
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
介護事業の資金繰り表の作り方|入金と賞与資金

介護事業の資金繰り表は、売上や利益を見るだけでなく、国保連からの入金日、利用者負担分の回収、給与支払、賞与、社会保険料、借入返済を月別に並べて作ります。介護報酬は請求から入金までに時間差があるため、帳簿上は黒字でも、給与や賞与の支払い時期に現預金が不足することがあります。資金繰りに不安がある事業者は、まず国保連入金と人件費支払のズレを見える化し、少なくとも6か月先までの資金残高を確認することが重要です。
介護事業の経営相談
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人件費、稼働率、加算、資金繰り、投資計画を、月次数字に合わせて整理します。
介護事業で資金繰り表が必要になる理由
介護事業は、売上の多くが介護報酬で構成されるため、一般的な小売業や飲食業のように売上発生と同時に現金が入るわけではありません。サービス提供月、請求月、入金月がずれるため、月次試算表の利益だけでは資金繰りの安全性を判断しにくい業種です。
特に注意したいのは、給与、賞与、社会保険料、家賃、車両費、リース料、借入返済など、毎月または一定時期に必ず出ていく支払いです。売上が伸びていても、職員数の増加や処遇改善に伴う賃金増加が先行すると、資金残高が一時的に薄くなることがあります。
また、介護事業では収支改善と資金繰り改善を分けて考える必要があります。利益が出ている状態でも、入金が遅れ、支払いが先に来れば資金不足になります。一方で、資金残高が一時的に多く見えても、賞与や納税、借入返済を控えていれば安心とはいえません。
資金繰り表に入れるべき主な項目
介護事業の資金繰り表では、入金と支出を「発生した月」ではなく「実際にお金が動く月」で整理します。会計上の売上や費用とはタイミングが異なるため、試算表をそのまま写すだけでは不十分です。
| 区分 | 主な項目 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 入金 | 国保連入金 | 支払日、返戻・保留、過誤調整の有無 |
| 入金 | 利用者負担分 | 口座振替日、未収金、現金回収の遅れ |
| 入金 | 補助金・助成金 | 入金時期が確定しているか |
| 支出 | 給与・役員報酬 | 支給日、月末締め翌月払いなどの条件 |
| 支出 | 賞与 | 支給月、対象者、処遇改善との関係 |
| 支出 | 社会保険料・税金 | 納付月、賞与に伴う負担増 |
| 支出 | 家賃・車両・リース | 固定費として毎月発生する金額 |
| 支出 | 借入返済 | 元金返済と利息支払を分けて確認 |
この中でも、介護事業では国保連入金、給与支払、賞与資金の3つを最優先で整理します。売上が伸びている事業所ほど、人員増加や稼働率改善に伴い人件費が増えやすいため、入金予定よりも支払い予定を先に確認する姿勢が大切です。
実務上の注意点として、補助金や助成金は「採択された」「申請した」だけでは資金繰り表の確定入金に入れない方が安全です。入金時期が読みにくいものは、別枠で管理し、通常の運転資金とは分けて考えます。
国保連入金を資金繰り表に反映する方法
国保連からの介護給付費等の支払日は、各都道府県の国民健康保険団体連合会が公表する日程で確認します。2026年5月時点でも、請求受付日や支払予定日は各国保連の案内で確認する運用が基本です。資金繰り表では、サービス提供月ではなく、実際の入金予定月に金額を入れます。
たとえば、ある月に提供したサービス分を翌月に請求し、その後に国保連から入金される場合、売上発生月と現金入金月にはズレが生じます。このズレを見落とすと、月次試算表では売上が計上されているのに、通帳残高が増えていないという状態になります。
資金繰り表では、国保連入金を次のように整理します。
| 確認項目 | 見る資料 | 資金繰り表への反映 |
|---|---|---|
| 請求額 | 介護報酬請求データ、請求一覧 | 入金予定額の基礎にする |
| 返戻・保留 | 国保連の帳票、請求ソフト | 入金予定額から除外または別管理 |
| 過誤調整 | 過誤申立、調整額通知 | 調整月の入金減少として反映 |
| 支払予定日 | 国保連の支払日程 | 入金月と日付を記載 |
返戻・保留・過誤調整があると、見込んでいた入金額と実際の入金額がずれます。特に複数事業所を運営している場合や、加算算定が多い場合は、請求額をそのまま資金繰り表に入れず、実入金ベースで確認する必要があります。
給与支払と賞与資金を月次で管理する
介護事業の支出で最も大きくなりやすいのが人件費です。給与、賞与、法定福利費、処遇改善に伴う賃金改善分をまとめて見ることで、資金繰りの山を把握できます。特に賞与月は、通常月の給与に加えて大きな支払いが発生するため、数か月前から準備する必要があります。
資金繰り表では、給与支払を毎月の固定支出として入れるだけでなく、賞与予定月、社会保険料の増加、住民税や源泉所得税の納付も合わせて確認します。賞与を支給した翌月以降に社会保険料の負担が増えることもあるため、賞与支給月だけを見て判断しないことが大切です。
| 支出項目 | 管理方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 毎月給与 | 支給日ごとに記載 | 月末残高ではなく支給日前残高を見る |
| 賞与 | 支給予定月に記載 | 原資を何か月で積み立てるか決める |
| 法定福利費 | 納付月に記載 | 賞与支給後の増加を反映する |
| 処遇改善分 | 配分ルールに沿って記載 | 加算収入と賃金改善支出のズレを確認 |
| 源泉所得税・住民税 | 納付月に記載 | 納期特例の有無も確認する |
