介護事業経営コラムに戻る
介護事業経営コラム
公開日:2026.05.21
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

通所介護の稼働率改善前に見る数字

12分で読めます
通所介護の稼働率改善前に見る数字

通所介護の採算を改善したいとき、最初に考えがちなのは「利用者を増やす」「稼働率を上げる」ことです。しかし、デイサービスでは稼働率だけを追うと、人員配置、送迎、残業、食材費、固定費が同時に増え、売上は伸びたのに利益が残らないことがあります。先に見るべきなのは、稼働率そのものではなく、利用者1人あたりの粗利益と固定費を回収できる人数です。

とくに通所介護は、定員、サービス提供時間、介護度構成、加算、送迎範囲、人員基準が収支に直結します。経営者・管理者は「今日は何人来たか」だけでなく、「何人から黒字になるか」「どの曜日・時間帯で赤字が出ているか」「送迎と人員配置が利益を圧迫していないか」を月次で確認する必要があります。

介護事業の経営相談

この記事の内容を、事業所の収支管理と資金繰りに落とし込む相談をする

人件費、稼働率、加算、資金繰り、投資計画を、月次数字に合わせて整理します。

介護事業を相談する

稼働率を上げる前に損益分岐点を確認する

デイサービスの稼働率は、一般的に「実利用者数 ÷ 定員枠」で見ます。たとえば定員25名で1日20名利用なら稼働率は80%です。ただし、経営判断ではこの数字だけでは不十分です。定員25名でも、介護度が低い利用者が多い場合、加算算定が少ない場合、送迎距離が長い場合は、同じ80%でも利益率は大きく変わります。

まず確認したいのは、月間の固定費です。家賃、リース料、常勤職員の給与、社会保険料、車両費、保険料、システム利用料などは、利用者が少なくても発生します。この固定費を、利用者1人あたりの平均粗利益で割ると、何人利用があれば黒字に近づくかが見えてきます。

横にスクロールできます
確認する数字見る目的改善の方向性
月間固定費黒字化に必要な売上規模を把握する家賃、リース、車両、管理コストを見直す
利用者1人あたり平均売上介護度・加算込みの単価を見る加算、提供時間、利用回数を確認する
変動費食材、消耗品、送迎燃料などの増減を見る仕入れ、在庫、送迎ルートを見直す
人件費率売上に対して人件費が重すぎないかを見るシフト、兼務、時間帯別配置を確認する
曜日別稼働率赤字曜日・過密曜日を見つける営業日、送迎枠、利用調整を行う

稼働率を上げる施策は、損益分岐点を確認してから実行します。黒字化に必要な人数が18名なのに、平均利用が16名で止まっているのか、平均利用は22名あるのに利益が出ていないのかで、取るべき対策はまったく違います。

ここがポイント
月次試算表では、介護報酬の入金月とサービス提供月がずれることがあります。経営判断では、入金ベースだけでなく、提供月ベースの売上、未収金、返戻、過誤調整を分けて確認することが重要です。

人員配置は「基準を満たす」だけでなく時間帯別に見る

通所介護では、人員基準を満たすことが前提です。管理者、生活相談員、看護職員、介護職員、機能訓練指導員など、必要な職種と配置を確認しなければなりません。基準を下回ると、報酬上の減算や指定上のリスクにつながるため、採算改善のために単純に人を減らすことはできません。

一方で、実務上は「基準は満たしているが、忙しい時間帯と手待ち時間の差が大きい」ことがあります。入浴、昼食、送迎前後、レクリエーション、記録業務の時間帯ごとに、必要人数は変わります。午前中だけ人員が足りず、午後に人が余る状態では、残業やパート追加が発生しやすくなります。

確認したいのは、人員配置を日単位ではなく、時間帯別に分解することです。たとえば、以下のように見ると改善点が見えます。

横にスクロールできます
時間帯主な業務見るべき数字
朝の送迎前後迎え、バイタル、受け入れ送迎車ごとの到着時間、受け入れ待ち時間
午前入浴、機能訓練、記録入浴人数、職員1人あたり対応人数
食事、服薬、見守り見守り人数、休憩取得状況
午後レク、訓練、帰宅準備記録残、職員の手待ち時間
夕方送り、清掃、申し送り残業時間、送迎戻り時間

