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介護事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

介護施設の食費・居住費見直しの会計整理

11分で読めます
介護施設の食費・居住費見直しの会計整理

介護施設の食費・居住費を見直すときは、単に利用者負担額を上げるかどうかではなく、まず会計上の原価、介護保険上の負担限度額、利用者・家族への説明資料を分けて整理することが重要です。特に物価上昇や水道光熱費、人件費の増加により、施設全体では黒字に見えても、食事提供や居住部分だけを見ると採算が崩れているケースがあります。食費・居住費の見直しは収支改善策であると同時に、利用者説明の信頼性が問われる論点です。この記事では、介護施設の経営者が見直し前に確認すべき会計資料、説明資料、月次管理の進め方を整理します。

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食費・居住費の見直しは「値上げ」から始めない

介護施設の食費・居住費は、介護サービス費とは別に利用者が負担する性質の費用です。介護保険施設を利用する場合、利用者は施設サービス費の自己負担に加えて、居住費、食費、日常生活費などを負担します。所得の低い利用者については、負担限度額が設定され、基準費用額との差額が特定入所者介護サービス費として給付される仕組みがあります。

そのため、施設側が見直しを検討するときは、次の3つを分けて考える必要があります。

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確認項目主な内容経営上の意味
会計上の原価食材料費、調理人件費、委託費、水道光熱費、修繕費など実際に赤字になっている部分を把握する
制度上の基準基準費用額、負担限度額、利用者負担段階請求・説明の前提を確認する
契約・説明資料重要事項説明書、料金表、同意書、家族向け資料利用者・家族とのトラブルを防ぐ

実務上の注意点は、原価が上がっているという感覚だけで料金表を変更しないことです。まず月次決算上、どの費目がどれだけ増えているかを示せる状態にしてから、見直し幅や説明時期を検討します。

ここがポイント
食費・居住費の見直しは、介護報酬の加算取得とは異なり、利用者・家族の負担感に直結します。収支改善の必要性だけでなく、制度上の根拠、施設としての改善努力、変更後の月額影響をセットで示すことが大切です。

まず確認したい会計資料と原価の分け方

食費・居住費を見直す前に、会計データを「施設全体」ではなく「食事提供」「居住環境」「介護サービス」に分けて確認します。全体の試算表だけでは、食費部分が赤字なのか、介護職員の人件費が増えているのか、修繕費が一時的に増えたのかが見えません。

食費で確認したい主な費目は、食材料費、給食委託費、厨房職員の人件費、調理に関する消耗品費、厨房設備の修繕費などです。居住費では、水道光熱費、建物関連の修繕費、減価償却費、リネン・清掃関連費、設備保守費などを確認します。食費は材料費だけでなく調理にかかる人件費や委託費まで含めて見ることが欠かせません。

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区分確認する勘定科目の例見直し時の確認ポイント
食費食材料費、給食委託費、厨房人件費、消耗品費1食あたり原価、廃棄率、委託契約の改定条件
居住費水道光熱費、修繕費、減価償却費、清掃費居室類型別の負担感、光熱費上昇、設備更新
共通費管理部門人件費、保守料、保険料食費・居住費に配賦すべきかどうか
介護サービス費介護職員人件費、加算関連費用食費・居住費の説明に混在させない

特に注意したいのは、会計ソフト上で勘定科目が大まかにしか分かれていないケースです。「給食費」「水道光熱費」「消耗品費」などの科目だけでは、食事提供と居住環境のどちらに関係する費用なのか判断しにくくなります。月次決算では、補助科目や部門設定を使い、最低でも食事関連・居住関連・介護サービス関連に分けて集計できる状態を目指します。

利用者説明で必要になる資料

食費・居住費を見直す場合、経営者の頭の中では合理的な判断であっても、利用者・家族には「急に負担が増える」と受け止められることがあります。説明資料では、値上げ理由を一方的に伝えるのではなく、現状の原価、施設側の対応、変更後の影響を順序立てて示します。

説明資料に入れておきたい項目は次のとおりです。

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資料項目記載する内容目的
現在の料金表食費、居住費、日常生活費の区分何が変更対象かを明確にする
原価推移食材料費、水道光熱費、委託費などの推移見直しの必要性を示す
施設側の対応献立見直し、廃棄削減、省エネ、契約交渉すぐ負担転嫁していないことを示す
変更後の月額影響1日あたり、月額換算、負担段階別の影響家族が家計で判断しやすくする
適用時期変更日、同意取得、重要事項説明書の改定手続き漏れを防ぐ

実務上の注意点として、説明資料では「施設運営が苦しいため」という表現だけでは不十分です。食材料費や水道光熱費の増加、委託契約の改定、設備維持費の上昇など、利用者負担に関係する項目を具体的に示す必要があります。

また、負担限度額認定を受けている利用者がいる場合は、段階ごとの影響を確認します。所得に応じた負担限度額のある利用者と、課税世帯などで施設との契約に基づき負担する利用者では、説明のポイントが変わります。同じ料金改定でも、利用者負担段階によって実際の影響は異なるため、個別の案内資料を用意することが望ましいです。

基準費用額・負担限度額と施設料金の関係

食費・居住費には、標準的な費用の額である基準費用額と、所得の低い利用者に設定される負担限度額があります。2026年5月時点で確認する際は、厚生労働省の最新通知や介護サービス情報公表システムの説明を前提に、自施設の料金表と重要事項説明書を照合します。

