
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
介護事業の経営相談で税理士に見せる資料

介護事業の経営相談では、決算書だけを見せても十分な改善策は出にくいです。税理士に相談する前には、試算表、介護報酬の請求データ、給与データ、利用者数、稼働率、未収金、返戻・過誤調整の資料をそろえることで、赤字の原因や資金繰りの詰まりを具体的に確認しやすくなります。特に介護事業は、売上が「請求月」と「入金月」でずれやすく、人員配置や処遇改善加算が利益に直結します。会計データと現場データを同じ月で見比べることが、相談の質を大きく左右します。
介護事業の経営相談
この記事の内容を、事業所の収支管理と資金繰りに落とし込む相談をする
人件費、稼働率、加算、資金繰り、投資計画を、月次数字に合わせて整理します。
経営相談で最初に見られるのは試算表だけではない
介護事業の経営相談というと、まず試算表や決算書を準備すればよいと考えがちです。もちろん試算表は重要ですが、それだけでは「なぜ利益が残らないのか」「どの事業所で赤字が出ているのか」「人件費が高いのか、請求漏れがあるのか」までは判断しきれません。
介護事業では、国保連への請求、利用者負担の入金、返戻、過誤調整、処遇改善加算、職員配置、シフト、人件費が複雑に関係します。そのため、税理士に見せる資料は、会計資料と介護請求・労務資料をセットでそろえる必要があります。
特に確認したいのは、試算表の売上と介護請求データの請求額が一致しているかです。月次試算表では売上が計上されていても、実際の入金は翌月以降になるため、資金繰り表や未収金一覧と合わせて確認しないと、手元資金の不足原因を見誤ります。
実務上の注意点として、相談直前に資料を一度だけ集めるのではなく、少なくとも直近6か月から12か月分を月別に並べることが大切です。単月の赤字だけでは、季節要因なのか、利用者減少なのか、人件費増加なのかを判断しにくいためです。
税理士に見せたい基本資料チェックリスト
相談前にすべてを完璧に整える必要はありませんが、最低限そろえておきたい資料があります。資料が不足していても相談は可能ですが、原因分析の精度は下がります。まずは「あるものをそのまま出す」ことから始め、足りない資料は相談時に確認していくのが現実的です。
| 資料 | 見る目的 | 準備の目安 |
|---|---|---|
| 月次試算表 | 売上、利益、人件費、経費の推移を確認する | 直近6〜12か月分 |
| 決算書・申告書 | 年間の利益構造、借入、固定資産を確認する | 直近2〜3期分 |
| 介護報酬請求データ | 国保連請求額、加算、返戻、過誤を確認する | 月別・サービス別 |
| 利用者別請求一覧 | 利用者負担、未収、請求漏れを確認する | 直近6〜12か月分 |
| 給与データ | 人件費率、残業、手当、処遇改善配分を確認する | 月別・職種別 |
| シフト・勤務実績 | 配置基準、人員過不足、残業要因を確認する | 相談対象月を中心に |
| 未収金一覧 | 国保連、利用者負担、返戻分の回収状況を確認する | 月末時点の一覧 |
| 借入返済予定表 | 返済負担と資金繰りを確認する | 金融機関別 |
| 加算届出・算定資料 | 取得加算と要件、記録状況を確認する | 現在算定中のもの |
| 事業所別損益資料 | 複数拠点の黒字・赤字を確認する | 拠点別に集計 |
この中でも、月次試算表、請求データ、給与データは優先度が高い資料です。介護事業の利益は、利用者数や単位数だけでなく、職員配置と給与設計によって大きく変わります。売上が増えているのに利益が増えない場合、人件費、残業、外注費、送迎費、食材費、家賃、リース料などの増加が隠れていることがあります。
また、事業所が複数ある場合は、法人全体の試算表だけでなく、事業所別、サービス種別別の資料が必要です。訪問介護、通所介護、施設系サービスでは、見るべきKPIが異なります。法人全体では黒字でも、一部の事業所が赤字を出しているケースは珍しくありません。
試算表で確認したいポイント
試算表は、経営相談の入口になる資料です。ただし、介護事業で見るべきポイントは「売上がいくらか」「利益が出ているか」だけではありません。月別に並べて、売上、人件費、加算収入、未収金、借入返済の関係を確認する必要があります。
まず見るべきは、売上の計上方法です。国保連請求分、利用者負担分、自費サービス、補助金、処遇改善加算などがどの勘定科目に入っているかを確認します。科目が毎月ばらばらだと、経営判断に使いにくくなります。
次に、人件費率を確認します。介護事業では人件費が大きな割合を占めるため、給与、賞与、法定福利費、派遣費、外注費を合わせて見ることが重要です。給与だけを見て「人件費は問題ない」と判断すると、社会保険料や派遣費を見落とすことがあります。
人件費率は給与だけでなく法定福利費・派遣費・外注費を含めて見ることが大切です。処遇改善加算を受け取っている場合は、加算収入と賃金改善額の対応も確認します。加算収入が入っている月と給与・賞与で支払う月がずれると、資金繰りに影響します。
さらに、減価償却費、リース料、借入返済も確認が必要です。試算表上は利益が出ていても、借入返済は経費にならないため、現金は残らないことがあります。介護車両、入浴設備、見守り機器、ICT機器などの投資をしている事業所では、設備投資後の返済負担まで見ておく必要があります。
請求データと給与データを一緒に見る理由
介護事業の経営改善では、請求データと給与データを別々に見ても十分ではありません。請求データでは売上の源泉がわかり、給与データではその売上を生み出すために必要な人員コストがわかります。この2つを同じ月で比べることで、利益が出にくい原因を具体的に把握できます。
たとえば、利用者数は増えているのに利益が増えない場合、次のような原因が考えられます。
