開業医が入れる賠償責任保険とは?内容やメリットなどについて

医師の方にとって、医療行為における事故はいつでも発生する可能性があります。そういった時のための備えとして重要なのが、賠償責任保険です。医師は、「医師賠償責任保険」というものに加入できます。特に、クリニックを経営する開業医の方にとっては、心強い存在となるでしょう。

この記事では、開業を検討している医師の方に向けて、開業医の方が入れる医師賠償責任保険について、具体的な内容やメリットなどを解説します。

目次

医師賠償責任保険とは

医師賠償責任保険とはどういう保険なのか、以下で詳しく見ていきましょう。

医療事故における補償を行う

医師賠償責任保険は、医療事故が原因で損害賠償責任を求められた時に、賠償金などを補償してくれる保険です。医療事故は、医療の過程において起こる事故の全てが該当し、医療ミスだけでなく、医療機関の建物や設備の不備によって発生した事故も補償の対象になります。

医療ミスに関しては、誤診などによる患者の症状悪化の他にも、患者に後遺症を負わせてしまった場合も含まれます。手術は成功したものの術後に後遺症が残ってしまった、あるいは後遺症によって死亡したことにより、患者や遺族から損害賠償請求をされるケースもあります。医師賠償責任保険は、そのようなケースでもしっかりカバーしてくれるのです。

参照:医師賠償責任保険(医療機関保険) | 大阪府医師協同組合 (omca.or.jp)

補償の範囲について

医療事故における損害賠償請求の他も、様々な費用がかかる場合があります。それらの費用も、医師賠償責任保険でカバーすることが可能です。

裁判を起こされた時は、訴訟費用がかかります。勝訴・敗訴に関係なく、弁護士費用が必要です。敗訴した場合は、裁判の訴訟費用を医師側が負担しなければいけません。それらの費用を、医師賠償責任保険が補償してくれます。他にも、医療事故が発生した時の損害の発生・拡大を防ぐために行った措置にかかった費用も補償されます。また、事故発生時に行った応急措置でかかった費用、保険会社に提出するための資料を作成するためにかかった費用なども、補償の対象です。

大きく分けて2種類ある

医師賠償責任保険は、大きく分けて2種類あります。日本医師会が提供している医師賠償責任保険と、「民間医局」で提供している医師賠償責任保険です。

日本医師会の保険に入るためには、日本医師会への加入が必要です。日本医師会に加入している医師の中で、勤務医と研修医の加入は任意ですが、開業医の場合は自動的に加入となります。2つの医師賠償責任保険の特徴については、後ほど詳しく解説します。

医師賠償責任保険に加入するメリット

医師賠償責任保険に加入するメリットについて、以下で解説します。

経済的リスクを軽減できる

医療事故が起きて患者側から賠償責任を問われると、医師側の経済的負担が大きくなります。医師賠償責任保険はそういった問題をカバーしてくれるので、医師の経済的リスクを軽減することができます。ただし、状況によっては補償の対象外となる場合もあります。対象外となる事例に関しては、後ほど詳しく解説します。

精神的な安心感を得られる

医師賠償責任保険は、いざという時の備えとして心強い存在です。そのような存在があるからこそ、医師の方々は安心して診察や治療、手術などを行うことができます。賠償責任保険は、精神的な安心感を提供することで、医師が本業に専念することをサポートをしてくれると言えるでしょう。

医師賠償責任保険の注意点

医師賠償責任保の注意点について、以下で確認しておきましょう。

重大な過失は対象外

医療事故をカバーしてくれる医師賠償責任保険ですが、ミスが重大な過失による場合は、補償の対象外となります。重大な過失は法律用語で「重過失」と呼ばれます。また、故意によるミスも補償の対象となりません。

海外での医療行為は対象外

医師賠償責任保険は、原則として日本国内での医療行為のみを対象としています。そのため、海外での医療行為は補償の対象外になっています。

美容目的の医療行為は対象外

美容外科、美容皮膚科、審美歯科などは本来の医療行為とは異なるとされており、「美容整形手術等」と呼ばれます。「美容を目的とした行為」となるので、医師賠償責任保険の対象外となるのです。代表的なものとしては、「ヒアルロン酸注入」「まぶたを二重にする手術」「レーザー脱毛」などがあります。

美容目的で行う医療行為は医師賠償責任保険では補償されないので、任意で「美容医療・医師賠償補償制度」に加入するなどの選択肢があります。美容外科などで開業を検討している医師の方は、上記の補償制度へ加入することをおすすめします。

2種類の医師賠償責任保険の特徴

医師会の医師賠償責任保険と、民間医局の医師賠償責任保険の特徴について、以下でそれぞれ見ていきましょう。

日本医師会医師賠償責任保険

日本医師会医師賠償責任保険は、日本医師会が運営するオリジナルの医師賠償責任保険です。日本医師会のA会員は、全員自動的に加入することになり、個別の加入手続きは不要です。会員はA・B・Cの3タイプに分類されており、開業医はA会員に該当します。B会員は主に勤務医、C会員は新卒の研修医となっています。

医療行為で生じた事故によって損害賠償請求され、請求額が100万円を超えた場合が対象となります。保険料は医師会の会費の中から支払われ、1件の医療事故につき補償限度額は1億円です。保険に加入している期間中は、3億円となっています。医療事故が起きて損害賠償請求をされると、紛争を公正に解決するために、賠償責任委員会が審査を行います。審査は医学的・法律的な観点から、中立な立場で行われます。また、日本医師会、都道府県医師会、保険会社などがお互いに協力し、紛争解決のために尽力します。

他にも、任意加入となりますが「日医賠責特約保険」という保険もあります。A会員の医師以外が起こした事故にも対応可能で、開設者・管理者としての賠償に備えることができます。日医賠責特約保険は、1件の医療事故につき補償限度額が3億円で、保険に加入している期間中は9億円となります。

日本医師会に加入すれば自動的に加入となり、手厚い補償でリスクをカバーできるので、開業医にとっては日本医師会医師賠償責任保険の方がおすすめです。

参照:日本医師会医師賠償責任保険制度|その他|その他(etc)|医師のみなさまへ|日本医師会 (med.or.jp)

民間医局の医師賠償責任保険

民間医局とは、医師専用の転職支援サービスのことです。民間医局の医師賠償責任保険は、医師の勤務形態を問わず補償の対象となります。非常勤であっても、アルバイト先での勤務であっても、補償の対象です。医療事故1件につき、補償限度額が2億円と3億円の2つのタイプから選ぶことができます。他の保険に追加で入らない状態でも、補償限度額が日本医師会医師賠償責任保険より高額となっています。

2017年からは、「嘱託医の医師活動に関わる専門事業者賠償責任保険」も備わっています。この保険によって、産業医の医療行為も補償の対象となりました。ちなみに、民間医局の会員になると、1名でも団体割引適用の保険料で加入することが可能です。

「勤務形態を問わずに補償の対象になる」というメリットを踏まえると、民間医局の医師賠償責任保険は、勤務医の方に加入をおすすめしたい保険です。

参照:【勤務医向け】民間医局の医師賠償責任保険| 保険料20%OFF・Webで申し込み可能 (doctor-agent.com)

まとめ

自身でクリニックを経営する開業医の方にとって、医療行為で万が一のことがあった時のリスクへの備えは欠かせません。経済的・精神的な不安を減らして業務を行うためにも、医師賠償責任保険の重要性は高いです。

開業を検討している医師の方は、医師賠償責任保険に加入する際に、この記事をぜひ参考にしていただけたらと思います。

目次
閉じる