基準費用額は、食事の提供や居住等に要する平均的な費用を勘案して定められるものです。一方、実際に利用者へ請求する金額は、施設の契約内容、居室類型、負担限度額認定の有無などによって変わります。ここを混同すると、利用者説明や請求実務で誤解が生じます。

ここがポイント
厚生労働省資料では、食費・居住費について、利用者負担第1段階から第3段階の方を対象に所得に応じた負担限度額を設定し、基準費用額と負担限度額との差額を介護保険から給付する仕組みが示されています。施設の料金見直しでは、制度上の上限や給付対象と、施設独自の料金設定を分けて確認する必要があります。

実務上の注意点は、制度改正の情報を見た直後に料金表だけを変更しないことです。重要事項説明書、契約書、請求システム、介護ソフト、家族向け案内文、職員向け説明メモまで整合させなければ、現場で説明が食い違います。

介護報酬と人件費を月次で見える化

収支改善のために月次で見るべき指標

食費・居住費の見直しは、一度料金を変えれば終わりではありません。見直し後も、月次で原価率と利用者負担のバランスを確認する必要があります。特に施設では、稼働率、入退所のタイミング、食数、居室類型の構成によって、月ごとの採算が大きく変わります。

月次で確認したい指標は、次のとおりです。

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指標計算・確認方法見るべきポイント
1食あたり食材料費食材料費 ÷ 提供食数献立変更や廃棄の影響を把握する
給食委託費率給食委託費 ÷ 食費収入委託契約改定後の採算を見る
水道光熱費の月額推移月次の水道光熱費を前年同月と比較季節要因と単価上昇を分ける
居室稼働率入所日数 ÷ 定員日数居住費収入の安定性を見る
食費・居住費収支関連収入 − 関連原価見直し後の効果を確認する

料金改定の効果は、改定月だけでなく3か月から6か月の月次推移で確認するのが現実的です。食材料費や水道光熱費は季節変動が大きく、単月だけで判断すると誤った結論になりやすいためです。

また、食費・居住費の改善だけで施設全体の赤字が解消するとは限りません。介護職員の配置、夜勤体制、加算取得、稼働率、未収金、処遇改善加算の配分なども合わせて確認することで、経営改善の優先順位が見えます。

専門家に相談する前に整理しておくこと

食費・居住費の見直しを相談する前に、施設内で資料をそろえておくと、会計上の問題と説明上の問題を短時間で整理できます。特に、月次試算表だけでなく、料金表、重要事項説明書、給食委託契約、食数データ、居室類型別の稼働率をまとめて確認できる状態が理想です。

事前に整理しておきたい資料は次のとおりです。

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資料確認する内容
直近12か月の試算表食材料費、水道光熱費、委託費、修繕費の推移
現在の料金表食費、居住費、日常生活費の区分
重要事項説明書・契約書料金変更の説明方法、同意取得の流れ
給食委託契約書委託単価、改定条項、追加費用
食数・稼働率データ1食あたり原価、居室稼働率
利用者負担段階の一覧負担限度額認定の有無、月額影響

相談時には、単に「料金を上げたい」ではなく、「どの費用が増え、どの範囲を利用者負担に反映すべきか」を確認する姿勢が大切です。 会計データと制度上のルールを並べて見ることで、過度な値上げや説明不足を避けながら、施設運営に必要な収支改善を検討できます。

まとめ

介護施設の食費・居住費を見直す前には、次の点を確認しておきましょう。

  • 食費・居住費は、会計上の原価、制度上の基準、契約上の説明を分けて整理する
  • 食費は食材料費だけでなく、調理人件費、委託費、厨房関連費まで含めて確認する
  • 居住費は水道光熱費、修繕費、減価償却費、清掃・保守費の推移を見る
  • 利用者・家族には、原価推移、施設側の対応、変更後の月額影響を資料で示す
  • 見直し後も、月次で1食あたり原価、居室稼働率、食費・居住費収支を追い続ける

食費・居住費の見直しは、施設収支を守るために必要な場面があります。ただし、説明資料が不十分なまま進めると、利用者・家族の不信感や現場職員の説明負担につながります。会計データ、制度資料、契約書類をそろえたうえで、段階的に進めることが重要です。

よくある質問

Q: 食費・居住費は原価が上がればすぐ見直してよいですか?
すぐに料金改定から始めるのではなく、まず原価推移と施設側の改善努力を資料化することが大切です。食材料費や水道光熱費の上昇が一時的か継続的かも確認します。そのうえで、重要事項説明書や契約書の変更手続きと合わせて進めます。
Q: 利用者・家族への説明資料には何を入れるべきですか?
現在の料金、原価上昇の内容、施設側で行った改善策、変更後の月額影響、適用時期を入れると説明しやすくなります。特に月額影響は、1日あたりの金額だけでなく30日換算で示すと家族が判断しやすくなります。
Q: 負担限度額認定を受けている利用者にも影響がありますか?
影響の有無や金額は、利用者負担段階、居室類型、制度改正の内容によって異なります。施設の料金表だけで判断せず、負担限度額認定証や最新の制度資料と照合する必要があります。個別案内を作ると説明ミスを防ぎやすくなります。
Q: 会計上はどの資料から確認すればよいですか?
まず直近12か月の試算表、食材料費、給食委託費、水道光熱費、修繕費の推移を確認します。次に、食数データや居室稼働率と照合し、1食あたり原価や居室1日あたりのコストを見ます。月次で追える形にしておくと、見直し後の効果検証もしやすくなります。

参照ソース


この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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