実務上の注意点として、人件費率だけを見て「高いから削る」と判断すると、サービス品質や加算要件、離職率に悪影響が出ます。人件費は金額だけでなく、時間帯別の過不足、常勤・非常勤の組み合わせ、送迎兼務の有無で判断します。

送迎は利用者数よりもルート別採算を見る

デイサービスの収支で見落とされやすいのが送迎です。利用者が増えても、遠方の利用者が多い、乗降介助に時間がかかる、車両台数が増える、運転できる職員が限られる場合、売上増以上に人件費と車両費が増えることがあります。

送迎は、単に「送迎できるか」ではなく、ルート別の所要時間と利用者単価で見ます。片道30分以上かかる利用者が複数いる場合、その利用者の報酬だけでなく、職員拘束時間、燃料費、車両維持費、他の利用者への影響も含めて判断する必要があります。

また、通所介護では送迎を行わない場合に報酬上の減算が関係します。現行制度では、送迎を行わない場合の取扱いや、送迎の有無を個別サービス計画上どう位置付けるかを確認しておく必要があります。家族送迎、自主通所、徒歩送迎、同一建物利用などは扱いが分かれるため、請求時の確認漏れに注意が必要です

送迎改善で見るべき数字は、次のとおりです。

横にスクロールできます
項目確認方法改善例
ルート別所要時間迎え・送りそれぞれの実時間を記録遠方ルートの曜日集約、利用時間調整
車両1台あたり利用者数車両別の乗車人数を確認小型車・大型車の使い分け
送迎に入る職員数運転者、添乗者、待機職員を確認送迎兼務とフロア配置の再設計
送迎戻り時間最終便の帰着時刻を確認夕方残業の原因を特定
送迎減算対象請求データと計画を照合減算漏れ、過誤請求を防ぐ

送迎エリアを広げれば利用者獲得の可能性は広がりますが、採算が合わないルートを増やすと、職員負担と固定費が増えます。新規利用者を受ける前に、曜日、時間帯、送迎距離、車両空き枠を確認することが重要です。

固定費は「削る」よりも利用枠との対応で見る

デイサービスの固定費には、家賃、車両リース、設備リース、システム費、管理者給与、常勤職員給与などがあります。これらはすぐに削れない費用が多く、短期的には「固定費を何人の利用者で回収するか」が重要になります。

たとえば、家賃や車両費が高い事業所では、少人数でも高単価の運営にするのか、定員に近い利用者数を安定させるのか、方針を決める必要があります。中途半端に稼働率だけを追うと、介護度の低い利用者が多く、送迎負担だけが増えることもあります。

固定費を見るときは、次の3つに分けると判断しやすくなります。

横にスクロールできます
固定費の種類判断のポイント
施設固定費家賃、共益費、設備保守定員規模に対して重すぎないか
人員固定費管理者、常勤職員給与利用者数が少ない曜日でも固定的に発生していないか
運営固定費車両、システム、保険利用枠や送迎範囲に見合っているか

固定費は単独で見るのではなく、定員・稼働率・営業日数との対応で見ることが大切です。たとえば、定員に対して家賃が高い場合、営業日数を増やせるか、午後枠を活用できるか、加算算定で単価を上げられるかを検討します。

ここがポイント
固定費の削減だけで利益を出そうとすると、必要な人員やサービス品質まで圧縮してしまうことがあります。介護事業では、固定費の削減余地と、報酬・加算・稼働率による回収余地を分けて検討することが大切です。
介護報酬と人件費を月次で見える化

稼働率改善は曜日別・利用者層別に進める

稼働率改善は、全体平均だけで判断しないことが重要です。月平均稼働率が75%でも、月曜と水曜は満員に近く、金曜だけ空きが多いということがあります。この場合、全体の営業活動を強めるより、空き曜日に合う利用者をケアマネジャーへ提案するほうが効果的です。

また、利用者層によって採算は変わります。要介護度、入浴の有無、機能訓練、認知症対応、送迎距離、食事提供、キャンセル頻度を見ないと、単純な人数比較では判断できません。利益改善では、人数・単価・負担の3つを同時に見ることが必要です。

稼働率改善で確認したい視点は、次のとおりです。

横にスクロールできます
視点確認する数字改善の打ち手
曜日別曜日ごとの平均利用者数空き曜日に合う利用者の受け入れ提案
介護度別要介護度ごとの構成単価と必要ケア量のバランス確認
サービス別入浴、機能訓練、食事の利用状況加算算定と人員負担の確認
キャンセル別当日キャンセル率振替利用、体調確認、家族連絡の改善
送迎別遠方利用者の比率送迎範囲とルートの再設計

