
執筆者:辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
訪問介護の利益率を改善する数字の見方

訪問介護の利益率を改善するには、単に利用者数や売上を増やすだけでは不十分です。訪問介護は、サービス提供時間に対して報酬が発生する一方で、移動時間、待機時間、キャンセル対応、サービス提供責任者の管理業務、人件費の固定部分が利益を圧迫しやすい事業です。まず見るべきなのは、売上総額ではなく、1件あたりの採算、移動を含めた実稼働率、人件費率の3つです。
特に小規模な訪問介護事業所では、月次の売上が伸びていても、移動効率の悪い訪問が増えたり、キャンセルが多い曜日に人員を厚く配置したりすると、利益が残りにくくなります。この記事では、訪問介護事業所の経営者が月次で確認すべき数字と、収益改善の優先順位を整理します。
介護事業の経営相談
この記事の内容を、事業所の収支管理と資金繰りに落とし込む相談をする
人件費、稼働率、加算、資金繰り、投資計画を、月次数字に合わせて整理します。
訪問介護の利益率は「売上」より先に採算構造を見る
訪問介護の収益改善で最初に確認すべきなのは、月間売上ではなく、売上がどのような訪問構成で作られているかです。同じ売上でも、近隣に利用者が集中している事業所と、移動距離が長く短時間訪問が多い事業所では、利益率が大きく変わります。
介護事業の収支差率は、一般に「収入額から支出額を差し引いた金額を収入額で割ったもの」として見ます。ただし、事業所経営では全体の収支差率だけでなく、訪問ルート、職員別稼働、キャンセル率、加算取得、人件費率まで分解して確認しなければ、改善策が見えません。
| 確認する数字 | 見るべき理由 | 改善の方向性 |
|---|---|---|
| 1件あたり売上 | 短時間訪問や加算漏れの影響を見る | 算定内容・訪問構成を確認する |
| 移動時間比率 | 報酬に直結しない時間の負担を見る | ルート再編・担当エリア見直し |
| キャンセル率 | 人員配置の空振りを把握する | 連絡ルール・振替提案を整える |
| 人件費率 | 利益を圧迫する最大要因を見る | シフト・常勤非常勤比率を調整する |
| サ責の管理時間 | 間接業務の過多を確認する | 記録・請求・連絡業務を標準化する |
実務上の注意点は、訪問介護の利益率を「事業所全体の黒字・赤字」だけで判断しないことです。全体では黒字でも、特定の曜日、エリア、利用者区分、職員配置で赤字が発生している場合があります。
移動時間は利益率を下げる大きな要因になる
訪問介護では、サービス提供時間そのものに報酬が発生しますが、移動時間や待機時間はそのまま利益に結びつくわけではありません。そのため、訪問件数が増えていても、訪問先が広域に散らばっている場合は、人件費と交通費が増え、利益率が下がります。
見るべき指標は、単なる訪問件数ではなく、1日の勤務時間のうち、実際のサービス提供時間がどれだけあるかです。たとえば、8時間勤務のうちサービス提供が5時間で、移動・待機・記録が3時間ある場合、表面上は忙しく見えても、収益を生む時間は限られます。
移動時間の改善では、次のような順番で確認します。
- 利用者ごとの住所と訪問曜日を一覧化する
- 職員ごとの移動ルートを地図上で確認する
- 短時間訪問が連続していないかを見る
- 同じエリアの訪問を同じ曜日・時間帯に寄せる
- 新規利用者を受ける際に移動負担も含めて判断する
移動時間比率は、訪問介護の利益率を左右する代表的な管理指標です。売上を増やすために遠方の利用者を受け続けると、短期的には売上が増えても、職員の疲弊、残業、交通費増加、キャンセル時の空き時間発生につながることがあります。
実務上の注意点として、既存利用者へのサービス提供を急に変えることはできません。改善は、曜日変更の相談、新規受け入れ基準、担当エリアの再設計、職員の直行直帰ルールなど、無理のない順番で進める必要があります。
キャンセルは「売上減」だけでなく人件費の空振りを見る
