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介護事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

介護事業の多店舗展開で見るべき数字|拠点別損益と本部費配賦

12分で読めます
介護事業の多店舗展開で見るべき数字|拠点別損益と本部費配賦

介護事業で多店舗展開を進めるときは、売上合計や全社利益だけでは判断を誤ります。確認すべき数字は、拠点別の売上、稼働率、人件費率、加算取得状況、未収金、そして本部費を配賦した後の損益です。特に複数事業所を運営する場合、黒字拠点が赤字拠点を隠していることがあり、拠点別損益を月次で見ないまま出店を続けると、資金繰りが急に苦しくなる可能性があります。

この記事では、介護事業者が多店舗展開で見るべき数字、拠点別損益の作り方、本部費配賦の考え方、出店・撤退・改善判断の実務ポイントを整理します。2026年5月時点の実務判断として、制度や報酬単価だけでなく、現場の人員配置と資金繰りまで含めて確認することが重要です。

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人件費、稼働率、加算、資金繰り、投資計画を、月次数字に合わせて整理します。

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多店舗展開では全社損益だけでは足りない

複数の訪問介護、通所介護、施設、居宅介護支援などを運営している場合、全社の試算表だけでは各拠点の状態が見えません。全社では黒字でも、実際には一部の拠点だけが利益を出し、別の拠点では人件費や家賃が重く赤字になっていることがあります。

多店舗展開で最初に確認すべきなのは、拠点ごとの収益構造です。売上が大きい拠点が必ずしも優良拠点とは限りません。人員配置が過剰であれば利益は残らず、未収金や返戻が多ければ資金回収も遅れます。反対に、売上規模は小さくても、固定費が軽く稼働率が安定している拠点は、全社の資金繰りを支える重要な拠点になることがあります。

実務上の注意点は、拠点別損益を「売上だけの管理表」にしないことです。売上、人件費、地代家賃、車両費、消耗品費、減価償却費、加算収入、返戻・過誤調整まで、できる範囲で拠点別に分ける必要があります。

ここがポイント
多店舗展開の管理では、税務申告用の会計だけでなく、経営判断用の管理会計が必要です。税務上は会社全体で利益を計算していても、出店継続や人員配置の判断には拠点別の数字が欠かせません。

拠点別損益で見るべき基本項目

拠点別損益は、難しい分析表から始める必要はありません。まずは、毎月同じ形式で比較できる表を作ることが大切です。重要なのは、各拠点の数字を横並びで見て、どの拠点に改善余地があるかを把握することです。

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項目見る目的確認ポイント
介護報酬売上拠点ごとの収益力を見る利用者数、単位数、加算取得状況を確認
利用者負担分入金管理を見る未収金、回収遅れ、請求漏れを確認
人件費採算性を見る常勤・非常勤・残業・手当を拠点別に確認
人件費率利益圧迫要因を見る売上に対して人件費が重すぎないか確認
地代家賃・リース料固定費負担を見る稼働率に対して固定費が適正か確認
車両費・送迎費サービス効率を見る送迎範囲、移動時間、燃料費を確認
本部費配賦後利益実質的な採算を見る本部負担を含めても黒字か確認
資金収支入出金のズレを見る国保連入金、給与支払、賞与資金を確認

特に重要なのは、人件費率と本部費配賦後の利益です。介護事業では人員配置がサービス提供の前提になるため、人件費を単純に削ればよいわけではありません。しかし、売上に対して人件費が重い状態が続くと、加算を取得しても利益が残りにくくなります。

また、拠点別損益を見るときは、月単位だけでなく3か月程度の推移も確認しましょう。単月の赤字は利用者の入退所や職員配置の影響で一時的に発生することがあります。改善判断は、単月ではなく継続傾向で見ることが重要です。

本部費配賦をしないと実態利益が見えない

多店舗展開で見落とされやすいのが、本部費の扱いです。本部には、経営者報酬、管理部門人件費、経理・労務・請求管理、採用費、システム費、研修費、広告費などが発生します。これらを本部にまとめたままにすると、各拠点の損益は実態より良く見えます。

