医療法人化は、経営する医師にとって重要な選択肢の1つです。医療法人化することで、経営の安定性や節税効果、従業員の福利厚生の強化など、多くのメリットが期待できます。しかし、法人化には注意点やデメリットがあることも事実です。
本記事では、医療法人化のメリット・デメリットを経営面と従業員の観点から詳しく解説し、成功するためのポイントを紹介します。
医療法人とは?概要や特徴
医療法人は、医療サービスを提供するために設立された法人であり、個人開業医とは異なる法的地位を持ちます。非営利性が求められ、地域医療への貢献が期待される存在です。
医療法人の特徴
医療法人は法人格を持ち、個人開業医とは異なる法的地位を持つため、経営の安定性が高まります。また、非営利性が求められ、利益を法人内で再投資することが義務付けられていることが特徴です。さらに、財務状況の公開が義務付けられており、経営の透明性が確保されます。
複数の診療科を持つことが可能で、幅広い医療サービスを提供できる点も特徴です。地域医療の充実を目的とし、地域社会への貢献が期待される存在です。
個人開業医との違い
個人開業医は個人事業主であり、医療法人は法人格を持つため、法的義務や責任が異なります。医療法人は法人としての信用を活用し、多様な資金調達手段を利用できます。
法人化により、経営の継続性や安定性が向上し、法人税の適用を受けるため、税制上のメリットがあることも特徴です。さらに、法人化により、事業承継がスムーズに行えるため、次世代への引き継ぎが容易になるケースがあります。
医療法人化するメリット
医療法人にするメリットを経営面と従業員の両方から解説します。
経営面における3つのメリット
経営面から見た医療法人にするメリットは以下の3つが挙げられます。
- 節税効果が期待できる
- 柔軟な資金調達手段ができる
- 事業承継問題や相続対策などが期待できる
1. 節税効果が期待できる
医療法人化により、所得税から法人税に切り替わることで税率が低く抑えられます。また、所得の分散が可能になり、個人事業主時代よりも税負担を軽減できます。さらに、生命保険料や退職金を経費として計上できるため、節税対策が可能です。
従業員だけではなく代表者も給与所得控除が適用されることから、所得税の負担が軽減できます。また、事業拡大に伴う税制優遇措置の活用も検討できます。
2. 柔軟な資金調達手段ができる
法人化により、金融機関からの融資が受けやすくなります。社会的信用が向上し、投資家からの資金調達が容易になる点も大きなメリットです。法人としての信用を活用し、低金利での借入が可能となるケースがあります。
複数の事業所を経営することも可能になり、資金調達の選択肢が広がることもメリットです。設備投資や事業拡大のための資金調達がスムーズになることが期待できます。
3. 事業承継問題や相続対策などが期待できる
医療法人化により、事業承継がスムーズに行えます。相続税対策として、出資持分の評価を抑えることが可能です。法人化により、相続時の財産評価が有利になり、持分なし医療法人への移行で、相続税の負担を軽減できます。適切な事業承継計画により、経営の継続性が確保される点も大きなメリットです。
従業員における2つのメリット
経営面だけではなく、従業員から見ても以下2つのメリットがあります。
- 福利厚生の強化ができる
- 従業員の定着率とモチベーション向上が期待できる
1. 福利厚生の強化ができる
法定福利厚生や法定外福利厚生を充実させることで、従業員の満足度が向上します。社会保険や退職金制度を導入し、従業員の生活を支援することも可能です。
また、社員食堂や住宅手当などの福利厚生を提供し、生活の質を向上させることもできます。従業員の健康管理やメンタルヘルスサポートも強化でき、福利厚生をアピールしながら優秀な人材の確保が容易になります。
2. 従業員の定着率とモチベーション向上が期待できる
福利厚生の充実により、従業員の働きやすさが向上し、定着率が向上します。モチベーション向上施策により、従業員のやる気を引き出すことも可能です。職場環境の改善により、従業員のストレスを軽減し、離職率の低下が期待できます。
エンゲージメント向上施策により、従業員の組織への愛着が高められ、従業員の意見を反映しやすい職場づくりが可能になります。結果、従業員の満足度があがり、離職率の低下が期待できるでしょう。
医療法人化する3つのデメリット