訪問介護のキャンセルは、単に1件分の売上が減るだけではありません。すでに職員のシフトを組んでいる場合、移動途中や直前のキャンセルでは、人件費や移動時間が発生しているのに報酬が得られない状態になります。
特に確認したいのは、キャンセルの件数ではなく、キャンセルが発生したタイミングと、その後の人員活用です。前日までに把握できたキャンセルと、当日直前のキャンセルでは、経営への影響が異なります。
| キャンセルの種類 | 経営への影響 | 確認する対応 |
|---|---|---|
| 前日以前のキャンセル | シフト調整できる可能性がある | 振替、別利用者への調整 |
| 当日朝のキャンセル | 空き時間が発生しやすい | 近隣訪問、記録業務への振替 |
| 訪問直前のキャンセル | 移動・人件費のロスが大きい | 連絡ルール、家族連携の見直し |
| 特定利用者の頻回キャンセル | 採算悪化が継続する | ケアマネジャーとの情報共有 |
キャンセル率を下げるには、利用者や家族への責任追及ではなく、連絡ルールを明確にすることが先です。たとえば、体調不良時の連絡先、前日確認の対象者、家族・ケアマネジャーとの情報共有方法を整えることで、直前キャンセルの影響を抑えられます。
また、キャンセルが発生した職員の時間を、記録整備、モニタリング準備、研修、請求前チェックなどに振り替えられる体制を作ることも重要です。キャンセル時の代替業務を決めておくと、空き時間が完全なロスになりにくくなります。
人件費率は常勤・非常勤・サ責業務に分けて見る
訪問介護で最も大きな費用は人件費です。ただし、人件費率を見るときは、給与総額を売上で割るだけでは不十分です。常勤職員、非常勤職員、サービス提供責任者、管理者、事務担当の役割ごとに分けて確認する必要があります。
特に、サービス提供責任者は訪問業務だけでなく、計画作成、連絡調整、モニタリング、職員指導、請求関連の確認など、間接業務を多く担います。サ責の業務が属人的になっていると、売上が増えても管理負担が増え、結果として利益率が伸びにくくなります。
人件費を見る際は、次のように分解します。
- 直接訪問にかかる人件費
- 移動・待機にかかる人件費
- 記録・連絡・請求確認にかかる人件費
- 管理者・サ責の固定人件費
- 残業代、手当、賞与、法定福利費
**利益率を改善するには、人件費を削るのではなく、人件費が売上につながる時間を増やすことが基本です。**人員不足の中で無理に人件費を抑えると、離職、サービス品質低下、加算要件の不備につながるおそれがあります。
実務上の注意点は、給与や手当の見直しを単独で行わないことです。処遇改善加算、職員定着、採用競争力、法定福利費、残業管理を含めて確認しなければ、短期的な利益改善が長期的な人材不足を招くことがあります。
月次で見るべき利益改善のチェック項目
訪問介護の利益率改善は、年1回の決算書だけでは遅れます。月次試算表、訪問実績、シフト表、キャンセル記録、給与データを合わせて確認することで、早い段階で悪化要因に気づけます。
| 月次チェック項目 | 目安として見ること | 異常が出たときの確認 |
|---|---|---|
| 売上高 | 前月比・前年同月比 | 利用者数、訪問回数、加算算定 |
| 人件費率 | 給与・法定福利費込みで確認 | 残業、移動、常勤比率 |
| 訪問件数 | 件数増減の理由 | 新規、終了、入院、キャンセル |
| 1件あたり売上 | サービス内容の変化 | 短時間訪問、加算漏れ |
| キャンセル率 | 曜日・利用者別に確認 | 直前キャンセル、振替可否 |
| 移動時間 | 職員別・エリア別に確認 | ルート、担当エリア、直行直帰 |
月次管理で大切なのは、数字を出すだけで終わらせないことです。たとえば、人件費率が上がった場合でも、原因が新規利用者受け入れの一時的な教育コストなのか、移動効率の悪化なのか、キャンセル増加なのかで打ち手は変わります。
利益率改善の優先順位は「受け方・回し方・記録」で考える