実務上の注意点として、賞与は「利益が出たら払う」ではなく、資金繰り表上で支給可能額を確認してから決めるべきです。処遇改善加算を原資とする賃金改善も、入金時期と支給時期がずれるため、通常資金と混同しない管理が必要です。
6か月先までの資金繰り表を作る手順
介護事業の資金繰り表は、最初から複雑な表を作る必要はありません。まずは通帳残高を起点に、入金予定と支出予定を月ごとに並べ、各月末の予想残高を確認します。最低でも3か月、できれば6か月先まで作ると、賞与、納税、借入返済の山が見えやすくなります。
作成手順は次のとおりです。
| 手順 | 作業内容 | 使用する資料 |
|---|---|---|
| 1 | 現在の預金残高を入力する | 通帳、ネットバンキング |
| 2 | 国保連入金予定を入れる | 請求データ、支払日程 |
| 3 | 利用者負担分の回収予定を入れる | 請求書、口座振替データ |
| 4 | 毎月の固定支出を入れる | 給与台帳、賃貸借契約、リース契約 |
| 5 | 賞与、納税、保険料を入れる | 賞与予定、納税予定、社会保険資料 |
| 6 | 借入返済を入れる | 返済予定表 |
| 7 | 月末残高と最低残高を確認する | 資金繰り表 |
ポイントは、月末残高だけでなく、給与支給日前後の残高を見ることです。月末には資金が残っていても、月中の給与支払日に不足するケースがあります。介護事業では、月中の資金ショートを防ぐため、日付単位で確認すべき月を見極めることが重要です。
最初の表は月次で十分ですが、資金残高が薄い月、賞与月、納税月、借入返済が重なる月は、週次または日次の資金繰り表に分解します。資金繰りが厳しい月だけ細かく見ることで、管理負担を増やしすぎずに実用的な表になります。
資金不足が見えたときに確認すること
資金繰り表を作る目的は、不足が起きてから慌てることではなく、不足する可能性を早めに把握することです。予想残高が薄い月が見えたら、売上、請求、支出、借入、賞与、納税の順に確認します。
まず、国保連請求に返戻や保留がないかを確認します。次に、利用者負担分の未収金や口座振替不能がないかを確認します。支出面では、人件費率、固定費、車両費、リース料、借入返済の負担が重くなっていないかを見ます。
資金不足が見込まれる場合は、次のような対応を検討します。
| 状況 | 確認すること | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 入金が予定より少ない | 返戻、保留、未収金 | 請求精度と回収管理を見直す |
| 給与支払後に残高が薄い | 人員配置、人件費率 | シフト、稼働率、加算取得を確認 |
| 賞与月に不足する | 賞与原資、処遇改善配分 | 支給額と積立計画を見直す |
| 借入返済が重い | 返済予定、金利、元金 | 金融機関への説明資料を整える |
| 黒字なのに資金がない | 売掛、未収、借入返済 | 利益と現金のズレを分析する |
実務上の注意点として、資金不足が見えた段階で、すぐに借入だけを考えるのは危険です。借入は時間を買う手段ですが、赤字構造や請求漏れ、人件費率の問題が残っていると、返済負担がさらに重くなります。
一方で、資金ショート直前になってから金融機関に相談すると、説明資料を整える時間が足りません。資金繰り表、月次試算表、介護報酬の入金予定、賞与資金の見込みをそろえておくことで、早めに選択肢を検討しやすくなります。
まとめ
介護事業の資金繰り表は、国保連入金と人件費支払のズレを見える化するための経営資料です。利益が出ているかどうかだけでなく、いつ入金され、いつ支払うのかを月別に整理することで、資金不足の予兆を早く把握できます。
- 介護事業では、サービス提供月、請求月、入金月がずれるため、試算表だけでは資金繰りを判断しにくい
- 資金繰り表には、国保連入金、利用者負担分、給与、賞与、社会保険料、借入返済を入れる
- 賞与月や納税月は、月次表だけでなく週次または日次で残高を確認する
- 返戻、保留、過誤調整がある場合は、請求額ではなく実入金見込額で管理する
- 資金不足が見えたら、借入の前に請求精度、人件費率、固定費、返済負担を確認する
資金繰り表を継続して作ると、賞与資金をいつから積み立てるべきか、借入返済に無理がないか、国保連入金の変動に耐えられるかが見えやすくなります。6か月先の資金残高を毎月確認することが、介護事業の安定経営につながります。
よくある質問
Q: 介護事業の資金繰り表は月次だけで十分ですか?
Q: 国保連入金は請求額をそのまま資金繰り表に入れてよいですか?
Q: 賞与資金はどのように準備すればよいですか?
Q: 資金繰りが不安なとき、最初に用意すべき資料は何ですか?
参照ソース
- 厚生労働省 介護保険制度の概要: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
- WAM NET 国保連インタフェース: https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou/detail-list?bun=020050010
- 大阪府国民健康保険団体連合会 受付日・支払日カレンダー: https://www.osakakokuhoren.jp/index_kh/calendar/
- 東京都国民健康保険団体連合会 請求受付・支払日: https://www.tokyo-kokuhoren.or.jp/receipt_payment/index.html
- 厚生労働省 介護事業経営概況調査関連資料: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126698.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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