本部費を配賦する目的は、各拠点に無理やり費用を押し付けることではありません。本部費配賦を行うことで、「その拠点は本部機能を支えるだけの利益を生んでいるか」を確認できます。多店舗展開では、現場拠点だけでなく本部機能も拡大するため、拠点数が増えても利益率が改善しないケースがあります。

配賦基準には、次のような考え方があります。

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配賦基準向いている費用メリット注意点
売上割合経営管理費、経理費計算しやすい売上が大きい拠点に負担が寄りやすい
人員数割合労務管理、採用費、研修費現場負担に近い非常勤換算の整理が必要
利用者数割合請求管理、利用者対応サービス量に連動しやすいサービス種別が違うと比較しにくい
拠点数均等共通システム、管理会議費シンプル規模の小さい拠点に重くなりやすい
個別負担広告費、修繕費、車両費実態に近い記録や請求書管理が必要

実務上の注意点は、配賦基準を毎月変えないことです。都合のよい基準に変えると、前月比較や拠点比較ができなくなります。最初から完璧な配賦を目指すより、売上割合、人員数割合、個別負担を組み合わせ、継続して見られる形にすることが現実的です。

出店判断では利益だけでなく資金繰りを見る

多店舗展開の判断では、損益計算書上の利益だけでなく、資金繰りを必ず確認します。介護報酬は請求から入金まで時間差があり、給与、家賃、社会保険料、賞与、設備投資の支払いが先に発生します。新規拠点は立ち上がりまで稼働率が安定しにくいため、黒字化前に資金が不足することがあります。

出店前に確認したい数字は、初期投資、開設準備期間の人件費、利用者獲得までの期間、損益分岐点、運転資金の余裕です。特に複数拠点を短期間で増やす場合、1拠点ごとの赤字幅は小さくても、全社では大きな資金流出になります。

損益分岐点は、月間売上がいくらになれば固定費と人件費を賄えるかを示す基準です。介護事業では、単に利用者数だけでなく、サービス提供回数、加算取得、人員配置、送迎効率も損益分岐点に影響します。

ここがポイント
新規出店の試算では、楽観シナリオだけでなく、利用者獲得が遅れた場合、採用費が増えた場合、加算取得が遅れた場合の資金繰りも確認しておくと、開設後の判断がしやすくなります。
介護報酬と人件費を月次で見える化

赤字拠点は撤退ではなく原因分解から始める

拠点別損益で赤字が見つかっても、すぐに撤退と判断する必要はありません。赤字の原因が、立ち上げ直後の一時的なものなのか、構造的なものなのかを分けて考える必要があります。

例えば、利用者数が伸びていない拠点では営業活動や地域連携が課題かもしれません。売上はあるのに利益が残らない拠点では、人員配置、残業、送迎ルート、家賃、リース料、加算未取得が原因になっていることがあります。請求管理に課題がある場合は、返戻や過誤調整、利用者負担分の未収も確認が必要です。

赤字拠点を見るときは、次の順番で分解すると判断しやすくなります。

  1. 売上不足なのか、費用過多なのかを分ける
  2. 売上不足なら、利用者数・稼働率・加算取得を確認する
  3. 費用過多なら、人件費・固定費・車両費・本部費配賦を確認する
  4. 資金繰り悪化なら、未収金・返戻・入金サイクルを確認する
  5. 改善余地がない場合に、統合・縮小・撤退を検討する

赤字の原因が数字で説明できる状態になって初めて、改善投資をするのか、管理者を支援するのか、サービス内容を見直すのか、撤退を考えるのかを判断できます。

実務上の注意点として、赤字拠点を責任追及の資料として使うと、現場から正しい情報が上がりにくくなります。拠点別損益は、現場を責めるためではなく、改善の優先順位を決めるための資料として運用することが大切です。