訪問介護の利益率を改善する打ち手は多くありますが、優先順位を間違えると現場に負担がかかります。まずは新規利用者の受け方、次に日々の回し方、最後に記録・請求・管理業務の標準化を確認します。
新規利用者を受ける際には、報酬単価だけでなく、訪問エリア、時間帯、必要な職員スキル、キャンセルリスク、他の訪問との接続を確認します。既存ルートに組み込みやすい利用者は利益率に貢献しやすく、遠方で短時間の訪問が単独で入る場合は採算が悪化しやすくなります。
日々の回し方では、職員ごとの稼働に偏りがないかを見ます。特定の職員だけが長距離移動や難しい訪問を抱えると、離職リスクも高まります。職員別の実稼働率を確認し、移動や記録の負担も含めて配置を見直すことが必要です。
記録・請求・管理業務では、サ責や管理者に作業が集中していないかを確認します。記録の遅れや請求前チェックの属人化は、加算漏れ、返戻、残業の原因になります。ICTや介護ソフトを使っていても、入力ルールが統一されていなければ、管理負担は減りません。
専門家に相談する前に整理しておきたい資料
訪問介護の収支改善を相談する場合、決算書だけでは十分な分析ができません。利益率を改善するには、会計資料と現場資料をセットで見る必要があります。
整理しておきたい資料は次のとおりです。
- 直近の試算表、決算書
- 月別の売上推移
- 給与明細または給与集計表
- 訪問件数、サービス提供時間の集計
- 職員別の勤務時間、移動時間、残業時間
- キャンセル記録
- 利用者別・エリア別の訪問一覧
- 加算の算定状況
- サ責、管理者、事務担当の業務分担表
これらを揃えると、「売上を増やすべきか」「訪問ルートを見直すべきか」「人件費率を管理すべきか」「加算や請求の確認が必要か」を具体的に判断しやすくなります。実務上の注意点として、赤字になってからではなく、資金繰りや職員配置に違和感が出た段階で確認することが大切です。
まとめ
訪問介護の利益率改善では、売上を増やす前に、利益が残る訪問体制になっているかを確認する必要があります。
- 訪問介護では、売上総額よりも1件あたり採算、移動時間、人件費率を見る
- 移動時間や待機時間が増えると、訪問件数が増えても利益率は下がりやすい
- キャンセルは売上減だけでなく、人件費と空き時間のロスとして管理する
- 人件費率は常勤、非常勤、サ責、管理者、事務負担に分けて確認する
- 月次試算表と訪問実績を組み合わせると、改善すべき原因が見えやすい
訪問介護の収益改善は、現場に無理をさせて人件費を削ることではありません。移動、キャンセル、記録、請求、人員配置を数字で見える化し、利益が残る運営に少しずつ整えることが重要です。
よくある質問
Q: 訪問介護の利益率が低い場合、まず何を確認すべきですか?
Q: 利用者数を増やせば利益率も改善しますか?
Q: キャンセルが多い利用者への対応はどう考えるべきですか?
Q: 相談前にどの資料を準備すると分析しやすいですか?
参照ソース
- 厚生労働省 介護事業経営実態調査・概況調査関連資料: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35715.html
- 厚生労働省 介護サービス施設・事業所調査: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/24-22-2.html
- 厚生労働省 介護報酬改定について: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38790.html
- 厚生労働省 介護サービス関係Q&A: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/qa/index.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士・公認会計士・中小企業経営コンサルタント
公認会計士 / 税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