- 加算を取れていない、または算定漏れがある
- キャンセルや空き枠が多く、稼働率が低い
- シフトに余裕を持たせすぎて人件費が高い
- 残業や休日出勤が増えている
- 送迎や移動時間が長く、実稼働に対する人件費が高い
- 返戻や過誤調整が多く、売上が後から減っている
このような原因は、試算表だけでは見えにくい部分です。介護請求ソフトから出せる月別請求額、サービス提供票、給付管理票、返戻一覧、利用者別請求一覧などを合わせて確認すると、経営上の問題が見えやすくなります。
給与データについては、職員別の給与明細だけでなく、職種別、常勤・非常勤別、事業所別、サービス別に集計できると理想的です。個人名をそのまま出す必要がない場面では、職種別・雇用形態別に整理しても相談は進められます。ただし、処遇改善加算の配分や残業代の確認が必要な場合は、個別データが必要になることがあります。
未収金・返戻・過誤調整の資料も重要
経営相談では、利益だけでなく未収金の管理状況も確認します。介護事業では、国保連からの入金、利用者負担の入金、自費分の入金、返戻後の再請求、過誤調整が発生します。そのため、試算表の売上と実際の入金がずれていることがあります。
未収金一覧では、少なくとも次の区分で整理すると相談しやすくなります。
| 区分 | 確認する内容 | 経営への影響 |
|---|---|---|
| 国保連未収 | 請求済みで入金待ちの金額 | 通常の入金サイクルか確認する |
| 利用者負担未収 | 利用者・家族からの未回収額 | 回収遅れや滞留リスクを見る |
| 返戻分 | 請求が戻された金額と理由 | 売上減少や再請求漏れにつながる |
| 過誤調整 | 請求修正による増減 | 翌月以降の入金変動につながる |
| 自費サービス未収 | 保険外サービスの未回収額 | 請求管理・契約管理を確認する |
未収金は金額だけでなく、発生月と滞留期間を見ることが重要です。1か月遅れの入金なのか、3か月以上回収できていないのかで、対応は変わります。利用者負担分の未収が増えている場合は、請求書発行、口座振替、現金回収、督促ルールの見直しが必要です。
返戻や過誤調整については、単なる事務ミスとして片付けないことが大切です。返戻が多いと、入金が遅れるだけでなく、現場記録、請求確認、人員体制、加算要件の管理に問題がある可能性があります。返戻理由を一覧化していない場合、同じミスが繰り返されるリスクがあります。
相談前に整理しておくとよい質問
資料をそろえるだけでなく、経営者側の悩みを整理しておくと、相談時間を有効に使えます。税理士に「何となく利益が出ない」と伝えるよりも、困っていることを具体的に書き出しておくと、確認すべき資料や改善策が明確になります。
相談前には、次のような質問を整理しておくとよいでしょう。
- 売上は増えているのに、なぜ現金が残らないのか
- 人件費率は高いのか、どの職種・事業所が要因なのか
- 加算を取るべきか、取得しても採算が合うのか
- 返戻や過誤調整が資金繰りにどれくらい影響しているのか
- 事業所別に黒字・赤字を分けて見られるか
- 処遇改善加算の配分と給与設計に無理がないか
- 借入返済を含めると、毎月いくら資金が必要なのか
- ICTや設備投資をしても資金繰りが耐えられるか
特に「すぐ相談」に近い段階では、資料を完璧に整えるよりも、直近の資金繰り、給与支払、税金、社会保険料、借入返済の予定を優先して確認します。資金ショートの可能性がある場合は、月次資料の整理と同時に、金融機関対応や支払予定の見直しも必要になります。
よくある質問
Q: 試算表が最新月までできていなくても相談できますか?
Q: 介護請求ソフトのデータはどこまで出せばよいですか?
Q: 給与データは個人別で見せる必要がありますか?
Q: 相談前に資料をきれいに作り直すべきですか?
まとめ
介護事業の経営相談では、決算書や試算表だけでなく、請求、給与、未収金、返戻、加算、シフトをまとめて確認することが重要です。
- まずは直近6〜12か月分の月次試算表、請求データ、給与データを準備する
- 売上と入金のずれを確認するため、未収金一覧と返戻・過誤調整資料をそろえる
- 人件費率は給与だけでなく、法定福利費、派遣費、外注費を含めて見る
- 複数事業所がある場合は、法人全体ではなく事業所別・サービス別の損益を確認する
- 資金繰りが不安な場合は、借入返済、税金、社会保険料、給与支払予定を優先して整理する
介護事業の経営改善は、単に経費を削る話ではありません。請求の精度、加算の取得、職員配置、給与設計、未収金管理、資金繰りをつなげて見ることで、現場に無理のない改善策を考えやすくなります。税理士へ相談する前には、完璧な資料を作るよりも、経営判断に必要な数字を月別に並べることから始めましょう。
参照ソース
- 厚生労働省 介護サービス事業者経営情報データベースシステム: https://www.mhlw.go.jp/stf/tyousa-bunseki.html
- 厚生労働省 介護事業経営概況調査: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/153-1.html
- 厚生労働省 介護サービス関係Q&A: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/qa/index.html
- 厚生労働省 介護サービス情報の公表制度: https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-kouhyou.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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