月次管理を定着させるための資料づくり

拠点別管理を定着させるには、毎月の資料をシンプルにすることが重要です。細かすぎる資料は作成に時間がかかり、経営判断に使われなくなります。まずは、拠点別損益、主要KPI、資金繰り、未収金、職員数の5つを月次で見られる形にしましょう。

月次資料では、数字を並べるだけでなく、前月比、前年同月比、予算比を入れると変化が見えやすくなります。たとえば、売上が増えているのに利益が減っている場合、人件費や本部費、加算構成の変化を確認できます。稼働率が上がっているのに資金繰りが悪い場合、未収金や返戻が増えている可能性があります。

月次管理で見るべき資料は、次のように整理できます。

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資料目的経営判断への使い方
拠点別損益表採算を見る黒字・赤字拠点、改善優先順位を決める
拠点別KPI表稼働状況を見る利用者数、人員配置、加算取得を確認する
未収金一覧入金リスクを見る国保連、利用者負担、返戻を追う
資金繰り表支払余力を見る給与、賞与、社保、借入返済を確認する
本部費配賦表実質利益を見る本部機能を含めた採算を確認する

実務上の注意点は、会計ソフトの部門設定や補助科目設定を最初に整えることです。後から拠点別に分けようとしても、請求書や給与データが混在していると正確な集計が難しくなります。

専門家に相談する前に整理したい資料

複数拠点の損益管理を専門家に相談する場合は、事前に資料を整理しておくと、課題の特定が早くなります。必要なのは、完璧な分析資料ではなく、現状の数字と運用が分かる資料です。

最低限そろえたい資料は、直近の試算表、拠点別売上、給与一覧、職員配置表、加算取得状況、未収金一覧、借入返済予定表、家賃やリース契約の一覧です。これらがあれば、どの拠点で利益が出ているか、どの費用が重いか、本部費をどう配賦すべきかを検討しやすくなります。

また、今後の出店計画がある場合は、開設予定地、想定利用者数、採用計画、初期投資、運転資金、黒字化までの期間も整理しておきましょう。多店舗展開では、次の出店そのものよりも、既存拠点の管理体制が整っているかが重要です。

まとめると、介護事業の多店舗展開では次の点が重要です。

  • 全社損益だけでなく、拠点別損益を月次で確認する
  • 本部費を配賦し、実質的な拠点利益を見る
  • 人件費率、稼働率、加算取得、未収金をセットで確認する
  • 出店判断では損益だけでなく資金繰りを試算する
  • 赤字拠点は撤退前に、売上不足・費用過多・入金遅れに分解する

多店舗展開は、拠点数を増やすこと自体が目的ではありません。既存拠点の数字を見える化し、利益と資金繰りを安定させたうえで、次の展開を判断することが大切です。

よくある質問

Q: 拠点別損益はどの程度細かく作るべきですか?
最初から全費用を厳密に分ける必要はありません。まずは売上、人件費、家賃、車両費、主要な直接費、本部費配賦後利益を拠点別に見る形から始めると実務に乗せやすくなります。
Q: 本部費配賦は売上割合だけでよいですか?
売上割合は分かりやすい方法ですが、すべての費用に適しているわけではありません。採用費や労務管理費は人員数、広告費や修繕費は個別負担など、費用の性質に応じて分けると実態に近づきます。
Q: 赤字拠点は何か月続いたら撤退を考えるべきですか?
一律の月数では判断できません。立ち上げ直後か、利用者数が回復する見込みがあるか、固定費を下げられるか、資金繰りにどの程度影響しているかを確認したうえで、改善期限を決めることが重要です。
Q: 多店舗展開前に最低限確認すべき資料は何ですか?
直近の試算表、拠点別売上、給与一覧、職員配置表、未収金一覧、借入返済予定表、出店計画の資金繰り表を確認しましょう。これらがないまま出店すると、既存拠点の赤字や本部費の増加を見落とす可能性があります。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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