医療法人にするデメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
- 医療法人化による制約と法的な注意点
- 経営負担の増加とコスト面でのリスク
- 医療法人化に伴う行政手続きの複雑さ
1. 医療法人化による制約と法的な注意点
医療法人は非営利法人であるため、利益の分配が禁止されており、利益は法人内での再投資に限定されます。また、医療法人は医療や介護に関連する業務に限定されており、他業種への展開には制約があります。
さらに、医療法人の解散には行政の許認可が必要で、簡単に解散することができません。新たに設立される医療法人は持分の定めがなく、出資者への持分の払い戻しができないことも挙げられます。
医療法人は医療法に基づくさまざまな法令を遵守する必要があり、法的な注意点が多く存在します。
2. 経営負担の増加とコスト面でのリスク
医療法人化により、財務報告や監査、理事会の開催などの運営管理が複雑化し、業務負担が増加します。また、法人化に伴い、社会保険や厚生年金への加入が義務化されるため、運営コストも増加します。
そのため、経営や税務に関する専門家の活用が必要となり、その分の報酬が発生することは否めません。その他の費用においても、医師個人の資金と法人の資金が明確に区分されるため、個人資産の流用が制限されます。法人化により、交際費の経費計上も制限がかかるため、経費の管理が厳格されます。
3. 医療法人化に伴う行政手続きの複雑さ
医療法人の設立には、都道府県知事の認可が必要で、複雑な手続きを経ることが求められます。医療法人化の手続きには長い時間がかかり、設立から運営開始までに10ヶ月程度を要することも珍しくありません。
設立後も、毎年の事業報告書の提出や役員重任の登記など、定期的な報告義務が発生します。そのため、医療法人は都道府県などの指導や監督を受けることになり、行政手続きが煩雑化します。
医療法人化を検討する3つのポイント
医療法人を設立する際に検討すべきポイントは、主に以下の3つが挙げられます。
- 医療法人設立の条件と要件
- 医療法人化のタイミングと適切な判断基準
- 医療法人化に向けた事前準備
1. 医療法人設立の条件と要件
医療法人を設立するには、社員が3名以上、理事が3名以上(理事長を含む)、監事が1名以上必要です。これらの役員は、法人の運営において重要な役割を果たします。
設立には、年間支出予算の2か月分の運転資金を確保することが求められます。また、個人時代の設備を法人が買い取る場合、そのための資金も必要です。開設する病院や診療所に必要な施設や設備を有していることも求められます。
これには、土地や建物の所有または長期賃貸契約が含まれます。一部の都道府県では、安定した経営実績が1年以上必要とされる場合があるため、注意が必要です。
2. 医療法人化のタイミングと適切な判断基準
所得が一定以上になると、医療法人化による節税効果が期待できます。分院展開や新規事業の立ち上げを考えている場合、法人化により比較的容易に資金調達が可能になります。
経営が安定し、将来的な事業承継を考える段階で法人化を検討するのが適切です。実際に事業を拡大する場合には、法人化による税制上のメリットやデメリットを最新の税制改正に基づいて評価する必要があります。医療法人化には長期間の手続きや時間が必要なため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
3. 医療法人化に向けた事前準備
医療法人設立認可申請書、定款、役員の就任承諾書、事業計画書など、多くの書類を準備する必要があります。法人設立後の事業計画を2~3年分策定し、経営方針を明確にすることが求められます。
個人開業医時代の負債やリース契約を整理し、法人への引き継ぎをスムーズに行う準備が必要です。税務や法務の専門家に相談し、法人化のメリット・デメリットを詳細に分析することも求められます。都道府県知事の認可を得るため、事前に行政機関との調整を行い、必要な手続きを確認しておきましょう。
まとめ
医療法人化は、経営の安定や節税効果を期待できる一方、法的制約やコスト増加といったデメリットも考慮する必要があります。経営者は、法人化のメリット・デメリットを十分に理解し、慎重に判断することが必要です。事業承継や従業員の福利厚生の強化など、長期的な視点で医療法人化の意義を見定め、タイミングを見計らって準備を進めることで、より成功に近づけます。