,000円です。例えば、毎月受け取っている給与が310,000~330,000円である場合、標準報酬月額は320,000円となり、20等級となります。

厚生年金の保険料率は、今のところ一律で18.30%(1000分の183.00)です。標準報酬月額に保険料率をかけることで、厚生年金の保険料が分かります。標準報酬月額に保険料率をかけた値に、さらに0.5をかけることで、労使双方の保険料をを算出することができます。ちなみに、健康保険組合や協会けんぽの保険料率も、同じく18.30%です。

また、同様の方法で賞与にかかる保険料を算出することもできます。税引き前の賞与の支給総額から1,000円未満を切り捨てて算出する、標準賞与額を使って計算します。標準賞与額に厚生年金の保険料率をかけることで、保険料を算出します。

参照:「厚生年金保険・健康保険制度のご案内」日本年金機構 seidoannai.pdf (nenkin.go.jp)

給与に大幅な変更があった場合

標準報酬月額は年に1度決まるタイミングがあり、このタイミングを「定時決定」と言います。しかし大幅な昇給や降給などがあった場合、標準報酬月額が実態に即していないことがあります。その場合は、定時決定のタイミングを待たずに月額変更届を提出することで、標準報酬月額を変更を変更することが可能です。これを「随時改定」と呼びます。

従業員の保険をどうするか

クリニックの従業員が加入する保険は、状況によって異なります。従業員が5人未満と5人以上、それぞれのケースから押さえておきたいポイントを、以下で解説します。

従業員が5人未満の場合

従業員が5人未満の場合は、国民健康保険と国民年金、あるいは医師国保と国民年金に加入するのが一般的となっています。厚生年金への加入義務はありませんが、福利厚生のために加入するクリニックもあります。従業員の同意を得ることができれば、任意適用事務所として厚生年金に加入することができます。

従業員が厚生年金に加入する場合は、協会けんぽとの組み合わせが一般的となっています。しかし事業主である院長が医師国保に加入している場合、医療保険については「健康保険被保険者適用除外承認申請書」を提出することで、医師国保に加入することも可能です。

従業員が5人以上の場合

従業員が5人以上の場合は、厚生年金への加入が義務となります。協会けんぽと厚生年金の組み合わせが原則となりますが、こちらも「健康保険被保険者適用除外承認申請書」を提出すれば、医療保険を医師国保にすることができます。

保険料は事業主と従業員での折半となり、事業主の負担分と毎月の給与・賞与から天引きされた分の合計を、毎月納付します。

どの保険がいいのか

従業員の分を負担する必要が無いため、保険料の負担と言う観点からすると、事業主にとっては医師国保の方がいいと言えます。同じく医療保険である協会けんぽは労使折半となりますが、保障内容が充実しているので、従業員にとっては安心できるといえるでしょう。

厚生年金に関しても労使折半となりますが、国民年金よりも将来的に多く受け取れる厚生年金の保険料を事業主が負担してくれるのは、従業員にとっては魅力的です。

しかし、社会保険料の負担が重荷となっているのも事実です。常勤職員を5名未満に抑えることで、強制適用事務所にならないようにしているクリニックも少なくありません。従業員のことを第一に考えたいと思う一方で、実際はなかなか難しいという状況もあるのです。

もし、将来的に事業拡大を考えているのであれば、従業員が5名未満であっても厚生年金に加入するという選択肢もあります。

まとめ

医師国保と厚生年金、そして従業員の保険をどうするかについて解説しました。どの保険にするかは、従業員の人数や年齢、クリニックを将来どのようにしたいか、といった点から考えるとよいでしょう。

この記事を参考にして、医師国保と厚生年金それぞれのメリット・デメリットを踏まえながら、検討していただけたら幸いです。

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