実務上の注意点として、空き枠を埋めるために採算を確認せず受け入れると、職員負担が増え、既存利用者の満足度が下がることがあります。新規受け入れ時は、曜日、送迎、介護度、必要ケア、加算算定の見込みをセットで確認します。

月次で確認すべき管理資料

通所介護の採算改善には、決算書だけでは遅すぎます。毎月、少なくとも「稼働率表」「利用者別売上表」「人件費表」「送迎ルート表」「月次損益」を並べて確認します。これにより、売上が足りないのか、単価が低いのか、人件費が重いのか、固定費が高いのかが分かります。

管理者が現場感覚で「忙しい」と感じていても、数字を見ると利益が出ていないことがあります。反対に、利用者数は少なく見えても、送迎効率がよく、加算も取れていて利益が出ている曜日もあります。現場の忙しさと会計上の利益は必ずしも一致しません

月次で最低限確認したい資料は、次のとおりです。

横にスクロールできます
資料確認する内容判断できること
稼働率表日別・曜日別の利用者数空き枠、過密曜日、営業活動の優先順位
利用者別売上表介護度、加算、利用回数単価の偏り、加算漏れ
人件費表常勤・非常勤・残業人員配置の過不足
送迎ルート表車両別、時間別、地域別遠方ルート、非効率ルート
月次損益売上、変動費、固定費黒字化に必要な改善幅

専門家に相談する前には、直近数か月分の試算表、介護報酬請求データ、利用者数の推移、職員別人件費、送迎ルート表を整理しておくと、改善余地を確認しやすくなります。

まとめ

  • 通所介護の採算改善では、稼働率を上げる前に損益分岐点、利用者1人あたり粗利益、固定費を確認する
  • 人員配置は基準を満たすだけでなく、入浴、食事、送迎、記録など時間帯別の過不足を見る
  • 送迎は利用者数ではなく、ルート別所要時間、車両稼働、職員拘束時間で採算を判断する
  • 固定費は削減だけでなく、定員、営業日数、加算、利用者構成で回収できているかを見る
  • 月次では稼働率表、利用者別売上表、人件費表、送迎ルート表、試算表を並べて確認する

よくある質問

Q: 通所介護は稼働率が何%あれば黒字になりますか?
一律の目安だけでは判断できません。定員、家賃、人件費、送迎範囲、介護度構成、加算算定状況によって黒字ラインは変わります。まずは月間固定費を利用者1人あたり粗利益で割り、自社の損益分岐点を出すことが重要です。
Q: 利用者を増やしているのに利益が増えないのはなぜですか?
送迎時間、人員追加、食材費、残業、キャンセルが増えている可能性があります。特に遠方利用者やケア負担の重い利用者が増えると、売上増以上にコストが増えることがあります。利用者数だけでなく、利用者別・曜日別の採算を確認してください。
Q: 人件費率が高い場合、職員を減らしてもよいですか?
人員基準やサービス品質に影響するため、単純な削減は危険です。まずは時間帯別の配置、残業、送迎兼務、非常勤の使い方を確認します。基準違反や減算リスクを避けながら、シフトと業務分担を見直すことが現実的です。
Q: 送迎範囲を広げれば稼働率改善につながりますか?
利用者獲得にはつながる可能性がありますが、採算が悪化する場合もあります。送迎距離が長いと、車両費、燃料費、職員拘束時間、夕方残業が増えます。送迎範囲を広げる前に、ルート別の所要時間と受け入れ可能枠を確認してください。

参照ソース

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント

公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関

代表クラウド会計導入支援経理DX支援資金繰り支援

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

次に確認すること

介護報酬と人件費を月次で見える化

介護報酬改定、処遇改善加算、人件費、資金繰り、月次管理を介護事業の文脈で整理します

  • 介護報酬・加算の影響整理
  • 処遇改善・人件費率を確認
  • 月次管理・税務相談に対応

介護福祉相談

介護・福祉事業 税務・経営相談フォーム

介護報酬、処遇改善、ICT・生産性向上、資金繰り、税務・月次管理を相談する専用フォームです。

受付時間 平日 9:15〜18:15